第004話 敵の命令通りにしか動けなくなった魔法少女、ピンチ!
「くくくっ……!」
強制的にびしっと気をつけをさせられている、青髪魔法少女を見据えながら、混沌ズリーダーの女は、トロフィーモンスターへ告げる。
「私たちの周りを、うさぎ跳びで1周しなさい――と、あの魔法少女へ命令してちょうだい」
トロフィーモンスターは、頷いた。
「了解しました」
そして、気をつけ状態で硬直している魔法少女へ、命令をする。
「混沌ズの周りを、うさぎ跳びで1周しろ」
「――あっ……」
魔法少女は、命令に従わされる。
従いたく無いのに、自分の意思に反して、その場にしゃがみ込んだ。
そして、両手をうさぎ耳のように、頭の左右部に添える。
青色のプリーツスカートが垂れ、下着の見えないギリギリのラインまで、足元が露出した。
その状態で、ぴょんぴょん跳躍した。
――うさぎ跳び。
「――うあっ」
強制的だった。
何かしらの力が悪さをして、トロフィーモンスターの命令に、大人しく従ってしまう状態となっている。
混沌ズ3人組は、周囲をうさぎ跳びで回る魔法少女を、愉快そうな表情で見つめていた。
「ファイトだよー」
「ぁ……っ」
「良い姿ですね」
「うぅ……」
「ざまぁみろね!」
「っ……」
抵抗叶わず、うさぎ跳びを1周し終える魔法少女。
「もう一度、気をつけをさせなさい」
「気をつけをしろ」
「ぁ……」
「廊下の突き当りまで走らせて」
「廊下の突き当りまで走れ」
「っ……」
魔法少女は命令に抗うことができず、トロフィーモンスターの指示通り、廊下の突き当りまで走った。
「次は、こう命令をしなさい。私たちのいるところまで、真っすぐ走れ――と」
「了解しました。――我のいる場所まで、真っすぐ走れ」
「ぁ……っ」
魔法少女は命令に従い、混沌ズのいるところを目指して、身を翻してから真っすぐ走る。
いや、走らされる。
そして、リーダー女が――
「ほいっ」
――右足を突き出した。
そこは、魔法少女の走るルートの途中場所であった。
「なっ……!」
その思惑は、魔法少女にも容易に想像できる。
――足を引っかけ、転倒させる気……っ!?
何とも、子供っぽいイタズラだ。
でも、その子供まがいのイタズラから回避することが、今の魔法少女には出来なかった。
トロフィーモンスターの命令から、背くことが不可能だから。
真っすぐ走ることしかできない。
「ほらほらー。来なさい来なさい……!」
「い、いや……っ」
「盛大に、ずっこけなさいよ」
「……っ!」
止まりたい。
なのに、止まれない。
進路を変更したい。
なのに、進路を変更できない。
「――おらぁっ!」
「――きゃっっ!?」
結果は、予定調和であった。
リーダー女の右足と、魔法少女の走っていた右足が、綺麗に引っかかる。
そして――
「――んがっっ!?」
――魔法少女は、足を躓き、地面へ激しく転倒した。
X時体勢で、廊下上に倒れ伏す。
混沌ズの3人組は、それを目にして爆笑した。
「――きゃはははははっ! んがっ、だって! ダサい……! ダサすぎる……! ダサすぎるでしょっ!」
「いつもの魔法少女からは考えられないほどに、無様な光景だね!」
「もはや無様すぎて、可哀想なまでありますよ」
魔法少女は、転倒ダメージによる苦痛に満たされた。
「痛い……っ!」
リーダー女は、再びトロフィーモンスターへ命令する。
「恒例の、強制気をつけをさせなさい」
「気をつけだ」
「……っ」
「リーダー! 椅子を持ってきたよー」
小柄な少女が、椅子を廊下の真ん中へ配置する。
「ふふふっ! 今から魔法少女に、その椅子に座れと命令をするから、座ろうとした瞬間に、ヘイルは椅子を後ろに引きなさい!」
「分かったよ!」
――えっ?
「ま、待って……っ」
「誰が待つものかってぇ! トロフィーモンスター! さっさと命令しなさい!」
「その椅子に座れ」
「い、いや……っ!」
容赦など、何も無かった。
魔法少女は、椅子の前まで歩き、そして腰を下ろした。
――その瞬間。
イタズラが執行される。
小柄少女は、椅子を後ろにスっと引いた。
当然、魔法少女は地面へ尻餅をつく。
「――あだっ!?」
イタズラに引っ掛かりたくないのに、嫌でも引っ掛かってしまう。
「うぁ……っ!」
最初こそは、優勢であったのに。
今はどうか?
一気に、歯が立たない状況へと追い込まれていた。
勝利できる予感が、魔法少女の思考から消えていく。
「まだまだ終わらないわよおっ!」
そして混沌ズは、更に魔法少女を苦しめるつもりでいた。
「机を用意しました、リーダー」
「おーけー! だったらレアム。今から魔法少女に、その机の上に乗ってから、後ろに浮いている椅子に座りなさいと命令をするから。レアムは、椅子をしばらく持ち上げていなさい。そして、魔法少女が座ろうとしたその瞬間に、椅子を引くのよ!」
「なるほど。さっきの尻餅攻撃の、高さが高くなったバージョンというわけですか。リーダーも、性格が悪いですね」
「当たり前よ! 今から魔法少女は、机の上から地面までの、とてつもなく痛い尻餅をつくということだから……! 本当に、我ながら性格が悪いわ」
「は……っ!?」
その計画を耳に入れ――もう、嫌……っ――と、拒否反応に包まれる魔法少女。
だが、トロフィーモンスターの命令から逃れられることは不可能。
「――机の上に乗れ」
「や、だ……っ!」
勝手に、身体が動く。
魔法少女は、机の上に二本の足を乗せた。
そして、高校の制服を着用した混沌ズメンバーの一人が、椅子を持ち上げる。
「――その浮いている椅子に座れ」
「そ、そんな……っ!」
魔法少女は、腰を屈む。
そして、当たり前に椅子が後ろに引かれた。
「――ひゃっ!?」
座る面がそこから無くなり、バランスが崩れる。
落とし穴へ落下するかのように、机の上から地面の位置まで。
ドンッッ!! と、
「んごっ!!」
派手に尻餅をついた。
「――っっ!!」
今までのイタズラよりも、段違いの痛みにさらされる。
「いったぁぁああぁっ!!」
もはや、魔法少女はやられることしか出来なかった。
敵の思うがままに行動を強制され、痛みを与えられ、恥ずかしい想いをする。
「今日は……! 今日は、魔法少女に勝てるわよ……!」
「やぁ……っ!」
魔法少女に、助けを求めれる相手などいない。
自身の敗北を悟りつつあった。
――ま、負けたくない……っ。
――悔しい……っ。