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そらつばMIX  作者: manaka
イエローメモリー
21/34

10日目―6

 翠川の声音に含まれた情愛。

 千もの日夜を憧れて過ごした大河は聞き逃せなかった。

 翠川は視線をさ迷わせて観念したように溜め息を吐いた。


「……ふう、割り切った筈なのに駄目ですね。本当は宮代さんの顔を見に来たんです。あの子は、私が姉になるはずでした」


 ダシにしてごめんなさいと御門に謝り、大河にも恐かったよね、ごめんねと謝っている。


 御門達は、翼を除いて大河に姉が居ない事と翠川に妹が居ない事を知っている。だが公にされていない。だから言う訳にもいかない。

 本来なら姉妹として過ごせたはずの二人に何のフォローも出来ず、歯痒くとも口をつぐむしかなかった。

 そして大河は。


「それじゃ……片桐先輩って……どうしよ、あたしさっき酷いことを……あ、謝らないと、あの、片桐先輩のお家って……」


「あ、大河さんっ、それはまだ…………て、遅いですよね?」


 まさか犯人の名を言うと思ってなかった翠川は遮るのが遅れ、大河連れ去り未遂は生徒会副会長の仕業と発覚した。

 そして、片桐が宮代の姉であるという事も。関係を知っているらしい大河が愚図る訳である。

 御門達は案を出し合ったが寮の絡むものは却下せざるを得ず、最終手段として今日は翠川に預けて、明日の昼過ぎにもう一度集まる事にした。






「どう確認したものだろうな」


 寮の近くまで来て御門が零す。


 肩に海藤の手が置かれる。


「変わってやりたいのは山々だけどな、俺達が相手では宮代も構えるだろ。なまじ親しくなっただけに辛いだろうが任せた。こっちも何か解り次第連絡する」


 山吹も同様に手を置いた。


「片桐さんの周囲に魔法陣なんて言葉が出ましたからね。エドワードかフィリップを呼ぶので機材を揃えて執務室へ行きます」


 御門は二人に頷いて見せた。


 あのあと大河がポツリポツリと語った内容。

 拾った手帳に描かれた魔方陣らしき模様、落とし主らしい片桐の豹変、宮代のために片桐を心配していることなど、断片的ではあるが聞き出せた。

 翠川の手前驚いたり疑ったりと不要な演技を強いられる事となったが、肝心の手帳が持ち去られていたので誤魔化すのは容易だったが、御門達にとっては大きな懸念である。


「副会長なら教頭と密になるかもしれん。どう転がるか解らんが警戒はしてくれ」


 二人同時に御門の肩をポンと叩き、それを応えとして男子寮へ向かう。


「翼、最初の切っ掛けは俺から話すが後は任せる。要所で片桐さんへの話題を作るからなるべく大河さんから離れない会話を心掛けてくれ」


「オッケー、任せて」


 快活に返す翼を促して、御門は女子寮の門をくぐった。


 玄関横では宮代が部屋着のまま花壇の世話をしていた。足音に気付いたのだろう、笑顔で手を振り出迎える。


「そらつばおかえりー。もー説教の途中で出てっちゃうし、湊から遅くなるってメール来てるし、こんな広い寮でいきなり一人にされると寂しいのなんの。今お花とコントやってた所だよ。何処行ってたん?」


 世話を続けながら話す宮代の笑顔はどの花にも負けず名前の通り咲き誇っている。それを曇らせたくない御門は平静を装って切り出した。


「その大河さんだが、公園で逢ったよ。今日は外泊する事になったらしい」


「へ? そうなの? あー……それでイエローリボンね。じゃあ、返事は貰えたんだ。翼、気付いたでしょ。何処に着いてた? まさか第三じゃないよね?」


 第三と聞いて、御門の手で自分のボタンにぶら下げられたキーホルダーを連想した翼は少し慌てた。


「ど、どこにも着いてなかったわよ? ここに入ってた」


 左胸を指してそう答えると、宮代はキョトンとして。


「え? 左胸のポケット?」


「うん。そう」


 それを聞いて宮代は大急ぎで手を洗い、首にかけたタオルで拭くと、二人の間に割り込んで肩を組んだ。


「さーて。お姉さまの様子から聞かせて貰うわよ。それ次第で気楽にも深刻にもなるから」


 そんな事を言った。


 



