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ゾンビさんさようなら

作者: 高沢湖大

 あるいは、それは生きたいと願った人間の執念なのかもしれない。未来を渇望しながら、しかし死ぬしかなかった人間の夢。その顕現。発症確率2000分の1。国内罹患者数約31000人。

 初例が確認されてから70年がたつと言うが、そのメカニズムは未だ解明されていない。一説では悪性リンパ腫の亜種とも、テロメラーゼの異常活性とも言われているが、倫理という大きすぎる壁を前に、人類は手をこまねいているというのが現実らしい。

 いずれにせよ、その予後に人権を認めてしまった時点で、真相解明の道が厳しく閉ざされたことは間違いないだろう。

 だからこそ神秘に満ちている。解き明かされないからこそ奇跡と思えるのだ。人生のロスタイム。その現象は、きっと神様からの贈り物なのだと。そう思っていた。


 その日、彼女と出会うまでは。

 秋の世界は気まぐれだ。長雨を降らしたかと思えばからりと秋晴れ、美しく紅葉したかと思えば木枯らしを舞わす。季節の移ろいを最も身近に感じてしまう。そんな季節。

 10月の三連休を終え、残暑も感じなくなればそんな秋の本番だ。過ごしやすい時節なだけに、学校行事もこのくらいに設定されるのが世間の常。


 例に漏れず、僕が通う芹川高校もまた、10月末に催される文化祭に向けて気運が高まっていた。

 とはいえ、文化祭に向けて色めき立つのはもっぱら下級生ばかりで、近々に受験を控えた僕たち三年生はテキストと問題集に向かい合ってばかりいるわけだが。学校自体もそのあたりへ配慮してくれているらしく、三年生は文化祭参加の義務がないから尚更だ。

 僕らの学年で文化祭に注力するのなんて、仲間内でバンド組んでる人間か、よほど部活熱心な文化部員かくらいのものである。

 全くもって熱がない。

 今年も、何かやろうという三年のクラスは一つもなく、みんな文化祭当日に後輩の頑張る姿を見に来ようかなという程度のスタンス。

 かといって、僕に周りを焚きつけるようなカリスマ性があるかと言えばそんなわけもなく、僕は仕方なく、よほど部活熱心な文化部員Aになってしまっている。将来のことを決めあぐねて、部活に逃げ込んでいるのではないかと言われればぐうの音も出ない。モラトリアムの真っ只中。

 ただそれでも、最後に思い出を残したいと思っているのは本当のはずで……。


 そんな部員の複雑な心境を知ってか知らずか、……いや、うまく利用しているとしか思えない顧問様から、


「七原く~ん。三年のくせに暇そうだからパシリでぇす」


 なんて、胸に突き刺さる(みことのり)

 逆らえよう筈もない。運動部然り、この学校においては文化部であっても顧問は神様と同格だ。作品の提出が間に合わなければ大目玉を食うし、日々出される課題にしても同様。トレーニングが運動を伴わないというだけで、運動部より文化部の方がヌルい──などということは決してない。

 何度怒られたことか。恩師でありながら恐怖の対象、顧問なんてどの部活でもそんな物なのである。少なくともこの学校では。


 その顧問様から賜った本日のミッションは、旧校舎から暗幕を取ってこいというもの。

 星が綺麗くらいしか取り柄のない田舎町だ。田舎ならではの広い敷地に、昔の木造校舎が放置されているなんて珍しくもない。ゆくゆくは取り壊されるのだろうが、いつになることやら。

 見上げればレトロ。当時の人々がどう感じていたのかは分からないが、白と茶色を基調とした配色と、ちんまりと背の低い二階建ては可愛らしい趣である。

 キシキシと鳴く廊下を歩きあるき、目的の場所の戸をくぐる。といっても、旧校舎内部の戸は全部取っ払われているから、戸というよりは文字通り出入り〝口〟といった感じだが。

 当時は理科室として使われていたらしいが、様々な物が搬入されている現状からは想像するに少し難しい。机に椅子、ロッカー、何が詰まっているのか、パンパンに膨れ上がったダンボールの数々。

 顧問様曰く、暗幕はダンボールに入っているとのことだから、あの中のどれかか。ぱっと見20はある。ダンボール。

 ……ちょっと多くないですかね?

 せめてラベリングとかしとけよ。


「……はあ」


 溜め息を一つ。

 まあ一個一個見ていくしかないか。気長にやろう。

 約20分の1と思えばそう悪い確率でもないし。


 そう自分にいい聞かせつつ、一個目のダンボールに着手する。


(まあ、一個目一個目、確実に暗幕なんて出てこないさ)


 自分の心に保険をかけて、互い違いに折り込まれたダンボールの耳(?)の部分をぱっかりと開く。

 現れたのは真っ黒くゴワッとした謎の布地。


 あれまあ。


 なんということでしょう。


 まさかの一発目で暗幕発見ではないか。


 ラッキーラッキー。


 後半10個くらいまで覚悟してた僕としては、少しばかり拍子抜けの感もあるが、手早く終わったならばこれに越したことはない。ただ、


「暗幕は見つかったとしてもなあ」


 よいしょと暗幕入りダンボールを脇によけ、残されたその他大勢を眺めみる。

 もし来年、同じく暗幕を取りにくる人間がいたら? 暗幕で無いにしろ、今後、このダンボールの中身を求めてこの旧校舎に足を運ぶ人間がいたとしたら?


「やっぱせめて、ラベリングくらいはなあ……」


 気まぐれな善意だ。あるだろ? たまには歩行者優先してみようかなーみたいな。自転車乗ってるときにさ。そんな感じ。

 ブレザーの胸ポケットからボールペンを取り出して、残されたダンボール達の一つを開く。

 中身が何であれ、学校備品だ。一応の纏まりくらいは持たせて詰められているだろう。そんな予想を持ちながら中身を覗いて、僕は愕然とした。


 現れたのは真っ黒くゴワッとした謎の布地。


 ……デジャヴュ?


 振り返る。夢ではない。僕の背後には先ほど確かに暗幕入りと確認したダンボールが存在している。再び手元を見る。真っ黒くゴワッとした謎の生地。何度見ても、中身に変化はなかった。


 待て。


 待て待て待て待て。落ち着け僕。冷静に考えろ。


 室内にはぱっと見20はあるダンボール。それらがどれも同じようにパンパンに膨れ上がった状態で保管されている。どういうわけか、ラベリングも無しに……。


 凄く、嫌な予感がした。


 恐る恐る、また別のダンボールを開けてみる。

 僕は、悪い夢でも見ているんじゃないかと思った。出るなと思った物体が出るんだもの。黒くて、ゴワッとした、布地が。


「マジかぁ……」


 これはまさかの事態である。ちょっと暗幕取りに来ただけのつもりが一転、絶望の淵。

 暗澹たる心持ちのまま、一応念のため、僕は半ば諦めの境地で残りのダンボールを確認する。


 四箱目――暗幕。

 五箱目――暗幕。

 六箱目――暗幕。

 七箱目――言うまでも無かろう。


 結局、保管されていた22のダンボールは全て暗幕だった。ウソのようなホントの話。暗幕自体そう軽い物ではないのが困りもの。台車使って効率上げても5往復は免れまい。

 おのれ顧問様。嵌めたな。

 今すぐこの場で電話でもかけて文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、運ばなければならない代物であることに変わりはない。とりあえず一回運べるだけ運んで、二回目の時に顧問様含め、手勢を増やして訪れよう。

 そう算段を組み上げて、僕は室内を見回した。倉庫になっているような教室だ。台車の一つくらいはあるだろう。

 眺め、眺め、眺めて、一点、おかしな物を発見して目が止まった。

 教室の一角、もともと黒板があったであろうスペースの少し脇に、戸が在るのだ。その上には“準備室”の文字。それ自体は別段おかしくもない。不思議なのは、搬入の都合諸々のために取り払われたはずの〝戸がある〟という一点に尽きる。

 旧校舎の戸が外と通じるものを除いて全て取り外されていることは、顧問様から聞いているから間違いない事実だ。使わぬまま放置しておくと、年々歪みが積み重なって、いざという時に取り外せない場合がある、というのが最たる理由なのだとか。

 ではあれは何か。

 好奇心に突き動かされるまま、僕はその戸の前に立った。


 近寄って見ればますます奇妙だ。


 そもそも戸ではないようだ。何しろ取っ手がない。所々に筋が入っているが、概ね平たい造形。茶色でダンボールみたいな……というか、間違いなくダンボールだ。またしてもダンボール。

 今日はダンボール記念日か何かですかね?

