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そらつばMIX  作者: manaka
デストラクション
23/34

救出―1

 御門達が体育倉庫を視界に入れたとき、グラウンドの中ほどを歩くスーツ姿と玄関先にどっかり座る海藤を同時に確認した。

 海藤はゆっくり立ち上がり双方に向かって軽く手をあげ、その視線を捉えたスーツ姿、エドワードが振り向いて会釈した。


 ほどなくして玄関で合流。


「おめかしだな」


「勝手に同期しやがる」


「素材が良いから大丈夫」


「自分で言っちゃうんだ」


 海藤と宮代は動き易くて破れても気にならない類いの服装だが、御門と翼はスポーティだけど可愛さも忘れない的なパステルカラーのセットで下はスカートである。

 御門は学校指定のジャージだった筈だが、気が付いたら翼とお揃いになっていた。


(闘い)の恥は掻き捨てと思えばどうという事ない。……と思う事にした」


「出発すらしてないけどな」


「三度着替えたがこうなった」


 どうにもならないと御門が項垂れる。出発前から心が折れている様だ。


「でも翼ちゃんは似合ってるだろ?」


「翼だから似合うんだ」


「鏡を見てこい。瓜二つだぞ」


 海藤が励ましにもならない励ましを口にして玄関を開け、一緒に入った御門が全員のスリッパを用意した。


 翼と宮代が自分の靴を揃えながら言葉を交わす。


「お姉ちゃんはどうして嫌なのかなぁ」


「気兼ねなく暴れたいからに決まってるでしょ」


 呆れたように返す宮代に、翼は自分の服を摘んで見せた。


「これだってそうよ?」


 御門の服は翼と同じ物ばかりだが、わざわざ買ったのではなく干渉によって変換された物だ。


 靴を脱ぐエドワードを横目で捉えながら、宮代は遠回しな指摘をした。


「翼のファッションセンスは悪く無いわ。ただ……ほら、スカートしか無いじゃない」


 同時に肘で軽くつつき、わかるでしょ、と加えた。


 しかし翼の顔には『理解不能』の文字が刻まれている。


「ちょっとくらい見られたって平気よ。お姉ちゃんだってその筈だけど?」


「う~ん、それは空ちゃんからも聞いてるけど、あれで中身を選ぶのに苦労してるみたいなのよね。体育がある日用とそれ以外と」


 宮代は階段を上がりながら前を行く男達と距離を開けつつ目で合図を繰り返した。


 しかし。


「何の話?」


 肝心な所で鈍さを発揮する翼に業を煮やすと、踊り場で立ち止まって身を寄せ、小声で叱咤する。


「下着に決まってるでしょ! 側に男がいるんだから察しなさい!」


 その目を大きく開いているのは「わたしは怒っています」と心境を表しているのだろう。

 ようやく翼にも雰囲気が伝わり小声で宮代に返した。


「わ、わるかったわ。でも気にしないってさっき言ったで……」


 それでも言い訳するその口を立てた指で押さえて、宮代が聞いた。


「あんた、お子様アニメ好きでしょ」


「……いいじゃない別に。見た目年齢は咲と同じでも心は現役小学生だもん」


「実年齢は幾つなのよ」


「十二」


「そうじゃなくて。魔族としての」


「うん。一応だけど魔族歴十二。たまたまだけど人間歴も十二」


(え。それって……じゃあ、あたしらの時間で百四十四才!?「えっと~~想像以上にお歳を召していらっしゃるみたいで驚き方が分からないと申しま――はうっ」


 宮代は叫びかけたのをぐっと堪えて場当たり的に言葉を紡ぐと、翼に脇腹を小突かれた。


「変な言葉遣いやめてよ」


「んんっ、……まあ。あたしもどうしたらいいのか分かんないから助かるけれど。その歳でなんで見た目も頭の中もロリっ子なのよ。魔力でどうにかしてるの?」


「翼さーん、宮代さーん、皆さんお待ちですよー」


 執務室前でエドワードが二人を呼び、翼が歩きだす。


「ああ、これね。時空間魔法を習得すると魔力量に応じて年齢が逆行しちゃうみたいで。あたし、量だけなら魔界トップなの」


 制御面はまだまだ他のテスラに敵わないんだよね、と呟きながら階段を登って行く。


「……やっぱりあんた、めっちゃ凄い子なんじゃない」


 宮代は呆然と見送り、立ち尽くしていた。


「あれ。咲?」


「あ、うん」


 翼に呼ばれて階段を駆け上がった宮代は、妙に子供っぽく見える原因を理解したと同時に、学園で育った者独自の「私が育てたい病」を発症していた。





 エドワードが執務室の扉を押さえ、一歩中では海藤が待っていた。


「急かして済まんな。続きは帰ってから堪能してくれ」


「こっちこそ待たせてごめんねー。……あ、そだ。海ちゃん、帰ったら空ちゃんの姉を募集してみない? 中等部みたいに同居も視野に入れて」


「だめーー! おね――もごっ」


「この騒いでるのはあたしが何とかするからさ、空ちゃん自身も何かと不便があると思うし」


 バタバタと暴れる翼を器用に抱え込んで提案する。


「中等部育ちって外部には理解出来ない母性――姉性しせいって名付けたらいいのかな? そんな欲があるけど、継承の連鎖は一個飛びだから偶数系と奇数系が出来ちゃってるの。それはそれで味わいがあって良いけれど不満の声もあるのよね。だからさ、高等部では認可制で一年違いの妹を持てる制度を始めたら外部受験生や寮生が増えると思わない? んで、空ちゃんが試験的一期生」


