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第002話 普通の中学生の『将来の夢』

 ――一方、同時刻のその頃。


 夕陽が水面みなもに反射する河川を横に、堤防を歩く3人の女子中学生がいた。


 帰宅途中の生徒の1人――薄いピンク色のポニーテールを揺らし、非常に顔つきの整った美少女――名を宮西みやにし真桜まおは、夕空を見上げながら言葉を発した。


「今日も、いつも通りの日常で終わったなー」


 隣を歩く、真桜の友人が口を開ける。


「どうしたのー? いきなり、今日もいつも通りの日常で終わったなとか口に出して。あれかな? 大人ぶってるんかな? ませたんかな? たかだか13年生きただけで、人生を知り尽くした気になったんかな?」

「ちゃうわ」

「ちゃうんか。じゃあ、日常に退屈を感じているとか? そんな感じ?」

「そうでもない。ただ、今日も変なことが起こらず、平坦な一日を過ごせて、私は幸せかもしれないなって。そう思っただけ」

「それは、ませてはいますね」

「…………まあ、ませてはいるのかもしれない」


 正論を放たれ、ませたことは認める真桜まお

 もう1人の友人が、口を動かした。


「そういえばだけどさ。今日配られた、将来の夢を書けってプリント、あったじゃん? あれ、1週間後に提出って言われたけど、なんて書くよ?」


 真桜は、すぐには答えない。

 先に、友達の方が返事をかえした。


「あれねー。私はテキトーにプログラマーとか書こうかなーって、考えてるよ」


 真桜は聞いた。


「なんでプログラマー?」

「機械語と日本語の実質2か国語って、カッコイイじゃん」

「まあ確かに、それはかっこいいかもね」

「あら? 機械語は2か国語目に含まれんわとか、ツッコまれるものだと思っていたよ」

「私を何だと思っている?」

「…………うーん」

「私が普通すぎて、何とも答えられないと?」

「自分のことは、自分が一番分かっているじゃないか!」

「うるさい」


 もう1人の友人が、口を開けた。


「私は、絵が好きだから。イラストレーターって書いたよ」

「ほうほう。でもイラストレーターって、最近は大変なんじゃないの? AIが、やけにクオリティ高いイラストを描くしさ」

「あれね。正直絵描きを目指す私にとっては、全く面白くないことだけど。でも、私にはこれしか無いからさ。やれる範囲では、人間の筆を誇るつもりだよ」


 真桜は、言葉を発した。


「人間の筆……」

「そ。AIのイラストもどきと戦える、唯一の手段さ。と、反AI的な言葉を発すると、AI絵師様たちに怒られるわけだけどね。でも私は、ずっとネット上で言っているんだよ。本物の絵と偽物の絵を見分けられないやつが多すぎて嫌になる世の中だって。あれは、絵では無い何かだと。そして軽く炎上した」

「炎上したんだ」


 友人は言う。


「まあ、あっちにはあっちの正義があるわけだね。ほら、AI生成イラストにも、メリットがあることに間違いはないからさ。絵を描けない人の夢を叶えるツールには、なれているわけだし。私には、AI生成イラストは作れない。それに、人間絵師って私みたいな面倒な人間もいるから、イラストを依頼する側も、低コストで何のトラブルも生まず、短時間で高クオリティなイラストもどきを生成できるAIに頼るわけだよ」

「なるほど……でも私は、人間の絵の方が好みだよ」

「それはそれは。安心したよ。私の友人が本物を見分けられる側で」


「――一方私は、AI絵師を50人くらいフォローしている人間だったりする!」


「今までありがとうな」

「こら! 絶縁しようとするんじゃない!」

「プロの絵を取り込んで、本人の許可も得ずにAIに学習させて、絵師のメンタルを平気な態度で傷つける連中を50人もフォローしているとは……人の心が無いとしか思えない……っ!」

「それは一部ね! 良いAI絵師だって、たくさん存在するから! その極端思考をデフォルトで発信するから、炎上するんだぞ!」


 と、何気ない友人との会話が繰り広げられる。

 いつもと何も変わらない、平凡な日常であった。


 最後に、真桜が質問される。


「真桜は将来の夢、なんて書くんよ?」

「私は……」


 彼女は、答えた。


「特には、何も無しかなー」

「何も無し? ニートか?」

「違うよ。単に、なりたいものが何も無いってだけ」

「なるほどね。真桜らしいといえば、真桜らしいね」

「じゃあ働きはするだろうけど、職種にはこだわりが無いと? そういうことか?」

「というより、未来の自分に興味が無いって言うのかな? そんな思考が強い」

「まあ、まだ中学生だからね。自分探しの段階だろうから。きっといずれ見つかるよ。自分の目標的な何かが」

「そうかもしれないね」


 ぼんやりと、それについて考え、そして不意に思い出した。


「あ――」

「急に、あ――と言い出して、どったのかな? 真桜」

「学校に、家の鍵を忘れた」

「あらま」

「引き出しに入れて、そのままだった」

「田舎あるあるだね。貴重品の取り扱いがめちゃくちゃ雑」

「私、学校に戻るね。二人とも、また明日」

「うん、今日はさらば!」

「また明日なー」


 手を振って、真桜は道を引き返した。

 まさか今、学校に強盗が現れているなんて、つゆにも思わず……。

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