 思いつつ、目の前の奇妙な光景に頭をひねる。それはまるで、中を密閉するために張り付けられているように見えた。無論、内側からだ。


(確か準備室ってのは、廊下側にも入り口があるんだっけ)


 ふと思い当たり、廊下側へと回る。当然、旧理科室の隣が準備室。もちろんそこの戸も撤収されている。しかし、


「こっちもか」


 教室側と同じく、廊下側にもダンボールの壁が出来上がっていた。こちらも内側から張り付いている。

 これは流石におかしい。何度か旧校舎に来たことはあるが、廊下側は間違いなく全ての戸が取り払われていた。

 加えて、ここにきて浮かび上がるもう一つの疑問。

 二つしかない出入り口の両方が、内側から封じられているということは……。

 自らの仮説に鳥肌が立った。

 内側から張り付けてあると言うことは、外側からは張り付けられないということだ。それは即ち、中に誰かがいることを意味している。


 これは、正直困った。


 世の中には触らぬ神に祟り無しという言葉があるが、この天岩戸はどうしたものか。

 放課後の旧校舎には、傾き始めた日光が清々しく射し込んでいる。中にいるのは少なくとも、天照大神ではなさそうだ。

 であれば、眼前のダンボールはパンドラの蓋か。


 しばらく考えるも、当然ながら答えは出ない。出たものと言えば僕の野太い唸り声くらいだ。


「よし」


 とりあえず保留して、顧問様に報告しよう。

 ヘタレ精神丸出しの結論に至るのにそう時間はかからなかった。

 どうせ暗幕運搬のために来てもらうつもりだったのだ。こういうのがある方が、むしろ好都合というもの。

 肝試しは、大勢で行った方が怖くないしね。


 戦略的撤退を決め、パンドラの(ダンボール)箱にそっぽを向いて一歩進む──いや、正確には、進もうとした。


 ベリッ。


 音がしたのは間違いなくその部屋の中。

 明らかにテープが剥離していく音だ。

 ベリベリッ、ベリベリッ、と勢いよく鳴り響く剥離音。

 内側にいる誰かが、出てこようとしている。


 突然の展開に三歩後ずさったまま唖然とする僕を待つわけもなく、剥離音は次々と続き、やがて、口を塞いでいたダンボールがずるりと退いた。

 ひらいた闇に光が吸い込まれ、同じく、僕の視線も中へと誘われた。そこには、紺色のスクールブレザーに身を包んだ女子生徒が一人。しかも、黒いショートヘアに縁取られたその顔には見覚えがある。2組の朝霧さんだ。と思ったら、


「はうあっ!」


 現れるやいなや、思いっ切り顔をしかめて準備室内へ退散する朝霧さん。なにごと?

 ありすぎる疑問を頭の中にくるくると回し、しかし出てきたのが知り合いであることに幾分か安堵しつつ、僕は室内に引っ込んだ朝霧さんを伺い見た。

 うずくまり、両目を押さえている姿がそこにあった。号泣しているようにも見える格好だけど、どうも違うようで。


「明順応なんてレベルじゃないんですけど。めちゃめちゃ目ぇ痛いんですけど。バルス? リアルバルス?」


 何事かぶつぶつと呟いている。


「あの~、朝霧さん?」


「うひゃいっ」


 うずくまる小さな背中に話しかけてみると、何故か彼女は素っ頓狂な悲鳴を上げて僕の方を振り向いた。


「な、七原くん?」


 闇の中から僕を見る朝霧さんの顔が険しい。ギュッと目を細めた睥睨にも思える。整った彼女の顔が台無しだ。


(僕、何かしたっけ?)


 心当たりないけど。


「何やってんの? こんなところに閉じこもって」


 言いながら朝霧さんの周りに視線をさまよわせる。見事なまでに真っ暗だ。窓にまでダンボールが張り付けてあるらしい。


「えーっとえーっとあのー……。暗闇って魂の安息に重要だと思わない?」


「……ごめん。何の話?」


 生憎と哲学の嗜みはない僕である。急に沈着な声になって(顔は相変わらずしかめっ面だけど)言う朝霧さんの言葉が飲み込めない。


「まあまあまあ、立ち話もなんだしこっち来てよ七原くん。そこにいられると眩しくてかなわないや」


 言われるがままに準備室の中に入る。朝霧さんがいるのと逆側の壁に背中を預けて、そのまま腰を下ろした。


「隣行ってもいい?」


 予期せぬ台詞。いや、いいけどさ。


「ありがと」


 首肯で応えるとそんな台詞だ。もう渋面の必要もないのか、ヒマワリのような笑顔のオマケ付き。かわいい。

 そうだ。一年の時にクラス一緒だったけど、朝霧鈴音はこんな女の子だった。天真爛漫というか、スポーティというか、とにかくポジティブなイメージの女の子。暗闇の対極にいるような、眩しい女子だ。

 それだけに、この空間が妙に場違いに思える。


「七原くん何か用事あって来たの?」


 本題と全く違うことから入るのは、詐欺師の常套手段だとテレビで言っていたのを何故か思い出した。


「暗幕取りに来たんだ。鈴白先生に頼まれてさ」


 鈴白先生とはもちろん顧問様のことである。


「ふ~ん、なるほどね。文化祭で使うやつ?」


「そ、三年の癖に暇そうだから取ってこいってさ」


「あはは、そりゃ鈴白先生らしいね。ご愁傷様」


 さっきのしかめっ面なんてウソみたいに、僕の隣で朝霧さんがニコニコと笑う。


「笑い事じゃないって」


「ごめんごめん」


 クスクスいいながら謝られてもね。


「それで、朝霧さんはなんで旧校舎に?」


「ん? えーっと……」


 問うと朝霧さんは困ったような顔になった。


「うん。まさかこんなことになるとは思わなかったんだけどね。私……」


 言いかけて、止まる。次の言葉を待っている間にそれとなく室内を観察してみれば、不可解にも、四つもの七輪が室内に持ち込まれているのが見えた。


「七原くん」


 密閉された部屋と置かれた七輪。朝霧さんが何をしようとしていたのかを想像しかけた僕は、その声で我に返った。

 朝霧さんが決心したような表情で僕を見ている。彼女は毅然と、


「確かめてほしいの」


 僕の手を取ってその白い首筋へと導いた。ひんやりとした感触が僕の手のひらを伝う。どういう状況だよ。

 しかし、困惑の声すら出なかったのは、朝霧さんのあまりの真剣な顔に圧倒されたからだ。


「私、生きてる?」


 凛然とした瞳が僕を射抜く。しかしその言は漠然を極めていて、答えようがない。

 戸惑う僕を見てだろう、彼女がもう一度問う。今度は具体的に、


「私の脈、ある?」


 凛然たる表情はどこか悲壮感すら匂わせた。

 そして少しずつ、僕は彼女がおかれた状況を理解しつつあった。さっき、朝霧さんが急に室内に逃げ込んだわけも。最初、この部屋が閉め切られていたわけも。今、室内に七輪が置かれているわけも。

 朝霧さんの首筋に、脈動はない。


 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。


 雄弁な沈黙だと思った。


「そっか」


 彼女は落胆したように笑って、僕の手を解放した。


「朝霧さん」


 その感じが痛々しくて、僕は思わず声を出した。


「ラッキーだよ。朝霧さんに何があったのかは知らない。でも、助かったんだから」


「やめて」


 ピシャリと、


「それ、今言おうとしてること。それ全部言っちゃったら、七原くんが傷つくだけだよ。気持ちは、七原くんの気持ちは、それ言おうとしてくれてるだけで、十分わかるから」


 これ以上ないくらい的確に、僕は気を遣われてしまった。そう言われてしまえば、僕にはもう為す術がない。段々と彼女の隣にいることが哀しくなりつつすらある。


「とりあえずさ、七原くん。どっかからサングラス的なもの持ってきてくれない? このままじゃ夜まで動けないし」


 またしても気を遣われたが、これはごもっともな要望ともいえた。散瞳現象――つまり、瞳孔が開ききっている今の朝霧さんにとって、外は眩しすぎるからだ。

 とりあえず、とりあえずだ。

 気持ちを整理する時間もほしい。

 僕は朝霧さんの優しさに甘えて、その場を立った。



     × × ×



 落命症と名付けられた現象のために、遺体の身でありながら蘇生するケースがあることが確認されたのは、僕が生まれるよりずっと昔のことだったそうだ。遺体のまま蘇生というのはどうにも奇妙な言い回しだが、事実、心肺停止のまま動き回る人間が現れてしまっては、それ以外に表現のしようもなかったのだろう。まさしく、命を落としている人間。死体が歩いているといっても齟齬はない。

 死体であるが故か、落命症の人間は病から解放されていることが何よりも特筆すべきところだろう。変な話、すこぶる健康なのだ。昨日はサウナ、今日は雪山、明日はオーバーシーで常夏リゾート──なんて生活をしても、風邪どころか元気いっぱいルンルンルンってな具合である。そもそも発熱等々の原因である免疫細胞が死んでいるのではないかという指摘もあるが、よもや落命症の患者を解剖するわけにもいかず、ちまちまと細胞を採取するばかりの現状においては、やはりその実は解明されていない。

 加えて、傷口の回復が異常に早く、切り傷程度なら次の瞬間には塞がってしまうという性質も、その解明の困難さに拍車をかけているのだとか。切開しようにも瞬く間に傷口が塞がるというのは、調査の大きな障害だという。生命力という点において人間を遥かに凌駕した存在。唯一ヒトと同等なのは、平均およそ90歳弱という寿命くらいのものだ。

 病から解き放たれ、外傷から解き放たれ、落命症とはまるで人類の進化とも思える。

 しかし一点、子孫を作る能力が無いという部分が、その可能性を決定的に封じている。このまま落命症が増えつづければ、いずれ人類は生命力において優位である落命症患者が過半数を占めるのではないかという見通しすらある。そうならないために各国がこの問題に取り組んでいるそうだが、未だ人口の1%にも満たない現象、じっくり腰を据えているのが全体に共通した傾向であろう。

