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そらつばMIX  作者: manaka
第二章 サプライズパーティー
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2日目―4

 三田村がマイクを手に生徒達へ呼びかける。


『各生徒会主導で進められた今回の秘め事にお付き合い下さった事に感謝します。お陰で最高のサプライズを敢行する事が出来ました』


 歓声が湧き起こった。


 知らなかったのは御門達だけだったというわけである。


『では、もう一つのサプライズ、任命式に移ります。――御門空さん』


「!? は、はい!」


 呼ばれて御門が一歩前に出た。


 三田村はマイクを片手に役職と概要を語る。


『貴女の実績を鑑みて、当学園の特別生徒会会長職に任命します。三田村の直轄組織として学園内の統治整備等、ご協力をお願いします』


 口元からマイクを外し、小声で続けた。


「購買棟の権利が御門財閥から当学園に移譲されるまで、運営管理に携わって頂きます。利息を盛り込まない代わりにとお父様から提示された条件でもあります」


 御門は驚いた。


 格安の利息と当面の運営を引き受ける案で改装について煮詰めている最中、父が「最終責任者は大人に頼むものだ」と契約の進行を預かると言い、御門の条件を全て盛り込んだとの報告は受けていた。お遊びと取られても仕方無い条件を呑んだ父の思惑を量りかねていたが、息子に経験を積ませるという将来の実を選択していたとは。


「謹んで、御受け致します」


 御門は身の周り全てへの感謝を込めて、頭を下げた。


 ピンバッチを手にした三田村が一歩近付き、襟にでも付けるのかと思いきや、そのまま手に渡された。


「好きな所に付けなさい。宜しく頼みますよ」


 自由意志を尊重する学園長らしい言葉である。

 三田村の斜め後ろに控えていた翼が進み出て少し照れながら花束を渡す。

 その光景を見守りながら山吹が呟いた。


「……記念すべき日に空さんの訃報が届けば効果は絶大。干渉がどの程度影響しているのか不明なので要注意ですね」


 海藤は、隅で無表情を装っている教頭を横目で見て頷いた。


 歓声の中で花束を受け取った御門も同じ事を考えていた。くだらない逆怨みのせいで目の前の大切な存在を滅する所だったのだ。許すつもりなど無い。物理的排除も視野に入れて関係者等を暴いて見せる。そう決意していた。


 翼の眉がピクンと跳ねた。


 御門の感情が伝わってきたのである。自分への庇護と教頭に向けた強い排除の意思。

 嬉しさで胸が満たされていく反面、融合の影響で感情の制御が難しくなりつつある御門が心配にもなった。


(嬉しいけど。無茶したら嫌だよ?)


 そんな想いを込めて御門を見つめるが気付く様子は無く、後で言うかと諦めたところでふと視界の端をよぎった光が気になり視線を向ける。


(……あれ? あんなのあったっけ?)


 生徒全員、金のブローチを右胸に着け、大きく垂らしたチェーンで胸元のリボンと繋げている。一緒に来た寮生二人もだ。という事は正装用のアクセサリーだろう。だが御門からは何も聞いていない、と考えて思い当たる。


(そか、元は女子校だもんね。干渉前のお姉ちゃんだと習慣には無かったんだ。――ん? 干渉前と言えば)


 この行事が予定されていたものなら、干渉前の花束贈呈役は誰だったのだろうと内心で首を傾げた。



 続きで、海藤と山吹の二人は会長補佐の職を要請された。更に驚かされたのは、翼も経理の役職を要請された事である。花束贈呈役でステージに上げたのは、そのサプライズのためだと学園長が言った。


 思わぬ出来事に有頂天となる翼を御門が小声でたしなめ、勤まるのかと訊ねたところ、


「何よぉ、あたしはエリートだって言ったでしょ。要するに数字管理じゃない。魔術はね、お姉ちゃん達の世界で言う錬金術に相当するの。知識と計算と実践、それを極めたあたしにとって何の障害もないわ。不安ならそうね、山吹さんと同レベルと見て。まぁ、あの人も人類のレベルを遥かに超越してるから解り難いかもしれないけど」


 この様な予想を遥かに上回る言葉が返ってきた。


 式典の締めに代表としてスピーチを求められた御門は、即興にも関わらず好感度の高い挨拶文を組み上げて淀みなく語り、聴衆から感嘆の溜め息が零れている。


 盛大な喝采を浴びながら深く頭を下げ、向きを変えて一瞬の躊躇いを見せてから他の三人が立つ位置まで戻ると、翼は満面の笑みで、海藤と山吹が微妙な笑顔で迎えた。


 翠川の仕切で閉会の手順が進む中、山吹が先陣を切って周囲に聞こえない声が交わされる。


「鳥肌が立つ様なスピーチでした」


 海藤が続く。


「俺は眩暈がした。1番のサプライズだ」


「あたしのお姉ちゃんだもん、当然でしょ?」


「夕べの今で考えると信じがたい程馴染んでるな、こっちは」


「そうですか? 元々傲慢な所のある子でしたから僕は違和感が無いですよ?」


「二人とも? 翼が興奮するから挑発しないで「ちょっとおねー「お黙りなさい」


 山吹と海藤がくつくつと笑いを漏らす。


「それですよ。いや実に」


「だよな。化けた。そして鈍い」


 御門は文章を組み立てる事に気を取られて二人に説明する間もなくマイクに向かった。そして、毅然としながらもどこか愛らしい雰囲気の「女子として完璧なスピーチ」を披露したのだ。


