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5 女性には優しくする 前

 オレはシャワーを浴びてから周囲の散策に出かけた。


 ホテルの真ん前は巨大な湖。

 湖岸には車道が走り、それに沿うように遊歩道も整備されていた。


 オレは、その遊歩道をゆっくりと歩いていた。

 

 ホント、ホテル以外何もない場所だな。

 視界に入る範囲で人工物はホテルと湖沿いにある道路とダムの管理棟くらいだ。

 周囲の観光名所も滝や釣りができる清流、古くからある山寺なんかしかない。


 逆に何でこんな場所にリゾートホテルを作ろうと思ったんだろうな?

 都会の喧騒に疲れた人たちは自然たっぷりの場所に行きたくなるから、そういう層を狙ったんだろうか?


 一応、ホテルのオーナーは地元出身だという話もホテルのパンフレットに書いてあったので、故郷の活性化の為とかだろうか?

 その故郷も、今は湖の底に沈んでしまっているらしいけど。

 

 今、オレが周囲を散策している黒峰湖は、ダム湖だ。


 昭和の時代に治水と水力発電などを目的に作られた、多目的ダムと呼ばれるタイプだそうだ。

 このダムを作った時に、多くの村々がダム湖の底に沈むことになったらしい。

 その一部が、ホテルのオーナーの一族が地主をしていた所だったらしい。


 まあこれもパンフレットからの知識なので、どこまで本当なのかは分からないんだけどな。


 ダムからは、大量の水が落下する音が聞こえていた。

 あそこから水が全部抜ければ、湖の底から沈んだ村や、森の名残が現れるのだろう。


 ホテルのパンフレットでは雄大な自然の風景とか書かれていたが、ダムを作って自然環境を大きく変えておいて雄大な自然もあったもんじゃないな。


 まあ、自然をぶち壊して整備されたからと言って、周辺の山々に広がる森がなくなったわけではない。

 別にオレが自然破壊の負い目を感じる必要はないわけだし、オレはオレでまだ残っている自然を楽しませてもらうことにしよう。


 ゆっくりと車道沿いの遊歩道を歩いていると、途中で二股に分かれる場所があった。

 分かれる場所に立っていた案内板によると、一方はここまでと同じ車道沿いの道。

 もう一方は、少し山側に入る道らしい。


 オレの選択は決まっている。

 迷わずオレは山側の道へと足を踏み入れた。


 その道を進むとすぐに舗装した道は無くなり、踏みしめられた土の道が現れた。

 山に来てまでアスファルトの上を歩くのは味気なく感じていたところだ。ありがたい。


 今のオレの格好は車に乗っていた時と大差ない。

 一応着替えたが、Tシャツとハーフパンツにスポーツサンダルだ。

 山道を歩くに適した格好とは言えないが、所詮はホテル客向けに整備された遊歩道だ。問題ないだろう。


 肌に触れると危険なトゲがあったり、漆の様にかぶれる様な植物も取り除かれているはずだ。きっと、客が不快な思いをしないように、害虫駆除に農薬もまかれていたりするんだろう、毒虫の気配もない。

 まあ、オレは元々気にしないんだけど。


 歩き進めると、太い木々に囲まれていく。

 木の高さも段々と高くなっていき、気付けば鬱蒼とした森の中に入っていた。


 上を仰ぎ見れば、空を覆うような緑の枝が広がっている。


 しっかりと踏みしめられていて歩きやすくしてあって本当の山道ではないが、良い雰囲気になってきた。

 少し傾き始めた太陽が木漏れ日となって、オレの肌に柔らかく降り注ぐ。


 車道よりも木々の香りが強い。

 四方を森に囲まれ、すぐ傍に車道が走っているとは思えない雰囲気になってきた。


 静かだ。

 森は音を吸収する。


 葉擦れの音、湧き出す水音が聞こえる。


 ……鳥の声が聞こえないな。


 「またか……」


 オレは何かの気配を感じていた。

 最初は野生動物かと思った。だが、気配が違う。

 

 どうやら今日のガチャ運は最悪らしい。

 とてつもなく嫌な物ばかり引き当ててる。

 せめて熊とかイノシシだったら食えるのに。

 まあ、ある意味ウルトラレアを引き当ててるんだけど。


 そもそもオレはまだ仕事の内容すら聞いてないんだぞ?なんでこんなにトラブルに巻き込まれるんだよ?

 金にならないことなんて、したくないぞ。


 「何の用だ?」


 したくないと言っても無視するわけにいかず、オレは()()()()()()叫んだ。

 

 車に落ちて来た怪物は偶然。

 しかし、今回はオレに向かって殺意を向けている。

 あの怪物を倒したことで、オレが目を付けられたのか?だったら、あの場では手を出さずに見逃すのが正解だったか?

 でもなぁ、あのまま放置しておいて良い存在じゃなかったんだよ。


 これからやることの邪魔になりそうな面倒な奴がいたから、先に片付けておこうという方針だろうか?


 まあ、オレでも面倒そうな相手を見つけたら、先に処理してから本命に取り掛かるかもしれない。夏休みの宿題は最終日に頑張って、終らせられなくて放置してしまうタイプだったけど。


 向けられている殺意は気持ち悪い。

 野生動物が獲物を狙っているのとも違う。身を守るために外敵を倒そうとしているのとも違う。

 だからといって、人間に感じる悪意や怒り、快楽のための殺意とも違う。

 根拠のない殺意。


 ただ、殺意だけが存在している感じ。


 誰かに操られている?

 そう考えるのが、妥当か?

 そうすると、黒幕がいるのか。

 依頼主の話を聞けば、そのあたりはスッキリするかな?


 オレの呼びかけは森の奥へと溶けた。

 返答はない。

 元々返答を期待して掛けた言葉じゃないので、気にしない。あくまで、牽制だ。


 代わりに、森の木々が大きく騒めいた。

 木の上で何か長い物が動いているような感じだ。ザッザッザッと頭上の枝が流れるように音を立てていく。


 「出てこいよ」


 もう一度、呼びかけてみる。

 木の上はやっかいだ。木登りは得意じゃないんだよ。

 できれば、あちらから出て来てほしい。


 「たく、めんどうだな。オレは仕事を受けるつもりはない。義理を通して依頼主の話を聞こうと思ってるだけで、聞いたらそのまま帰るつもりだ。どうだ?」


 面倒になって提案してみる。もちろん、今頭上にいる奴に向けてじゃなく、その背後にいる奴に。

 オレの予測通り黒幕がいるなら、何らかの手段でこの場を監視していてもおかしくない。そいつが反応を示してくれたら、状況が好転しないまでも情報を得られるかもしれない。


 ガサリと、木々が揺れた。


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