表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/42

7 遊泳禁止を守ろう 前

 しばらくラミアモドキの死骸を見つめた後、オレは気持ちを切り替えて動き始める。


 「……と言っても、情報を得られそうな物はほとんどなさそうなんだけどな」


 ラミアモドキの身体に纏わり付いている破れた服を探ってみた。

 何もない。

 身分証明書でも入っていたら良かったんだけどな。服自体もどこにでもありそうなものだし……。

 と言っても、服はどこかの制服の様に見えるし、この近辺で制服が必要で女性が働くような施設と言えば一つしかないからすぐに身元は分かると思う。


 「さて、どうするかな」


 一番の問題は、目の前の死骸だ。


 まだオープンもしていないホテルの近くの山沿いの遊歩道。

 誰も近付く者はいないだろう。

 このまま死骸を放置しても、しばらくは発見されないはずだ。たぶん。


 「うちの方で処理をさせても良いんだが……結局しばらく放置になるのは同じだよな」


 すでに仕事に入っていたら、依頼主に連絡すれば終わっただろう。

 オレの車に降ってきた異形の怪物の死骸を処理をしていたくらいだ。むしろ証拠が増えたと喜ばれるかもしれない。

 だが、オレはまだ依頼主にすら会ってない。

 連絡先も分からない。

 自分のスマホには依頼主に直通の連絡先が入っていたんだが、ぶっ壊れて手元にないので分からなくなってしまった。


 ホテルに連絡したら取り次いでくれるだろうか?

 適当なことをして、取り次ぐ途中でもし事情を知らない人間に知られたらパニックになって大事になりそうだしなぁ。


 「…………うん、このまま放置で依頼主に会った時に伝えよう」


 とりあえず、写真だけは取っておこう。ホテルで借りた端末で撮れるみたいだし、説明する時に必要になる。

 写真を見せて説明だけすれば、死骸も回収してくれるだろうしそれで十分だろう。

 こんな山の中、簡単には無関係な人間に見つからないよな。


 オレは死骸を残して立ち去ることを決めた。

 近くに湖があるからそこに放り込んで無かったことにしようかと思ったが、バレた時が面倒そうでやめた。


 ただ、このまま放置は気がとがめるので、遊歩道から外れた場所に引き込んで上に適当な木の葉や草をかけて隠しておく。

 

 そこまでして、オレにラミアモドキをけしかけた黒幕がいるかもしれないと考えていたことに思い至った。

 オレが依頼主に連絡するより、そちらの方で回収されるのが先かもしれないな。

 それならそれで、かまわない。

 オレに不都合は無い。


 「とりあえず、飯だな」


 隠し終わって、オレは呟いた。

 散策は中止だ。

 ウロウロしてまた面倒事に巻き込まれたくない。


 そして来た道を戻ろうとして、ふと気が付いた。


 オレ、血だらけじゃね?


 血まみれまではいかないけど、血だらけだ。

 ラミアモドキの胸を踏みつぶしたことで、足元から血が飛び散って全身が汚れている。

 せっかく死骸を隠したのに、このままホテルに帰ったら大騒ぎになる。


 自分もケガをしてたら山道でコケたとか言い訳できるかもしれないが、オレは無傷だ。怪しすぎる。

 山道でエンカウントしたイノシシと格闘したことにでもするか?

 いや、それはそれで怪しいか。


 「どこかで洗うしかないな」


 そう思ったが、近くに水道などあるはずがない。


 「川でも近くにあれば……」


 そこまで考えて、オレは近くに巨大な水溜まりがあることを思い出した。


 えっと、ダム湖って立ち入り禁止かな?でも露骨にダムでできた湖と普通の水深が増えただけの川との区別ってどこでしてるんだ?

 ダムから何キロ以内は立ち入り禁止とかになってるんだろうか?それともダムから上流は全部立ち入り禁止とか?基準が分からん。

 ダムの方が危険なのはアレだろ?水の出口が近いから吸い込まれた死ぬから危ないってことだろ?ならば離れた場所なら問題ないはずだ。


 オレはとりあえず、湖の方へ行ってみることにした。


 今は森に囲まれているが、水の匂いですぐ傍に湖があるのは分かってる。というか、ついさっきまで湖畔を歩いていたんだから、すぐ傍だ。


 少し歩くだけで視界が開けて湖に行き当たった。

 湖は当然ながら山に沿って歪な形をしている。運よくオレがいる場所は山影でダムの管理施設から見えにくい場所らしい。

 そもそも、ダムにいる人たちはダムの管理が仕事でダム湖の監視ばっかりしてるわけじゃないだろう。


 ……ちょっとくらい良いよな?


 オレは目の前の水の誘惑に負けて、水辺に降りやすそうな場所を探した。

 適当に飛び込めば良いかと思ったりもしたが、それだと上がってくる時が大変そうだしな。

 

 ダムで水が塞き止められることによって水面が増しているのだから、湖畔は元々山肌だ。降りやすそうな場所などほとんどない。

 水が増減するためか、切り立ったようになっているところも多い。


 オレは周囲を見渡し、なんとか服を汚さずに湖畔に降りられそうな場所を発見した。


 ……これは後で知ったことなのだが、もう少し上流に行けばキャンプ場と、増水時以外は湖に入って水遊びができる整備された浜もあったらしい。パンフレットには載ってなかったが、それはオープンに認可が間に合わなかったからだった。

 そこは安全区域がしっかりと線引きされており、カヌー遊びもできるとか。

 レジャーホテルを作るのだから、そういう場所を作るのは当然だよなと思った。


 だが、今のオレはそんなことを知っている訳はなく、生えている木などを手掛かりにして斜面を下りたのだった。


 湖面ギリギリに丁度いい感じの大岩が迫り出していたので、そこで一息つく。

 岩の上にハーフパンツのポケットの中身を全部出して置いた。


 どこで誰に見られているか分からないから、さすがに全裸は止めておいた方が良いだろう。せめて陽が落ちてからじゃないとな。

 それに服の返り血も洗い流したいので着たまま泳ぐしかない。

 サンダルも洗いたいので、そのまま。

 泳ぎにくいが、オレはちょっと泳ぎには自信があるんだ。問題ない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