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そらつばMIX  作者: manaka
第二章 サプライズパーティー
14/34

9日目―3

 フィリップはスーツの前がはだけるのも構わず胸を張った。


「誰しも譲れぬ物があろう。今回はサポートで来ておるのでな、でしゃばるつもりは無い故あのままでも良かったのだが、降りて来いだの服を着ろだの煩い事を抜かしたのはそなただ。感謝されこそすれ文句を言われる筋合いなど無いぞ」


 御門は持て余し気味の感情が不快な昂ぶりを見せているのだろう、額を押さえている。


 山吹が同情の声を掛けた。


「空さん、ペースに呑まれて話がややこしくなるから、その辺にした方がいいですよ」


 御門の眉がピクリと動く。


「そういえば連絡を取ったって言ってたわね。あんたでも駄目?」


「ええ。少しでも私的な事に触れると筋肉談義が始まりますし、そうなると止めるのに苦労します。罵倒すら心地良いようですよ。試しに『この筋肉馬鹿が』と言ってみたところ、満面の笑みで、部分ごとにどれだけの時間を掛けたのか愛情たっぷりに語られました」


 どこか楽しそうな山吹に御門は呆れた声を返した。


「それじゃただの馬鹿じゃない」


「あの晩の事を思い出して下さい。ついでに現状も。干渉してくれたのは彼です。馬鹿でも恩人ですよ?」


「くっ……やっかいな奴に借りを作ったのかもしれないわね。とりあえず無視しましょ」


「それが賢明だと思います」


 そう結論付けた所でフィリップが手を上げる。


「他人をそしるなら本人が居ない時を選べば人間関係に波風が立たぬぞ」


「じゃあ、あなた達は外れるわね」


「む? ああ言えばこう言うとはこの事か。斯様に可愛げが無いと嫁の貰い手が無いのではないかな?」


「あたしが怒る事を期待してるのなら残念ね。挑発なんて乗ってあげない」


 御門は「むう」と唸るフィリップを無視して床に落ちていた名刺を拾った。



――砂炭商事 事業監督部 江戸環努――



「すなすみ商事……えど……かん……じゃないわね。――ああ、もう、何て読むの? これ」


 時に人名は、まるで他人を嘲笑うかの様に読みと字面が異なる。


 名刺を見てそれに近い物だと直感した御門が苛立ちを募らせながら聞くと、男は怯えながらも笑顔で答えた。


「サタン商事のエドワードです」


「普通にカタカナで書きなさい!」


 ほぼ同時に殴り飛ばされたエドワードを海藤と山吹が支え元の位置に戻す。

 エドワードはガタガタ震えながら御門とフィリップを見比べた。


「局長、安全なのでは……」


「安全保障と言っても厳密には命の事でな。故にこれは対象外だ」


「い、痛いじゃないですか」


「うむ。生きていればそうであろう」


 満足そうな笑顔で頷いたフィリップはそれ以上動く気配を見せない。


 怯えるエドワードに御門が語りかける。


 その笑顔は明らかに質が違った。


「ごめんねぇ。この体になってから感情表現が得意になっちゃったみたいなの。色々な意味で人間が中途半端に出来てるからさ――」


「ほう、半魔が上手いことを言う」


「あんたは黙ってて」


 フィリップを睨んで黙らせ、御門はエドワードに向き直る。


「――喧嘩をふっかけるつもりじゃ無いなら、さっさと用件に入ってくれる?」


「す、すみません」


 エドワードは姿勢を正して内ポケットから封書を取り出すと震える手で机の上に置いた。


「ここに書かれていますが口頭でもお伝えしますので御確認下さい」


 翼が拾い上げ、中身を確認する。


 その目が驚愕を表現した。


「ちょっ……どういう事? これじゃまるで……」


 詰め寄る翼を制して御門が目で促し、エドワードは一つ咳をして内容を語った。


「では、サタン商事で決定された内容をお伝えします。


 一、今回の違法契約については、ミスト=テスラ=スタンダール(以下ミストと呼称)の独断によるものであり、当社は一切の関与を否定する。


 二、違法契約成立時を持って当社を離反、依頼を放棄したものと見做し、これを解雇する。


 三、ミストが依頼を放棄した事によって、我社が得られた筈の多大な利益を失した事は明白であり、ミストの全財産を没収して相殺する。


 四、三には人間界で使用中の「媒体」を含み、この書面が届き次第提出を求める。


 五、「媒体」回収に応じない場合は懸賞金を掛けた実力行使も已む無しとする。


 六、三ヶ月間の魔力制限期間を終了しても、当社は未来永劫ミストを雇用しない。


 ………以上です」


 御門が眉をひそめて海藤を見る。

 海藤は呆気に取られた視線を山吹へと繋ぎ、二人の意思を代弁するかの様に山吹が訊ねた。


「随分強引ですね。媒体とやらを空さんから取り出すには解約手続きを要しますが翼さんは処罰期間中で大きな魔力を使えない……この現状を元の所属機関が知らないはずはありません。今すぐ寄こせという要求に応じるのであれば空さん殺害か魔界への拉致が条件ですから依頼の履行命令に該当します。しかし違法契約を依頼放棄と見做して解雇したのですから既に翼さんに対して命令出来る立場に無いでしょう。契約成立と同時に翼さんの媒体となった空さんをどうこうする事は出来ないと思いますが」


