ラプンツェル
【お断り】
この物語には題名に纏わる内容やそれに関連する映画「塔の上のラプンツェル」のネタバレを含んでいます。既に公開されて14年を経過していますが、あらかじめご承知の上でお読み下さい。 【筆者】
「映画を見て感動したから、原作を読んでみたら、些かがっかりした事ってあるかい?」
私は想い出した様にそう口にした。蒼生は急に何を言い出すんだという目でチラリと見る。
今日のお昼は瞳さんの特製カツカレーである。蒼生はシンプルながらカレーが好物で目が無い。
それに彼は食事中にお喋りするのを余り好まない。それは私も重々承知している。
ちょうど瞳さんがサラダとスープのお替わりを運んで来てくれていたので、ついつい口にしてしまったらしい。
この際、女性の意見も聞いてみたいと少々欲を掻いたのだろう。すると案の定、瞳さんは乗って来た。
「何の映画かしら…私でも知ってるかな?」
「塔の上のラプンツェルって言ったら判りますか?」
「えぇ…勿論です!私もあの映画は好きですわ♪元々ディズニーのアニメーションて好きですけど、主人公のラプンツェルが可愛らしいんですもの!それにならず者や動物たちとのやり取りも素敵。お尋ね物の彼が彼女のために改心するのも凄く良いんですよね~♪」
彼女はうっとりとした目でそう言った。
「ですよね~♪実は私もそうなんです。でもアレ今、瞳さんが言った内容が原作では殆ど無いんですよね?設定も全く違うんです。だから読んだ時、かなり戸惑いましたね…」
「へぇ~そうなんですね!どこが違うのかしら?」
瞳さんは興味津々といった表情で私に尋ねる。それを横目でシゲシゲと眺めながら蒼生はカツを口に運びムシャムシャとやっている。
今日の彼は余り乗りが良くなかった。私は少々ガッカリした。こういった場合、日頃は必ずといって良い程に蒼生が肩替わりしてくれる。
それだけじゃない。彼の説明はそれだけに止まらず、やがて蘊蓄に昇華する。
そうなると私も助かるし、瞳さんもさぞや愉しいに違いない。実際はその辺りを期待しての事だったのだが、私の目論見はいとも簡単に外れてしまった。
仕方無く私はその相違点を説明しようとして、今更ながらに端と気づいた。私はチラリと蒼生の方へ視線をずらす。
すると彼は案の定、スプーンを咥えながら、ニヘラと笑った。
『言い出しっぺは君だ!』
表情がそう物語っていた。つまり責任を果たすよう、彼は求めているのだ。
私は自慢じゃないが、粗忽者らしい。時に自ら墓穴を掘ってしまうのである。
私は無い知恵を絞り頭を整理する。そして当たり障りのない言葉を選びながら話しを進めた。
「映画では主人公は王国のお姫様ですが、原作では農夫の娘です。彼女が魔女の老婆に拐われた件も全く違います。主人公が結ばれる事になる男もお尋ね者じゃなく、とある王国の王子様です。なのでお尋ね者に連なるならず者たちも出て来ません。王国の馬や娘の友達のカメレオンなどは映画の設定です。それにラプンツェルの金色に輝く髪も太陽の雫を栄養とした青い花ではありません。魔女の庭園から農夫の夫が盗み出した野草の類を妻が欲して食べた結果、産れた娘だからです。映画では不老不死を貪欲に求める魔女を悪人として描く事で、主人公に同情が集まる様に話が進行するので、主人公の気持ちに同調しやすいでしょう?原作では、勝手気儘に魔女の庭に入って野草を物色した農夫の夫と、その野草を欲して食べた農夫の妻の責任を問い、許す引替として娘は魔女の言うままに引き取られ、養われる事になりますし、裏切られた魔女は特に呪いを掛けるでも無く、ラプンツェルを荒野に捨てるだけです。王子様も"娘はもうここにはいない"という魔女の言葉にショックを受けて、塔から身投げし、命は取り留めたものの、失明してしまい、長い間さ迷う事になるんです。只一つの救いは、さ迷える王子様がラプンツェルの住む荒野に偶然辿り着き、その声を聴く事で無事再会を果たします。そして一緒に王子様の国で末長く暮す事でハッピーエンドと成るんです。勿論、魔女は死なないので、良し悪しはありますね。でも原作では魔女もある意味、被害者とも言えます。まぁ人ひとり塔に監禁した罪はありますけどね。何か夢の無いお話ですみません!」
