蟻とキリギリス
夏の間、蟻たちは冬場の食料を蓄えるためにせっせと汗を流して働き続ける。一方のキリギリスはヴァイオリンを優雅に奏でて、歌を高らかに歌って過ごす。
これは蟻が一斉に太陽の燦々と照る中をあっちに行ったりこっちに来たりして、忙しく動く様を観ていて想うのだろうし、キリギリスがのんびり草むらの中や小枝に止まってじっとうずくまりながら、羽音を鳴らして、一斉に鳴く様を観ていて、人が感じた風景の中で頭に想い描いた事柄なのだろう。
「この話は教訓を伝える話だけれど、日常風景がまだ林や森などの自然に近い暮らしの中にあった時の逸話だろうね…今は都会の喧騒の中に在って、なかなか虫達にも会わないし、こちらもそれ程の意識を持って観ないからな…まぁ蟻はたまに見掛けるがね!今と成っては、心のゆとりを持とうという教訓にさえ想えるだろう?」
「そうだな…確かにこの御時世で、我々が感じるのは日々の暮らしをどうするかだもんな、虫の事まで考えている余裕は実際に無いだろうからね?」
「あら♪でも小さいお子さんのいる家庭ではまだまだ虫が好きな方も居ますわよ?私のお客さんにもそういう方いますわ?」
「まぁ…確かに♪でもそれでも大都会の中では余り見掛けない様に成って久しいだろう?彼らは自然に身を置くためにわざわざ電車を乗り継いで自然を感じに行くのだろう…子供のために♪或いは自分のためでもあるかも知れないがね!」
いつになく蒼生は手厳しい。彼は余り虫が好きでは無いらしい。
「そうは言うがね…君だって小さい頃は草むらで蝶を追いかけたり、セミを取ったりクワガタを追い求めたりしたろう?」
私は細やかな反論を展開する。
「フフッ…私は女の子だから余りそこまで積極的では無かったのだけれど、幼心に眺めて観るのは好きでしたわ♪蝶が飛んでるところなんかは良く絵にも描いてましたの♪片付けなんかしてると、たまに昔の絵とか日記が出て来る事があるでしょう?そんな時にふと見ると、クレパスで描いた青い空に蝶々が飛んでいるのよね♪想わず可愛らしいなと思いますわ!」
「やれやれ…今日は分が悪そうだ!ケイちゃんも瞳さんも愛好者とは…まぁ各いう僕も嫌いでは無いさ♪何しろ君が言った様に、子供の頃は野山を駆け回っていた事も事実だからね…それは否定しないさ(^。^;)…」
蒼生はそう言うと、窓の縁に手をついて風を感じている様だ。
瞳さんはクスッと笑って語りかける。
「でも心のゆとりを持とうという教訓だなんて、まさにこの御時世で無いと出て来ない発想ですわね…蒼生さんのお話を聞いて身に詰まされる気がしましたわ♪新しい解釈ですもの…フフッ蒼生さんならではですわね…」
「(゜.゜)そうかな…そりはどうも!瞳さんには敵いませんよ、なぁケイちゃん?」
「(^o^;)だね♪」
「でも私…人がその風景から感じたイメージから作り上げた教訓という所にも深く刺さる物を感じますの!これってたぶん童話だから、親が子に語って聞かせる教訓なのでしょう?その着眼点にいつも感心させられますわ♪」
「事実上そうなのだよね…僕も数多くの童話を考察して、研究し妄想に励んで来たが、どの童話にも共通してその教訓が活かされている。此れはちょっとした感受性の為せる技だな…即ち、妄想こそ人の感性といえるかもな…」
「おいおい!それは割りと極論に当たると思うぞ!まぁ感受性の強さという点においては異論は無いけどね♪」
「相変わらずお二人はいいコンビですわね…フフッ!あら…もうこんな時間ですわね♪そろそろお昼御飯作らなきゃ♪今日は定休日でお店が休みだから愉しいひとときでしたわ♪久し振りにみんなでお昼を食べましょうよ♪ね!蒼生さんいいでしょう?」
「゜+(人・∀・*)+。それはいい提案だね♪な?ケイちゃん善かったな♪」
「(; ̄ー ̄Aまぁね…因みに私を出汁にしないで貰えると助かるが…」
「(*´▽`)フフッ…じゃあ三人分用意しますわ♪腕によりを掛けて!お楽しみにねぇ♪」
承諾と受け取った瞳さんは軽やかにスキップすると、そのまま階下に降りて行った。
「これってでも場所に依っては似たような話が在るんだろう?」
私は素朴な疑問を口にした。蒼生はほくそ笑む様に答えた。
