第001話 悪者3人組、襲来!!
「私がお金を盗むのにはね。深い深い――それは地獄の底よりも遥かに深い理由があるのよ」
「その深い理由とは?」
「――職に就きたくないからよ」
「盃の底よりも浅い理由ですね」
時刻は16時40分。
とある中学校の、職員室前の廊下。
そこに、3人の女が存在していた。
7月、夏の熱気が漂う通路から、クーラーの冷気で満たされているであろう職員室内を、三人は見つめている。
外からは、部活に勤しむ中学生徒たちの掛け声が響き渡っていた。
3人組のリーダーの女――赤色に染まる長髪、中央部の前髪のみ口元まで伸ばしている、20代前半の見た目をした彼女は、後ろにしゃがみ込む2人の仲間に告げた。
「他人の労働対価を横取りするわよ!」
2人は、返事をした。
「了解だよ!」
「もう行きます?」
リーダー格の女は、口を開けた。
「ええ! 強盗開始よ!」
リーダー女は、右手を職員室扉へ向けてかざし、手の先から、カラスのシルエットをなぞった黒い謎物体を生成した。
その謎物体を、職員室扉に目掛けて、
「カラスの幻影!」
弓矢を放つかの如く、発射させる。
瞬間――、
――ドカンッッ!!
職員室の扉が破壊され、一室に穴ができる。
赤髪の女は、室内の教員たちに向かって、再び生成したカラス形の黒物体を見せつけた。
そして、言葉を発する。
「身の危険とお金、どちらを選ぶかしら?」
「――だ、誰だっ!?」
「――強盗っ!?」
「――あ、あの黒い物体は何なんだ……!?」
先ほど扉を破壊したであろう未知の物体を目にし、怯え慌てる教員たち。
教頭先生が、震える声を発した。
「お、お前たちは誰だ?」
「私たちは、金品と自由と他人の不幸をこよなく愛する悪のチーム――混沌ズよ!」
「こ、混沌ズだと……っ!?」
「そうよ」
「お笑い芸人のコンビ名……?」
「違うわっ!!」
怒りむき出しに、カラス形の物体を教頭先生に向ける彼女。
彼は「ひいいぃぃ」と、両手を上げた。
「か、金ならいくらでも持っていって良い……! た、ただし、人に危害を加えることだけは……っ」
「話が分かれば良いわ。生徒にも、牙を向けられる可能性があるものね。大人しくするしか無いのも、頷けるわ」
「せ、生徒っ!?」
「もちろん。渡せる物を渡せば、人を傷つけるような真似はしないわ。私――良い女だから」
「良い女……?」
「今――どこが良い女だよ? って思ったでしょ!!」
「ひ、ひいいいぃぃぃ! そ、そんなことは無い! こ、これ……っ! これは、俺の財布だ! 金は全部奪って構わない!」
「まあ、金を貰えればそれで良いわよ。ふふふっ。どうせへそくりでも隠し持っていたんでしょ」
「それは人の薬指を確認してから言ってくれ……!」
「あら。なんか、ごめんなさいね」
強盗の割には、何だか申し訳なさそうな様子で財布からお金を抜き取るという、よく分からない状況となった女。
しかし、態度はすぐに元に戻る。
「他も同じよ! この、おばさん限定でしか発動しないモテ期を3回送ってしまった男と同様に、財布を机の上に出しなさい! 私たちが有効活用してあげるわ!」
とんでもない呼び名で呼ばれた教頭先生のように、他の教員たちも大人しくお金を混沌ズに差し出す。
3人は、金品を回収していった。
「しっかし、コーヒーの香りがすごく漂っているわね……。あの電子ポットのお湯で、本格派コーヒーを嗜んでいると? それとも、校則のせいでコーヒーを持ち込めない生徒に対して、見せつけているのかしら? これが社会の階級制度だぞと」
そんな言葉をつぶやくリーダーに向かって、見た目が子供のように幼い、黒髪セミロングヘアの小柄な少女――混沌ズのメンバーの1人が声をかけた。
「金ピカのトロフィーがある……!」
「おう! じゃんじゃん奪え!」
「私、チャンピオン……? これが目に入らぬか! って言ったら、みんなが頭を垂れるかな……?」
「――どこぞの黄門様か」
金のトロフィーを手に持つ小柄少女。
混沌ズの3人目――高校制服を着用する茶髪のミディアムヘアの少女は、金銭の入った布袋をサンタクロースのように肩にかけながら、リーダーに報告した。
「一通り、全員分の金品は回収完了しました。撤収しますか?」
「そうね。目的は果たせたから、大人しく撤収するわよ!」
混沌ズは、職員室から出た。
――瞬間。
学校の放送スピーカーから、女性教員の声が響き渡った。
『校内にいる生徒の皆さん、注意してください! 混沌ズと名乗る犯罪集団が、校内にいます! 今すぐに、学校から離れてください! 変な芸名ですが、たいへん危険です!』
「――芸名じゃねえわっ!!」
廊下を走りながら、ツッコミを入れるリーダー。
「やっぱり、混沌ズってチーム名は、変更するべきじゃ……」
「センスゼロですよね」
「裏切りっ!?」
「ただの意見です」
そんな会話を繰り広げながら、長い通路を駆け続ける3人。
そんな3人に声をかける、中学生徒がいた。
「――また、あなた達?」
少女の声だった。
混沌ズの走る道に突如として現れた、可憐な少女。
青色の、肩位置までサラッと伸びた髪。
顔の整った、童顔美少女。
黒色の紐タイプカチューシャの片端には、青薔薇の装飾がつけられている。
非常に優れた見た目をしている。しかし、最も特徴的だったのは、その身に纏う服装であった。
「――ま、魔法少女!?」
混沌ズのリーダーが放った言葉通り。
その中学生徒は、魔法少女なのだった。
青を基調とした魔法少女衣装に身を包んでいる。
手袋をはめ、肩を露わにする引き締まった上半身の黒い服、ひし形に切り取られた箇所からは、おへそが覗いている。
首元には青のリボンが飾られており、彼女の可憐さを一層引き立てていた。
下半身は、丈の短い青色のプリーツスカートを履いており、スカートの両サイド部分には、スリットが入っている。そのスリットの切り込み間は、結ばれた靴紐のように、白紐で複数のクロス状に繋がれていた。
スカートから伸びる美脚の先には、黒ソックスと青ブーツが身につけられている。
そんな魔法少女が、悪の集団――『混沌ズ』の前に立ちはだかる。
混沌ズのリーダーは、顔を険しくした。
「今度こそは、あの魔法少女を倒して、捕獲してやる……っ!」
後ろの2人も、戦闘態勢に入る。
「――魔法には、強力な異能で対抗よ!」
「了解!」
「分かりました」
魔法少女は、言った。
「あなた達の、好きにはさせない」