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第二十七話 神の神託:前編

 水鏡を潜り抜けた先に見えたのは、見慣れた碧色の空と大地。元居た神聖族の世界へ戻ってきたようだ。全員到着すると同時に水鏡はゆっくりと消えた。

「……」

 相変わらず世界を侵食する暗闇はどんどん拡大している。そしてその場にレイルナの姿が無いという事実

が一行の表情を曇らせた。

「おい、どうなってる? アイツは何処に行った?」

 コーストがユナシエルに問い詰めた。彼女はとても言いづらそうな面持ちで口を開いた。

「彼女は……シアラクアです」

 その言葉に驚愕する一行。しかし全く理解が追い付かない。長らく一緒に居た筈のレイルナ、それもシアラクアと闘った彼女がそのシアラクア本人だと言うのだ。

「正確には彼女達『亜獣人族』は、私達エレメンテの器となるべくして生まれた種族なのです」

 とても信じられないが、それが本当ならば有り得ない話ではない。

「じゃあもう、レイルナを助ける方法は無いの?」

 ルルシアは不安を口にする。しばらく考えてユナシエルは答えた。

「いえ……方法はあります」

 彼女の言葉に希望を見出した一行の顔が明るくなる。しかし、彼女の顔はすぐに沈んだものになった。

「全てを終わらせる方法は、私よりも貴方の方がご存じなのでは無いですか? フォルクさん」

――バサッ。

 彼女の言葉を聞くまでもなく、瞬時にして姿を現したフォルクがその翼を広げる。

「貴様らとその主、ラスターを完全に滅する。それ以外に方法は無い」

 フォルクは顕現させた光の剣をユナシエルに向けた。だが彼女は逃げる事なくその顔を上げる。

「全ては五千年前の悲劇から始まった永遠の呪縛。フォルクさん、貴方ももうあの時とは違う。……どうかラスター様の野望を止めて下さい。」

 祈るように手を合わせ、ユナシエルは決意を口にした。

「待て、それでは全ての亜獣人族を犠牲にすることになる」

 話を静かに聞いていたデューセルが口を挟む。

「アイツも戻って来ないままなんだろ?」

 コーストの言うアイツとはレイルナの事だろう。確かに彼女を本当の意味で救う事は出来ないのだ。

「ならば他に術があると言うのか」

 フォルクはゆっくりと剣を持つ手を下ろし皆に問うた。一同は何も言えずに黙り込む。……ただ一人を除いては。

「ワタシに考えがある」

 沈黙を破ったのはデューセル。彼は続けて口を開く。

「……神の信託を行う」

 ルルシア達にはそれが何を意味するのか分からず首を傾げた。

「人とは何処までも愚かだ」

 フォルクはそう言うや否や、すぐにフルースへとその体を受け渡した。

「大丈夫?」

「うん。僕は大丈夫、でも……」

 心配そうにしているルルシアに元気に返事する。だが彼は自分の事よりもデューセルの事が気になっていた。

「フォルクは知ってるんだ、君の言っている事を」

「ワタシ達、神聖族のみが行える儀式だ。お前達には関係無いだろう」

 デューセルはそう言うと魔法陣を形成する。彼の足元から光が放たれ、辺り一面が真っ白になる程眩く輝く。

「待って!  デューセル!」

 一人で何処かへ行こうとしている彼を止めようと、フルース達は光へと飛び込んだ。その瞬間、彼らの姿は消える。その様子を傍から見ていたユナシエルは静かに涙を浮かべた。


――


 次に彼らの目に映った場所は以前訪れた塔の入り口だった。

「何故、付いて来た」

「だって君は何か隠している気がしたんだ」

 デューセルに素直な気持ちをぶつけるフルース。

「何か出来る事があるかもしれないと思ったんだ。だから君と一緒に行くよ」

 真剣な眼差しで訴える。続いてルルシアやコースト、エラも頷いた。半ば呆れた様子でデューセルは塔の門へと手を掛けた。

「いいだろう。悠長にしている時間は無い、進むぞ」

 目の前の大きな扉が開く。以前と変わらない荘厳な空間。中央にあった螺旋階段は無くなったまま、前にルルシア達を導いてくれた足場だけが残っていた。

〝よく来た、我らが神聖族の末裔よ〟

 突如辺りに重々しい声が響く。神聖族の魂の声だ。その声を聞くや否やデューセルはすぐに跪いた。

〝其方から強い覚悟を感じ取れる。これより行うは神託であろう?〟

 まるで全てを見通しているかのようだ。その一言でデューセルは立ち上がる。

「はい。ワタシに神託の場をお与え下さい」

 すると突然、中央の足場が輝いた。ガタガタと空気が、地面が揺れ動く。

〝向かうがよい。そして己が使命を果たせ〟

 足場はそのまま上ではなく下へと降下する。一瞬にして見知った景色は見慣れぬ景色へと変貌した。

「地下があったなんて……」

 ルルシアが呟く。下へ下へと降りる中、どこまでも真っ暗な世界が広がっている。幸い上からの光で皆の姿は互いに認識出来た。その間もデューセルは顔色一つ変えず、ただこれから訪れる場所を見続けていた。

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