第三話 共存共栄
小さな村に辿り着いたフルースとルルシア。どの建物も木材で出来ていて自然と調和している。行き交う人は少ないが、人間族や鳥族とは違う外見をした者が居た。
「ここは獣族と人間族が暮らしているみたいね」
「へぇ〜……じゅ〜ぞく?」
獣族。特徴的な肌色に獣の耳と尾を持つ種族。どの種族とも相容れず、特に鳥族とは犬猿の仲だとルルシアは姉から聞いていた。それが、この村では人間と共存しているのだ。
「ルルシア? どうしたの?」
フルースは考え込んでしまった彼女に声を掛ける。しかし返答は無い。何かを躊躇っているようだ。
「おい! お前ら!」
覇気のある声が立ち往生している二人を動かす。声を掛けてきたのは体格の良い黄土色の髪の青年。獣耳と尾がある、どうやら獣族のようだ。
「そんな所に突っ立ってたら邪魔だぞ!」
そう言って持っていた大木をドスンと地面に置いた。青年はまじまじと二人の顔を眺め、何かを思い付いたらしく続けて口を開いた。
「その様子、旅してるって感じじゃなさそうだな?」
誰が見ても明らかな軽装備。言うまでもなくその通りである。
「俺はコーストってんだ。お前らは?」
元気で活発に名乗る彼。対照的にフルースはおどおどと自己紹介をした。勢いに気圧されているらしい。
「安心しろ取って食ったりしねぇよ……、でお前は?」
視線はルルシアの方へ向けられる。彼女はずっと黙ったままで思い詰めていた。
「おい、そこの緑の。聞いてんのか?」
何も言わないためとうとう髪の色で呼ばれてしまう。流石に気に障ったらしくやや怒り気味に名乗った。お互い初対面だが、それ以上にどこか打ち解けない感じが漂っている。
「……ところでお前のその身なり、もしかして鳥族だよな」
コーストのその質問で少し場が凍る。一番触れない方がいい話題な気がした。
「どこ見て判断してるんです? そういうの」
改めて見てみれば腕、脚、おまけに腹部まで見えている。露出の多い衣装でかなりの軽装だ。背中の小さな羽根よりもそっちを見てしまう。確かに鳥族の特徴といえば特徴なのだが、恐ろしい気配を感じ慌てて視線を戻した。
「そ……その羽根だ、羽根」
指差しながらなんとかはぐらかすコースト。
「これは飾りです」
さらっと嘘をつくルルシア。
「なんでそんなに焦ってるんですか?」
「い、いいや! 断じて焦ってないぞ俺は」
そのまま小さな言い争いを続ける二人。埒が開かない。ふと辺りが騒がしくなり、フルースは周りを見渡した。
「ね、ねぇ二人とも」
言ってコーストの腕を掴み指差す。
「何だよ今忙し……げ!」
気付けば自分達の周囲に人が集まっている。どうやら先程のやり取りが見せ物の様に見えたらしい。コーストはもっと早く言えとフルースを揺さぶる。
「とりあえずとっとと離れるぞ。この女おっかねぇからな」
おっかない女に聞こえないよう小声で話すコースト。しかし当の本人にもしっかり聞こえていた。ルルシアは二人の間に割って入りフルースの腕を掴む。
「さ、行きましょっっっ!」
──ガンッ!
物凄い鈍い音がした。コーストは片足を抑えてぷるぷるしている。直後に響く金属の音。金色の葉の金貨が投げ込まれたようだ。何食わぬ顔で去ろうとするルルシアと、事態をよく分かってないフルース。
「ちょ……ちょっと待てお前らぁ!」
状況を変えるべく呼び止めるコースト。痛む足を引き摺りながらも足早に近付き、強引に二人を引っ張り何処かへと連れて行く。
そうして連れて来られたのは木造の家の中。行くあての無いフルースとルルシアを一時的に泊めると言うのだ。
「お前ら少しは感謝しろよな」
「それにしても綺麗ね、ここホントにコーストのお家?」
またしてもコーストとルルシアの間に火花が散る。一触即発の空気だ。その時、突然扉が開いた。
「あら? あなた達だあれ?」
桃色の髪の少女が不思議そうにこちらを見つめている。慌ててコーストはこれまでの経緯を説明した。どうやら彼の知り合いのようだ。
「フルースさん、ルルシアさん。初めまして私はシーナです」
手に持っていた花籠を置き丁寧に挨拶をする彼女。見たところ人間族で差別や偏見などは持っていない様子。
「実はここ、私のお家なんですよ♪」
二人は聞かされて無い事実に驚いた。コーストは何かを言いたそうに後ろ頭を掻いている。
「あのっ! お願いがあります」
シーナは頭を下げた。すぐに顔を上げ笑顔で口を開く。
「良かったら……コーストのお友達になって欲しいです」
思ってもみなかった願い。少し前までの険悪な雰囲気が頭をよぎる。そんな事はお構いなしにフルースは笑顔で答える。
「もちろんだよ! ……ねぇ?」
だがルルシアとコーストだけは体を震わせていた。なんともしれない空気が漂う。
「「誰がこんな奴と友達になんか……!」」
二人同時に口を開いたがものの見事に被ってしまった。お互い顔を見合わせしばらく沈黙する。そしてクスリと笑ったのを皮切りに、場は一気に朗らかになった。
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彼らの姿が虚空に映し出されている。
「……この者達を監視しろと言ったな、何故だ?」
紫翼の青年・デューセルは傍らに居る黒服の人物へと疑問を投げかける。
「彼らは時期に脅威となる。アナタにとっても、我々にとってもね」
『脅威』。その言葉に懸念していた事柄が結び付いたように感じた。しかし何か妙だ。
「いいだろう。だがその前に正体を現せ!」
違和感を払拭すべく、怪しい人物を問い詰める。
「エレメンテのシアラクア」
その者は着ていた外套を投げ棄てる。それは地面へと落ちる前に火に燃えて消えた。顕になったその姿はどの種族にも該当しない、黒い2本角を持つ赤髪の女だった。
「これで契約成立ね、アタシはいつでも力になるわ。……ただ一つ覚えておいて」
シアラクアは火を纏い宙へ浮く。殺意は無いようだが、おどろおどろしい焦熱が空気を焼いた。
「アナタの傍には常に我々の刺客が居る。裏切ればどうなるか分かるわね、神聖族のお兄サン?」
それだけ言うと女は突如姿を消した。
──刺客?
……一体何が目的なのだろうか?
怪訝に思うデューセルの言葉はただ虚無へと消散した。




