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ある王国の物語~伝承【前編】

昔ある国に王様とお妃様がいました。


王様の名前はユウ。


お妃様の名前はポニャといいました。


ユウは王子の頃から真面目で賢く、ハンサムだったので、とても人気がありました。


貴族達の間でも評判で、次期王となるであろう、この王子に、(みんな)自分の娘を嫁がせたいと狙っていました。


王子もやがて年頃になり、両親も結婚を望んでいましたので、貴族の子女のみならず、他国の年頃のお姫様もその対象として、国の内外に【御触(おふれ)】を出しました。


但しこの【御触】は少し変わっていて、条件がひとつだけ付いていたのです。


それは、『王子本人が承諾する事』なのでした。


そう書くと、『何だ、普通じゃないか?』とか『どこが変わってるの?』とか思われる方もいるかも知れませんが、国王や貴族が存在する封建社会では、時代の通念として、政略結婚が当然のように行われていました。


お互いに影響力の強い相手の家と結びつく事で、他者を圧倒したり、一族を守るためだったのです。


ところがこの国の王様は、ある意味、先見の明があったのか、家族愛かはわかりませんが、王子の意思を第一に考えようとしたのです。


当然、もともと貴族達はこの機会を狙っていましたので、ここぞとばかりに自分の娘を着飾らせると、次から次へと王子の前に連れて来ます。


その数は、お城の外まで長蛇の列が出来る程でした。


ところがこの王子様は、とても面食いなのか、一目(ひとめ)見るなり、皆断わられてしまいます。


王様はもとよりお妃様も、これには困り果ててしまいました。


それでもユウ王子はどこ吹く風と、とてもマイペースな態度で断わり続けます。


そこで王様は王子を呼び、尋ねました。


「正直に答えなさい。怒ったりはしない。おまえは本当はまだ結婚したくないだけじゃないのか?」


王様は余りにも王子が断わり続けるため、貴族達の中にも『侮蔑(ぶべつ)』や『屈辱(くつじょく)』と考える人もいて、却って逆効果になるのを怖れたためでした。


さらに言えば、王子自身が実はまだ結婚したくないために、本当の事が言えず、苦肉の策として断っているのかも知れないと考えたからです。


仮にもしそういう事なのであれば、百害あって一利無しですものね?(^_^;)))…。


ところが王子は至って真面目な顔で、こう言うのです。


「父上、私は結婚はしたいのです。私の気に入った方がいらっしゃれば、直ぐにでも承諾します。けれども、今のところはまだお会い出来ないだけです。」


王様は溜め息を吐くと、王子の眼をもう一度しっかり見つめながら、「それに相違(そうい)ないな?」と念を押しました。


すると王子は「相違ありません。」と答えて、また再び、お引き合わせが続くのでした。



そんなある日の事、カクセキという隣の国の王が、自分の娘を是非とも王子の妃にと申し出て来ました。


そのまま、快く承諾すれば、もしかしたら事は大袈裟に成らなかったかも知れません。


ところが、そもそもこの国は周辺の国を束ねる盟主国(大国)であり、カクセキの国はその属国のひとつでした。


王様は正直にカクセキに伝えました。


「王子が貴殿の娘を気に入らなければ叶わぬ!」と…。


するとカクセキは、その返事を受け取るや怒り心頭で、始めは『武力侵攻も辞さぬ!』という構えを取ろうとしましたが、自分の娘とはいえ、彼女は『絶世の美女』であるという自負があったため、一計を案じ、この条件を受け入れました。


その替わりと言っては何ですが、『もし王子が娘を気に入ったならば、私を貴国の宰相にして欲しい…。無論、今すぐでなくて良い。王子が後継ぎとして王になってから…。』そう条件を付けたのでした。


王様はこの条件にしばらく悩みました。


しかしながら、今では弱体化しているあの国も、昔は強国であり、何よりも元々はこの国の王族が建てた兄弟国です。


しかも弱体化しつつある国を支えて、カクセキの代で再び力を取り戻しつつあったのですから、彼が優秀な人物である事は疑いようがありません。


そして、あくまでも王子が気に入らなければ、反故(ほご)に出来る条件でした。


王様は決断します。


『此のままでは確かに(らち)があかない。考えようによっては、どちらに転んでも有益となろう。』


そこで考えを改めてその条件を飲んだのでした。


ただ最後まで心配だったのは、此のカクセキという人物が、かなりの野心家であるという一点だったのです。


真面目一徹だけが取り柄の王子が、将来彼と対峙した時に渡り合えるのか…。


そして彼が野心を見せた時に、果たして抑え込めるのか…、それが心配でした。


いよいよご対面という日になって、隣国からは大行列のお供を伴う力の容れようです。


まだ王子が気に入るかもわからないというのにでした。


『もしや…気に入らなければ、一戦も辞さない…。』


そういう脅しなのでしょうか?


