第三十一話 審判
――
どこまでも続く暗闇の中、横たわっていたフルースの側に小さな光が舞い降りる。眩しさにようやく目を覚ました彼は、ゆっくりと起き上がりその光を両手で掬うように持ち上げた。
「これは……?」
この光が何なのか分からず戸惑うフルース。ふと、視界の隅に見知った人影を捉えた。
「フォルク!」
彼が居るという事はここは精神世界なのだろう。しかし以前と違い片膝を付き、背中の翼はボロボロで今にも消えてしまいそうだった。
「もしかして……やられちゃったの?」
フルースは急いで駆け寄り彼に声を掛ける。
「……見ての通りだ。私にはもう、奴と戦える程の力は残されていない」
何とか話す事は出来るようだ、しかし彼はもう立ち上がる事さえ困難な様子。
「だが浄化を受けたのは意識体としての私だけ、お前の体に影響は無い」
フォルクは下を向いたまま言葉を続ける。
「その光は神がお前に与えた力……お前なら奴を……」
そう言っている間に徐々に彼の翼が消えていく。一枚、また一枚と。
「ラスターを……倒せるはずだ」
残すは消え掛かった白い翼だけ。破壊という強大な力を持っていたフォルクでさえ、敗れてしまう程の強敵・ラスター。一瞬恐怖を感じてしまったが、それでもフルースは頷いた。
「分かった。でも、僕一人の力じゃ倒せないと思うんだ。だから……」
言い終える前にその右手を差し出す。
「君の力を貸して欲しいんだ」
彼の予想だにしなかった言葉に顔を上げるフォルク。
「何を言っている……? 私にはもうそんな力は……」
それでもフルースは真っ直ぐな眼差しでフォルクを見た。
「大丈夫だよ! 力を合わせれば、きっと!」
一向に差し出そうとしないフォルクの手を、フルースは無理矢理掴んだ。すると突然、眩しい光が二人を包んだ。
――
「ふハはハハは!」
誰も居なくなった虚無の空間で高笑いをするラスター。ルルシア達が居た場所は大量の荊で埋め尽くされ、その安否はもはや絶望的だった。そんな中。
――パァッ!
一筋の光が黒い塊から漏れ出す。次第に光の筋は増えていき一層強く発光した。
「ナんだ……?」
あまりの強さに目を細めるラスター。そして全ての漆黒を吹き飛ばし、その光の正体は姿を見せた。
――ファサッ。
優しく、それでいて力強い大きな翼がはためく。
「お前ハ……フォルク? イや、そノ器か!」
ラスターの前に現れたのは、神々しい翼を生やしたフルースだった。衣服も変化しており、どこか大人びた様子さえ感じる。
「ハっ! 所詮は借リ物の力だろウ? 神であル我に敵う筈ガ無い!」
子供騙しだと言わんばかりに彼を小馬鹿にする。そして再び荊を出現させて攻撃を始めた。
「死ネ!」
――バシュン!
しかし先程とは違い荊は全て跡形も無く消滅してしまった。否、黒く鋭い荊は瞬時に無害の植物へと変化し風化するように消えたのだ。
「浄化ハ消せヌ筈でハ……!」
想定していなかった事態に動揺するラスター。そんな彼に対し、フルースは静かに語り出した。
「そうだよ。これは君が思うような力じゃない」
そしてラスターは大きなミスをしていた事に気付く。
「馬鹿ナ……バかなぁアアあア!」
驚愕するラスターの視線の先、フルースの背後にはいつの間にか復活した仲間達の姿があった。
「フルース!」
皆が再び彼の名を呼ぶ。全員の怪我が治癒し、何事も無かったかのように動けているのだ。これもまたフルースの力のお陰なのだろう。
「これは『再生』の力! 彼が本来持つべきだった力よ!」
エラがそう言い放った。
「全く、何だよ。充分強いじゃねぇか!」
まるで成長を喜ぶようにコーストが言う。
「本当ですわ! こんな事ならデューセル様のお手を煩わせなくて済みましたのに!」
レイルナは嫌味たっぷりに言ったつもりなのだろう、しかし何処か嬉しそうだった。
「だがこれで、全ての根源である浄化を打ち倒す事が出来る」
と、デューセルも続ける。
「残念だけれどラスター、あなたとわたし達には決定的な違いがあるわ」
そう言うルルシアの瞳は今までに無かった覚悟が現れていた。
「うん、僕達には大切な仲間が居るんだ。そして……」
フルースは皆と目を合わせ向き直った。
「例え離れていたとしても、互いに信じて一緒に生きていくんだ!」
それぞれの持つ力が、意志がオーラとなり可視化される。それらが一つに混ざり合い、あらゆる邪悪を跳ね除けていく。
「オのれ、オノれおのレおノレオのれぇェェェェぇェ!」
狂乱し冷静さを失うラスター。なりふり構わない攻撃が撒き散らされる。だが最早どんな攻撃も彼らには通用しなかった。
「ラスター。君を力を持たなかった頃に再生させ、全てを終わらせる!」
フルースは右手を掲げ、蒼く輝く両翼を大きく広げた。キラキラと色彩豊かな光が彼に集束する。
「リヒター!」
彼が高々と宣言すると、その光はラスターを容赦なく貫いた。光線が命中する度ラスターの身体は煙のように消滅していく。
「ぐガががガァああアあアアアぁァ!」
ラスターの絶叫さえも飲み込む程の眩しさの中、その場の全てに再生の審判が下された……――。