 今はまだ、ゴシップ好きの世の中が面白おかしく騒いでいるだけ。その象徴ともいえるだろう、今世間ではこんな言葉が流行っている。


 ――ゾンビ・アポカリプス。


 そのせいで落命症患者はもっぱらゾンビと俗称され、かつてホラー映画の大エースだったそのワードは今や生命力の象徴、死後の束の間に残された希望、遺族が手を合わせて祈るほどの奇跡へと豹変した。

 と、小学校の高学年から毎年こつこつと教えられてきたことを纏めるとこんな感じになる。その教育のおかげで、世間にとってゾンビという言葉はかなり身近だ。それでも、高校生になってなお耳にタコができるほど繰り返し落命症の授業が行われるのは、少しでも僕たちが彼らを受け入れられるようにという意図があるらしい。教わる身としては、正直飽き飽きしているという人が大部分だろうけど。僕もそうだし。

 その点でいくと、朝霧鈴音はそのマジョリティから外れたマイノリティを生きる女子だった。高校一年の現代社会の授業でこのテーマが扱われたとき、彼女は熱心に板書を写していたし、確か、翌年高二の学期末テストの落命症に関する論述問題では、模範解答として答えプリントに彼女の答えが載った。

 教師のみならず、生徒からも勉強熱心と評される生徒が朝霧さんなのである。我が校伝統の長期休暇制作(参加自由だからそもそもこれに取り組むこと自体が珍しいのだが)では、三連ネジ式オルゴールなんてものを作り出し、ばかりか、そのあまりの出来の良さに全校集会で表彰までされる始末。

 まさに模範学生。

 その性格も相まって、クラスの中心にはいつも彼女がいた。それはおそらく今のクラスでも。


「いやー、助かったよ。散瞳現象もバカにできないよね」


 再び旧校舎、遮光メガネを装着した朝霧さんが心底安堵したような口調で言った。


「死ぬかと思ったもんマジで。眩しすぎてさー」


 それは密室で練炭焚いた人間のセリフではないような……。


「でも七原くん。よく遮光メガネなんて見つけてこれたね。てっきりサングラスくらいだと思ってたのに」


「伊達メガネに遮光フィルム貼っただけだからね。フィルムもたまたま余ってたし。前に部活で使ったやつ」


「へえ、美術部って遮光フィルムも使うんだ」


「立体物でならメジャーだよ。不思議な感じ出せるし」


 散瞳を必ず併発する落命症のおかげで、遮光技術は昔と比べて各段に向上しているらしい。一見透明に見えてもしっかり光を遮るフィルムなんて、数十年前は考えられなかったそうだし、それを思えばこの技術躍進はゾンビ様々である。


「このメガネは?」


「僕の。最近はあんまり使ってないんだけどね」


「なるほどね。通りでかっこいいデザインなわけだ」


 横目でチラリと銀色のフレーム見て、納得した表情。


「さてと、じゃあ七原くん。まずは暗幕運んじゃおっか。遮光メガネのお礼に手伝っちゃうよ私」


 メガネ似合うなとか思ってたら唐突に願ってもない提案。

 でも“まずは”ってなんだろ?

 もしやして、何事かに僕を巻き込むつもりか朝霧さん。手際よく暗幕入りダンボールを台車(ついでに持ってきた)に積み込む彼女を眺めながら、僕の頭で不安と期待が渦巻き始めていた。



     × × ×



 結論から言おう。予想は見事に的中した、と。


 暗幕の搬入を終え、顧問様からの労いを賜るのもそこそこに、僕と朝霧さんは中庭のベンチに腰を下ろした。文化祭の準備で忙しいのだろう、中庭から覗く校内の様子は賑やかだ。対して、この場所に人通りはない。

 中庭はベンチこそあるものの、緑化に注力されている感が強く、見る分には美しいがわざわざ中にまで入る物好きなんて高校デビューに浮かれる新入生くらいのものだろう。


「私殺すの手伝ってくれない?」


 明日の天気の話でもするかのように彼女は言った。


「ほら、ゾンビになっちゃったからにはちょっと自殺は難しいし。現場で会っちゃったのも何かの縁。七原くん手伝ってくれたら嬉しいなー、なんて」


「それ、僕がオッケーすると思って言ってる?」


 問えば、朝霧さんはバツが悪そうに、


「あははー、やっぱり? 普通そうだよねやっぱ。もし私が七原くんでもそう言うだろうし……んー」


 顎にぴとりと人差し指を当てて思惟(しゆい)の構え。考える人の女性バージョンが出たらたぶんこんな感じだと思う。


 ――そう言えば、


「じゃあさ七原くん」


 ――考える人って地獄について考えてるんだっけ。唸る朝霧さんを見て、ふとそんなことを思い出したのと、彼女がそう沈黙を破ったのはほぼ同時だった。


「こういうのはどう?」


「こういうのって?」


 どんな提案を出されようとも受ける気はさらさらないが、一応聞いてみる。


「私を殺すの手伝ってくれるなら、私と好きなときにセックスできる。私が死ぬまで何回でも」


「はい!?」


 あまりにもあんまりな提案に語気がすっ飛んだ。

 その僕の反応こそを不思議そうな目で見る朝霧鈴音は、どっか病んでるとしか思えない。


「あ、ごめん。彼女とかいた?」


「違う! そう言う問題じゃないって。歪んでるよ朝霧さん!」


「え、そっかな? スタイルには結構自信あるんだけど、歪んでる? ……あー、もしかして七原くん。デブ専?」


 そうじゃねぇよ!


「そうじゃなくて、考え方おかしいって言ってるんだよ。死にたいとかセックスとか……、もっと自分大切にしなよ」


 全然テンションが噛み合わない。飄々としているというか、奇妙なまでの無邪気さに違和感を禁じ得ない。


「だったらさ。七原くんはどうすればいいと思う? この世界にいたくないから自殺したのに、こんな風に蘇っちゃって。もう自力で死ぬのなんて絶望的な状況の私は、どうすればいいと思う?」


 脳裏を過ぎったのは、旧校舎でもらった彼女の気遣いだった。同時に、生きるべきだという至上の正論は、今、彼女にとって何よりも陳腐な音韻にしかに聞こえないだろうと直感した。だから僕は、なんとか答えの矛先をずらそうとして、


「じゃあ、さ。朝霧さん。例えば、例えばなんだけど、とりあえずさ、文化祭に向けて頑張ってみるってのはどう?」


 そう口にしてしまってから悟った。この結論の方が、よほど陳腐で卑怯で姑息じゃないか。

 僕の苦しい心境は当然筒抜けらしく、


「文化祭って……。七原くん、三年はどこも出し物しないじゃん」


 やれやれと微苦笑。

 それもそうだ。クラスはもちろん、朝霧さんが所属しているテニス部もこの時期は強化合宿で文化祭どころではないのが毎年だし。さらに言うなら、運動部の三年はスポーツ推薦組以外は引退してるから余計だ。

 なればこそ、最後の年くらい朝霧さんが文化祭に精を出しても良いんじゃないだろうか。


「なら、うちの部の出し物手伝ってよ」


 こんな言葉が口をついたのは、たぶんそういう考えがふと浮かんだからだ。


「美術部の? ……いやぁ、それはちょっと無理難題じゃないかな。私画才とか無いしさ」


「そこは大丈夫。今年は天文部と合同のプラネタリウムが目玉だから。演出とか公演のタイムラインとか、手伝ってもらうのはその辺がほとんどだよ」


 ちょっと強引だったかもしれない。いや、客観的にはかなり強引だっただろう。

 ただその強引さが功を奏したのか、朝霧さんはついに観念した諸葛孔明ように、


「仕方ないなー。七原くんがそこまで言うなら、いいよ。手伝ってあげる」


 飄々とした雰囲気を崩さないままの口調で了承し、ヒメジョオンみたくその微笑を空へ向けた。

 かと思ったら、すぐさま僕に向き直り、ニマッと笑う瞳で僕に肉迫する朝霧さん。うん、ちょっと近いよ。

 ゾンビなのにやけに血色のいい唇が動いた。


「そ、の、か、わ、り。今後私がどうすればいいか、ちゃーんと考えといてよね。七原広樹くん♪」


 心臓を鷲掴みにするキュートなウィンクに脅されれば、こっくりと首を縦に振るよりほかにない。自分単純だなと思った瞬間である。

 それにしても、女子に名前を呼ばれるのって結構グッとくるな。



     × × ×



 翌日の放課後、僕と朝霧さんは待ち合わせてから美術室を訪れた。昨日の段階で早速顔を出したいところだったのだが、休みとあってはそうもいかない。昨日は僕が自主的に入り浸ってただけだし。


「あれー? 七原先輩じゃないですか。どうしたんですか? 先輩がこっちに顔出してくれるなんて」


 僕が室内に踏み込むやいなや、駆け寄ってニコニコと出迎えてくれたのは二年の工藤だ。ワックスで軽く跳ねさせた黒い短髪は制服がなければぱっと見男子生徒にも見えかねない。が、れっきとした乙女である。そしてこの美術部らしからぬボーイッシュな出で立ちの彼女こそ今回のプラネタリウム企画の発案者、美術部と天文部との橋渡し役をやってくれた功労者でもあったり。


「うん、ちょっとね。文化祭近づいてきたし、手伝おうと思って。助っ人もつれてきた」


 後で所在なさげにしていた朝霧さんを中へ促すと、工藤が若干表情を曇らせた。ように見えた。


「どうも。三年の朝霧鈴音です」


「はあ、どうも。工藤友香です」


 お互いに自己紹介。


「……」


「……」



 え、なんすかその沈黙。

 二人はじっと見つめ合ったままで何故か静止していた。僕を挟んでである。しかも工藤は何となく睥睨の眼差しである気がする。朝霧さんはといえばそんな工藤にやや戸惑っている様子。

