6 女性には優しくする 後
オレの提案に、頭上の奴が動いた。
太めの木の枝から、垂れ下がる様にそれは姿を現した。
その姿を見て、オレは一瞬だけ息を呑んだ。
「ラミア……だっけか?」
ゲームで見たことがある。
上半身が人間で下半身が蛇の怪物だ。
日本では蛇女?でも日本の蛇女は蛇そのものに変身するから違う気がする。安珍清姫だっけ?
ゲームのイラストなんかだとラミアの上半身は美女なんだが……。あーー何と言って良いのか、乳房があるので女性らしいのだが、全身どころか顔にも鱗が生えた、とても色気なんて感じられないものだった。
ラミアモドキと言ったところか。
オレはラミアモドキを見つめ、わずかに眉を寄せた。
嫌なことに気付いたからだ。
ラミアモドキは、申し訳程度に人間の衣類を身に付けていた。
「クソっ」
ボロボロに破けたブラウス。
腕と背には紺色のジャケットだったらしい、ぼろ布がまとわりついている。
元々はどこかの従業員の制服のように見えた。
無理やり服を着て破れたというよりは、着ていた服が身体の変化で内側から裂けた様だ。
オレの頭に嫌な考えが過る。少しだけ、戸惑いの感情が浮かんだ。
オレの変化を感じ取ったのか、ラミアモドキは大きく避けた口を開き、オレに向かってシャーと威嚇して見せた。
長い髪が、不気味に垂れ下がった。
「こいよ」
不愉快だ。
オレは無理やりに頭を切り替える。
余計なことは考えたくない。
今は、目の前の相手を殺してあげよう……。
オレは自分の白い前髪を掻き上げる。
その間もラミアモドキからは目を離さない。ラミアモドキは視線を感じ続けることで攻めあぐねているらしく、オレを恨めしそうに睨みつけていた。
風が吹く。
オレは少しだけ身を後ろに下がらせる。
風切り音と共に、鼻先を何かが通過していった。
「当たらねーよ」
通過していったのは、ラミアモドキの尾。
長く伸びた尾を鞭のように使って、オレを攻撃したのだ。
蛇は尾で攻撃しない。
長さがあるから鞭のように使うとか、人間の発想だろう。
それがオレの嫌な考えを補強する。
シュンと、また風切り音が響く。
オレは右手を前に突き出すと、打ち付けられた尾を受けた。
「痛ってぇ!」
丸太で殴られたような衝撃。
常人なら腕どころか身体ごと弾き飛ばされ、骨がボキボキに折れていることだろう。
だが、オレはしっかりと受け止めていた。
オレはそのまま両手で尾を掴み、一気に引っ張る。
木の上ってのが面倒だったんだよな。少なくとも、今のオレには。
手繰る様に尾を引き、ラミアモドキを木から引きずり下ろす。
普通の蛇なら長い身体を木に巻き付けて耐えるところなんだろうが、ラミアモドキはそういったことを知らないかのようにあっさりと地上に叩きつけられた。
その蛇の胴体を、オレは踏みつける。
「終わらしてやるよ」
オレはニヤリと微笑む。
オレの犬歯は肉食獣の様に大きめだ。仰向けに倒れているラミアモドキはその犬歯を目にしたのか、縦長の瞳を恐怖に震えさせた。
ひゅう……と、ラミアモドキの喉が恐怖に鳴った。
バケモノを見るような目で見るなよ……。
オレはさらに笑みを強める。
嫌な気分を上書きするように。
気付けば、クスクスと小さな笑い声が口から洩れていた。
ラミアモドキは必死に腕を動かして背中を地面に擦りつけながら後ずさりをしていた。
まあ、オレが長い蛇の胴体を踏みつけているから、ほとんど動くことはできなかったのだが。
オレは踏みつけている足を一瞬だけ上げ、蛇の尾を引っ張って位置をずらして、再び踏み下ろす。
ラミアモドキの胸へ。
骨の折れる音、肉の潰れる感触。
しまった、サンダルで踏むんじゃなかったと思った時には、ラミアモドキは絶命していた。
周囲に飛び散る温かい血。それがオレの全身を汚している。
あっさりしたもんだ。
死は、何者にも訪れる……はずだ……。
オレは苦い物を喉の奥に感じながら、しばらくその死骸を見つめた。