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ブレーメンの音楽隊

【第15話に触れて】


(*^^*)こんばんわ♪

またまた2万文字を越える長編と為ってしまいました…。

お待たせしてすみません。

今回から新しいキャラクターが出て来ます。

これから宜しくお願いします。

********************

ロバは何年も疲れ知らずに働いて来ましたが、だんだんと気力が失くなってきて、今の仕事に適さなくなって来ました。そこで雇い主は彼を第一線から外して、窓際(まどぎわ)へ追いやるのが一番いいと考えました。しかし、ロバは風向きが悪くなったのをいち早く察して、自ら仕事を辞めて、新天地を求めて旅に出ました。きっとそこで探し求めた居場所が見つかる…ロバはそう考えました。

********************



あれから5日程経過し、僕の身体も随分としゃんとして来た。


やはり流行性感冒(インフルエンザ)(かか)っていた様だった。


あれから再び熱が高くなり、3日程寝込んだが、その間も瞳さんは折に触れて、甲斐甲斐しく看病してくれて、起き上がれる様になってからも、僕は『窓際研究室』には顔を出さずに、自宅で静養していた。


仕事を休まずに僕の看病も有り、瞳さんは疲れているだろうに、そんな事は一切、態度にも表情にすら出さずに、献身的に努めてくれた。


本当に有難(ありがた)かった。


瞳さんは『困った時はお互い様』とサラッと言ってのけるのだが、なかなか出来る事ではない。


僕は感謝の心を忘れない様にと自分に強く言い聞かせていた。


身体もだいぶん、しゃんとして来たし、そろそろ『窓際研究室』に出社しようかと、今朝は気持ちも新たに身仕度を整えていると、そこに一本の電話が掛かってきた。


「ルルル…ルルル…」


『こんな朝早くから何処の誰だろう?』


そう想いながらも、受話器を手に取り、電話に出た。


「緑君、元気かな?」第一声がそれであった。


彼女は昔から僕の事を『(くん)』呼ばわりしていた。


元々典型的な元気印のアクティブ娘で、髪型はボーイッシュだが、少しボブカットにしており、可愛らしい顔立(かおだ)ちをしていた。


笑うと(えくぼ)がとてもチャーミングだった。


『だった…』なぜ過去形なのかと言うと、彼女が僕の元を去ってから既に5年程経過しているからだ。


ある日突然に別れを告げて出て行ったっきり、只の一度も連絡らしい連絡も無く、時折、気が向くと、旅先より一方的に絵葉書一枚を送りつけて来るという様な案配(あんばい)だった。


要は気分屋で飽き易いのである。


そう書くと、僕の昔の彼女の様に誤解を受けるかも知れないが、そういう事では無い。


彼女はかつて僕の食事の面倒を()てくれていたシェフのひとりで、1Fに住み、盛大に中華飯店を営んでいた料理人である。


簡単に言うと、瞳さんと同じ条件で昔、僕と契約していた事になる。


但し、相違点があるとすれば、彼女は従業員を3人使っていたし、料理店として、店をオープンしていた事だった。


彼女の名前は綾波遥夏(あやなみはるか)と言った。


遥夏さんは相変わらず元気そうで、電話口を通していてもそれが良く分かる。


溌剌(はつらつ)としていて、今にも飛び込んで来そうな勢いだった。


『遥夏さん変わらないな…。』蒼生はそう想う。


この女性(ひと)はいつも元気で、バイタリティーに溢れて居て、蒼生なんかは良く元気づけられたもんだった。


今まで泣いた顔など只の一度も見たことが無い。


否…一度だけ有ったっけ?


それは遥夏さんが『辞める』と言った一週間ほど前の事だった…。


蒼生は当時は気が向くと、1Fの食堂で食べて居たので、お代わりやおかずの追加なんかも良くしていた。


遥夏さんは気前が良くて、お給料いっぱい貰ってるから、どんな希望も聞いてくれると言って、御飯はお代わり自由だし、おかずもよくサービスだと言って持って来てくれたっけ?


そんなある日の事、僕が『もやしの胡麻油和え』を追加で貰いにカウンター越しに頼んだ時の事だった。


いつもなら威勢よく「あいよ♪」と掛け声を掛けながら、応えてくれる遥夏さんが、呼べども呼べども出て来ない…。


どうしたもんかと困っていると、


「はい…緑君どうしたの?」


といつもの威勢は影を潜めた様に、然も慌てた様子で顔を出したので、『もやしの胡麻和え』を頼むと、少し引っ込んだ後に、持って来てくれた。


明らかに(まぶた)が腫れていて、恐らくは直前まで泣いていたのだろう事は察したものの、何て言葉を発して良いのか判らずにそのまま廻れ右して、大人しく机に戻った事を今でも時折、想い出す…。