 工藤は切れ味のいい語調で、


「それ、七原先輩のメガネですよね?」


 犯人を追い詰める名探偵みたいに人差し指を突き刺した。

 すると、朝霧さんは何故かしたり顔になって「はっは~ん。なるほどねぇ~」と何事かを悟ったように呟いた。そして次の瞬間にはそのまますたりすたりと工藤のそばへと近づいて、なにやら耳打ちを一つ。

 どんな魔術を囁いたのか、工藤の顔がタコかエビかマツバガニかと思うくらい見る見る真っ赤に茹で上がった。


「なっ、なっ、な──」


 尻尾を踏まれた猫みたいな動きで飛び退き、目を皿にしてパクパクと泡を食う工藤。その反応を見て朝霧さんは吹き出した。


「あはは。もう工藤さん分かりやすすぎ」


 クスクスと喉を鳴らして心底可笑しそうに笑う。


「大丈夫だよ心配しなくても。成り行きで仕方なくっていうか、とにかく、そんな深い意味ないから」


 ころころとよく弾む声で工藤をなだめると、朝霧さんはもう一度なにやら耳打ち、最後に工藤の肩をポンポンと叩いて僕の方へと戻ってきた。


「いい子がいるんじゃん。ごめんね七原くん」


 ちょっと意図をはかりかねる囁きを僕に浴びせる朝霧さん。なぜに謝罪の言葉?

 どうにも掴めない朝霧さんである。

 一方工藤はと言えば朝霧さんにすっかり毒気を抜かれたようで、顔を赤らめたままごにょごにょと小声を紡いで突っ立っている。


 パン!


 突如柏手が一発こだました。美術室で作業に着手していた部員たちが一斉にこちらへと視線を向けた。工藤もその音で我に返ったらしい。床に縫いつけられていた視線がその響きの中心──朝霧鈴音へと向く。


「で? 何から手伝えばいい?」



     × × ×



 聞けば、プラネタリウムの企画はいよいよ大詰めに入っているのだそうだ。

 部員ならそれくらい把握しておけよと言われそうだが、我が校では基本的に3年はノータッチが主流。僕もその基本に漏れず、自分が出展する作品ばかりを手がけていた。まあ時期が時期だけにそろそろ詰まっていて当然ではあるのだが。


「それでですね。今問題になってるのはBGMなんですよ」


 美術室の一角に椅子を寄せ合い、僕と朝霧さんも部員たちの輪に入って企画会議。軽く企画のあらましを説明した後で、工藤が目下の問題点をあげた。


「半径2メートルのプラネタリウムでどうやってBGMを流すかでちょっと揉めてまして」若干情けなさそうに工藤は言う。「皆でいろいろと意見出したんですけど……。どうしても私、外側からアンプでとか、プラネタリウムの中に小型のスピーカー置くとか、そういうのはしたくないんです」


 音質の問題だなとすぐに思い当たった。いい機材はバンド企画に取られてるし、高校生の財力で用意できるような道具では音割れは必至だ。ざらついたBGMなんていうのはプラネタリウムとして確かに問題だろう。


「私達は小型のスピーカーでいいんじゃないかって言ってるんですけど。工藤さんが音割れするからって譲らなくて……」


 呆れているのだとでも言いたげな口調は、他の部員からのもの。

 尤もだろう。そりゃあ金を出せばいいスピーカーも買えるだろうが、美術部と天文部を合わせても精々30人、文化祭のために金を出し合うわけにもいくまい。来年以降も毎年プラネタリウムやるならまだしも、所詮は一度限りの企画だし。

 とはいえ、この企画に尽力した工藤がこだわりを捨てられない気持ちも分からないでもない。むしろ三年に熱がないと嘆く僕だ。工藤に肩入れしたい気持ちの方が大きい。


「上演時間は?」


 さてどうしたものかと思考を巡らせかけたとき、急に朝霧さんが口を挟んだ。


「20分で予定してますけど……?」


 答えてくれた天文部部員はなんで急にそんなこと聞くの?みたいな顔。

 朝霧さんは構わず「20分かぁ」と続けた。


「ちょっと考えよう」


 朝霧さんと頷き合って、考えるついでに問題点をおさらいしていく。


「まず、プラネタリウム内にしっかり響かせても音割れしないやつってことになるよな」と僕。


「出来れば曲のオンオフがやりやすいと演出の幅も広がっていいよね」とは朝霧さん。


「あとは、20分間曲が続いて……」


「もちろんプラネタリウムに合った曲でしょ?」


「クラシックとか?」


「私は鉄琴のイメージのがぴったりかな。ほら、きよしこの夜とか」


「あー、わかるかも。キラキラ星とかね」


「そうそう、そんな感じ。そんな感じの音でさ」


「ついでに癒し系で」


「こう、レトロな趣もありつつ」


「かつ人手要らずで」


「神秘的な――」


 ああ、あれだ。


「「オルゴール」」


 ぴったりと二人の声が重なったのに驚いて、思わず顔を見合わせる一同。そして数秒の間、沈黙の妖精がその場を飛び回った。「でも」とその妖精を撃ち落としたのは、誰よりも解決策を渇望しているはずの工藤だった。大方、この調子で他の提案が却下されていったのだろうと察しがついた瞬間である。


「でも、20分も続くオルゴールなんてあるんでしょうか? 私も家にありますけど、いっぱいまで回しても10分持ちませんよ?」


 素直な疑問ほど的確なものはない。確かに、30弁のオルゴールでも連続稼働時間はまあそんなもんだろう。


「大丈夫。演奏時間なら問題ないやつがあるんだ」


 にもかかわらず僕がそう言い切れるのは、例外に心当たりがあるからだ。


「朝霧さんが持ってるオルゴールなら、多分30分くらいは持つんじゃない?」


 そうだったよね?と朝霧さんに振ってみる。振られた朝霧さんは感心したような表情で首肯した。


「すごいね七原くん。あのオルゴール知ってくれてるんだ」


「表彰までされてればそりゃあね」


 二年前にあった全校集会が脳裏を過ぎる。生徒全員が制服に身を包む中、朝霧さんただ一人がスーツ姿で壇上に立ち、表彰と共に盛大な拍手で祝福を受ける華々しい姿が。

 しかし、誇らしい思い出であるはずなのに、表彰の言葉を聞いた途端に朝霧さんはどうしてか目を伏せた。


「あー、そっか。……そう言えばそうだったね。うん、そんなこともされたっけ」


 壇上にいた本人の心境は、なにか思うところでもあったんだろうか? あまり楽しそうではないのは、朝霧さんにしては珍しい表情だ。現にあの全校集会でだって、彼女はにこやかに表彰状を手にしていたし……。


「あの!」


 工藤の声がやりとりの間隙を縫った。自分がまだ入学すらしていない頃のエピソードなど、彼女にとってはどうでもいい話であるようだった。当然だな。


「あの、そのオルゴール、明日持ってきてもらえませんか!」


 工藤はベテルギウスかプロキオンでも閉じこめたかのように瞳を輝かせている。その輝きは間違いなく朝霧さんを直撃しており、言外に『お願いします神様!』くらいの勢いすら滲む。

 さっきの感じからして、朝霧さんも最初から例のオルゴールを提案するつもりだったのは間違いない。工藤の勢いに一瞬だけ気圧されたものの、すぐに取り直して「もちろん」と快諾した。ばかりか、


「んじゃあ、善は急げって言うし、早速取りに行きますか」


 素早く椅子を立ち、なにか言いたげな眼差しで僕を見下ろしてきた。なんすか?


「ほら、何ボーっとしてんの七原くん。行くよ行くよ」


 至って真顔で言う朝霧さん。

 え、僕も?


「ほら立った立った!」


 判然としないままポカンとしていると、僕のブレザーの袖をふんだくってそのままずんずんと歩き出した。


「ちょ、ちょっと朝霧さん!?」


 混乱極まる僕に、


「さー行こー、やれ行こー!」


 後ろで唖然としているであろう工藤と愉快な仲間達を置いてけぼりにしつつ適当極まる号令をかけ、朝霧さんは猪突のごとく美術室の出入り口を突破した。

 善行即断は結構だけど、せめて開けたドアくらいは閉めようよ朝霧さん。



     × × ×



「いやーごめんね七原くん。オルゴール取りに行くなら、今が一番いいタイミングだからさ」


 学校を出てすぐに現れる寂れた商店街を真っ直ぐに歩く。店主が暇そうにテレビ鑑賞をしている肉屋の前を通り過ぎたところで、朝霧さんはようやく僕の手を放した。


「それはいいけど、なんで僕まで──っていうかなんであんな強引に」


 一番わからないのはそこだ。理由があるなら言ってくれれば否やはない、はず。大概の理由なら。


「ふっふっふ~ん。あれは演出だよ。まごまごしてると取られちゃうぞっていうね」


「はい?」


 予想外とか振り切って意味が分からない答えが返ってきた。


「まあまあ、あれはきっちり効果あったと思うから、期待しといて!」


 得意げにサムズアップ。何に期待しろと。


「それにしても七原くん。ほんとよく覚えてたね、私の三連ネジ式オルゴール。ちょっと嬉しかったかも」


 話題を早々に切り替え、朝霧さんははにかむように言った。こうして先程の強引の真相は闇の中へと相成れり。まあいいけどさ。


「休暇制作は僕も作ったからね。まさかあんな凄いの作ってくる人いるなんて思ってなかったし、それで余計印象的だったってのはあるかな」


 通常オルゴールというのは、最初に回すネジが一つだけ──とうのはわざわざ言う必要もない常識だ。そのネジを三つに増やし、巻いたネジの一つ目が戻りきったら二つ目が動き出し、二つ目が戻りきったら三つ目が動き出す──という細工を施したのが朝霧さん特製の三連ネジ式オルゴールである。それゆえに連続稼働時間は単純計算で通常の三倍。

