第010話 敵の戦略「魔法少女と同じ戦法で戦いましょう」
魔法少女と悪者の戦闘場所と化した廊下にて――。
混沌ズリーダーが、レアムの放った言葉を反復していた。
「魔法少女と、同じ戦法で戦う……?」
「はい、そうです」
「…………」
リーダーは、視線を魔法少女へ向ける。目を瞑り戦闘に挑むという、人間離れしたスキルを用いて戦う青髪の少女……。
「――私、目で見たものしか信じないタイプなのよね」
「それは知りませんが……」
「というかです」と、レアムは続けた。
「そもそも、真似るのは視覚を封じた戦い方ではなくてですね」
「何だか安心したわ」
「リーダー――異能の力を使って、大音量の破壊音を立ててください」
「大音量の破壊音……?」
「ええ。それは、魔法少女がトロフィーモンスターの対抗策として、大音量の破壊音を立てたのと同じようにです」
「…………」
リーダーは、首を縦に振った。
「分かったわ」
そして、カラス形の真っ黒な異能弾を形成する。
その異能弾を――
「――カラスの幻影!」
廊下の床に向けて、撃ち放った。
――ドガアアァンッッ!!!!
飛び散る、いくつもの床の破片。
上から鉄球を落下させたかのような、重厚感のある轟音だった。
異能弾と衝突した部分は、粉々になっている。
「その音を休めることなく、発し続けてください」
「や、休めることなくっ!? アンタもだいぶ鬼畜なことを言うわね……! 異能力を使用するのはかなり疲れるって、レアムなら知っているでしょ!」
「まあ、そうですね。策を実行するにしても、こちらが先に力尽きては話になりませんか……。では、トロフィーモンスター」
「――何でしょうか?」
「そのたくましく大きな手で、学校を破壊し続けてください」
「了解しました」
トロフィモンスターは、ホワイトボードと黒ペンを、まるで手品のように消滅させ、バランスボールほどの大きさを誇る、純金のグーの手でガラスを破壊した。
――パリイイィンッ!!!!
コンクリート壁を、サンドバックをパンチするかの如く、殴り破壊した。
――ガガアアァンッッ!!!!
天井にも、拳の一撃を加えた。
――ドゴオオォンッッ!!!!
まるで、暴れる無邪気な子供のようだった。
形あるものを壊して、壊して、壊しつくす。
結果――周囲は破壊音だけに満たされた。
正確に言えば、だ。
周囲の物音や雑音等は、破壊音によってかき消されていた。
リーダーはレアムに近づき、大きな声で聞く。
「こんなに周りをうるさくして、レアムはいったい、何を狙っているのよ?」
「至極単純な話です。魔法少女の聴覚を占領したいんですよ」
「魔法少女の聴覚を占領……?」
「はい」
「…………」
リーダーは数秒黙り、そして笑みを浮かべた。
「なるほど、そういうことね。理解したわ」
「そうです。魔法少女は、視覚を封じている代わりに、聴覚を利用して戦っています。つまり、その聴覚を混乱させれば良いのです」
「奴は、音の情報を頼りに目の前の光景を頭の中で想像している……」
「その目の前の光景を脳内で形作るために必要な音情報は、足音や呼吸音、音量など。逆手を取れば、それらの音情報がうるさい音で上書きされてしまえば――」
「――目の前の光景をまともに想像できない、ということね……!」
「ふふっ、その通りです」
レアムの策は、魔法少女に有効であった。
水穂は――厄介だ――と、焦りの感情が芽生える。
――破壊音が響いて、それ以外の音が全く聞き取れない。このままだと、戦うことさえ困難……。
ジッと、目を閉じて突っ立っていても、勝ち目は無い。
だったら……。
――視覚を使うしかない……。
しかし、視覚を解放してしまえば、トロフィーモンスターの文章形式の命令文を脳が認識できてしまう危険性がある。命令文を認識できてしまうと、水穂はトロフィーモンスターの指示に、大人しく従う結末を辿ってしまうだろう。だから、目は開けたくなかったのだが……。
聴覚を封じられたのだから、仕方がない。
――僅かだけ、目を開ける……。視界をあえてぼやけさせて、文字の読み取りが困難になるくらいに……。
だったらまだ、低リスクで視覚情報を得られる。
視界が、ピントのズレたカメラのようにぼやけるため、不利なのに変わりはないが、まだマシな状態で戦闘に臨めるはずだ。
水穂は、うっすらと視覚を解放した。
映ったものは――トロフィーモンスターの拳であった。
それも――すぐ近く。
「――っ!」
思わず目を全開させ、青色の剣を――右手は柄、左手は剣心を握る。盾代わりとして、斜線状に構えた。
そして、両足を肩幅まで広げ、
――ガンッ!!
拳と青の剣が衝突。
水穂は――
「……うっ」
何とかトロフィーモンスターのパンチを受け止めたものの、押され気味。
ぐいぐいと、トロフィーモンスターの拳が、硬いボタンを押し込むかのように、魔法少女の剣を押し込んでいく。
「……っ! 強い……っ」
手袋に包まれた両手の甲が、水穂の身体にくっつくまでに、追い込まれた。
そして――
「くらいなさい――カラスの幻影!!」
混沌ズリーダーの放つカラス形の異能弾が、再び水穂へ接近していた――。