そう取られても不思議はないくらいの思い切りの良さが其処には在りました。


王女は小綺麗に(しつら)えた馬車に乗り、顔には薄いベールをしています。


そしてその横には威厳に満ちた風貌(ふうぼう)(そな)えたカクセキが座って居るのでした。


ついに馬車は城に到着すると、国王夫妻と王子との緊張のご対面です。


王女は父のカクセキに手を引かれて歩きながらも、大きな反応は見せませんでした。


とても落ち着いたものだったのです。


対面の間に来ると、王子は彼女がベールをしている事が気になり、「ベールを取って下さい!」と言いました。


それに対してカクセキも、平然とした顔で娘に、


「ベールを取りなさい!」と命じます。


王女様はゆっくりとベールを取り、いよいよ直接のご対面となりました。


王子はまざまざと王女を見ますが、「是」とも「否」とも言いません。


王様は少し心配になってきて、王たる威厳を損ねるかも知れませんが、思わず横目でチラッと王子の顔を見ました。


すると、王子は顔を真っ赤にして、呆然と王女を見つめていたのでした。


当然、正面に立っているカクセキからは、その様子がまる見えです(^ω^)☆


正に『してやったり♪』でした。


次の瞬間、ユウ王子ははっきりとした口調でこう尋ねました。


「お名前は何とおっしゃるのでしょう?」


今までは直ぐに断わり、相手の名前にすら関心が無かった王子の何という替わり様でしょうか?


此の瞬間に、もはや勝負は決したのでした。


王女は落ち着いた、か細い声で「ポニャと申します…。」と答え、そのあまりにも上品で(しと)やかな態度と、美女ではあるけれども、可憐さも内包している顔立ち、そして細く()んだ声が、王様夫妻にすら好印象を与えたのでした。


こうして王女ポニャは王子ユウと結婚する事に成りました。


カクセキは「娘をどうかよろしく…。」とだけ伝えて、お付きの者はそのまま残すと、守備隊を伴って隣国へと帰って行きました。


二人はしばらく幸せな生活を共に歩んで行く事になります。


王様夫妻も義理の娘となる王女をとても可愛がりました。


王女も落ち着いた物腰を常とし、何かにつけて気を配りながら過ごしていたため、周りの者からも愛されていきました。


此の時期が若い二人にとって一番幸せだったかも知れません。



時は流れ…王様夫妻も依る年波には勝てずに、相次いで亡くなります。


いよいよユウ王子が皇太子から王となる日がやって来ました。


其処へここぞとばかりに、隣国から、久し振りにカクセキが乗り込んで来ました。


カクセキは先王との約束を守るようにユウ王に迫ります。


『自分を此の国の宰相にするように!』と。


実は先王崩御の際も、応援の人員を伴ってやって来て、何かとユウ王子の到らぬ点を補佐し、陰の役回りを見事にこなして黒子(くろこ)に徹し、すっかり王子の信頼を勝ち取っていたカクセキにとっては、何の躊躇(ちゅうちょ)も無かったのです。


何と言っても娘はお妃様ですしね(´- `*)♪


そしてユウ王もカクセキには既に信を置いていましたから、自然の流れでそれを認めました。


何よりも先王と違って、真面目一筋で疑う事を知らなかったのです。


カクセキはやはりとても優れた指導者でした。


隣国の自らの国の跡目には、息子のカクユウを当てて、任せて在るので安心です。


カクユウも幼い頃より、父の背中を見て育って来ていたためか、若さに似合わず老獪(ろうかい)でした。


そのため、カクセキは後顧(こうこ)(うれ)い無く、此の国の宰相として辣腕(らつわん)(ふる)う事が出来たのでした。


一方、王となったユウは妃となったポニャの、周りに対するそつない対応の仕方や気の配り様を見つめながら、改めて彼女に惚れ直してしまうのでした。


ポニャも美女で可憐なだけでなく、此の頃になると大人の女性として成熟して来て、それはかとなく、(ほの)かな色気も備わって来ておりましたので、ユウ王は相変わらず彼女にぞっこんだったのです。


性格の優しさも親に似ず、素敵な女性として周りには(うつ)った事でしょう。


カクセキは王のユウがポニャにぞっこんなのを良い事に、跡継ぎを早く作る様にと(うま)く誘導していきます。


「先王様夫妻は悲しい事に、跡継ぎを見る事無く亡くなられました。せめて義父である私が生きている間に孫の顔を見せて下さい…。」とか何とか(笑)


「その代わり、それまでは、私が此の国の重責を(にな)って差し上げる所以、頑張られよ♪王の(まつりごと)への道を作って差し上げるのも、外戚としての私のお役目と心得ております…♪」とか何とか(爆笑)


もともと真面目一徹なだけに、すっかり(だま)されてしまったユウ王は、全く疑う事無く、義父の勧めに従って政務を(かえり)みなくなってしまいました。


そして四六時中ポニャ妃の(そば)ばかりに居るようになりました。


その間に、王の信頼厚いカクセキは、着々と自らの地盤の強化を(はか)って行きます。


王の知らない間に、此の国の政務や軍を担う重要な役目を負う立場の(おも)だった者達は皆、カクセキの息が掛かった者に成り、或いは立場を受け入れない者達は次第に遠ざけられたり、別の者とすげ替えられたりしたのでした。


