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そらつばMIX  作者: manaka
イエローメモリー
17/34

10日目―2

編集ミスって途中抜けてたーーーーー!!!

てことで修正。アップです。

「対立や戦争ばかりしてたら偉い人だっていっぱい死んじゃうでしょ」


「……何で天使なんて呼称で分けてるのよ」


「商売の仕方が若干違うからね。あたしもそこが引っ掛かってたのかなー。サタン商事を選んだのは時間が掛かっても真面目にコツコツ頑張る方針が性に合ってるからだもん」


「真面目に? コツコツ? ちょっと待って、そもそも魔族してて会社組織が成り立つお仕事って何なのよ」


「そのままでは爆発する高純度エネルギーを添加剤投入やエマルジョン化で安定させて特殊加工を施すと得られる資源の販売事業。強いよ? この業界」


「いや業界って言われても分かんないんだけど」


 翼の目がキョロキョロと動いて、ピタリと宮代を捉える。にへら。


「どーせクビだしいっか。例えるなら探査チームと採掘権を持ってるのが会社。あたしは一人プラットフォーム」


「ええっ!? 石油事業に例えられるって事なら……あぁそう、そういうことね。うーーーん……感情が糧とか魂が対価なんてのが良くあるお話なのに」


「魔界はドルエっていう共通通貨があるよ。てか通貨とか単位とか知らないと人間の欲なんて理解出来ないと思わない?」


 こてんと頭を倒した翼の目を見たまま、宮代が唸る。


「むーーーー……確かにそうね。何かがこう、ガラガラと崩れてるけど。あたしの中で」


 でしょうね、と笑って翼は逡巡し「仲が悪いのはさー」と前置きして口を開く。


「ミカエルグループってアイテム化された術を契約者に与えるという利便性が特徴なんだけど、行使に足りない感情エネルギーは後で請求されるのよね。毎月リボ払いで」


「えっと。その手法が成り立ってるなら、ほんとは足りないけど使える仕様なんだよね? 魔界の一ヶ月は人間界の一年だっけ。スッキリしちゃった人が一年で強い感情を貯められるものなの?」


「無理。サタン商事は並の術でも溜まるまで何年も準備するって言えば分かる?」


「理解した。サタン商事は現金払い、ミカエルグループはリボ払い。新築パーティーに呼んでクシャッとしたらお家は無くなるけど、ミカエルグループはクレジット残債が残るのね」


「しかも同じ契約内ですぐにまた建てられるんだよ? それで、延滞二回で不幸の連鎖が始まるの。そうなったら魂が擦りきれるまで負の感情を搾り取られるんだよね。武闘術からの派生陣に『聖なる火矢』なんて超強力なのがあるけど、必要な感情エネルギーが魔界基準で最低三年分よ? そんなの溜められっこないからリボ払いでも手を出すんでしょうけど、あたしは嫌いだな。リピートが見込めないもん」


「ええ? リピート? そこなの?」


「対価に善悪は無いでしょ?」


 膝の上に頭を倒し、くりっとした大きな目で見つめる。


「何だか悪徳企業の争いに思えてきた」


 ショックを表現した宮代の感想に翼は小さく笑った。


「誰かの望みを叶えて対価を得る立場なら善悪の感情は切り離さないと」


「翼って達観してる所があるとは思ってたけど、そういう事なのね。感情とかの想念をいまいち嫌ってる感じなのも」


「だって現実って残酷だもん。ほら、天使だの悪魔だのって羽が描かれるけどさ、飛べるのはそこにエネルギーの力場があるからなの。筋力で羽を動かすには全然足りない体格だし飛べるわけ無いじゃない。そんな非科学的な設定を信じるなんて感情を制御出来ていない証拠でしょ」