私は何とか馬脚を露さないよう説明を終えた。瞳さんは何とも言いようが無い顔をしていたが、次の瞬間、破顔して言葉を添えた。
「原作ってどれも似たような話しが盛られているのね?ディズニー映画ってやっぱり夢のあるお話にしてあるのでしょうね♪童話って文字の伝承も在るのでしょうけど、口伝えに広がったものだって前、蒼生さんも言ってたでしょう?それに社会生活の移り変わりでその都度、その時代に合う様に手を入れられるんですものね!蒼生さんはその辺り詳しいんでしょう?どう思います?」
瞳さんは自然とそう述べた。
私としては元々、予定していた軌道に乗った訳だから、喜んでも然るべき流れだったものの、その内容に気づいてしまった今となっては、蒼生と同様に火中の栗を拾う心境だったから冷汗を掻いた。
蒼生に悪い事をしてしまったと後悔したが、もう後の祭りである。然り気無くチラリと彼の顔に視線をやるが、案の定、蒼生はぶっきらぼうな表情で私を睨め付けていた。
彼もさすがに自分にもお鉢が回って来るとは想わなかったらしい。こんな場合、普通なら何喰わぬ顔でバックレるのが常道なのだろうが、他ならぬ瞳さんの問い掛けに、彼としても何か答えない訳にもいかなかった。
「そうですね、僕としては童話も映画も本来的に愉しいイメージを壊さない方が良いと想っています。瞳さんの仰るように、今現在と物語が出来た当時とでは、社会通念も風俗・風習も違います。今ほど道徳に縛られない時代に出来た物語には、現代人の僕たちが考えも及ばないような行為も存在した訳です。そういった社会学に興味がある人々であれば、その内容から当時の様子を知る愉しみ方も在るのでしょうが、単なる娯楽として受け取めるだけなら、愉しいイメージを持ったまま済ますのが良いでしょうね。少なくとも僕はそう想っていますよ♪」
蒼生はさらりとそう語ると、煙に巻いてしまった。瞳さんは、興味深く聞き入っていたが、さすがに賢いお嬢さんである。
「そうですね♪そうしますわ!」
そう言って、厨房に引き上げて行った。
私はようやく危機を回避出来た事に安堵し、深く溜め息を吐いた。そして蒼生に謝った。
「いやぁ~私とした事がスマン!余計な事をしてしまった。この通り謝るよ。申し訳ない…」
すると蒼生は、スプーンを振りその勢いのまま私を威嚇する様に一度は突き上げるつもりだったらしい。ところが気が変わったのか途中で矛を収める様に止めた。
そのままスプーンはカレーを掬い、蒼生の口の中に吸い込まれて行く。彼はしばらくモグモグとやっていたが、綺麗に食べ終えると口を開いた。
「どうなる事かと心配したぞ♪でも君にしては上手くまとめ上げた方じゃないかな?さすがに君も直前で事の重大さには気づいた様だったから、ひとつお手並拝見と傍観を決め込んだんだが、最悪の場合は助け舟は出すつもりだったんだぜ!」
蒼生はそう言うと、溜め息を吐いた。私は再び頭を下げた。
「そうなんだよな!君がいみじくも言った通り、今現在と過去の社会通念にはかなりの隔たりがある。君が風俗・風習と、この際どいキーワードを言葉にした時には正直、冷汗を掻いた。本当に申し訳なかったね!」
私は重ねて陳謝した。
「まぁ良いさ!君も僕の切り口で新たな発見があるかも知れないと想ったんだろうからね?」
「そうなんだよ!けど欲を掻き過ぎた。瞳さんが居る間に女性の意見も聞きたいと想ったのが運の尽きさ。それに彼女が居れば君も饒舌になると想ったんだよね?」
私はこの際、正直に自分の意図を白状した。蒼生はフフンと鼻白むと相槌を打つ。
「正直で宜しい♪僕は君の第一声を聞いた時から実は嫌な予感はしていたんだ。映画化する童話というのは勿論、実写版も探せば在るがその程度のもので、その殆どはアニメーションという事になる。そして童話で世界的にポピュラーと言われるものは、時代が移り替っていても、大抵の場合はグリムかアンデルセンといった所だろう。ここまでは君も同意するよね?」
蒼生はそう念を押した。
「そうだな!確かに君の言う通りだ。それで?」
私は先を促した。蒼生は満足そうに頷くと言葉を継いだ。
「過去にもこれは話した事だが、グリムやアンデルセンは、伝承などを元にしている。そしてその根本を辿って行くと、フランスの貴族たちが談笑の場として通っていたサロンに行き着く。その土壌から生まれた作家のひとりがペローだという事は前に話したよね?」