やがて貴族達は皆、王の事を真面目で利発だった王子の時代の印象よりも、政務に関心の無い女に溺れた怠け者という印象の見方が強くなり、侮蔑の対象として見るようになっていきました。


臣下にとっては、愛情とか跡継ぎ誕生よりも、()ずは王としての責務を全うする姿勢の方が大事ですからね…。


個人的な問題は端からはよく見えないものですし、理解も得られ(にく)いというのは、今も昔も変わらない事なのでしょうから…。


権力をほぼ掌握したと確信したカクセキは、そのうちに賄賂を取ったり、増税を課したりと、思いつくままの暴政を始めました。


それは此の国から、搾り獲れるだけ搾り取って、国の内側から崩壊させようとする程の勢いでした。


実は此の国を乗っ取って、隣国である自領に併合してしまおうという遠大な計画だったのでしょうか?


いよいよカクセキの本性がだんだんと表れてきましたね…(^_^;)))


ユウ王もポニャ妃に意識が行き過ぎたが所以に、だんだんとポンコツになっていき、そんな一大事に気づく事が出来きませんでした。


そして、此のカクセキの不正の罪は全て、ポニャ妃に夢中なユウ王に着せられていくのです。


そんな事とは露程も知らない幸せな男・ユウ王は、ある日の事、意外な事実に気がつきます。


宰相のカクセキに勧められた事で、一日中ポニャ妃と一緒に居るようになってから、ポニャ妃が実は笑った事が無い女性なのではないかしら?…と思うようになっていました。


昔からはにかむように笑みを(たた)えていた(ほほ)は、四六時中一緒に居るからこそ分かるのですが、元々の素の顔だったのではないかしら?という事なのです。


王はそれを確かめてみるために、ポニャ妃に面白い事を話しては、反応を見ますが、話の前後でそれは変わらないのでした。


でも見ようによっては、微笑んでいるように見えなくもないので、今まで気がつかなかったとやっと分かったのです。


ポニャ妃は相変わらず素敵な女性なのですから、そんな事には気を置かずに、もっと大きな身近の危機に気を向けるべき時だったのですが、『溺愛』は人の心を曇らせてしまいます。


ユウ王は真剣にどうしたら良いのか悩み始めてしまい、事も在ろうにカクセキに相談する始末でした。


当初カクセキは、ユウ王が相談に訪れた際に、まさか自分の不正がバレたのではないかと、内心ヒヤヒヤしたものですが、いざ話を聞いてみると、口をアングリと開けてしまう程の馬鹿馬鹿しい話でした。


カクセキは、たかが1人の女のために、これ程、真剣に悩んでいる青年王を見つめながら、内心は可笑(おか)しくて、腹を抱えて笑いそうになりました。


しかしながら、表面上はあくまでも義父ですし、悩んでいる王を心配そうに見つめて、何か助言を与えなくては…と思い、考えていると、ふと妙案を思いついたのです。


『これは大いに利用しなくては…。』


もはや悪党そのものですね…元々、悪党ですが(笑)


カクセキは城の南東に(そび)える山の頂上に烽火台(のろしだい)が設置されているのを利用しようと考えたのです。


彼ら属国出身者にとって、有事の際に呼び出しを受ける合図ですから、ある意味、忌忌(いまいま)しい存在では在りました。


その烽火台から狼煙(のろし)を上げれば、当然の事ながら城からは良く見えます。


そして慌てて駆けつけて来る貴族達の姿は、さぞ滑稽(こっけい)に写るに違いないのです。


それを見たポニャ妃は、きっと笑うに違いありません…。


そう王に悪知恵を授けました。


ところが王はやはり王で、


「そんなことは出来ない…。」


と当初は断わります。


そんな事をすれば、貴族達からの信頼を失うからです。


するとカクセキは悲しそうに、こう訴えました。


「私もあの()の父として、昔から笑わない(やまい)には気を重くしていました…。そう、そうなんですよ陛下!あれは病ですから治さねばなりません…。」


そう涙ながらに訴えたのだ。


カクセキ、一世一代の迫真の演技でした。


そしてユウ王の耳元に近づくと、甘い言葉を(ささや)きます。


「一度くらいなら…私が何とか説得致しましょう♪」


【正義と信頼】この二文字で自分の愚行に歯止めをかけようとしていたユウ王は、この(ささや)きで見事に陥落(かんらく)した。


そして「頼む!」とカクセキに頭を下げた。


『してやったり♪』カクセキは想った。


『このアホウは(つい)に一線を越え()った…しかもこの(わし)に頭を下げるとは…(笑)』


正に笑いが止まらないという奴だ…。


王の信頼を失墜させるには、これ以上は期待出来ない程の絶妙な効果があるからだ。


王は知らないが、当然、貴族達を説得しようなどという気はカクセキには更更(さらさら)無かった。

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