 剣呑な雰囲気を醸す宮代の前で、御門と翼はソファに居ながら正座している気分だった。

 ローテーブルに優雅な所作で紅茶が置かれる。


「どうぞ」


「あ、はい」


「いただきます」


 御門と翼はそれどころじゃないと思いながらも逆らえず、紅茶に口をつける。


「お姉さまは無礼な行為には厳しいからね。湊は躾と言う名の折檻を受けたはず。問題はその後ね。湊が正常な判断下せない状態でお姉さまが側に居ないのなら危険サインなんだけど」


 宮代はジロッと二人を睨んで、


「魔族やら魔法やら絡んでんじゃないでしょうね。状況次第では翼の力をフルに使って貰うわよ?」


 いきなり核心を突いてきた。


 だったら何故こんなに落ち着いているのか。いや、それよりも。


「待て、待ってくれ。俺たちは混乱している。どうして片桐さんだと分かったんだ。大河さんから聞いていたのか?」


「翼。リボンの話は?」


 宮代がジト目で見る。男に話すなよという意味だと捉えた翼は首をブンブンと振って紅茶を少し溢した。宮代はティッシュボックスを手渡す。


「あそ。空ちゃん?」


「女子の符牒か? 詮索しないと約束する」


「オッケー。湊はとある詮索無用なサインを着けて出掛けた。だからあたしは知らなかったけど、返事の作法がお姉さまとあたしだけの特殊なもので、あたしに伝わる前提の物だから外泊は有り得ない。以上。んで? 湊は何処に行ったのよ」


 御門は頷いて。


「君が敵ではない確証が欲しい」


 直球ど真ん中な返事をした。

 宮代の眉が吊り上がる。


「あたしを疑うの? 秘密を共有してるし裸も見せ合った仲じゃない」


「妹に俺を手篭めにしろと吹き込む女の何を信じろと」


「言葉のアヤでしょ? それより人間性を見なさいよ」


「翼の胸をオブラートに包む価値すら無いと罵倒する人間性なら良く覚えてる」


「二人ともあたしへの飛び火は罷めてよ? 湊ならそこそこのお金持ちに預けてあるわ。ちなみに女性」


「オッケー翼。でもそれだけじゃダメよ。女にとってこの世で一番信用出来ないのは同年代の女よ」


「語るに墜ちたな。君こそ片桐さんを無条件で信用する理由は何だ?」


「むう。確かにらちが開かないわね」


 紅茶を優雅にグイッと飲む所作を見せて宮代は二人を見据えた。


「あんた達だから話すけど、お姉さまは学園所縁の人なの。公にはされてないけどね」


「本当か?」


 御門が驚いた。

 あらゆる資料を読んだが、その様な記述は無かった。


「嘘吐いて何の得があるのよ。あたしは翼を除いた三人を似た様な立場だと見てるけど? お姉さまの場合は学園長の身内と血縁関係にあるわ。聖鳳学園って名前からピンと来ない?」


「………すまん、鳳凰を現している事以外は勉強不足だ」


「じゃ、余計な疑念を持たないよう、これで覚えて。鳳凰って『徳や知の高い人が生まれた時に現れる瑞獣ずいじゅう』なの。そして鳳凰が唯一止まるのが梧桐アオギリの木。学園長の帰化や学園創立に片桐家が大きく関わってて結婚もしたみたいね。学園長は片桐家も見守っている学園を、聖なる鳳凰が止まり木で見てますよ、て意味で名付けたそうよ」


