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31 消火器で遊ばない 前

 ゾンビを全部倒した後に、オレは館内放送を管理している場所を目指そうと決めた訳なんだが……。


 それって、どこだ?

 このホテルにはそれに当たる設備が無かった。

 学校の様に放送室があるわけじゃない。少なくとも、オレが記憶した館内図には載ってなかった。


 …………警備室かな?

 このホテルの地下は、二層の駐車場になっている。

 そこの端に、空調機械室やボイラー室なんかと並んで警備室が作られていた。


 そこには監視カメラのモニターなんかが並んでおり、非常用の放送設備もあったはずだ。

 専門の放送室が無いなら、そこが一括して管理している可能性がある。

 そもそもデパートなんかと違って、ホテルでは館内放送なんて滅多にすることはない。専用の放送設備が無くて、非常時用だけで賄われていてもおかしくない。


 「よし、警備室に行ってみよう」


 オレは警備室を目指すことにした。

 普段なら地下に向かうのは従業員用のエレベーターを使うところだが、今の状況で逃げ場のない移動手段は悪手だろう。階段だな。

 

 階段はホテルの奥まったところのある。

 客が使うことも想定されているので、ちょっとお洒落な吹き抜け階段だ。


 オレは階段の踊り場に差し掛かってすぐに、白い物があるのを目にして眉を寄せた。


 「…………今度は蜘蛛かよ」


 レース編みを絡めたように。白い糸がびっしりと階段に巻き付いていた。

 どう見ても蜘蛛の巣。蜘蛛の怪物が出て来るとしか思えない。


 えーと、半蜘蛛半美女がアラクネだったっけ?蜘蛛怪物を思い出そうとして、真っ先にそれが浮かんだ。

 絡新婦(じょろうぐも)ってのも、女性と蜘蛛のハイブリッドの妖怪だな。

 そういや、蜘蛛系の怪物は女性型が多い気がするな。蜘蛛の中には交尾後にオスを食べてしまう種類がいるらしいから、そういったことからの発想なんだろうか?

 オッパイが大きいといいな。


 「…………やっぱ、エレベーターにするか」


 隙間なく階段に巻き付いている蜘蛛の巣を見て、オレは諦めることにした。

 これどう考えても階段が使えない。くっ付いて身動きが取れなくなるのがオチだ。


 オレは踵を返してエレベーターに向かおうとしたが、もう遅かったらしい。

 吹き抜けの上部に大きな物の気配がした。


 キチキチと、何か硬質な物が擦り合わされる音がする。


 「あー。めんどくさい」


 もう、餌認定されちゃったのかよ。蜘蛛って、巣にかかった獲物を狙うもんだろう?巣に触れてもいないのに、認識するんじゃねーよ。

 畳みかけるように出て来るんじゃねーよ。向こうは畳みかけてオレの余裕を無くして殺したいのかもしれないけど。


 シュッと、風を切る音。

 高速で迫って来る何かを、オレは半歩ほど身体をずらして避ける。


 オレがいた場所の床に、粘性の物体が広がった。


 「糸を飛ばせるって、ありがちだよな」


 どこぞのニューヨークの親愛なる隣人かよ。

 床に広がったのは、蜘蛛の糸の塊だ。そこから空中へと白い糸……いや、太さ的にはロープが伸びている。

 それを目で追って上を見上げると……。


 「いや、口から糸を出すのは違うと思うぞ?尻か、せめて腕だろ?」


 見上げた先で、巨大な蜘蛛と目が合ってしまった。

 六つ並んだ真ん丸の目。ガラス玉のようで何の感情も感じさせないのが、逆に怖い。


 見た目は完全に蜘蛛だ。

 人間の要素が混ざってるとか、足の数が違うとかも無い。典型的な蜘蛛と言ってもいいだろう。

 大きささえ、普通なら。


 オレと見つめ合っている蜘蛛は、巨大だった。

 二~三メートルくらいだろうか。乗用車に足が生えたくらいの大きさがある。広めの吹き抜けとはいえ、階段の幅ギリギリの大きさだ。足なんてはみ出している。

 なんて言うんだっけ?頭が大きくて大きな牙があって、黒っぽい色で……。

 ジグモ?ツチグモ?…………そういや、土蜘蛛っていう妖怪がいたような気がする。

 歌舞伎だったか能だったかの演目にある、蜘蛛の糸を飛ばす奴。


 「なるほど」


 つまり、こいつも大きいだけの蜘蛛に見えて、立派な怪物ということか。


 オレがそんなことを考えていると、巨大な蜘蛛……土蜘蛛と呼んでおく……は、大きな牙で口から延びた白い糸を切り、威嚇するようにオレに向かってその口を大きく広げた。


 そこからまた、蜘蛛の糸が飛び出す。

 オレを蜘蛛の糸で絡め捕って動けなくして、美味しくいただこうという算段か。


 「誰が捕まるかよ」


 そう言ってオレは飛んでくる糸を避けたものの……ヤバいな。このままじゃ近寄れない。


 飛んで来ている蜘蛛の糸はかなり粘りが強そうだ。そこら中にある蜘蛛の巣も同じように粘りが強いなら、絡まったら厄介だ。

 それに、ニュースか雑誌かなんかで読んだ覚えがあるが、蜘蛛の糸の強度は自然界では最強レベルだとか。

 ロープほどの太さがあれば、オレだって簡単に引きちぎれないだろう。


 この階段周辺にはそんな物が張り巡らされているのだ。下手に近寄ってしまえば、オレだって簡単に捕まってしまう。


 土蜘蛛もそれを理解しているのか、蜘蛛の巣になっている部分から出てこようとはしない。

 巨体だし蜘蛛ってそこそこ素早かった記憶があるから、質量任せで攻撃してこないのは、こっちとしても有難いけどな。


 「……なんか、ないか?」


 いつもみたいに殴ったり蹴ったりの力技じゃ無理だな。ちょっとは頭を使う必要がある。

 土蜘蛛は巣から出てこないし、このまま逃げても……逃がしてくれないだろうなぁ。

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