 普通に考えたら去年まで中学生だった15歳の少女が作れる代物ではなかろうが、穿ってみれば、そういうオルゴールがあったらいいなという少女ならではの純粋な情熱があったからこそ実現出来たのだろう。


「でも、休暇制作で印象的っていうなら、七原くんのがダントツでしょ? あの超リアル生首!」


 やや前方を歩いていた朝霧さんがくるりと身を翻し、パッと表情を華やがせた。


「よ、よく覚えてるね」


「あっはは、あんなの忘れられるわけないよ。見るもの全てを引かせる戦慄のリアリティがあったからねあれは……」


 ぶるぶるっとおどけてみせる朝霧さん。


「ほんと傑作だったよあれは。七原くんどうやってあんなリアルなの作ったわけ?」


「あー、あれはね。鈴白先生があの時期に丁度そういう機械買ったんだよ、個人的に。で、休暇制作やったら内申も上がることだし、使ってみないかって」


 それが最初の試運転であったのは後に判明した話である。僕が献身的にモルモッ──モデルを務めた結果、人間を被体にした場合に最もリアリティが出るのが生首であることが判明した。

 いやはや、教師の実験で展示室に自分の生首を捧げることになるとは思わなんだよ僕は。


「リアルなわりにはすぐ出来ちゃうから、朝霧さんのオルゴールと比べたら労力も情熱も月とスッポンだけどね」


 機械の中に材料突っ込んだらスイッチオンでハイ完成だからな。文明の利器もここまでくれば味も素っ気もない。鈴白先生もすぐに飽きてしまったようで、今や美術室のオブジェと化している。宝の持ち腐れだ。


「あのオルゴールは手間と暇とリアルマネーがかかってるからねぇ。製作期間一年、完成間近にたまたま休暇制作なんてのがあってラッキーだったよ。おかげで日の目浴びられたし」


 語る朝霧さんは自慢げだ。


「ってことはなに? 朝霧さん、すでに出来てたやつ出したの?」


「へっへっへ~。ちなみにあの年は読書感想文も中三の使い回しだ!」


 威張るな、そんなこと。

 まったく、真面目そうに見えて案外とずぼらな人だっとは。

 しかしまあ、いい性格してるよ。

 カラカラとよく弾む会話を繰り広げていれば、歩いた時間なんてごくわずかに感じられてしまう。学校を出てから半時間足らず、体感的にはほんの束の間で、前をいく朝霧さんの足が止まった。


「さて、着いちゃった。楽しい時間はあっと言う間だよね」


 そこにはクリーム色に彩色された二階建ての家屋が佇んでいた。表札には朝霧の文字。ガレージに車がないあたりから、どうやら留守中だ。


「ちょっと待ってて。すぐ取ってくるから」


 慣れた手つきで鍵を開け、家主たる朝霧さんが中へと消える。

 よほど大切にしているんだろう。朝霧さんは宣言通りすぐに戻ってきた。しまった場所を間違いなく覚えている人間にしかできない早さだ。


「お待たせ」


 待ってない。

 二分もかからずに家から出てきた朝霧さんの両手には、オイルステイン特有のブラウン色をした木箱がしっかりと収まっていた。これこそが三連ネジ式オルゴールである。底面にネジが三つ、上面の蓋を持ち上げると演奏が始まるという仕組み。ネジ以外は一般的なオルゴールのそれだ。


「そういえば、なんでこのタイミングしかダメだったの? オルゴール取りにくるの」


 引き返す道中で聞きそびれていた疑問が口をついた。


「私今、テニス部の合宿に参加してるって設定だからね。あっちが合宿してる間は帰ってこれないんだよ」


「え。ってことは文化祭終わるまでずっと?」


 うちの女子テニス部の秋合宿は超がつくほど長いことで有名である。構内にある宿泊施設で行われる約三週間の共同生活は、苦しくも楽しいと評判だ。合宿費用もバカにならないだろうに、よくやるよなと思う。


「そうなるね。予定ならもうお葬式になってたはずなんだけど、まさかゾンビになるなんて思ってなかったしさ。いやー困った困った」


 などと言いつつ、朝霧さんは全く困った顔をしていない。それどころか、かすかに安堵の色すら伺える。


「ま、そういうことだからさ。当分はあの旧校舎で自給自足ライフをエンジョイしようかなってね」


「帰ろうとは思わないの? 合宿行ってるって設定誤魔化すくらいなら簡単だと思うけど」


 風呂もシャワーもないあんなおんぼろ校舎よりは百倍快適だろう。僕なら当然自宅をとるね。


「んー……、正直な話しちゃうと、あんまり魅力的じゃないかな、あの家は」


「どうして?」


「まあ、ちょっとね」


 ふと朝霧さんの表情に影がさした。美術室で一瞬見せたあの表情だ。

 お互いの間に沈黙の気配が立ち込めると、朝霧さんは「ところでさ」なんて枕詞を使って話の方向を折り曲げた。

 それきり家の話題に触れることもなく、往路とは打って変わって、復路の道のりは少し長かった気がする。



     × × ×



 オルゴールを携えて美術室へ凱旋した僕たちを待っていたのは、教室のど真ん中に鎮座した純白のヘミソフィアだった。布地を縫合して作り上げられた半球体は、想像以上に迫力がある。

 その半球の一部がぱっくりと裂け、中からぞろぞろと部員達が這い出てきた。


「あ、先輩! お帰りなさい! よかった、今ちょうど準備できたところなんですよ」


 出てきた工藤が僕たちを発見するや、ジャーキーに駆け寄る犬みたいに朝霧さんのもとへとやってきた。


「これですか?」


 朝霧さんが手にしたオルゴールをしげしげと眺める工藤。まるで鑑定家みたいだ。


「うん。大事なオルゴールだから、丁寧に扱ってね」


「当然ですよ。あの、鳴らしてみてもいいですか?」


 工藤にはもうありありと期待感が滲んでいる。その期待を一身に受けて、朝霧さんはにっこり頷いた。


「ありがとうございます! じゃあ、えーと……、どうせなんで、中へ」


 どうぞ、と促されるままに僕と朝霧さんはプラネタリウムの内部へ。

 半球内は広めのキャンプテントみたいな印象、その真ん中にあるのが投影機だろう──蜂の巣にされたサラダボールを2つ合体させた球体が設置されていた。しっかり軸が通っているあたり、回転できる設計のようだ。

 いやはや、企画自体は知ってたが、これほど力が入っているとは。工藤の執念すら感じる。


「当日は窓とか全部にダンボール貼って教室の中真っ暗にするんですけど、まあ今日はリハってことで……、暗幕お願い!」


 合図と同時に内部が真っ暗に。どうやら半球に暗幕を被せたらしい。右も左もなくなって、閉塞感から解放される。


「じゃあ、行きます」


 カチッと乾いた音がしたかと思えば、僕の隣で朝霧さんから感嘆の声が上がった。空には満天の星。いくら田舎でもこうは行くまい。雲一つなく、月すら消えた天球は圧巻の一言に尽きた。


「綺麗……」


 そう囁かれた声は、ガラスの靴を見たシンデレラのようで。朝霧さんは今どんな表情をしているんだろうかなんて想像しかけた僕の耳に、ゆったりと、ごくごく自然に、オルゴールのメロディが流れてきた。その瞬間、僕には鳥肌がたったね。それは他の二人も同じだったんじゃないのかな。

 外にいる部員から声をかけられるまで、僕らは三人とも無言で星空に浸り、おそらく、三人ともが同じことを考えていた。


 ――それからの二人は凄かった。


 文化祭実行委員なんて目じゃないくらいの、迸る情熱で企画スケジュールを練り込みまくり、天球を完成させたことで燃え尽き症候群となっていた他の部員軍団をもう一度奮起させ、ビラは配るは看板は作るは、あげくは放送部をも抱き込んで昼休みに宣伝放送まで垂れ流し、そんなこんなの日々の果て、あっという間にやってきた文化祭では、まさしく粉骨砕身の甲斐あってプラネタリウムは大盛況、それはもう上映回数を急遽増やすほど。そして、


