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第018話 普通の女子中学生から魔法少女へ

 廊下には、椅子いすの上に拘束された状態で座っている、青髪の魔法少女がいた。


 右足首と、椅子の右前脚。

 左足首と、椅子の左前脚。


 それらの部位が、ガムテープによりぐるぐる方式で巻き付けられている。


「……っ」


 少女は、わずかに残っている力を使って、ぐっと両足を動かすものの、ガムテープの拘束こうそくゆるみすらしない。


「ふふふっ」


 そんな魔法少女である水穂みずほを見下ろしながら、混沌こんとんズリーダーは笑みを浮かべていた。


「ボロボロのピンクポニテが来るまで、この子を使って遊んでいようかしらね」


 水穂は、胴体部どうたいぶと椅子の腰かけ部のところも、ガムテープによりぐるぐる巻きで固定されていた。


 両手は背中側に回され、手錠てじょうのように、手首をガムテープにより何重なんじゅうにも巻かれ、自由を奪われている。


 青色のプリーツスカートから伸びる綺麗な太ももは、足が椅子の脚とガムテープで固定されているため約60度に開いており、身動きがろくに取れない様子だった。


 今、水穂に向かって異能弾でも放たれたものなら、絶対に避けられない。

 そんな隙だらけの状態であった。


 茶髪のミディアムヘア少女――レアムが口を開ける。


「リーダー」

「何かしら?」

「18時5分です」

「……? だから何よ?」

「スーパーの半額弁当の数が、着々と減っています……!」

「な、何ですって……っ!?」


「――って」


 と、リーダーは続けて言った。


「レアム、忘れたの?」

「忘れたとは?」

「アンタが今背負っている、大金の入った布袋」

「ああ。それも、そうですね。魔法少女への勝利が目前の今。私たちの財布は確定で、うるおったようなものですね」

「そうよ。私たちは、半額弁当取り合いバトルに参加するような節約生活から脱却だっきゃくできるの!」


 リーダーは、言葉を発した。


「――億万長者おくまんちょうじゃということよっ!!」


 レアムが、口を動かす。


「億万長者――ですか」

「ええ、そうよ!」

「…………足りなくないですか?」

「…………えっ??」


 頓狂とんきょうな声をあげる、混沌ズリーダー。

 レアムは、しゃべった。


「だって、いくら数十人の教師からお金を巻き上げたとしても、それは財布の中に入っているお金のみじゃないですか。財布の中のお金は、銀行に預けているお金の数%程度でしょうから……その金銭をかき集めたところで、大金は手にできるものの、しかし億万長者と呼ぶには、その……可愛い子供の言葉にしか聞こえません」

「な……っ!」

「もっと言えば、リーダーは20を超えた大人ですから……何といえば良いですかね……」

「な、何が言いたいのよ?」

「…………怒りません?」

「怒らないわよ」

「――可愛いアピールをされたところで、大して可愛くありません」

ほとけかお三度さんどまでって知っているかしら!?」

「仏……? 三度……??」

「――怒るわよっ!!」

「怒るじゃないですか……」


 だいたい可愛いアピールなんて一回もしていないわっ!!――と、ひとちるリーダー。

 そんな彼女は、椅子の上で動きを封じられている水穂を見た。


「……ストレス発散といえば、何でも許される優しい世の中よね」

「――っ!」


 水穂は嫌な予感を感じ取り、思わず手足を動かすも、ガムテープの拘束は全くほどけそうにない。

 レアムは、ぼそりとつぶやいた。


自称仏じしょうほとけ

「レアムは本当に、私の味方なのかしら?」


 リーダーは、右手のひらを広げた。

 そして、カラス形の異能弾いのうだんを生み出す。


「魔法少女の敗北したみじめな姿をさらすのは、最後のメインディッシュにしようと思っていたけど、計画変更よ」


 カラスの形を描いた異能の弾が、どんどん大きくなる。


「ストレス発散で八つ当たりよ! さてさて、勝利の一手を決めてあげるわ……!」


 水穂は、その異能弾を眺めながら、攻撃におびえることしか出来なかった。

 力が、完全に消費しきっている。

 無力な状態――。


「クロウ――」


 敵がトドメの技名を言い始めた――その時。


「――ぐっ、わああああああああっ!!!!」


 ()()()()()()()()()()の悲鳴が響き渡った。


 そして――、


 ――ドンンッッ!!!!


 中庭の方向から吹き飛んできたトロフィーモンスターが廊下の壁を突き壊し、混沌ズリーダーとレアムを下敷したじきに、仰向あおむけで倒れる。


「な、何よっ!?」

「お、重いですね……」


 その光景を目にした水穂は、まさか――と思った。


「適合、した……?」


 すぐに、その答えは提示ていじされた。


「ブロッサム――」


 トロフィーモンスターの飛んで来た場所と同じ方向から、少女の声が聞こえてくる。


 かつては、普通と呼ばれていた少女の声。

 かつては、平凡と呼ばれていた少女の声。

 かつては、一般的と呼ばれていた少女の声。


「――キックッ!!」


 まるでサッカーボールをるかのように、魔法少女の姿となった()西()()()が、トロフィーモンスターと混沌ズリーダー、レアムを、ピンク色に包まれた足で蹴り飛ばしていた。


「――ぐっ!?」

「――やっ!!」


 リーダーとレアムは、教室内の壁に背中を打ち、床に倒れこんだ。

 トロフィーモンスターは、蹴り飛ばされた途中の空中で――


「――わ」


 認めた。


「我の敗北だ」


 トロフィモンスターは、純白の光に包まれる。

 手足は消滅し、サイズは縮小し、やがて元のトロフィーへと姿を戻していた。


 その流れを視界に映したリーダーは、


「な、何よ? このピンクポニテは……っ!」


「一般人なのに、何度も何度も私たちの邪魔をしたあげく、魔法少女になったと思えば切り札のモンスターをも倒す始末……」


「せっかく……っ! せっかく青いのを倒す目前だったというのに……っ! きーーっ!!」


 リーダーは、レアムに目配めくばせをした。

 レアムは頷いて、お金の入った布袋を手放す。


「――大金はあきらめて、撤収てっしゅうですね」

「ええっ!!」


 彼女らは、床に眠っているもう1人の仲間――ヘイルを引きずり運びながら……。


「今日のところは見逃してあげるわっ! 覚えていなさいっ! 絶対にいつか、倒してやるんだからっ!!」


 逃走した。


 水穂は、魔法少女の衣装に身を包む真桜を見ながら、言葉を発した。


「桜の……」


 宮西真桜は、普通の女子中学生だった。

 でも、今は違う。

 彼女は――、


「魔法少女」


 ――になった。

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