「フフン…素直に食事愉しみだね?て言えばいいじゃないか?もう君がそれを期待して来ている事をとやかく言うつもりは無いからね?何だったら住まいを引き払って、ここに越して来ても構わないぞ♪部屋はいっぱい空いてる(o^ O^)シ彡☆」
「(; ̄ー ̄Aいやいや…別に誤魔化すつもりでは…食事は愉しみさ♪素直に童話の世界の話をだなぁ…」
「(゜ロ゜)え?そうなの…そりは悪かったな。では僕も真面目に答えるとしよう♪確かにそう何だよな…元々童話の世界って世界中のあらゆる所に似たような話がある。そしてその話が時代と共にその社会事情に合わせて変化すらしている。中には世界の端から端まで離れた二つの地域の話が結合されて、もはやどちらが起源なのか分からない様な話すらある…まぁいいとこ取りをした結果なのだろうけどね♪」
「(^ー^)中には先の話を模倣した二番煎じの話もあるのだろうな…」
「まぁ…あるだろうね♪元々後先何て分からないものもあるさ♪提唱した先駆けの人でさえ、元々その地域地域に根差した伝承を基にしているんだ!だから誰が後で誰が先なんて余り重要では無いのかも知れないな…」
蒼生はそう言うとマグカップを掴んで、粉を注ぐ。
「何かココアが飲みたくなった…君も飲むかい?」
「あぁ…いいね♪頂くよ!」
私も自分のマグを持って歩み寄る。
「まぁそれだけ昔は娯楽という物が無かったのさ♪だから、親は子に口伝えに面白可笑しく話を語って聞かせたり、本を読んでやったりしていたのだろう?単に教訓を垂れる事だけが目的では無かったのさ!今は巷に娯楽という物が溢れている。ある意味、現代の我々は飽食の中にいる様な物だ!それが有り難いのかどうかは人によって考え方に違いは在るかも知れん!それもこの暗い御時世で、目を背けるだけの逃避が遠因となっている可能性すらあると僕は思っているのだ!ゲームの世界に傾倒していれば、現実の世界を暫し忘れる事が出来るだろうからな…まぁ僕も妄想の世界に逃避していると言われれば、否定は出来ないがね…」
彼は私のマグにもココアの粉を注いでくれる。
「何か哲学的だね…やれやれそこまで考えてしまうと、何か身に詰まされる話だよな…」
二人ともお湯を注いで、輪唱する様にスプーンをかき回し、音を奏でる。まさにキリギリスの唱和の如くである。
「蟻とキリギリスは元々北欧の逸話なんだが、君、知らなかったろ?でも地域差の違いがあるという点では正解だな!さすがは作家先生だ♪因みに地中海地方では、この話は蟻とセミという逸話だとされている。」
「(^o^;)あ!そうなの?当たらずとも遠からずって奴か…そりゃ参ったな♪成る程…確かに北の方じゃあセミは見掛けないものな…成る程成る程…」
蒼生はココアをグビグビと飲んでいる。私も熱さを冷ます様にフーフーしながら一口飲む。美味い!たまにはココアも良いものだ。
「この話の続きは君も知っているだろう?キリギリスは夏場にすっかり怠けていたから、冬になって困ってしまう。そこで仕方なく蟻の所に行き、食べ物を乞うのだが、慈悲の心で蟻が食べ物を分けてやって、キリギリスは感謝して翻意するって話だ。つまりは親が子に努力を怠るなかれ…と教訓を垂れる訳だが、これも実は既に改変された話であって、元々の話の筋では無いのだ!」
「(゜.゜)…え?そうなの。私はそう認識してたんだけどな…アチッ!」
「(^。^;)君は相変わらずの猫舌だな…落ち着いてゆっくり飲みたまえ…まぁ僕も何が始めかと問われるならば、真実はわからん…だが少なくとも認識している最初の話はもっと酷い話だぜ?キリギリスが食べ物に困って蟻を訪ねるところまでは同じだが、蟻は食べ物をあげる様な慈悲の心は持ち合わせない。サボってたのが悪いんだから持ち合わせているのは憐れみの心だけだとさ!キリギリスは乞いを断られて憐れにも餓死してしまうという結末さ!それだけ昔は生きて行くのにも過酷さがあった時代だったのだろう…食を確保する事の大切さを子に叩き込む必要があったのだろうね…だがモラルという概念が現れて来た時代には、それでは可哀想だという機運が高まったのだろうさ♪だから配慮が為されたのだろう。君や僕が知っている童話は社会の変革がもたらした機運の産物という事になるかな…」
