英雄、墜ちる
かつて、俺は“雷刃のグレイス”と呼ばれていた。
雷をまとった剣技で敵をなぎ倒し、魔王軍を壊滅に追いやった五人の英雄の一人。その名は王都全土に轟き、騎士団の中でも別格と称された。
子どもたちの憧れ、貴族たちの宴の話題、戦場の勝利の象徴。
だが、すべては一夜で瓦解した。
──冤罪だった。
王家直属の任務中に、俺は「命令違反による背信行為」を疑われた。仲間の一人が命を落としたその戦闘で、偽造された命令書が俺の元に届いていたのだ。
誰が仕組んだかは、今もわからない。
「英雄の名に相応しくない振る舞いだ」
そう言われ、俺は全てを剥奪された。
騎士団除籍。爵位剥奪。住まい没収。
──名誉も、地位も、剣さえも。
抗弁は通らなかった。仲間たちの何人かは疑問を抱いてくれたが、時の王の鶴の一声に抗える者などいない。
王都の者たちも、目の前であれほど讃えていたくせに、翌日には石を投げてきた。
それから三年。
俺は今、旧市街の片隅で細々と暮らしている。
雨漏りのする木造の長屋。軋む床。湿気臭い寝具。
それでも、剣を振るわなくていい日々は、心だけは静かだった。
剣を売った金で細々と食いつなぎ、今は木工の手伝いや荷運びをして日銭を稼ぐ。
誰も俺を「英雄」とは呼ばない。
──それで、いいと思っていた。
あの時、俺はもう人を守れる立場じゃないと、そう思ったから。
だが。
その日、あの少女と出会って、すべてが少しずつ変わり始めた。




