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第016話 4番ロッカーを目指して

 2階ベランダ柵を右手のみの力で強く握りしめる真桜まおは、ゴクリとつばを飲み込んだ。

 そして、決心する。

 勝利を手にするための、次の一手を打つ。


 それは、


「上に登れないなら、下に落ちるしかない――っ!」


 真桜は、柵を握っていた右手の力を、すっと緩めた。

 手のひらが、ベランダ柵から離れる。

 中庭の地面に向かって、垂直に落下した――。


「な、何だとっ!?」


 思い切りのあるその行動に、敵であるトロフィーモンスターすらも、意表いひょうをつかれた反応を見せる。


「――っっ!!」


 真桜は、心臓をバクバクさせながらも、次の一手を定めた。


 落下しながらも、なるべく冷静をよそおい、怖いという本心と向き合わないようにして、


「――ぐっっ!!」


 1階ベランダ柵上部に、真桜の両腕が引っかかる。

 まるで、おんぶの際に親の肩に両腕を乗っける子供のように、真桜の両腕は柵のR部に乗っかっていた。


「これは、さすがに痛い……っ!」


 大怪我は避けられたものの、ダメージが0というわけではなかった。


 落ちた衝撃が、身体全体に痛みとして走っていく。


 だがまあ、成功と言っていいだろう――と自分で自分をはげまして、真桜は前方へ重心を傾けた。


 身体をぐいっと動かし、腹部が柵のR部まで到達。両手をベランダの地面へピタリとくっつけ、地面に体重を預けながら、足を上げ――


「――うっ」


 何とか、ベランダの地面に身体全てを持っていくことが出来た。

 横に寝転がり着地という、綺麗ではない着地であったが、無事だから何でもいいだろう、と思う。


 真桜は、体力の消耗した身体を、懸命けんめいに立ち上がらせる。

 ふらつきながら歩いて、ベランダのドアノブをひねった。

 教室の中へ入る。


「こ、ここは……」


 幸いというべきか、その教室の名称は『2年B組』――目的地なのだった。


 真桜は、紺色こんいろのスカートのポケット内から、1本の鍵を取り出す。


「4番ロッカー……あった」


 廊下側に位置していた4番ロッカーへ、真桜は近づく。


 その時だった――


 ――パリイイイイイイイィィインッッ!!!!


 ガラスの割れる音。

 共に――


「逃がさないぞ……っ!!」


 ――トロフィーモンスターの声が響き渡った。


「……っ!」


 少女は、ベランダ側へ顔を向ける。


 窓越しには、トロフィーモンスターの姿が見える。

 割れた窓ガラスから貫通するのは、純金の片腕だ。


 片手のひらが真桜の方へ伸びて、せまおそってきた。


「何としてでも、捕まえる……っ!!」


 トロフィーモンスターの身体はサイズが大きいため、ドアや窓からは入室できない。細い腕のみが、教室内に侵入することができた。

 まるで、小さな隙間に落としてしまった貴重品を取ろうと手を伸ばす人間のようであった。


 ――ドガンッッ!!

 ――ドガンッッ!!


 そして、トロフィーモンスターが腕を真桜の方へ伸ばすたびに、純金製の身体が教室の壁と当たり、コンクリートにヒビが走っていく。


 このままではやがて教室の壁が破壊され、空いた穴からトロフィーモンスターが入室できてしまう。


 ――その前に、4番ロッカーを開けないと……っ!


 真桜は、4番ロッカーに向かって走った。

 だが――


「――足はらえたっ!!」

「うぐっ!」


 純金の5本指が、真桜の右足首をがっしりと掴む。

 そして、引っ張る。


「……っっ!!」


 真桜は、地面に爪を立てて抵抗するも、引っ張られ続ける。


「もう、悪あがきは終了だ!」

「ま、まだ……っ!!」


 真桜は、力を限界まで振り絞って、地面に爪を強くひっかいた――


「――やああっ!!」


 くつから足を引き出し、片方ソックスがむき出しの状態で、トロフィーモンスターから離れることに成功。


「なっ!?」


 トロフィーモンスターは驚きの声を出し、そして――


「とま――」


 止まれ――と命令しようとした。


 真桜は、耳に入ってくる命令言葉を遮断しゃだんするために、教室内の机を両手でぶん投げる。


 ――ガシャアアンッッ!!


 机が周囲の机とぶつかり、そのぶつかった机がまた隣の机とぶつかり――と、ドミノ倒しのように激しい衝突音が連続して響く。

 その衝突音が真桜の聴覚を独占どくせんし、トロフィーモンスターの命令を聞かずに足を動かすことができた。


小賢こざかしい……っ!」


 トロフィーモンスターは、2年B組の壁を拳で破壊し始める。

 壁のヒビが、蜘蛛くも状に広がっていった。


 ――い、急がないとっ!


 彼女は、4番ロッカーの鍵穴かぎあな解錠かいじょうキーを差し込んだ。


 ガチャリ。


 ロッカーを開ける。


「こ、これは……?」


 ロッカーの中には、1個の石が入っていた。

 飴玉あめだま程度の大きさの、球状の『石』である。

 しかし、その石は普通の石とは違かった。


「ピンク色に、光っている……?」


 まるで、石が生きているかのように。


 明るいピンク色になったり、暗いピンク色になったり、と一定周期で明滅めいめつしている。

 真桜はその石を手に取り、そして――


「――っ!」


 少女はその時その場所から、日常が大きく変化する――。

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