「死亡と生存のフラグか。いいだろう、俺の一存で受領した。それで思い出したんだが、昨日の質問を空――御門にしてみたか?」


 ああ、あれね。宮代も思い出した。もちろん好き嫌いなど聞いていないし未確定の噂を流すのは嫌いだ。だから。


「すっごく大切に想ってるのは伝わってきたわね」


 嘘は言わなかった。

 海藤は眉を寄せて心底嫌そうな顔をする。もちろん演技であり、財閥に関わる上での必要スキルだ。


「聞かなかった事にしたいんだが」


「冷静ね。ちぇ。つまんないの」


「あのー……そろそろ……」


 エドワードが遠慮がちに割って入り、会議室を指し示す。


「お、そうだな。行こうか」


 海藤が促す様に道を開け、宮代が翼を解放する。


「――ぷはっ、ちょっと咲! そんな制度あたしは認めないからね!」


「これは空ちゃんのためなの。あんたはあたしが育ててあげるわよ、そしたら提案の意味がわかるからそれまで我慢なさいな」


 いきなり食ってかかる翼をあしらう宮代は既に姉モードである。それをどう捉えたのか翼は頭に血を昇らせて顔が朱に染まった、その時――


「年相応の下着を選ばせてあげたいという話ですよね?」


 エドワードが口を挟んだ。


 一瞬の硬直の後、


――パーーーン!!


 室内に豪快な破裂音が響き、会議室から飛び出した御門が駆けつけた。


「なんだ今の音――……痛そうだな、エド」


 頬を押えてうずくまるエドワードを宮代が一瞥する。


「セクハラ発言するからよ。行きましょ、そらつば」


 御門と翼の腕を取った宮代は、他の全てを無視して会議室へと歩き、キョトンと見上げるエドワードと目が合った海藤は、両手のひらを上に向けて肩を竦めた。




 その少し前、宮代が翼を追って階段を昇り始めた頃の会議室では、


「対象の人物と面識が無いゆえな、耳掻き一杯の砂程度までは絞り込んだが……近しい特徴の者が多く難航しておる。何か個人とゆかりのある物は無いか?」


 到着した御門にフィリップがそう訊ねていた。


「ある」


 御門は鍵を取り出してキーホルダーを示した。


「持ち歩いているかは不明だが、これと対になる物を彼女が所持している。俺の主観だが強い想いが込められているはずだ」


 ひと目見ただけでフィリップが頷く。


「相当強いな、すぐに反応があったぞ。お主らの寮からもここからも距離がある。ゆっくり移動しておるな……歩きか。場所は地下の様だな。揃い次第で飛ばせるが、全員送れば良いのか?」


 御門は頷き、だが横にも振った。


「その前に翼の制限を解除して欲しい。可能な限り戦力を充実したい」


 冷静に話してはいるが表情に焦りが浮かんでいる。すぐにでも移動したいのであろう事は誰の目にも明らかであった。


「三段階のうち二つまで解除した。戦力云々ならお主の師匠達も呼ぶか?」


「お父様の事も少し話しました。事後承諾で申し訳ないですが」


 フィリップは「達」と言った。となれば御門の父――太陽も含まれるが、フィリップと面識がある事は秘されている。そのため口を滑らせた魔界人を睨んで山吹がフォローした。

 そうとは知らず御門は首を振る。


「いや、それは出来ない。この体で使う震混術しんごんじゅつは魔力が上乗せされるらしくてな、本来不可能な物理的崩壊を体験したよ。攻撃力で師匠を超えた俺は前戦担当、海藤と山吹が遊撃、師匠達は不測の事態に備えて貰う事で話が着いている。制限解除は同行する子と救出する予定の子、そして翼自身を確実に守るためだ」


 フィリップは満足そうに頷いた。


「ふむ、翼達が良い影響を受けたのはこの優しさか。確かに将来が楽しみよの」


「何の話だ?」


「なに、そこの山吹が褒めておったのでな」


 いきなり振られて山吹が目を丸くする。


 フィリップはニヤニヤ笑い、御門に言った。


「お主は様々な恩恵に囲まれておるが、それに胡座をかかぬ姿勢が好ましいという話だ。今後も精進致せ」


 御門は山吹を見た。


「毒でも盛ったのか?」


 山吹が肩を竦める。


「まさか。茶菓子すら出してないのに?」


「………それはそれで問題だぞ。出してやれよ」


「プロテインは置いてないので」


 思わず噴出しそうになった御門の耳に、強烈な破裂音が届いた。


 考えるより先に体が動き、執務室へ飛び込んで目撃したのは、うずくまるエドワードを怒りの感情も顕に見下ろす宮代の姿と怯える翼、肩を震わせる海藤であった。




 大河が立ち止まったタイミングに合わせて転送で飛ぶ事になったのだが、苛立ちの収まらない宮代に気を遣ったのか、エドワードはフィリップと共に離れた場所にて記録を取り、戦闘になったら証拠を押えるために現場へ移動すると言った。


 大河の元へ飛ぶのは、特別生徒会に宮代を加えた五人となった。

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