 お互い声音で相手の気分が読み取れる付き合いである。


「ごめん、後で説明するから今はそっとしておいて」


 案内係の少女が近付いたとき、海藤はステージ裏へ出して欲しいと懇願し、様子を察した翠川の判断で許可され、海藤も山吹も珍しく感情を爆発させる姿を人前で見せずに済んだ。


 彼らが笑ったもう一つの理由に御門は気付いていなかった。


 それは賞状に記された言葉から見て取れる。


 御門の所属学年は一年生に変更されていた。





 四人が退場した式典会場は、大学部を除いた総員によって後片付けが進められ、一時間程経過した頃には大半の撤収が終わって業者が用意した骨組みだけとなり、手持ち無沙汰の生徒もチラホラ見かけられた。


 大河もその一人である。


 彼女は、最後に解体する予定となっている御門の写真を見上げていた。


「みーなーとっ」


「きゃあ!」


 耳元で囁かれて飛び上がった大河が横を見ると、宮代が向日葵の様な笑顔で立っていた。


 式典中はカメラを抱えて走り回っていた彼女も今は手ぶらである。


「どうしたの? ボーっとしちゃって」


「び、びっくりした~。もう、脅かさないでよ」


「呼びかけても反応なかったからさ、何してもいいかなぁって。てへ」


「あは、あたしも使おうかなぁ~。空ちゃんの台詞」


「ごめん、素でやられると結構きついから勘弁して。それで? 空の写真を見て何を考え込んでたの?」


 余程「可愛くない」が効いたのか、宮代は半ば強引に話題を戻した。


 大河は考え込むときの癖を見せる。


「う~ん……上手く言えないんだけど、この写真って、男らしい雰囲気があるよね。実際は女の子だし不思議だなぁって」


「そう? あたしには可愛らしいさと力強さの印象しかないけど」


「それもあるんだけど、でも違うって言うか。ん~……なんだろう?」


(んーーーー。この子の勘ってバカに出来ないのよねーーー)


 大河の訴える違和感が気になり、宮代も改めて写真を見上げた。


「そこの高等部一年寮生の二人! ボサっとしてないで手伝いなさい!」


「ひっ!」


 反応は宮代の方が早かった。


 見れば御門の写真の下にはいつの間にか人が集まっていて、引き倒す作業の準備を進めていた。


 叱咤の声は解体指揮を執る生徒会副会長の片桐瑞貴かたぎりみずきだ。腰まで届きそうなポニーテールと百七十センチ近い長身が人目を惹き、ゆりんゆりんな噂や妄想の餌食になり易い才女で、生徒会権限で勉強に絡めた報復をする事でも有名である。


「やばっ副会長だよ。目を付けられると面倒だから急ご」


 実は最も報復を受けているのが新聞部の宮代で、既に目を付けられているからほぼ名指しで注意されたのだが、宮代にその自覚は無い。


「え? 片桐先輩って規則には厳しいけど優しい人だよ?」


「きっと仮面よ、それ。あたしにはメチャクチャ厳しいもん。ほら、湊も走って」


 宮代に手を引っ張られながら走る大河は、もう一度御門の写真を見上げる。


(やっぱり……なんか男の子みたい)


 看板を倒して分割、手分けして運搬する。最後の一枚とあって作業人数も多く、十分少々で全ての作業が終了していた。

 大河は看板を横たえていた地面をぼんやり眺めている。

 視線の先を誰かが横切って焦点が甦り、その偶然が落ちていた物を発見させた。


 深い緑色の手帳。


 拾い上げて周囲を確認しても探し物をしている様子の者は見当たらない。


(誰のかな。届けてあげなきゃ)


 持ち主の手掛かりを求めて外から順番に見ていったが、何処にも名前やそれに該当する情報は無く、手帳を開いてみた。そこにはファンタジーストーリーで目にする様な魔法陣らしき模様が書かれていた。ページをめくるとデザインを変えた同様の図。それが全部で六ページ。


(ネタ帳って言うのかな、これ)


 宮代なら殆どの部に顔が利くため、預ければ落とし主の手に帰るだろうと判断した大河はポケットに入れ、その瞬間に手帳の存在を忘れた。

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