「いやいやいや、あんたの存在が充分科学に反してるから。翼は魔界の人なんでしょ?」


 間髪入れぬ宮代の指摘と指先を受けた翼は、


「………世の中そんなものよ」


 ぷいっと横を向く。


 宮代は笑いながら翼の頭を掴んだ。


「こら、こっち向きなさい。何拗ねてんの。夢を盛大に破壊されて傷ついたあたしの立場はどうなるっての」


「言ってて悲しくなってきた」


 翼は手を払いのけて強固に抵抗し、完全に背中を向けてしまった。


 変な所で意地になった宮代は後ろから抵抗者の頬を掴み――その感触に驚いて手を引く。


 指が濡れていた。


「あれ……翼? あなた泣いてるの?」


「泣いてない。あたしはエリート魔族だもの、こんな事で泣く筈がないでしょ」


「何者かなんて涙に関係ないじゃない。こんな事ってなによ」


 しばしの沈黙。


 吐息と共に翼の肩がしゅっと小さく下がり、ポツリと言った。


「忘れてたの」


 宮代が反応する間も無く、翼の言葉が続いた。


「あたし、何もかも片付いたら魔界に帰らなきゃいけないんだった」


「つば……さ……」


「もう帰る所なんて……無いのに……ね」


 何と声を掛けたらいいのか解らず翼を背後から抱き抱えた宮代は、本心をそのまま告げた。


「い、居ればいいじゃない。ずっとこっちに。ね? あたし達と一緒に居ればいいじゃない。いつかいい人見付けて、一緒に年を重ねて、それでもずっと友達でいようよ。あたし達と一緒に生きて行こうよ!」


 叫びになったのは、二度と会えないのだと直感したからである。


 翼は淡々とした声で返した。


「駄目よ。たぶん許して貰えない。契約遂行以外で人間界に留まるのは違反だから」


「じゃあ、その契約を延長するとか、その、サボるとか」


「もう実行してるの。だから今のあたし達がいる。あたしは、お姉ちゃんを元に戻すために制限解除を待ってるの。最長で三年、最短なら即日。それが……別れになるの」


 宮代は言葉を失っていた。


 翼が小さく震えている。


「咲……」


「……なに?」


「どうしたのかな、あたし」


 もぞ、と翼が動いて咲の方を向く。


「ここが………苦しいよ」


 胸を抑えて震える翼を、宮代は強く抱きしめた。


 翼は、大粒の涙をこぼしていた。





 大河は公園中央の広場に着いて時計塔を見上げた。片桐が場所の指定をしなかったので、待ち合わせ場所として知られているここに来た。約束の時間まで余裕がある。


 視線を池に移して胸のポケットに手を当てる。そこには宮代にお守りと称されたキーホルダーが入っていた。何か御利益がある訳ではない。持っていると落ち着くのである。

 一度は想いと一緒に捨てたのだがその場で返された。

 夢とも現実ともつかぬその時の事を、大河は池を眺めながら思い返していた。



 中等部三年生になる前日の夕方、大河は暗い顔で池の前に立っていた。

 たまたまそこに居合わせたらしい少年が運動の前後なのか体をほぐしているだけで、他に人影は無い。


 コートのポケットから手を出して開いた。


 乗っているのは、黄色いマスコットのキーホルダーが二つ。


 お揃いで持つ相手の幸せを願って作ったそれが、今の大河を苦しめている。


 背後からの風が足音を運び、大河は振り向いた。先程の少年が近寄ってくる。


 およそ二十センチの身長差に威圧を感じて大河は身を縮めたのだが、少年は一瞥しただけで側を通り抜け、池の柵に足を掛けてストレッチを始めた。敵意や不穏な空気は感じない。擦れ違い様に受けた視線のせいだろうか。

 澄んだ夜空の如く深みを湛えた目に、大河は不思議な安堵を覚えていた。


 少年は時折こちらを見ている様である。


(もしかしたら飛び込むと思われてるのかな?)


 心配を掛けるつもりは無いのだが、落ち込んだ気持ちを誤魔化す事など出来ない。おそらく危なっかしく見えているのだろう。

 見ず知らずの他人が気に掛けてくれるのは有りがたいのだが、今は近くに居られると都合が悪かった。


 大河は自らの想いをキーホルダーごと捨てるつもりで来たのである。


 吹き抜ける風の冷たさに耐えて様子を窺っていたのだが、少年は立ち去る気配を見せない。


(ま、いっか。怒られたらその時ね)


 大河は目を瞑り、キーホルダーを胸の前で握り締めてから、腕を大きく振って池に向かって投げた。


 想いの全てを捨てた瞬間である。水音が聞こえたら走り去る。


(…なな……はち……きゅう……じゅ……あれー?)


