表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

第三話 共存共栄

 小さな村に辿り着いたフルースとルルシア。どの建物も木材で出来ていて自然と調和している。行き交う人は少ないが、人間族や鳥族とは違う外見をした者が居た。

「ここは獣族と人間族が暮らしているみたいね」

「へぇ〜……じゅ〜ぞく?」

 獣族。特徴的な肌色に獣の耳と尾を持つ種族。どの種族とも相容れず、特に鳥族とは犬猿の仲だとルルシアは姉から聞いていた。それが、この村では人間と共存しているのだ。

「ルルシア? どうしたの?」

 フルースは考え込んでしまった彼女に声を掛ける。しかし返答は無い。何かを躊躇っているようだ。

「おい! お前ら!」

 覇気のある声が立ち往生している二人を動かす。声を掛けてきたのは体格の良い黄土色の髪の青年。獣耳と尾がある、どうやら獣族のようだ。

「そんな所に突っ立ってたら邪魔だぞ!」

 そう言って持っていた大木をドスンと地面に置いた。青年はまじまじと二人の顔を眺め、何かを思い付いたらしく続けて口を開いた。

「その様子、旅してるって感じじゃなさそうだな?」

 誰が見ても明らかな軽装備。言うまでもなくその通りである。

「俺はコーストってんだ。お前らは?」

 元気で活発に名乗る彼。対照的にフルースはおどおどと自己紹介をした。勢いに気圧されているらしい。

「安心しろ取って食ったりしねぇよ……、でお前は?」

 視線はルルシアの方へ向けられる。彼女はずっと黙ったままで思い詰めていた。

「おい、そこの緑の。聞いてんのか?」

 何も言わないためとうとう髪の色で呼ばれてしまう。流石に気に障ったらしくやや怒り気味に名乗った。お互い初対面だが、それ以上にどこか打ち解けない感じが漂っている。

「……ところでお前のその身なり、もしかして鳥族だよな」

 コーストのその質問で少し場が凍る。一番触れない方がいい話題な気がした。

「どこ見て判断してるんです? そういうの」

 改めて見てみれば腕、脚、おまけに腹部まで見えている。露出の多い衣装でかなりの軽装だ。背中の小さな羽根よりもそっちを見てしまう。確かに鳥族の特徴といえば特徴なのだが、恐ろしい気配を感じ慌てて視線を戻した。

「そ……その羽根だ、羽根」

 指差しながらなんとかはぐらかすコースト。

「これは飾りです」

 さらっと嘘をつくルルシア。

「なんでそんなに焦ってるんですか?」

「い、いいや! 断じて焦ってないぞ俺は」

 そのまま小さな言い争いを続ける二人。埒が開かない。ふと辺りが騒がしくなり、フルースは周りを見渡した。

「ね、ねぇ二人とも」

 言ってコーストの腕を掴み指差す。

「何だよ今忙し……げ!」

 気付けば自分達の周囲に人が集まっている。どうやら先程のやり取りが見せ物の様に見えたらしい。コーストはもっと早く言えとフルースを揺さぶる。

「とりあえずとっとと離れるぞ。この女おっかねぇからな」

 おっかない女に聞こえないよう小声で話すコースト。しかし当の本人にもしっかり聞こえていた。ルルシアは二人の間に割って入りフルースの腕を掴む。

「さ、行きましょっっっ!」

──ガンッ!

 物凄い鈍い音がした。コーストは片足を抑えてぷるぷるしている。直後に響く金属の音。金色の葉の金貨が投げ込まれたようだ。何食わぬ顔で去ろうとするルルシアと、事態をよく分かってないフルース。

「ちょ……ちょっと待てお前らぁ!」

 状況を変えるべく呼び止めるコースト。痛む足を引き摺りながらも足早に近付き、強引に二人を引っ張り何処かへと連れて行く。


 そうして連れて来られたのは木造の家の中。行くあての無いフルースとルルシアを一時的に泊めると言うのだ。

「お前ら少しは感謝しろよな」

「それにしても綺麗ね、ここホントにコーストのお家?」

 またしてもコーストとルルシアの間に火花が散る。一触即発の空気だ。その時、突然扉が開いた。

「あら? あなた達だあれ?」

 桃色の髪の少女が不思議そうにこちらを見つめている。慌ててコーストはこれまでの経緯を説明した。どうやら彼の知り合いのようだ。

「フルースさん、ルルシアさん。初めまして私はシーナです」

 手に持っていた花籠を置き丁寧に挨拶をする彼女。見たところ人間族で差別や偏見などは持っていない様子。

「実はここ、私のお家なんですよ♪」

 二人は聞かされて無い事実に驚いた。コーストは何かを言いたそうに後ろ頭を掻いている。

「あのっ! お願いがあります」

 シーナは頭を下げた。すぐに顔を上げ笑顔で口を開く。

「良かったら……コーストのお友達になって欲しいです」

 思ってもみなかった願い。少し前までの険悪な雰囲気が頭をよぎる。そんな事はお構いなしにフルースは笑顔で答える。

「もちろんだよ! ……ねぇ?」

 だがルルシアとコーストだけは体を震わせていた。なんともしれない空気が漂う。

「「誰がこんな奴と友達になんか……!」」

 二人同時に口を開いたがものの見事に被ってしまった。お互い顔を見合わせしばらく沈黙する。そしてクスリと笑ったのを皮切りに、場は一気に朗らかになった。


──────────────────────


 彼らの姿が虚空に映し出されている。

「……この者達を監視しろと言ったな、何故だ?」

 紫翼の青年・デューセルは傍らに居る黒服の人物へと疑問を投げかける。

「彼らは時期に脅威となる。アナタにとっても、我々にとってもね」

 『脅威』。その言葉に懸念していた事柄が結び付いたように感じた。しかし何か妙だ。

「いいだろう。だがその前に正体を現せ!」

 違和感を払拭すべく、怪しい人物を問い詰める。

「エレメンテのシアラクア」

 その者は着ていた外套を投げ棄てる。それは地面へと落ちる前に火に燃えて消えた。顕になったその姿はどの種族にも該当しない、黒い2本角を持つ赤髪の女だった。

「これで契約成立ね、アタシはいつでも力になるわ。……ただ一つ覚えておいて」

 シアラクアは火を纏い宙へ浮く。殺意は無いようだが、おどろおどろしい焦熱が空気を焼いた。

「アナタの傍には常に我々の刺客が居る。裏切ればどうなるか分かるわね、神聖族のお兄サン?」

 それだけ言うと女は突如姿を消した。

──刺客?

 ……一体何が目的なのだろうか?

 怪訝に思うデューセルの言葉はただ虚無へと消散した。



 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