「あぁ!」
「当時のフランスの上流階級なんて、特に仕事をするでも無く、暇を持て余していた連中が、どうやってその暇潰しをしようか悩んでいた程だ。今現在職が無く、生きて行くのがやっとの人達が聞いたらさぞや色めき立つ事だろう。まぁ当時の民衆もその日のパンにも困っていた訳だから似たような境遇だったろうがね?」
「そうだろうな!」
「そんなサロンで貴族たちの眼鏡に叶う愉快な話しを語り満足させるには、並大抵の事では無かったろう。大抵の事には飽きていた連中だ。退廃的なおよそ道徳とはかけ離れた生活を送っていた連中が何に満足するのかといえば、大抵の場合、他人のスキャンダルという事になるんだろうね!」
「嫌な話しだな!でも良くそんな土壌から、童話などというジャンルが生まれ出たものだな?」
「当時は伝承だからね!ひつこいようだが、 童話と書いて童話と読ませるようになったのは我が国でも近代に入ってからの事だろう。一般には大正の始め頃だと言われている。僕らはその童話に初めて触れる際、すでに児童文学として確立された子供向けに変容した作品を与えられている事になる。そして子供心に楽しいイメージをその小さな頭の中で作り上げる訳だ。子供ってのは大人より想像力が豊かだからね、自分が小さい時に作り上げたイメージは深く心に残るだろう!」
「そうだろうね!」
「元々は人の口伝えにより継承されてきた伝承を元にしている小噺はペローによって詩的技法と当時の社会風俗を加味されて、そのサロンで発表されて世に出た。彼は始めて子供向けに読むに耐えるいわゆる童話という物を書いた人物として認知されてはいるが、発表当時は大人たち相手に朗読している。その中身も現代なら倫理的に疑問があり、R指定が付きそうなものさ!」
「つまり…私達は改訂に改訂を重ねた物に初めて触れてそのイメージを自分なりに咀嚼しているって事になるんだね?」
「まぁそういう事かな。初版はわりとえげつない物語が多いって事になる。中には性的表現を感じさせるものすらある。"ロバの皮"なんて父親がひとり娘と必死に結婚しようとする話だ。さらには殺人を題材に扱っている"蒼髭"なんてのもあるね!」
「およそ童話とはかけ離れたイメージだな?」
「そうなんだよ!そして童話の中によく見かける良い例として教訓めいたものが多い。これは子供に善悪の区別を教えるためのもの、僕らはそう捉えているだろう?」
「あぁ!親が子供に話して聞かせる中で自然と擦り込まれていくだろうからね。中には童話その物を題材にして、子供自身に考えさせる親なんかも居る事だろう。」
「だろうな!でも元々は人としての善悪を問う類のものだから、子供に限った事では無いと僕は考えている。中には禁忌なんてものもある。いわゆるタブーって奴さ!」
「それってもしかしてパンドラの箱の話とかかい?」
「へぇ~さすがは作家先生だ!いきなりパンドラと来たか。でも正解だ!これは簡単にいうと、破ってはいけない約束を破り、酷い目に合うという教訓が含まれている。その中にはおよそ理不尽と想われる内容も多い。その内容が現代では考えられない荒唐無稽なものすらある。ギリシャ神話ではパンドラの箱が有名だが、愛妻を亡くしたオルフェウスが冥界の神・ハーデスに頼んで愛妻を連れ帰る事を頼む"冥府下り"なんてのもある。禁忌とは必ず条件が付くものだが、この場合、"地上に戻るまでは後ろを振り返っては為らない"って事になる。ところがオルフェウスは愛妻がちゃんと着いて来ているか気になり、想わず後ろを振り返って見てしまう。するとその瞬間、愛妻は冥界に引き戻されてしまうんだ。これは良い例で、僕らはこれをあくまでギリシャ神話を背景として捉えているから成り立つんだろうが、本来、人は一度死んだら生き返る事はない。だから設定となるべき前提の段階で理解し辛い。まぁでもこんな事でいちいち目くじらを立てていたら、似たようなものも多いからね。禁忌とは大まかに分けて、人の隠したい行為を見てしまう系と、堪忍が効かずに物を開けてしまう系の二つに分類される。青ひげなんかは後者のタイプだが、見方によっては前者のタイプとも言える。共通しているのは必ず約束を破る事がその引き金となっている点だ。おそらく人の欲を戒める教訓なんだろうが、これも見方によっては探究心、いわゆる興味を持つという貢定的な概念として捉える事も出来る。そして人を信じるという素直な捉え方も出来るが、逆に疑って懸かれという用心深さを尊ぶ見方も出来るのさ!僕は禁忌に至っては考えさせられるものがあると感じた。物語は大抵の場合、人の愚かさを指摘し、その欲望を戒めている。この欲望の追求ってところに何か引っ掛かるものを感じないか?」