 山吹の解釈に頷いて同意を示すと、エドワードはフィリップを見た。


「局長、本当にいいんですね?」


「魔界での責任は私が持つ。提案してみるがいい」


 その言葉を受けてエドワードは御門達を見回す。


「仰るとおりこれは矛盾した決定であり、事業監督部としては見過ごす事の出来ない内容です。我々は以前から上層部に問題を抱えていると認識していますが介入したくとも証拠無しではままなりません。そこであなた方に迷惑が掛かるのを承知で申し上げます。媒体回収に応じないで下さい。当然、何らかの形で襲撃があると思われますが、その際我々の懸念する動きが何処かに見られる筈です。私はそれを証拠として押えたい。しかし人間界で事が起きても私には感知する術がありません。ですから襲撃――何等かの予兆でも結構です、変化があれば私を呼んで下さい。勿論、お礼をしますし現時点での情報提供も出来ます」


 魔族から協力を要請されるなど考えてもみなかった御門達は懸案事項について詳細説明を求めたのだが、エドワードは職務上語れないと謝罪し、代替情報として御門を狙う人物を明かすと約束した。


 フィリップに確認すると、信憑性を保障しただけでなく働き如何で翼の魔力制限量緩和と期間短縮措置に便宜を図ると付け加えた。


 御門は付加価値に反応する。


「期間が短くなるだけでも大助かりよ。どれくらいまで短縮出来るの?」


 フィリップは少し考え、そして提案した。


「ふむ、問題の大きさが不確定でな、ランク分けしておこう。サタン商事のみで対処出来る内容であれば竹で一ヶ月、他社に累が及ぶ物を解決すれば梅として二ヶ月、魔族社会に影響を与える事案なら松、三ヶ月の短縮としよう。つまり重大な事案を解決すれば処分期間は即時終了。これでどうかね? ちなみに人間界で誤解されがち故に付け加えるが、魔界の住人は人間に対して嘘を吐くことを禁じられておる。例えそれが口約束であっても」


「信用しろって事ね。まぁいいわ。それを証明するために教えて頂戴。あたし達の命は保障されていないのだから代替措置を考えてあるんでしょ?」


「察しがいいな。ならば余分な説明はすまい。襲撃が発覚した時点でミストの魔力制限は自動解除される。ただし、事が片付くまでの一時的な措置故そのつもりでな」


 念押しを向けられた翼は視線を合わせて頷いた。しかしその顔は何か言いたそうであり、表情は何処と無くぼやけた印象である。


「む? どうしたミスト。何か不満でもあるのか?」


 問われて翼はパタパタと手を振った。


「ううん、ないない。ボーっとしてたのはお姉ちゃんの事だから……」


 その目が御門を捉え、首がゆっくり傾けられる。


「……お姉ちゃん、何で女の子してるの?」


 単純な言葉で示した疑問。


『――範囲は、契約の事実を知らない人が、情報を吸収しようとする環境。だけど、魔族に関わりのある人しか居ないのなら影響は受けない――』


 人間三人は一瞬の忘我に陥った直後に回復し、


「まさか!」


 山吹の叫びと同時に動いた。


 御門が窓に飛び付いてグラウンドに目を走らせ、海藤も反対側の窓から監視する。


「グラウンドもその向こうも人影はないわ」


「こっちもクリアだ」


 山吹は止めていたチェックプロセスを進め、Enterキーを押した。


 数秒後、建物の間取りと光点が表示され、ウィンドウ内の隅に数字の羅列が二つ並ぶ。


 山吹の声は珍しく苦渋に満ちていた。


「やられましたねぇ。盗聴器とカメラです。電波強度は弱、窓を閉じたらグラウンドの端まで届きません。障害物に弱い周波数帯なので外塀の外では受信困難。これだけ弱いと床の厚みも大きな障害になるので傍受は建物の周囲に限られ、設置場所と発信機の選択から工事関係者は除外出来てしまいます。つまり――手伝いをして下さった中の誰か。建物の外に生体反応、概略の大きさは特定出来ていますが皆さん似たような体格なので意味無し。リアルタイムで受信中と思われます」


「そういえば口調が変わったのはエドワードが入って来た時だったな。外向けの言葉だろうと気にも留めなかったが、あの辺から聞かれてたって事か」


 海藤が苦々しく言い、御門が翼を見る。


「あたしは普通に話してたんだけどタイミングが悪かった訳ね――翼」


「駄目よ」


 翼の返事が異常に早い。何を言おうとしたのか察していたようである。


「……まだ何も言ってないんだけど」


「言わなくても解るわよ。記憶操作でしょ? 今使える程度の魔力で掛けられる術は限られてるし中途半端な事をしたら事実と記憶の相違が大きくなって本人の精神が耐えられないわ」


「ほう。ミスト、いや、翼。そなたは良い変わり方をした様だな。以前なら対象の心配などしなかったはずだが」


 横から口を挟んだフィリップに、御門は口元で指を立てる。


 口を閉じて動作を真似たフィリップに頷くと、御門は見えない誰かに語りかけた。


「誰かわからないけど聞いて。あなたが知った事は全て事実よ――」


 その声はとても優しく、静かであった。

うっかり先出ししちゃった部分を修正してます。

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