「む? ……まさか、片桐瑞貴、桐と瑞獣と貴い人…から付けた?」


 御門は視線を上に向けて考え込んでいた。


 正解を導き出した愛弟子を慈しむ様な眼差しで、宮代が「便宜上そのまま話すけど、翼が解ればいいから空ちゃんは忘れてね」と念押しして語る。


「それを知ったのは、あたしが疑念のイエローリボンを着けた時。ときどき難しい顔で夜中に出掛けてたから、犯罪にでも関わってるんじゃないかって思い切って聞いたの。そしたら御実家の事業が乗っ取りの危機に遭ってる話だけ教えてくれた。その時の約束がブローチチェーンに込められてるの。学園章のある左胸に着けるのは忠誠だけど、そのポケットに仕舞うのは学園所縁の者として忠誠を秘めているって意味。見た目にはどうであれ、決して間違った事はしていないってね。わかった? 湊が貰った返事は、あたしにとっても忘れられないサインだしお姉さまの大きな決意なの」


 誇らしげである。

 ひたむきに信じる者の目と絆。実のところ、御門は宮代の内面を知って、今では信用も信頼もしている。

 答えを出す為に欠けた物、魔族との関わりを確認した。


「じゃあ、学園長に反発する様な事は無いんだな?」


 遠回しな質問に、宮代は不機嫌な顔で直球を返してきた。


「ハッキリ聞きなさいよ。教頭が乗っ取り工作をしてる事くらい知ってるわ。学園は片桐家の傘下も同然、お姉さまが教頭に与する理由も意味も無いでしょ」


 正論である。


 御門は腑に落ちない事を聞いてみた。


「宮代。教頭と接触した生徒を掴んでいるか?」


「確定していない事は言わない主義よ。お姉さまがそれで苦労してるからさ、適当な噂を流す無責任な奴等と一緒になりたくないの」


 答えた宮代の真意に気付き、御門は質問を変える。


「……片桐さんが嫌ってる人物を教えてくれ」


「教頭と翠川よ」


 御門の目が丸くなった。


「ちょっとバスケット確認してくる」


「頼む。寮母さんの体調に変化が無いかも診てくれ」


「ん!」


 翼が駆けて行き、タタキでスリッパを履き替えると消えた。他所でもやらなければいいが。


 大河から聞いた話は翠川によって後半部分だけでも正確性が証明され、それを信じるなら片桐との接触についても嘘は無いと考えられた。


 手帳の性質を知っていたはずの片桐は大河の手に戻らない事を確信して持ち去っている。翠川が大河に興味を持たないよう自分に引き付ける意味もあったのではないか。


 考えてみれば翠川がタクシーを止めたタイミングも場所も降りたタイミングすらも都合が良過ぎた。そして大河の悲しみを知る御門だからこそ気付かなければならなかった事。



 寮長であった翠川が大河の不運を知らない筈は無い。



 学園に在籍していれば入院中でも姉妹になれたのに手を差し延べていないのだ。


「宮代が一年の時、中等部生徒会長は翠川だったな。何か理由があったんじゃないか?」


 答えが導きだされての確認である。表情は堅い。宮代はその意図を正確に読んでいた。


「良く知っていたわね。本当はお姉さまが会長になる筈だったけど、御実家の都合を理由に辞退したの。寮長の美談は知ってる? ――なら話が早いわ。あたしは高等部で有利になるための箔付けとみてる。それで妹が一人あぶれてる筈だし酷い話よ。……傷付いていなければいいけど」


 最後がか細くなった宮代は、自分が姉を奪ったとでも思っていそうな表情だった。大河も彼女も被害者なのだ。


 御門の口から、ぎりっ、と歯の軋む音がもれる。


(美談に利用し、その後は多忙を理由としたか。有り得るな)


「お姉ちゃん!!」


 そこに翼が戻ってきた。


「何も細工は無かったけど! 電話は1回しか受けてないって!」


 ちっ、と舌打ちをした御門が翼に問う。


「魔力を使って対象を監視する事は可能なのか?」


「簡単だけどあたしに気付かれずにってのは無理ね。双眼鏡の方が確実よ」


 たったそれだけのやり取りだが、側に居た人物は察しが良過ぎた。御門が立ち上がろうとしたのを見て。


「タダ聞きは駄目よ。あたしも連れて行きなさい」


 御門は宮代の強い目が、危険など承知の上だと、片桐が関わっているであろう事も察していると伝えてきた。放置したら何をするか解らないと判断した御門は宮代に向き直って携帯を取り出した。


「いいだろう、概要を山吹に知らせる。片桐の事情は宮代から説明してくれ」

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