蒼生にそう問われて私は一瞬、答えに詰まった。話題の主旨が多岐に渡り、頭が混乱を来していた。この話はいったい何から派生したものかとふと考えて、端と気づいた。
「そうか!判ったぞ♪サロンだ!君は元々伝承を辿って行くと、フランスの貴族たちがこよなく愛したサロンに行き着くと言った。退廃的な生活を送っていた貴族たちに足許を見よ!欲の限りを尽して足を引っ張り合っているとそのうち天罰が下るぞと云う戒めだろう♪違うかい?」
私は敵将の首を取ったくらいの勢いでそう告げた。けれども蒼生は両手を広げて首を振った。
「君の考え方はとても面白い。でも穿った見方だな。君の言葉には現代に生きる我々の社会通念が至極感じられる。それにその考え方の根本にあるのは、その先の未来を歴史の真実として知る者の位置付けが必要になる。この場合はフランス革命という事になるんだろうね。成る程、確かに面白い考察だが、少々行き過ぎだな。ペローだってブルジョワジーだった訳だから、市民とはいえ資本を沢山抱えた上級市民だ。簡単に言えばお金持ちって事に成る。労働者階級とは対立の構図にあった彼は、ある意味、彼ら貴族と同じ位置付けにあった訳だ。そんな彼の中に何の生産性も持たない貴族たちへのアンチテーゼが含まれていなかったとは言い切れない。でも僕が言いたかったのは、当時の社会通念そのものにこそある。当時は好奇心を戒める風潮が強かったって事さ!青ひげなんて自分の秘密の隠し部屋で、婚姻を結んだ新妻を次々に血祭りにあげていたのに、それを見た新妻の方が悪者として描かれている。約束を破り、部屋を開けて中に入った事こそを戒めているんだ。勿論、そのままでは童話にならないから、青ひげは助けに来た新妻の兄達によって退治され、挙げ句の果てにその全財産が転がり込んで来ることになっているが、そんな話しでさえ、この好奇心というものを否定している。そもそもこの好奇心とは人間の持つ知的欲求として位置付けられていて、探究心の源だと言える。けれどもそれと同時に単なる動物本来の持つ本能的欲求と解釈される事もある。人間は脳が発達しているから、よりその欲求に縛られ易いとも言える。中世の貴族社会で唯一彼らが恐れたものは何だと思う?」
「そうだな…教会かな?王様でさえ、時には破門されてその権力を失ったと何かの本で読んだ事があるな!」
「正解だ!教会だね。彼らの中に好奇心をそれ程までに戒めていた姿勢があるとするなら、信仰の中にこそ好奇心を戒める根本があるのだと謂えよう。でもね、人というのは天邪鬼に出来ている。より強い圧力によって歯止めをかけられると、却って欲求が強まるものだ。神の教義によって否定された好奇心はより増幅されて、いずれ一線を越える事になる。禁忌とは好奇心を抑えるための、おそらくはアンチテーゼだったのだろう。まぁこれはあくまで僕個人の見解だ。人に押し付けるつもりはさらさら無い。でも考えてもみてくれ!当時の社会が挙って好奇心を否定したがったのは何でだと想う?」
「そうだな…もしかして今度こそサロンに関係あるのかしら?或いは貴族や教会の根幹に関わる事とか?」
「いい線だ!要は縦型社会の歪みだろうね。当時の社会は身分制度が分かれていて、第一身分が聖職者、第二身分が貴族、第三身分が商人、職人、農民て事になる。この内、聖職者や貴族たちが権力の中枢を担っていたと考えるのが至極妥当な事と謂える。決められるのは彼らしか居ないんだから当然の帰結だろう。ここまでは良いかい?」
「あぁ!勿論、そうだろうな♪」
「ではこれを前提とするよ!次になぜ好奇心は戒めの対象になるのだろう?」
蒼生はそう言うとフフンと笑った。
私は前提条件とはそこにヒントが隠されているのだろうというところまでは直ぐに理解したものの、それ以降は全くと言って良い程に想いもつかなかった。