「友香ちゃん、お疲れさま」


 全上映スケジュールを終えて、朝霧さんがそう微笑んだ瞬間、工藤は感極まって号泣した。



     × × ×



「いやー悪かったね。大事な後輩泣かせちゃったよ」


 プラネタリウムの会場となった教室の片づけも終わり、後夜祭へとなだれる群衆に紛れて僕もそちらへ行こうとしたとき、朝霧さんから話があるのだと呼び出された。


「ありゃ嬉し泣きだよ。分かってるくせに」


 いつかの中庭のベンチ。日は暮れかけていた。


「あ、バレた?」


 クスクスと一度笑ってから朝霧さんは決然と、


「それでさ、話なんだけど」


 覚悟を決めたように声を響かせた。


「私が自殺した理由、はぐらかしたままだったと思って。ちゃんと知っといてもらった方が、いいし。……ちょっと気分がいい話じゃないけど、ごめんね。先に謝っとく」


 すまなさそうな朝霧さんは、初めて見たかもしれない。ポジティブな側面ばかりを彼女は見せていたから。


「七原くんはさ、キスしたことある?」


「な、ないけど」


 いきなり何を言い出すのか朝霧さん。


「ふふ、だと思った。……私はね、されたことがあるんだ、キス。……じゃあさ、セックスも?」


 当たり前だ。

 自分の口で言ってしまうのはなんか恥ずかしくて、頷きだけで答える僕に、


「そりゃそうだよね」


 朝霧さんはやはりクスクスと笑っていた。


「私はさ、セックスもされたことあるよ。皆が言ってるみたいに、気持ちいいって思ったことはないんだけど、たぶん、七原くんが想像してるよりずっとたくさん」


 おそらく、その微笑が乾いて見えるのは、彼女の言い回しの意味に感づいたからだ。その先を聞くのは、気が進まなかった。僕にとって朝霧鈴音は、ずっと神聖な存在だったから。


「……愛はなかったけどね」


 グラウンドの方で花火が上がった。後夜祭開始の合図だ。

 しかしそんなもの気にもせずに、朝霧さんは語る。乾ききった笑顔で。笑うしかないでしょう?とでもいうように。


「最初にヤられたのは中三の時でさ、はっきり覚えてる。急に後ろから目隠しされて、わけわかんないうちに突っ込まれて……。幸か不幸か、ヤられてる途中に目隠しが外れてね、犯人誰だったと思う?」


 それは、間違いなく不幸な方に転んだという言い方だ。


「……お兄ちゃんがね、私の上で必死に腰振ってた。それも自宅のリビングでさ。信じられる?」


「そんなっ」


 朝霧さんのお兄さんといえば、昨年有名な国立医大に進学した、この学校屈指の超優等生だ。なのに――


「そうなるよねやっぱ。あの人、隠すの上手だから。でもホント。両親が帰ってくる前のリビングで、あの人は近親相姦やらかしたの。それでタガが外れちゃったのか、それとも最初からそうするつもりだったのか、そこら辺は知らないけど、その日からはもう何度も、ね。たぶん、七原くんが知ってるエッチなことくらいは、ほとんど全部させられたんじゃないかな。……だから当然、お兄ちゃんがいる高校なんか行きたくなかったんだけど、我が家の財政じゃ叶わぬ夢だったよ」


 なにか催し物でもしているんだろうか、グラウンドから聞こえる生徒たちの歓声がいやに胸に刺さる。


「案の定、高校入ってからは酷くなって。私を性欲処理の穴くらいにしか思ってないんだと思う。ヤりたくなったら呼び出されるの。……オルゴールで賞状もらったあの日だって、スーツのまんまトイレで輪姦(まわ)されてた。ほんと、最悪の思い出」


 どうして、


「どうして誰にも言わなかったんだよそんなこと」


「言えるわけないよ」


「なんでさ!」


「言えるわけないって。こんな田舎町だよ? そんなことバレちゃったら瞬く間に村八分。お父さんもお母さんもいられなくなっちゃう。そんなの耐えらんないよ」


 だから。

 だからなのか朝霧鈴音。


「だから、バレるわけにはいかなかった。クラスではいつも通り、家でもいつも通り、明るく元気で天真爛漫、そういう朝霧鈴音であり続けなきゃいけなかったの!」


 でも――と、朝霧さんの声が震える。


「でもさ……、お兄ちゃんに犯される度、皆に愛嬌を振りまく度、私の中で重大な何かがズレていくの。それで段々だんだんわけ分かんなくなって、体までおかしくなってさ。眠れないし食べられないしゲロばっか吐くし。でも、それでも強がってる自分が一番意味分かんなくて……いつの間にか、死ぬことばっか考えてた」


 一気に話し尽くした朝霧さんが、遮光メガネを取る。日は完全に暮れていた。

 今、僕の知っていた朝霧さんは完全に死んだ。目の前にいるのは、自ら作り上げてきた幻想の人格を脱ぎ捨てた怪物。一切の余裕をなくして、真剣な眼差しで僕を見る朝霧鈴音だった。


「七原くん、これだけは分かって。死にたいわけじゃない。私だって生きていたいよ。でも、私のことを誰も知らない、誰も追っかけてこない世界に行く方法を、私は死ぬ以外に知らなかっただけ。その世界で生きたいと思っただけなの」


 日はもう無い。あと少しすれば、朝霧鈴音はまた自宅へと戻らなければならないのだ。そうなればまた逆戻り、ばかりか、彼女がゾンビであることが分かればさらに事態は悪化するかもしれない。


「朝霧さん」


 おそらく、僕は地獄に行くだろう。


「本当にそれでいいんなら、僕は一回だけ、手を貸すよ」


 ――どうか、彼女に救済を。



     × × ×



 秋の葬列は悲しみに沈んでいた。皆口々にどうして何故と疑問をこぼし、少女の死を悼んでいる。

 この田舎町では類を見ないくらいの大事件だった。学業優秀、天真爛漫、いつもクラスの中心にいた人気者が、一枚の遺書を残して自殺してしまうなど。悲しみに暮れる両親は、一昼夜休むことなく落命症による蘇生を祈り続けたそうだが、その甲斐もむなしく昨夜死亡の診断がついた。

 遺書には、遺骨を残さない完全火葬の指定と、何者かへの怨恨を色濃く匂わせる文章が含まれていたらしい。おそらく、近々学校に調査のメスが入るだろう。

 そんな情報を聞いてもいないのに教えてくれたのは、僕の家の近所に新聞屋を構えてるおっさんだった。いいのかな、そんな口軽くて。仮にもマスメディアの一角がさ。

 まあ、言われるまでもなく僕は内容全部知ってるわけだけど。内容考えたの僕だし。今棺桶で狸寝入りしてる御遺体が『おおー、書ける書ける! 恨み辛みならいくらでも書ける! 降ってくる!』とか言って、超ノリノリで遺書を書いていた現場も知っている。


 四日前、文化祭のクライマックスを二人してふけった僕らは、企画大賞を受賞した工藤の雄姿を拝むこともなく、一目散に美術室へと駆け込んだ。

 そんな時間に残っている人間などいるはずもなく、僕らはまんまと仕掛けを済ませ、今度はそのまま旧校舎へ直行、ゾンビ自慢の外傷回復能力を当てにしているとしか思えない豪快な捨て身タックルで窓ガラスを突き破り、常闇の校内へ侵入、僕らが出会った旧理科準備室にたどり着いたところで、朝霧鈴音と僕の作戦は始まった。


「七原くん、お願いがあるんだけど」


 ダンボールとガムテープで隙間という隙間を埋め終わり、最後の一枚を残すのみとなったところで、朝霧鈴音が言った。


「なに?」


「お通夜の時さ、バレないように棺桶に携帯入れてくれない? 連絡も取りたいしさ。……はいこれ」


 現代っ子め。

 ひょいと手渡された携帯電話を眺めつつ、疑問が一つ。


「携帯なかったら怪しまれるんじゃないの?」


「ちっちっち、女子を侮っちゃあいけないよ。じゃ~ん」


 朝霧鈴音は猫型ロボットみたいな仕草で、


「親にも内緒の二台目携帯電話~」


 声まで似せて懐から全く同じ形の携帯電話を召喚した。同じ機種をなぜ。


「一つは人に見られても大丈夫なやつで、もう一つは秘密ぎっしりの危ない携帯です」


 女子怖い。


「まあまあまあ、ともかくさ。それ頼まれてよ七原くん。お願い」


 まあいいけどさ。

 了承して携帯電話を預かる。


「じゃあ、僕はこれで。後は手はず通りに」


「うん、ありがと」


 うなずく彼女をその場に残して、僕は唯一残された出口へ向かう。もう戻れない。券売機で地獄行きのボタンを堂々と押すような気分だ。


「広樹くん」


 出口の直前、名を呼ばれて振り返る。朝霧鈴音は笑っていた。ついに子を授かった母のように、


「バイバイ」


 彼女は手を振った。


     × × ×



 通夜式の後、遺族の控え室へお邪魔した時に約束は果たした。眠る朝霧鈴音の手にこっそりと携帯を握らせると、彼女はそれを素早く白無垢の中へと隠した。分かっているのに、こういう仕草が見られて妙に安心するのは何でだろうか。この茶番が終われば、すぐにまた会えるというのに。

 これが罪悪感なのか。何かに騒ぐ胸を自覚しながら、


「これ、テニス部のみなさんからです。ユニフォームとテニスシューズ。……入れさせてもらっても大丈夫ですか?」


 疲れ切っているご両親に了解を得て、もう一つ持ってきた箱を棺桶に入れさせてもらう。そして、全ての役目を終えた僕はその場を後にした。

 後は神頼みだ。誰も箱を開けないことを祈るだけ。胸中が震えるのは不安感なのか。それとも、全ての元凶たる彼女の兄が、被害者ぶって沈痛を演じていたことへの嫌悪感だったのかもしれない。