 十数えても聞こえない。


 ゆっくり目を開けると、正面に先程の少年が立っていた。自身が手にした物をぶら下げる様に持って眺めている。


 それは今投げ捨てた、黄色いマスコットだった。


 何故そこにあるのかとは考えなかった。


「どうして………」


 呟きは聞こえたはずである。だが少年は見向きもしない。


 大河は想いを捨てる覚悟さえも邪魔された、その怒りを言葉に乗せた。


「どうして邪魔するの! どうして! みんな……もう、ばかぁ!」


 少年が大河を見る。


 その瞳は、責めもせず咎めもせず、ただ、真っ直ぐに見つめていた。


 いつの間にか涙を溢れさせていた大河は崩れる様にしゃがみ、やがて大声で泣き始めた。


 赤の他人の前で号泣する事を恥じ、しゃくりあげる体を呪い何度も涙を拭う。春先の風が吹き抜けてコートの存在を嘲笑う様に熱を奪われ、震える体を抱きしめて尚も泣き続けた。


 どれだけ泣いていたのか解らない。


 感情を開放して少しだけ楽になると、見ず知らずの相手を罵倒した事が恥かしくなり、謝らなければと顔をあげた。


 しかし、既に少年は居ない。


「……そっか……そう、だよね」


 傍目にはゴミを捨てて罵倒して大泣きしだした怪しい少女だ。誰もが関わりを持ちたくないと判断するだろう。


 時計塔で時間を確認する。


 夕食まで間があった。


「帰るの……やだな」


 本音を漏らして寮のある方角を見る。すぐ隣に少年が座っていた。


「きゃあああああ!」


 思わず上げた悲鳴にも少年は動じる気配が無い。キーホルダーを手にぶら下げたまま無言で目線だけよこし、また前を向く。


 そこに居るだけで目を惹かれる不思議な雰囲気に呑まれた大河であったが、我に返り先ほどの非礼を詫びなければと声をかける。


「あ、あの、さっきは――」


 言葉は突き出された掌と低く澄んだ声に止められた。


「気にするな。落ち着いたら寮の近くまで送ってやる」


 それっきり少年は黙り込む。何を話し掛けても時折視線を送ってくるだけであった。


 帰る事を躊躇っていた大河は時をやり過ごすために話し続け、気付けば愚痴をこぼし全てを話し終えた時、また泣いていた。


 キーホルダーに込めた想いを知った少年は、鍵を取り出して一つをそれに付けて、


「捨てるなら勝手に貰うが、二つあると少々重い。半分助ける気は無いか?」


 そう言ってもう一つを差し出した。


 大河は黙って受け取り、じっと見る。


 きっと見かねて取った行動だ。


 そう理解していても、何物にも代えがたい「大切な何か」を手に入れた気がした。


 大河の視界が歪む。


 先程とは違う、暖かな感情が溢れ出て止められず。


 また、泣いた。



 約束通り少年は寮の側まで送ってくれた。


 その別れ際。


「高等部に上がっても悲しみを引き摺るならいつでも来い。愚痴くらいは聞いてやれる」


 そう告げて立ち去った。


 名前を聞いてないと背中に声を掛けたが、振り向いて返された言葉は聞こえず、それを運び去った風の冷たさに身を震わせて気付いた。


 少年が隣に居たのは、この冷たい風から守ってくれていたのだと。



 服の上からキーホルダーを握り締めている事に気付いて微笑む。


 出来事の現実性を示すのはキーホルダーのみであった。


 最近の大河は、もしかしたら一つは想いと一緒に捨ててしまったのではないかと考えている。あまりの辛さに都合の良い夢を作ったのかもしれないと。


 現実だったと信じたい。だが、顔も声も良く覚えている少年が、高等部に居ないのだ。


 都合の良い夢を疑ったのは、瓜二つの雰囲気を持つ人物がクラスメイトにいるからである。


 中等部三年生の始めに転校してきたらしい少女の活躍を、悲しみに包まれて過ごしていた大河は良く覚えていない。しかし強く輝く印象だけは残っていて、その輝きに憧れて具現化させた少年を夢に見た――それが事実なのではないか、と。


 事の真偽は自分にも分からない。ただ、少年の言葉を切っ掛けに悲しみの淵から遠ざかる事が出来たのも事実である。


「あは、あの続きの夢を見るなんて。いつか逢える気がするのはメルヘン病かな?」


 大河は自嘲気味の独り言で自身を諌めた。


 馬鹿な事をと思いながらもそうせずには居られないほど、存在しない少年の実在を、大河は確信しているのだった。





 同じ頃、寮の二〇七号室では御門が目を覚ましていた。体を起こして隣を見るのは習慣になっている。


 翼は居ない。


 時計のオルゴールが小さく響き、十時になった事を告げた。


 ほんの一年前なのに懐かしく感じる夢を見た御門は、自身の体を確認して溜め息を吐く。


「近いだけに良く見える。何とかしてやりたいが……今の俺では説得力が無いからな」


 見えるとは、悲しみの再発である。


 おそらく大河はまだ気付いていないが、原因は御門と翼にあると思われた。

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