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第二十八話 神の神託:後編

 しばらくして目的地に着いたらしい足場は、大きな音を立てて止まった。

「この先だ」

 目の前を指差すデューセル。同時に宙に浮いた灯がその道を照らしていく。奥へ進むと、そこには大きな空洞が広がっていた。

「ここは……」

「唯一神託を行う事の出来る神の間だ」

 デューセルは真っ直ぐ前へ進み、その場で片膝をつく。彼が床に触れると巨大な魔法陣が現れた。

「儀式の弊害になる、少し離れていろ」

 彼はそう言ってフルース達に距離を取るよう促す。皆が魔法陣中央の円から出たのを確認するとデューセルは立ち上がった。


――ゴォオオオッ

 突如轟音が響き渡る。光の柱が立ち上り、それはやがて全てを包む。そして瞬く間に一面は黄金の天空へと変化した。

「うわっ!」

 思わずよろめき尻餅をつくフルース。どこを見ても遙か上空。本当に高い所に居るような錯覚に陥るが、見えない床はそこにあるようだ。彼らの足元にある魔法陣が明滅を繰り返している。そんな中、一人冷静さを保っているデューセルは口を開いた。

「我らが信仰せし神よ、祈りに応え賜え」

 天に向かって高らかに宣言する。刹那、彼の周りに光の粒子が集まる。それらは寄り集まり一つの形を成す。

「あの人は!」

「メルティ!」

 フルースとエラが声を上げる。そこに現れたのは、以前コースト達の村ではぐれた時に声を掛けてくれた不思議な女性だった。それにどうやらエラは彼女の事を知っていたらしい。宙に浮くその女性、メルティは二人に向かってニコリと小さく手を振った。

「私を呼んだという事は、あなたは重大な覚悟を決めたのね」

 淡々と事実を述べるメルティ。彼女こそデューセルが信仰する神なのだろう。デューセルは静かに頷いた。

「さて、聞かせてもらいましょう。あなたの願いを」

 そっとデューセルに向かって手を差し伸べる。

「神よ。浄化に囚われし者達の魂を、永遠の呪縛から解放していただきたい」

 彼は何の躊躇いも無くそう言い放つ。だがメルティは困ったような顔で肩をすくめた。

「それは五千年も前から続く因縁。そんなに簡単に叶えられるものではないわ」

「ですが、我らの祖先は神託の全てを成し遂げました」

 決して臆する事なく反論するデューセル。あまりの熱意に折れたらしいメルティは小さく溜め息をつく。

「あなたのその命が犠牲となっても構わないと?」

 彼女のその一言にフルース達が反応する。

「待って!」

 皆が止めに入ろうとする。が、見えない壁にはばかられ止める事はおろか、二人の居る空間にさえ立ち入れなかった。

「くそっ! 何だよこれ!」

 コーストが力強く殴る。しかし透明な壁はびくともせず、皆は見守る事しか出来ない。

「無駄よ、ここはもう神聖族しか受け入れられないの」

 メルティはそう言い放った。

「それに……どうやらあちら側には侵入者がいるようね」

 彼女が見やった奥の空間。どこまでも広がっていた黄金の空が一部焼け爛れていた。そしてそこに居たのは……。

「シアラクア!」

 逃した獲物を何処までも追いかける獅子の如く、再び彼女は姿を現した。

「まさか侵食がここまで……?」

 デューセルの言葉に焦るフルース達。

「少なくとも、この魔法陣に影響が及ぶと神託は二度と行えなくなるわ」

 いつそれが起きてもおかしくない状況。悲劇を止める選択肢はもはや一つしかなかった。

「ワタシの命で救えるのならば、犠牲として命を捧げましょう」

 覚悟を決め宣言するデューセル。

「そう、なら私はあなたのその覚悟を認めるわ」

 メルティは彼を肯定する。そしておもむろに手を前に出すとそこから光が溢れ出した。

「今ここに神の啓示を与える。穢れた魂を清める為に、彼の者の命を……」

 全てを受け入れようとしたその時だった。どこからともなく現れた数個の浮遊する塊がデューセルの前に集まる。

〝ようやく我らが使命を果たす時が来た〟

 神聖族の魂達の声だ。

〝我らは戦禍により肉体を失った、しかし魂は残り続ける。決して命を失った訳ではないのだ〟

「なぜ貴方がたが…」

〝これは我らが同志の願いでもある〟

 驚く彼の目の前にまた別の魂が現れた。

〝ここで神聖族の血を絶やす訳にはいかぬ。それにお前は儂にとって掛け替えのない存在〟

 聞き覚えのある声……デューセルはハッとした。

〝良い仲間を持ったな。生きろデューセル、我が息子よ……〟

「父上!」

 彼の父・シエルフレムは肉体を失い魂となってもなお、子のために身代わりになろうというのだ。

「……犠牲とし、これにより神託を下す」

 メルティは両手を広げ何かを呼び込むように力を使う。すると、魔法陣の外側にいたシアラクアが光輪に捕縛された。デューセルの目の前に居た魂達は光の羽根となって地に落ちた。同時にシアラクアの体が光り、弾ける。


――ドサッ。

 次の瞬間には彼女が居た場所にレイルナが倒れていた。そして逃げるように小さな火の粉がその場から去っていく。

「レイルナ!」

 仲間達が駆け寄る。デューセルは落ちた羽根を拾い上げるが、それはさらさらと粉の様に散っていった。

「んん……何ですの?人が気持ちよく寝てる時に……」

 まだ眠たいと言わんばかりにレイルナは目を覚ました。どこにも影響は無いらしく仲間達は安堵する。

「……」

 嬉しいとも悲しいともつかない面持ちでデューセルはメルティに向き直った。

「これで無事神託は為されたわ。早く皆の元へ行っておあげなさい」

 彼女がそう言い終えると魔法陣は消え、元の空間へと戻った。次に振り返った時、彼女の姿はもう無かった。

「メルティ……ありがとう」

 遠くでエラがぽつりと呟く。何はともあれ誰も仲間が犠牲になる事が無かったのだ。互いの無事を喜びながら一行は塔を後にした。

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