「(^ー^*)成る程…モラルが為せる技なのだな…そう考えると改変されたのはかなり近年の事なのだろうね?」
「(*´-`*)ゞそうだな…蟻が怠けていたキリギリスの怠慢を諭し、心を入れ替えさせるという奴はね…もっとも知られている作品としては、確か1934年にディズニーが制作した短編映画『アリとキリギリス』だと言われている。この話が改変される時代背景も面白いんだぜ?」
「(゜ロ゜)え?そうなの…それは是非とも聞きたいな♪」
「(゜.゜)今日はいやに食いつきがいいね?どうしたんだい!」
「(; ̄ー ̄Aいや気のせいだろう?御無沙汰してたのとは全く関係ないからな!」
「( -_・)…?まぁ…いいや、深く追及しない事にする。つまりね…この当時の時代は世界大戦のアメリカ社会だった事が強く影響してるのさ!この作品では、当時ニューディール政策により社会保障制度の導入を進めていたルーズベルト政権への政治的配慮が為されていたと言われている。蟻が食べ物を分けてあげる代わりに、キリギリスがヴァイオリンの演奏を披露するという結末に改変されているのだ!」
「(・・;)へえ~政治的配慮なんて、もう想像すら出来ない世界だな…童話が社会生活やその政策に影響されているとはね、驚いたね♪」
「( ・∀・)人の営みがその時代時代の変革に影響を受けるというのは必然だからね♪童話とは教訓を含んでいる以上は、その時代に合わせた教育に沿う必要があるのだろう♪まぁ僕が提唱する心のゆとりも今の時代に合わせた言葉になるのだろうな…」
蒼生はそう言うと話を終えた。
ちょうどその時に瞳さんがトレイに乗せて食事を運んで来る。
「二人とも手伝って下さいな♪お昼はカレーで~す(o≧▽゜)o♪」
私も蒼生もお腹が空いていたから、カレーは大歓迎だった。御飯もたっぷり炊いてくれてあるからお代わり自由で嬉しい。
「((゜□゜;))わぁ~これすごいね!どうなってるの?」
お米は全て真っ黒で、その上から茶色い粒で覆われている。そしてカレーのルーは緑色なのだった。
「(o^ O^)シ彡☆蒼生さんのお話をコンセプトにしてみましたぁ♪お米はね、イカ墨で黒くしてあるの♪そしてその上の茶色いのは鶏肉と牛肉を混ぜたミンチで~す♪ね!これ蟻の巣に見えるでしょう?そしてカレーはホウレン草をベースに本格的な香辛料を入れてあるから美味しいよ♪此れはキリギリスをイメージしたのね…召し上がれ♪」
「(^。^;)あら…そうなんだ♪」
「(・・;)へえ~蟻とキリギリスね…」
「(o^ O^)何よ♪二人とも妙な顔して?遠慮しなくていいのよ♪」
瞳さんは良い人なのでまるで疑いという物を知らない。私と蒼生は想わず顔を見合わせる。恐らく二人とも同じ事を考えているに違いない。
『(^。^;)……』
『(・・;)…味は間違い無いんだから、普通にグリーンカレーで良かったのでは?蟻とキリギリスはちと噎せる…』
『(o^ O^)??』
瞳さんはニコニコしながらもこの奇妙な雰囲気に不思議そうな顔をしている。優しく、料理の腕も抜群な彼女にもどうやら弱点は存在する様である。
少し空気が読めない不思議さんな所がまた彼女の天然な所であり、魅力と言えるのかも知れない。
蒼生も私も気持ちを切り換えた。ここは正直に説明するよりも慈愛の精神を発揮する時だ。それはキリギリスを助けた蟻の精神であったかも知れない。
けれども、いつも無償の優しさで食を提供してくれる彼女こそが慈愛の精神に満ちた優しい蟻そのものだと言えるのかも知れなかった。
我らキリギリス二人組は瞳さんのグリーンカレーを堪能した。味は確かだったのである。
三人はカレーをつつきながら、また愉しい団欒を過ごす。瞳さんは美味しそうに食べる蒼生や私の顔を眺めながら、満足そうに微笑んでいた。
【後書き】
言葉遊びファンの方々お待たせ致しました♪
久し振りの三人組揃い踏みです♪
愉しんで読んで頂けたら嬉しいです♪
少し話の展開に行き詰まっていましたが、気楽に書いてみようと翻意しました。
この機会にまた定期的に書いていけたらと想います♪行き詰まると遅筆になる筆者ですが、今後とも見捨てずにいて下さると嬉しく思います。
今後とも宜しくお願いします♪
【byユリウス・ケイ】