     × × ×



 電話がかかってきたのは、その日の夜──日付が回っていたから翌日か──時計が午前三時をさしたくらいのことだった。


『あ、七原くん?』


 電話口から響いてきた朝霧鈴音の声は、至って平静だった。


『ごめんね遅くに』


「いや、それはいいけど。そっちは大丈夫なの? 電話なんて」


 僕はといえば沸々と浮かび続ける不安感のせいで落ち着かず、自室のベッドの上で寝返りを繰り返していた。加えて朝霧鈴音からの電話で心臓まで騒ぎ出している。今夜は眠れそうにない。


『ふふ~ん。リハーサルってやつ? 持ってきてくれたダミーと入れ替わって、今棺桶からこっそり抜けてきたんだよね。だから大丈夫』


 呆れた女子だ。

 僕はわざとらしくため息をついて、なぜか高鳴っている心臓をなんとか抑えようと試みる。


「ほどほどにしときなよ。いくら生首がリアルだからって、胴体までは作ってないんだからさ」


 みんなが後夜祭で浮かれる中、僕と彼女は美術室で彼女の生首を作った。その生首が、テニス部のユニフォームに紛れて彼女の棺桶へと収まったというわけだ。


『わかってるって。ちょっと仕返ししてきただけだから、またすぐ戻るよ』


「仕返し?」


『うん。寝てるお兄ちゃんの枕元に立ってね。くすぐったらすぐ起きたから、「絶対に許さない」って脅してやった。貞子っぽくね』


 呪い殺すような形相で実兄の顔を覗き込む朝霧鈴音が容易に想像できた。

 彼はさぞ震え上がったことだろう。目を開くとそこには、暗い瞳でこちらを凝視する白無垢の女がいるのだ。ばかりか、憎しみ以外の何物でもない感情を込めて「許さない」と呪詛を呟く。

 ……絶対に許さない、と。


『お兄ちゃんビビりまくってさ。すぐ布団に潜り込んじゃった。多分しばらくしたら外に出てくるんじゃないかな。棺桶のそばには怖くていられないだろうからさ。ま、そのタイミングで戻るよ』


 なんとまあアグレッシブな。バレたら元も子もないというのに。


『大丈夫だよ』


 僕の心配を見透かしたようなセリフ。


『お父さんもお母さんも、疲れきっててさ。起きそうになかったから。……ちょっとイタズラしちゃった』


「……そっか」


 彼女の語りに罪悪感が滲む。おそらくは両親に、参列者に。


『でも、自分がこんなに愛されてるなんて思わなかったな。みんな泣くんだもん。棺桶の前でさ。こっちまで泣きそうになっちゃった』


 通夜式はそこら中から涙を堪える音が零れていた。誰も彼もが肩を震わせ、目尻を拭っていた。それほどに、朝霧鈴音という人格は愛されていた。


「工藤も泣いてたよ。文化祭ではあんなに活き活きしてたのにって」


 でも誰一人として、


『あらら、また泣かせちゃったわけだ』


 この笑顔の真意を考えなかった。


『……ねぇ、七原くん』


「ん?」


『ありがとね。文化祭誘ってくれて』


「なんだよ。急にそんなこと。最初に提案したときは渋ってたくせにさ」


 そう言えば、彼女はアハハと笑った。


『まあ最初はね。でもさ、楽しかったんだ。死んじゃってから言うのもなんなんだけど、生きてる気がしたの。みんなで考えて、行動してさ。楽しかった。ほら、中三からは私、色々ため込んでたから。そういうのから解放されたっていうの? 思いっ切り楽しむ感覚、ずっと忘れてた気がする。だから、ありがとね』


「いいよ、そんなこと」


 僕だって最初は苦し紛れの提案だった。とりあえずの時間稼ぎだった。そこに価値を見出したのは、彼女自身だ。


『うん。じゃあそろそろ切るね。お礼だけ言っておきたかったんだ』


「そっか。じゃあまた明日。放課後に」


『うん、じゃあね』


 お互いが了承して、沈黙が降りる。カチコチと部屋の時計が時間を刻む音だけが室内を包む。静寂。

 電話は切れなかった。


『七原くんはさ。人生楽しい?』


 秒針がたっぷりと一周はしたくらいに、静寂を裂いたのはそんな問いだった。


『私は楽しくなかった。強がってるばかりの毎日なんてさ』


 酷く思い詰めたような、どこかに自嘲が入り込んでいるような、そんな響き。


『七原くんは? 人生楽しい?』


「うーん、どうだろうね」


 どうなんだろうか。改めて考えると、その答えは見えない。


「今はよくわからないよ」


 でも。


「でもさ。僕は朝霧さんの生き方羨ましかったよ。ずっとね」


 旧校舎で見つけるまでずっとだ。知らなかったからこそ、輝いて見えていたのかもしれない。


『私が?』


 意外そうに漏らした彼女に、僕はそうだよと頷く。


「……僕はさ、選ぶってことから逃げ続けてここまできたからさ。大多数とか状況とか、そういうのに流されるまま生きてきたから、そうじゃない生き方をしてる朝霧さんが羨ましかったよ」


 マイノリティを生き、その上で皆から慕われている朝霧鈴音が、僕は羨ましかったんだ。小さな頃に憧れたヒーローみたいで。


「僕なんか、みんな熱がないとかどうとか愚痴るばっかで何もしないし。もうじき受験だっていうのに将来を決めるのすら億劫で、未だにダラダラ美術室通って時間潰しなんかして。……我ながら腐ってるなあ、なんてね」


 モラトリアム──といえばそれらしいけど、要は選ばないという選択をただただ選び続けているだけ。変化のない退屈な日々。変化を望んでいるくせに、そこに自分で踏み込むのが怖いから、変化が訪れるのをただただ待つ。日常。


「だから、旧校舎で朝霧さんと会ってからこれまで、不謹慎だけど、ちょっとワクワクしてたんだ」


 非日常が降ってきたような気がした。ゾンビになってしまった女の子と行動を共にする自分に、どこかで酔っていたんだ。


「なんか、やっと僕にしか出来ないことに出会えた気がしてさ。朝霧さんに協力したのだって、そういう高揚感があったからだし」


 刺激が欲しかっただけなのかもしれない。

 文化祭の最中もずっと、頭の片隅では彼女のことを考えていた。どうすればゾンビを殺すことが出来るのか、どうすれば彼女を殺さずにすむのかを。

 そんな思考を巡らせて過ごす毎日は、目的もなくダラダラと時間を浪費していた僕にとって、凄く充実していて。朝霧鈴音がいる日常が、楽しかった。

 腐ってたはずの毎日が一転、心がうわつく毎日。

 何が起こるかなんて本当に分からないもんだなと思う。でもきっと、その積み重ねなのだ、人生ってやつは。


「僕、思うんだけどさ」


 だから、人生が楽しいか楽しくないかなんていうのは、


「終わってみなきゃ分かんないんじゃないかな。人生なんて」


 なにを積み重ねてきたかで決まるはずだ。


『……そうかもね』


 一頻り喋った僕の言葉をゆっくりと飲み下すような静かな声で、静聴していた朝霧鈴音が応答した。


『じゃあこれから、私の人生は楽しくなるかもってわけだ』


 いつもと変わらない明るい口調。


「そうだよ。朝霧さんならきっと大丈夫。楽しくできるって」


『うん、ありがとね。安心するよ』


「だから、ちゃんと戻ってきてよ。待ってるからさ、僕は」


『うん、分かってるよ』


 微笑する顔が目に浮かぶ優しい声が、耳をくすぐる。

 しかし、その笑顔が彼女の強がりであることを、僕はもう知っている。おそらく朝霧鈴音は──。

 でも、やめろとは言えなかった。


『七原くんは生きてね。この先いろんなことがあると思うけど、どんなことがあっても、生きて』


 叫びだしたい衝動を押し殺し、彼女の言葉を飲み下す。声を上げてしまえば、叫んでしまえば、次々と繰られる彼女の言葉に諭され、懐柔されてしまいそうだった。揺るぎない決意の前に、僕の言葉は無力で、


「待ってるからな。ずっと、待ってるから」


 そんな声を震わせることしかできなかった。


『うん、ありがと』


 ひとこと謝すと同時に、向こうで空気が動く気配がした。


『……じゃあ、そろそろ戻らないとだから』


「朝霧さん!」


 去り際の彼女を呼び止めたのは、半ば無意識的。


「生きて……なにがあろうと、生きて」


 その声が彼女に届いたのかどうか、それを知る術はなかった。程なくしてぷつりと、電話は切れた。



     × × ×



 翌日、僕らが授業を受けている間に、朝霧鈴音の告別式はとり行われた。

 僕はいつも通りに授業を受けながら、教室の時計をじっと眺めていた。ポケットの携帯電話が震動したのは、告別式がもう始まろうかというくらいのことだった。

 先生の目を盗んで携帯を見れば、メールが一通。送り主は朝霧鈴音だった。

 内容に目を通した途端、僕から一切の集中力が吹き飛んだ。一刻も早く放課後になれと、これほど強く願ったことはないかもしれない。

 ずっと心をそわそわさせたまま授業を消化して、ようやく最後のホームルームが終わった時には、僕は一目散に教室を飛び出していた。



     × × ×



『旧校舎の理科室。窓際のロッカーの中に隠しアイテムがあるよ』


 その言葉通り、理科室に放り込まれていた一個のロッカーを開けると、見覚えのある物が姿をあらわした。

 オイルステイン独特のブラウンカラーに染まった、小ぶりの直方体。朝霧鈴音の三連ネジ式オルゴールだ。

 いつの間にこんな物を仕込んでいたのだろう。後夜祭で僕と別れた後、わざわざ貼り付けた段ボールをベリベリとはがし、せっせとオルゴールの隠し場所を探す彼女の姿が脳裏に浮かぶ。

