第六章「破壊の火種」
爆音が瑞祥学園の寮舎を揺らしたのは、ミカが蓮井と別れ、研究資料の写真を撮り終えた直後だった。窓ガラスが弾け飛び、警報が鳴り響く。火の手が上がり、職員と児童たちがパニックの中で叫び声をあげる。
ミカは咄嗟に資料をバッグに詰め、炎と煙の中を駆け抜けた。Signalにメッセージを送った久世の言葉が、耳の奥で何度も反響する──「この施設はもうじき消される」。
学園の正門には、顔を黒いマスクとフードで隠した集団が立ち塞がっていた。火炎瓶、手製の火器、そして何よりも異様な統率力。ミカはその姿に見覚えがあった。都内で活動する匿名の極左・極右を越境した謎の武装集団。
「カストリは人間の魂を腐らせる。子どもに与えて何になる!」
そう叫ぶリーダー格の女──その声に、ミカは背筋を凍らせる。
それは、かつて行方不明になった高校時代の親友・柴咲アユミだった。
逃げ惑う職員たち。建物を破壊し、保管庫を燃やすトクリュウ。
火の粉の中でミカはアユミに近づき、叫ぶ。
「アユミ……あなた、何をしてるの!? なぜこんな──」
だがアユミは一瞬目を細めただけで、何も答えず背を向けた。
その後ろ姿を見送る間に、突如銃声が響く。
警備用ドローンが上空から狙撃を開始したのだ。子どもたちを守ろうと走った蓮井が、ミカを突き飛ばすと同時に背中を撃たれて崩れ落ちた。
「……君は、逃げなさい……記録を……厚労の監査課に届けて……」
蓮井の血の中でミカは叫ぶ。何が正義で、何が国家かもわからなくなっていた。
夜明け前、山林を抜けたミカは、隠された山小屋へと向かった。そこには久世が待っていた。
「予定より早かったな。瑞祥学園はもう“事故”として処理されるだろう。死者は出たか?」
ミカは無言でうなずく。蓮井の死は、あまりにも重すぎた。
久世は無線機のスイッチを入れ、静かに言った。
「これから、日本は動く。カストリを軸に、政界、官僚、裏社会、すべての歯車が噛み合っていく。そして、お前はその中心に立たされる」
山小屋の奥に、巨大な白いボードがあった。
そこには──政治家、ヤクザ、実業家、YouTuber、医師、芸能人、厚労省官僚……あらゆる名前が線で繋がれ、赤いマーカーで囲まれたキーワードが浮かび上がる。
《KASTORI》
「戦争はもう、始まってる」