第三十話 終焉の訪れ
「フォルク!」
ルルシア達がその名を呼ぶ。彼女達も出来る限りの力を出し戦っていたのだ。
「私達の事は大丈夫! だから……ラスターを倒して!」
振り返らずとも分かる。皆がそれを望んでいる事を。フォルクは光の剣を構えた。
「フッ……無論、そのつもりだ」
そう言いながら彼が薙ぎ払った剣は空間を裂く。その斬撃は空間全体に広がり、やがてラスターの目前へと到達した。
「小賢しい真似を!」
三つの光が斬撃の前に躍り出る。……しかしそれらは盾として機能せずバラバラに砕け散った。咄嗟にラスターは腕を交差させ防御の姿勢をとる。
――ガシィッ!
何とか受け止めたようだが、勢いを止める事までは出来ず両腕は吹き飛んだ。
「ハハ! 何度やろうと同じ……!」
腕が形成されるその刹那、急接近したフォルクがラスターの胴体を切り裂いた。ばしゃりと黒い血が溢れ出る。
「終わりだ、ラスター」
最後の一撃を喰らわせようと構えるフォルク。しかしラスターは不気味に微笑んだ。
「……フフフ。ハハハ」
異変を感じフォルクは攻撃を中断する。ラスターの反応に違和感を覚える。何かがおかしい。
「フォルク、幾らその力を得たとしても本質は変わらないな。お前は……所詮ヒトに過ぎないのだ!」
次の瞬間、ラスターの全身が黒い光のような、ゆらゆらと揺らめくオーラに包まれる。直後に凄まじい力が放出され、黒い霧が彼らの視界を覆った。
「なんだ……これは!」
目の前が暗黒に染まり様子が見えない。次に視界が開けた時、ラスターの姿は変貌していた。
「最早オ前では我ハ倒せヌ! 我は神……神トなったノだ!」
その声は酷く歪んでいて、姿は人でも神でも無い邪悪で不定形なモノだった。ラスターと思しき邪神は空間を揺るがす奇妙な笑い声を上げる。
「サあ! 始メるとシよう! 真の浄化を!」
そう言ってユラリと片腕を後方のルルシア達に向けた。振り返ると皆は足元を覆い尽くす血の泥に脚を取られ、身動きが取れなくなっていた。それでも尚、誰一人フォルクに助けを求める事なく抗っている。狙いは確実に皆へ向いている。
「ラスター……貴様!」
フォルクはその卑劣なやり方に激昂する。その間にも刻一刻と強大な力は溜まってゆく。今腕を切り落としたとてそれでは余計に悪化の一途を辿る一方だ。
――バサァッ!
彼は翼を広げてラスターの前に立ちはだかった。その身を呈して皆を守ろうというのだ。しかしラスターはニヤリと笑う。
「かカっタな!」
手から放たれた閃光がフォルクの体を、翼を無惨に貫く。それは瞬きすら出来ない束の間の出来事だった。
「フォルク!」
皆が叫ぶ。だがその呼び声虚しく、彼の体はゆっくりと地に落ち血の泥へと飲み込まれていった。彼を救う事はおろか近寄る事すら誰も出来ない。
「嫌……どうして……」
「そんな……嘘だろ?」
「アタクシ達にどうしろっていうの?」
「ここまでか……」
皆口々に絶望の声を漏らす。ラスターは勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「フフ、ハハ……。脆イ、実に脆イ!」
そう嘲笑うラスターにルルシア達はもうなす術が無い。
「安心シろ、次ハお前達ノ番だ」
再び力を蓄えるラスター。その間にどんなに矢を、魔法を当てようと一切攻撃が効いている気配は無い。
――ゴゴゴゴゴ!
このままでは全滅してしまう。諦めかけたその時だった。
「私の出番かしらねぇ〜?」
「……メルティ!」
窮地に颯爽と現れたのは神託を行った神の女性だ。不思議な形の杖に座り宙を漂っていた。
「駄目よ! そんな事をしたら……」
必死にエラが止めようとする。
「分かってるわよ。神が人の未来に干渉する事が禁忌な事くらいはね」
どうやらそれも覚悟の上のようだった。大胆にもラスターを背にメルティは話を続けようとする。
「神……ダと? 面白イ! なラば我ヲ倒しテ見せヨ!」
そう言いながらラスターは攻撃の矛先をメルティに向けた。
――ピシュン!
突如、見えない障壁が光線を弾いた。かなり広範囲の壁のお陰で誰一人怪我すら無い。それがメルティの持つ神の力なのだろうか。
「ま、この場をしのぐことくらいしか出来ないのだけれど」
くすくすと笑うメルティ。余裕そうに見えるが、実際このままでは消耗戦になる一方だった。
「それにエラ、あなただって同じじゃない」
言われてハッとするエラ。何やら彼女達にしか分からない事なのだろう。暫く沈黙した後、彼女は決意する。そしてフォルクが、フルースの体が落ちた場所を見つめた。
「初めは彼を……フルースをこの悲惨な未来に巻き込みたく無かった」
エラはそう言って涙を浮かべるが、すぐにその気持ちを振り払った。
「でも、今なら託せる。彼に渡すべきだった秘められた力を」
そっと目を瞑り、胸元から小さな光を出現させた。
「これから先の未来を私は知らない。けれど信じているわ……!」
彼の体がある場所へと降りていく光。そのまま吸い込まれるように黒い泥の中に消えていった。
――パキィ!
そうこうしているとメルティが張っていた障壁に大きなヒビが入る。まるで別の生き物のように蠢めく荊が一面に敷き詰められていた。
「いつマでつまらヌ話をシていルつもリだ?」
ラスターが更なる攻撃態勢に入る。もう時間は無かった。
「これデ終わリにしテやろウ!」
ミシミシと障壁全体が音を立て始める。ふとメルティに目を向けると彼女の体は少しずつ透け始めていた。
「メルティ……!」
エラが悲痛な声で名を呼ぶ。彼女の背中には以前には無かった光の模様が出来ている。
「どうやらここまでみたいだわ。後の事、頼んだわよ? エラ……」
それだけを言い残すとメルティは完全に姿を消してしまった。
――バリィン!
直後に障壁は崩れ、埋め尽くしていた黒い荊がルルシア達の頭上へと落下する。痛みを感じる間も無く、皆の視界は暗闇に覆われた。