すると蒼生はもう一歩踏み込んだ事を口にした。
「好奇心とは知的欲求だと言ったよね♪知的欲求ってそもそも何だい?」
「あっ!そうか判ったぞ♪知識を得るって事だな。そうなると当然、皆が賢くなる。知恵が付くって奴だね。情報量も増えてくるし、賢くなればその分折すら可能な訳だ。そう言えば、どこぞの政治家が国民は馬鹿な程扱い易いって言った事があったな?失言として、かなりマスメディアで叩かれたっけ♪要は第三身分に下手に知恵が付く事を恐れていたって事かな?」
「正解だ♪おそらくそういう事なのだろうと僕も考えた訳さ!そもそも身分制度が確立されているのは、その時代を生きる人にとってみたら、生まれた時からそうなんだから、仕方無いって事に成るだろう。お前達と我々とではそもそも生まれが違うってね!でもそんな民衆に知恵が付いたらどうする?」
「そんな事は無いって反論を受けるだろうね?」
「その通り!」
「!?…て事はまさか身分を安定させ、その社会構造を保持するための隠蔽って事かい?」
私は少々頭に来た。まるで自分が第三身分になったかの如くに腹が立って来たのである。
蒼生は深く大きな溜め息を尽くと、口を開いた。
「まぁ気持ちは判る。現在でも僕や君は一般社会じゃ鯔のつまりは平民だからね!童話とはいったい何だい?原点に立ち返るとするなら、親から子に伝えられる教育って事になる。君はさっきいみじくも言った。自然と擦り込まれていくものだとね。これって何が危険なのか判るだろう?」
「あぁ…ようやく君の言わんとする主旨が判って来たよ!"禁忌に至っては考えさせられる"と言った君の指摘はそういう事だったんだな?」
"これはある種のプロパガンダだ!"そう想った私は身震いがして来た。
「まぁね…そういう事になるかな?好奇心を探究心と同義と捉える時、僕はそれは決して悪い事では無いと想った。そもそも探究心無しに僕の生活は意味を無くすだろうし、君だってそうだ!小説家にとって探究心、否、この場合は知的好奇心と言うのがもっとも判り易いだろうが、それ無しには成り立たない商売だろうからね!僕の意見だと言ったのはそういう訳さ♪"そんな大袈裟な"と想う人だって実際居るだろうし、童話を…童話の世界を純粋に愛している人にとってみれば、其処は否定したい所だろうからね♪でも誤解無しにこれは断言するが、それはそれで良いんだと想う。それはさっき瞳さんにも伝えた事だ。余計な事は知る必要は無いさ。愉しいイメージを持ったまま済ますのが一番良いだろうからね♪」
「そうだな…」
私もようやくそう口にした。全身から一気に力が抜けて、それは虚無に近い脱力感を伴っていた。
「誤解しないで貰いたいが、僕は今も…そしてこれからも童話の持つ魅力を愛している。あくまでも純粋にだ!でもそれと同時に僕はその根本を為す真相にも興味があるって事さ♪まさに知的好奇心て事になるね?時代が時代なら国家反逆罪に問われてギロチン行きかもな!でも僕らは今、基本的人権を尊重された国の民だ。税金もきちんと納めているし、発言の自由も保証されている。研究者にとってはまさに願ったり叶ったりと言えるだろう。そう想わないかい?」
蒼生は晴れやかな気持ちでそう述べた。
「そうだな!君が童話を愛している事など、露ほども疑った事は無いさ♪それに物書きにとってもこの国は良い環境なのだろう。国によっては発禁にされたり、それが元で思想犯罪者の烙印を押される事も在るという。この平和な現代でもだ!我が国でもかつてはそういった暗黒の時代は存在したんだからね。それに比べれば我々は良い時代に生まれたと言えるのかも知れないな!」
私も彼に同意を示した。
結局、我々の話しはそこで終わった。
蒼生はもうクドクドとラプンツェルに纏わる蘊蓄も垂れなかった。どうやら珍しくこの私が詳細を把握している事が判ったのだろう。
彼は話しの中で"より強い圧力によって歯止めを懸けられると、人は却って欲求が強まるものだ"と言った。
ラプンツェルは魔法使いの老婆によって、誰も寄りつかない森の中の高い塔に閉じ込められたのだ。しかも物心つかない時からそうだったのだから、これはかなり強い圧力だと云えるのではなかろうか?
