11 仕事仲間とは仲良くしよう 後
コイツ、初めて会った時もオレのことをフルネームで呼んだけど、なんかバカにされてるようなニュアンスがあるんだよな。
あと、初対面で「さすが」とか安易に褒めるやつは信用してはいけないと思う。詐欺師の常套手段だ。
絶対腹の中では真逆のことを考えてる。
「また会ったな。えっと……」
そういや、こいつの名前を知らないぞ?
車でホテルまで送ってもらった時も、こいつらは同行しなかったからな。
「BGFJの長谷川隆一郎だ」
オレが困っているのを察したのか、キザ男は名乗った。ニッコリと向けてくる笑顔が胡散臭い。
顎を覆うキザ髭を丸刈りにしてやろうか?
それにしてもマジかよ、BGFJかよ。
BGFJ……Body Guard Foundation of Japan。直訳すると日本ボディーガード財団だな。
ちなみにバグは蔑称。面と向かって言うと所属している連中にブチ切れられるので、言葉には出さない様にしてる。
でも、略称その物のBGFJというのは言い難いから、時々ポロっと言ってしまってケンカになる。
日本ボディーガード財団は、その名の通り、色々なところからの寄付金で運営されていて、ボディーガードを派遣している団体だ。
その寄付金と言うのが曲者で、まあ、非合法な要素のある資金が多く含まれていて、資金洗浄にも利用されてるとか非合法組織への支払いの中継先だとか、色々黒い噂がある。
ボディーガードと言う職業の特殊性もあって、政財界いたるところに食い込んで何やらいろいろやっているらしい。
ハッキリ言ってオレのところとほぼ同業者。
なので、オレたちはBGFJと色々なところでやりあってる。
敵対してるパターンも、同時に雇われるパターンもかなりある、敵にも味方にもなる関係。そんな感じだ。
味方と言っても、仲良く終わったことなど滅多にない。
いつもあちらからケンカを吹っかけてくれて、潰し合いに発展するという、言うなれば犬猿の仲だ。
でもまあ、BGFJは要人警護の専門家なんだから、オーナーの警護はキザ男と他のボディーガードたちに完全に押し付けても問題ないだろう。
オレはキザ男と仲良くすることも無く、一切関わらず、自由にさせてもらおう。
その方がお互い平和だ。
変に警護側に手を出すと、警護プランの打ち合わせやらも必要になって来るだろうし、面倒だしな。
「BGFJの方がいるなら、警護の方は安心だな。オレは調査の方に集中させてもらう。それでいいな?」
「あ……ああ。構わない」
よし、オーナーの了承も取れた。オレは自由だ。自然を満喫しよう!
これでオーナーがもし死んでもオレには責任が無いよな。
それでもって、オーナーが死んだら依頼も終わってオレもお役御免だ。そっちの方が楽だし、ぜひぜひそうなって欲しい。
それまでオレは自分に興味のある調査だけ進めるから。
まあオーナーが生き残っても、時間がかかるようなら帰ってしまって、うちの調査部に仕事を丸投げしよう。
本当に有能な奴がいるし、すぐに調べてくれるはずだ。
餅屋や餅屋。調査は調査部へが基本だ。
それに……この仕事がオレに振り当てられた時点で調査は終わっているのかもしれない。
依頼が来た時点で仕事を割り振るための予備調査はやってるだろうし、本部はオレに意図的に怪物絡みの仕事を割り振ってる疑惑もある。
オレが担当する仕事は、なぜか怪物や不思議な現象に遭遇する確率が高いんだよ。
だから、多少のことじゃオレも驚かなくなってしまっていた。
問い合わせてみるか?
でも、意図的なら、教えてくれそうにないな。他人が困ってるのを見て楽しむような、性格が最悪な連中が揃ってる部署だから。
「もちろん、調査中に襲撃者たちを見つけたら始末するから安心して……ああ、そういや……」
オレも襲われた話もしておかないといけないか。
オレはジャケットの内ポケットを探り、ホテルの端末を取り出した。
オレがジャケットの懐に腕を突っ込んだ時に周囲が緊張する空気が流れたが、オレは銃なんて持ってないって。
どんだけ練習しても上手く扱えない物を持つ趣味はない。
「あの後に襲われたんだわ」
そう言って、端末で撮影した画像を見せた。
ヒュッと、息を呑む音が響く。平然をしているのはキザ男の長谷川だけだ。
彼もまた、目が少し細められたが平然としている範囲内だろう。
「そ……そいつは……あ……そ……」
オーナーがまた顔色を青白く変えた。
まったく、忙しい奴だ。上手く言葉が繋げられないらしく、意味不明な言葉を発している。
ラミアモドキの死骸の画像は、かなりショッキングだったらしい。
原始人モドキや狒々モドキと違って、爬虫類系の怪物は人間が変化したとは思えないもんな。
「これは白石虎児くん、君が?」
代わりに尋ねたのは、キザ長谷川だ。
髭を撫でて何かを考えている風だった。
「殺したよ。死骸は運べなかったので隠してある。場所は教えるから、回収してくれ。良いサンプルだろ?」
すでに警察には遺伝子的にも人間だと言われてしまってるのに、何を調査するためのサンプルにするのか分からないが。
とりあえず、狒々モドキは回収していたし、何かに使えるんだろう。
ホテルのオープン前に騒ぎにならないように回収しているだけかもしれないけど。
「ぐぅ」
オーナーは喉から妙な音を発した。
マジでカエルだな。
「白石虎児くん、こんなバケモノを倒すとは……さすが、オーバーランクだ!」
褒め殺しかよ。
いちいちフルネームで呼ぶんじゃねぇ、キザ男。
それにその呼ばれ方は好きじゃない。
「……オーバーランク?」
ボディーガードの一人が、疑問に思って繰り返して呟いた。
「そう、騒動処理人はその実力でランクが分かれているのだがね。そのランクすら超えた存在、オーバーランクが彼、白石虎児くんなんだよ!!素晴らしいよね」
やけに大仰にキザ長谷川は言ってのけた。
おお……と疑問を呟いたボディーガードは、感嘆の声を漏らす。
オーナーも希望を見出したかのように、目を輝かせた。
だが、残りのボディーガードの連中はこんなガキが本当かよと言いたげに疑惑の視線をオレに向けた。
まあ、その気持ちは分かる。
オレだって、自分がそんな風に語られる人間だとは思えない。
そもそも、そのオーバーランクという呼ばれ方も、そんな大層な理由ではない。
騒動処理人の先輩が、現場でウロチョロしてるガキ……つまりオレを見かけた仕事の関係者に質問されたのが発端だ。
その先輩は英語力もないバカなのに気取って、「ランキング外のオマケ」つもりでオーバーランクと言ってしまった。
誤解はすぐに解かれたが、オレを揶揄うための言葉として定着し、いつの間にか外部にまで漏れてしまって誤解が誤解を生んで今に至っている。
キザ長谷川はそのことを知っていて揶揄っているのか、それとも大真面目に言っているのか。
どっちにしても、その好意的な言葉は嘘だな。
長谷川の目は、まったく笑っていなかったのだから。
面倒くせぇ。




