第017話 まるで魔法少女のような……
身体がピンク色の光に包まれ始める、宮西真桜。
まるで夜空に光り輝く月のように、彼女を取り巻く光は美しかった。
「なに、これ……?」
当の本人は、混乱している。
何せ、発光している石に触れた途端、自身も同じピンク色に発光し出したのだ。
――この現象は、何なのか?
――この光は、何なのか?
――この石は、何なのか?
謎。
謎。
謎。
日常とは真逆の非日常が、怒涛の勢いで真桜に降り注いでいた。
そして――
「――えっ?」
極めつけは真桜の容姿の急変――『変身』であった。
彼女は今、中学校の制服を着用している。
その服装が、変化する――
紺色の膝上まで伸びるスカートが、可憐なピンク色のショートパンツに。
黒色のソックスが、絶対領域を強調するニーソックスに。
白色の上履きが、足のサイズにぴったり合ったピンク色のブーツに。
――変化する。
ポニーテールの髪留めが、黒色のヘアゴムからピンク色の桜形ヘアピンに。
白色のスクールシャツが、『肩がうっすら透けて見えるチュール素材で出来上がった、桜模様に切り取られた袖』と『ショートパンツ上部までスカートのようにふわりと広がる、同じくチュール素材で出来上がった裾』、『背中の腰部に付けられた大きな黒リボン』が装飾された、襟ボタン付きの黒色トップスに。
――変化する。
手には、肩と腕関節の中央部まで伸びる、レース仕様の黒色ロンググローブ。
首元には、チョーカーが身につけられていた。
真桜の手に包まれていたはずの不思議な石は、いつの間にかチョーカーのリング部に移動し、はまっていた。
そして、真桜の纏っていたピンク色の発光が収まり消える。
「……!」
真桜の現在の衣装。
それはまるで……。
「魔法少女……?」
彼女は、自身の服装を見下ろしながら、そんな言葉を発した。
まさに、その言葉通りであった。
今の真桜の姿は、魔法少女のようであった。
そんなポニーテール少女を見たトロフィーモンスターは、口を開ける。
「なんて、綺麗なんだ……」
自身の輝きにしか興味がないトロフィーモンスターさえも、輝かしいと思わせる真桜の姿。
少女は、度重なる困惑に満たされていた。
「ど、どういう展開??」
意味が分からない。
理解が追いつけない。
展開についていけない。
水穂は、真桜にロッカーの鍵を渡していたが……。
それはおそらく、その鍵で解錠できるロッカー内に、ピンチの現状をひっくり返せる何らかのキーアイテムが眠っているものだと、真桜は予想していた。
「キーアイテムは、この石……?」
一応ロッカーの中には、まだスポーツバッグが残っている。
「スポーツバッグの中に、本当のキーアイテムが存在する可能性も……」
彼女は、スポーツバッグを手に取ろうとした。
「――我も、見とれている場合ではないな」
しかし、トロフィー形の怪物も再び動き出す。
――ドガアァァンッッ!!
教室の壁が、純金の拳によって崩れ落ちた。
室内に、大きな穴が空く。
その穴から、トロフィーモンスターが――ズドン! ズドン!――と大きな足音を立てて、ポニーテール少女へ接近していった。
「遊びは、終わりだ」
トロフィーモンスターは真桜へ、右手を伸ばした。
まるで、落ちた野球ボールを拾う少年のように。
宮西真桜を掴み取ろうとする。
「――っ!」
真桜は反射的に、その技名を口に出していた。
「――桜の打撃!!」
瞬間――。
真桜のグーの形に握りしめた右手から、濃いピンクの蛍光色が、火花のように無数に飛び散った。
「――やああああああああっ!!!!」
トロフィーモンスターの広げた手のひらの的の真ん中をパンチするかの如く、強力な一撃を思い切り与える。
「――っ!?」
トロフィーモンスターは……、
「――ぐっ、わああああああああっ!!!!」
真桜の放った打撃によって、吹き飛ばされた。
激しい勢いの、緩やかな放物線を描き、中庭の向こう側にある校舎へ轟音を立てて激突した。
「これ、は……?」
真桜は、自身の右拳を見つめる。
「なに……? この力……っ」