当然、外の世界も見たかった事だろうし、異性の事なぞ、全く事前情報を持つ事は適わなかったに違い在るまい。そんな時に彼女の歌声を聴きつけ、ラプンツェルに恋した王子が塔に登り、会いに来たらどういう反応を示すだろうか。
初めての異性の肌の温もりに、彼女がときめきを感じて逢瀬を重ねても、誰も文句は言えまい。彼女は純潔だけを守る事を強制され、段階的な成長の過程で、異性の存在を知る事なく育ち、その知識すらきちんと教えられていなかったのだから、不憫としか言い様が無いだろう。
失明した王子がさ迷った揚げ句の果てに、彼女の住む荒野に辿り着いた時に、ラプンツェルにはそれは可愛い男の子と女の子の双子の子供が居たと云う。
唯一の救いは、ラプンツェルの涙の雫が王子の両目を回腹させて、家族四人仲良く王子様の国で幸せに暮らした下りで在ろうか。
知的好奇心の排除というのは、人の想像力や観念をも曇らせる。生まれて来た子供に何の教育も施さず、放置したと仮定してみて欲しい。その子はおそらく言葉を話す事すら、ままならないのでは無いだろうか。
それを想えば、自分は何て幸せな生まれ方をし、無事に成長して一人前の大人になれた事か…その幸運に感謝しなければ為らないと私はつくづく感じていた。
蒼生はというと、コーヒーをマグに入れて然り気無く手渡してくれる。その上で自分はいつもの様に窓辺にもたれ掛かり、爽やかな風を受けながら、時折マグに口をつけている。
そして想い出したようにその視線を私の方に向けて、問い掛けた。
「そういえば君、例の女性にはもう連絡したのかい?」
そう言って目を輝かせている。
私は溜め息を漏らすと言葉を返す。でもふと悪戯心が芽生えて来て、洒落てみせた。
「蒼生君、それは知的好奇心とは言えんだろう。蓼食う虫も好き好きという。この件に関しては一切、ノーコメントだ!」
私は簡潔にそう答えた。勿論、彼が友人として心配してくれている事は承知の上である。
けれどもそんな事は当事者同士の問題であり、余計なお世話だったのだ。蒼生は何度か相槌を打つと、やんわりと切り返す。
「だな!王子様は未だ塔にも到達せずとは…ラプンツェルもさぞや気が気で無い事だろう。山と湖に囲まれたロッジで、只一人、悶々と万年筆に圧力を込めて原稿用紙にその筆力で神経を尖らせているのかも知れんな!待ち人来たらず…とね♪」
私が頬を瞬時に膨らませると、彼は「冗談だよ♪」と言って、窓辺から遠く映える夕日にゆっくりと視線を移した。心なしかその横顔には寂しさが感じられた。
【後書き】
こんにちは♪|• •๑)”ㄘラッ♡
ユリウス・ケイです✧ ⁽⁽(•̀ •́๑)(๑•̀ •́)⁾⁾ و✧
蒼生ちゃん、瞳さんファンの方々お待たせ致しました。新作のお時間で~す♡
言葉遊びの続編、久し振りの書き下ろしです。
昨年の4月から長編作品に挑んでいる関係で、しばらくお休みをいただいておりました。
(´_`。)正直、かなり間が空いてしまった関係で、この世界観を取り戻すのが大変でした。苦労しましたが、やっと書き上がりました。愉しんで頂ければ嬉しいでっす( 〃▽〃)♪
【筆者より愛を込めて】