 わざわざネジまで巻いておいたらしい。蓋を開けば、音色が響いた。あのプラネタリウムを包んでいた神秘的な曲が。

 そして同時に、その蓋に一枚の手紙が張り付けられているのに気づく。


『七原くんへ』と。


 僕に宛てられたその手紙。まず手始めにこう書かれていた。


『お元気ですか? 今日の授業、ちゃんと頑張った? しっかり受験に備えなきゃダメだよ。さてさて、この手紙を君が読んでいるころ、私はもうこの世から消え去っていると思います。ここで落ち合おうって約束してたのに、ごめんね。せっかく協力してくれたのに、裏切っちゃって。なので、諸々の謝罪と感謝の気持ちを込めて、最後にこの手紙を書くことにしました』


 オルゴールが奏でる音楽を聞きながら、僕は心の中で何かがすっぽりと抜け落ちる音を感じた。予感が確信に変わった音だったのかもしれない。


『もしかしたら、今頃七原くんは罪悪感にとらわれているかもしれないけど、そんなの背負う必要はないよ。君はただ、私に裏切られただけなんだから。私を憎たらしく思うくらいでちょうどいいんだからね。そこんところ、ちゃんと分かっとくよーに』


 その一文一文が、全部彼女の声で再生されていく。


『で、ここからが一番書きたかったことです。七原くん、本当にありがとう! 君がいてくれた数日間、最高に楽しかった! これまでずっと、死ぬほど息が詰まりそうだったけど、七原くんたちと過ごした時間は、私にとって一番の宝物です。本当にうれしいことばっかりで、おあずけされてた幸せがいっぺんにやってきたみたいだったよ。このオルゴールを知ってる人とめぐり会えてうれしかったし、何だかんだ言って私のこと考えてくれててうれしかったし、一番最初、作ってまで遮光メガネ持ってきてくれてうれしかった。もう全部全部ぜぇーんぶうれしくてさ、体中がぶわぁ~ってなったよ。だから、ありがとね。一つ残らず全部、七原くんのおかげです。人生なんて楽しくないと思ってたけど、まさか最後の最後に大逆転しちゃうなんて思わなかったし。本当に、ゾンビになれてよかったよ。七原くんに見つけてもらえて本当にラッキーだった』


 でも──とその手紙は続いた。


『でも、こんなにいい思いさせてもらったけど、私は逝きます。この先上手くいったとしても、今度はいろんな人を騙した罪悪感に耐えられない気がするから。ごめんね、七原くん。せっかく協力してくれたのに。なので、もうこんな性悪女につかまらないように。ではでは、手紙の面積も減ってきたのでここで終わりにします。七原くんがくれた幸せ、いっぱいありすぎてお腹いっぱいです。もう悔いはありません。だから七原くん、私にくれた幸せの分だけ、今度はあなたが幸せになってください。ずっと応援してるからね。鈴音より』


 放課後の旧校舎、立ち尽くす僕をあざ笑うかのように、北風が窓ガラスを叩いた。払いきれない胸のもやもやが、ぐるぐると渦を巻いて僕の心を奈落へと引き摺っていく。

 予感はしていた。そうなんじゃないかと思ってはいた。だけど、だけど。

 生きていてほしかった。生きていてほしかったのに――!


「ぁ……ああ、うああああああ!!」


 言葉にならない絶叫とともに僕はその場に崩れた。手紙をぐしゃりと握りつぶし、泣く。大声でむせび泣き、吠え、その都度吐き出される涙と声が、旧校舎の冷たい床に零れて消えた。


『ps.いい加減本腰入れなよ、受験生♪』



【おしまい】

「な~んてことにはならないんだよねぇ」


 泣き叫ぶ僕の背後から、唐突にそんな声がかけられて、僕は雷に撃たれたかのように振り返った。その先、声を放った人間の正体を見て愕然とする。

 紺色のスクールブレザーに身を包んだショートヘアの少女がそこに佇んでいた。銀縁の遮光メガネがいやに似合うその相貌は間違えようもない。


「朝霧、さん……?」


「へへ、ドッキリ大成功ってやつ?」


 にまりと笑う朝霧鈴音がそこにいた。


「生きて、た……。朝霧さんが」


 僕は泣き疲れ果てた体をふらふらと動かし、立ち上がる。


「いやー、最初はそのまま死んじゃおうと思ってたんだけどさ。気が変わったってやつ? 棺桶に制服入れてもらえててよかったよ。あれ無かったら全裸で登場するはめになってたもんね」


 くるくると声を紡ぐ彼女へ向かって、僕はゆっくりと歩く。泣きじゃくりすぎてもう精も根も尽き果てた。お前のせいだぞ朝霧鈴音。


「そんでもって、これで私の計画は失敗になっちゃったわけだ。その手紙で七原くんに完全に嫌われる予定だったんだけどなー。うーん……なかなかどうして、思った通りには行かないというか、まさか自分自身の気が変わっちゃうとは思わなかったよ」


 どうでもいい。そんな話はどうだっていい。

 朝霧さんの語りを右から左に聞き捨てながら、僕はゾンビのようにふらふらと彼女に肉迫していく。


「七原くんが後追いなんて考えないように書いた手紙も、こうなると黒歴史よね――って、七原くん?」


 吐息がかかりそうな距離まで迫ると、さすがに彼女も戸惑ったようだった。

 しかし、


「ちょっと、七原く──」


 その反応にすら構わず、僕は彼女を胸の中へと抱きしめた。朝霧さんの体は、僕が思っているよりもずっと小さくて、ともすれば折れてしまうんじゃないかと思うくらい華奢だった。

 それでも離すまいと抱きしめ、僕は呟く。「よかった」と。


「よかった……。生きててくれて、よかった」


 さんざん泣いた筈なのに、また涙がポロポロとこぼれていく。その雫が、朝霧さんの頬に落ちて砕ける。

 ぽつりぽつりと降りかかる雫を拭おうとはせず、朝霧さんは曖昧な微笑で僕を見上げていた。


「もう……なに泣いてんのよ」


「生きててほしかった……生きていてほしかったんだ……」


 溢れ出す声が震える。それが伝播したのか、腕の中の朝霧さんもふるふると小さく震えているのがわかった。


「それは、生きようと思ったのはさ、君のおかげだよ。初めて、言ってもらえたんだ……生きてって。どんなことがあっても、生きてってさ。だから、七原くんのおかげ」


 そう言って、懸命に笑顔を象る。彼女はどこまでも不器用だ。そう思った。


「なに笑ってんだよ」


 わなわなと震える僕の声は、魂の叫びだ。


「辛かったんだろ?」


 虹彩の開ききった仄暗い瞳を見据える。今にも泣き出しそうな、そんな瞳。


「苦しかったんだろ?」


 中庭のベンチでも、後夜祭の旧校舎でも、通夜式の電話でも、彼女は笑っていた。


「なに我慢してんだよ」


 その笑顔で自分までもを欺いて、押し殺してきた少女。周りに笑みしか見せてこなかった不器用な女子。


「そんな……私、我慢なん、か――」


 その乾いた瞳に、じわりと涙が滲み始める。

 そこで泣くまいと堪えてしまうのは、彼女の(さが)なのかもしれなかった。それが僕の(かん)を撫でる。


「なに頑張ってんだよ!」


 荒げた声は完全に号泣を孕んでいた。


「周りにばっか尽くしてさあ!」


 滲む。クラスの人気者だった朝霧鈴音の姿。


「ずっとずっと一人で頑張ってきてさあ!」


 滲む。微笑を貼り付けたまま、過去を告白した朝霧鈴音の姿。


「ダサいよ……独りよがりだろそんなの……」


 滲む。僕を見上げる少女の目に、涙が滲む。


「たまには泣けよ、怒れよぉ……、朝霧さん、こんなに頑張ってるだろ。こんなに、頑張ってるんだからさ……」


 滲む。滲む。朝霧鈴音の魂の雫。

 笑顔の鎧に走った亀裂からこぼれ落ちる。

 声、言葉、言霊。

 頑張ったよ──と。


「頑張った……私、頑張ったよ」


 僕を見上げ、そう言って泣いた彼女の感情は、まさしく堰を切ったように、


「私、わたし、は……う、うぅ……ぁ、うぁ……ああああ!!」


 全てを押し流すように溢れ出しだした。


「頑張った……頑張ったああああ!!」


 天を衝くような声で咽び泣く朝霧鈴音は、なにもかもを吐き出しながら、僕の腕をすり抜け、膝から崩れ落ちた。そしてそのままわんわんと泣きじゃくる。喉を震わせ、声を震わせ、肩を震わせ、まるで子供のように。綺麗な顔がくしゃくしゃになるのもお構いなしに、朝霧さんは轟々と泣いた。

 繕うことを止めた彼女は、もうぼろぼろだった。笑う度に傷つき、その傷を見せぬためにやはり笑っていた少女は傷だらけで、こんなにも危うかった。

 落命症となってなお、癒えない傷を抱える少女──朝霧鈴音。

 その女の子を、僕はもう一度抱きしめる。今度は優しく、そっと、手折らぬように……。



【おしまい】

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