「……?」


「……君……?」


「……緑君聴いてるの?」


僕が話しかけても、なかなか応えないので、遥夏さんは電話の向こうで何度も声を掛けてくれていた様だった。


「ごめん、ごめん、ちょっと考え事してて…」


僕は慌ててそう言うと非礼を詫びた。


すると遥夏さんは、


「相変わらずねぇ…スイッチ入っちゃったのね…」


と言って笑った。


「で!どうしたの?急に…。」


僕は恥ずかしさを誤魔化す様に反射的にそう聞いた。


すると遥夏さんは、溌剌と笑いながら、


「そうだよね!ご無沙汰しちゃってるし…。」


と照れた様に言うと、


「今ちょうどこっちに来てるんだ♪たまには顔出そうかなって思ったのよ?いいアイデアでしょう?」


と相変わらずのマイペースだ…。


「……」


僕は何て言って言いか直ぐには判らずに戸惑っていると、


「あら?お邪魔だったかしら?」


とまるで速射砲の様に(たた)み掛けてくる。


「そんな事ないよ…構わないよ…。」


僕は反射的に想わずそう応えてしまった。


しかしながら、少し『不味いかな…』と想ったのも事実だった。


今は既に瞳さんがいるのだし…どうなのかなぁ…なんて思ったりしたのだ。


もちろんそんなやましい関係で無い事は読者の皆様が一番良く判っている事だと思う。


が!僕にとっては、少々居心地が悪いかも…などと考えた次第であった。


そんな深く考える事では無いのかも知れないが…。


「だったら構わないよね?」


と遥夏さんはノリノリである。


「今どこにいるの?」


僕はまたまた反射的に聞いてしまった…。


少し『しまった…。』とは想ったがもう後の祭りである。


「今はハイクラスタウンホテルに泊まってるの!これから朝食なんだけどさ…お昼頃にでもお邪魔してもいいかな?」


遥夏さんはそう言うと、僕の返事を待っている様だった。


『ハイクラスタウンホテル?』


はて何か聞いた事あるな…僕はそう想いながら、頭をクリクリと回転させるや…『あ!』と思い出す。


『ハイクラスタウンホテルって確か瞳さんが前にシェフをやってたホテルなのでは?』


確か面接の時に受理した書類に記載があったと記憶している…。


何という偶然なんだろうと、僕は少し驚いた。


ここまで来てしまっては仕方がないので、僕は承諾する旨の返事をした。


すると遥夏さんは急に何やら思いついたらしく、


「ほら…何て言ったっけ?緑君のお友達?」


そう言いながら、思い出せないといった風に考え込んでいる。


「ケイちゃんの事?」


僕は即座に応答した。


「あ!そうそう!それだ♪(*^^*)♪」


遥夏さんは思い出したのかスッキリした様に応えると、


「ちょっと連絡してみたら?この可愛い遥夏ちゃんが逢いたいって言ってさぁ♪せっかくだから昔話でもどうかなって?」


相変わらず他人の都合は余り考えない…アクティブの固まりなのは昔も今も変わらない様だった。


「聞いてみるよ…先生も最近忙しいみたいだからね?」


僕はそう言うと、ケイちゃんが最近作家デビューして多忙である事を説明した。


『まぁ…ケイちゃんは来るだろうけど…』


何しろ理由をつけては瞳さんの料理を食おうと企んでいる先生だから、こちらから理由づけをしてやれば、恐らく飛んで来るに違いなかった。


しかしながら、偶然予定が入っている場合もあるかも知れないと、蒼生なりに気をつかった次第である。


「へぇ~あの先生ついに辿り着いたのね♪それは積もる話が楽しみだわ(*´∀`)♪」


遥夏さんはそう言いながら感慨深気に呟いた。


「(^ー^)ノじゃあ後でね♪緑君の顔を拝むの愉しみ♡」


遥夏さんはそう言うとさっさと電話を切ってしまった…。



********************

旅に出てしばらく経つと、犬が道に寝ていて、さも苦しそうにハアハアあえいでいるのに気がつきました。「ワンちゃん、どうしてそんなにあえいでいるの?」とロバは尋ねました。犬はさも辛そうにこう応えました。「私には夢があるのに、雇い主はそれを判ってくれず、邪魔ばかりする。私は日毎(ひごと)に気持ちが折れて来て、このままでは道を見失いそうだったので、逃げ出して来たんだよ。だけどこれから、どうやって夢に辿り着こうか考えていると、悩んでしまってね…困っていたところさ!どうしたらいいんだろうってね?」するとロバはこう言いました。「いい事を教えようか?しばらく僕と一緒に旅をしないか?そうしているうちに、きっと良い考えが浮かぶ筈さ♪一旦気持ちをリセットすれば、またやる気が満ち溢れて来るよ…きっと♪僕も新天地を探しているんだ。どうだい!一緒に来るかい?」犬はその言葉に触発されて、この提案に賛成しました。それで二匹で一緒に旅を続ける事にしました。

********************



「ツー…ツー…ツー…」


「こりゃ昔よりマイペースが堂に入って来たな…」


蒼生は苦笑しながら、受話器を置いた。


彼はその足で私に電話してきた様だった。


私の頭の中で一番に浮かんだのは、


『瞳さんの料理を食べる喜び』


であった(^-^;。


そうはっきり言うと、元も子もないが事実は否定しようも無い…。


まぁそれだけ彼女の料理に魅了されてるって事だろう。


特に他意は無かった。


それに蒼生が誘ってくれるのも嬉しいし、久し振りに遥夏さんに逢えるのも楽しみだった。


私は特に用事も無かったし…まぁ次の構想を考える必要は在るが、それ程慌てる必要がある訳じゃない。


私は二つ返事で快諾した。


「判った…今、朝飯食べてるから、それからゆるゆる行くよ…。」


そう応えると電話を切った。



蒼生は電話を切るとふと気になる事があって、食堂に向かうと、キッチンエレベーターの扉を開けた…。


『やっぱり…』


遥夏さんは『これから朝食』と言っていたし、ケイちゃん(私)も『朝飯中』と言っていた。


蒼生も電話が来る前は、いつものように朝の身仕度を済ませて、朝食待ちといったタイミングだった訳だから、いつも通りならもう温かい朝食がついていてもおかしくない…。


瞳さんはいつもきちんと時間通りに食事を提してくれており、これまで時間を過ぎたのは、あの日の晩だけだった。


それは恐らく私と出掛けた日の晩の事であろう。


『もしかして瞳さんに何かあったのでは?』


蒼生は即座にそう感じた。


思い当たる節もある…。


彼の看病と仕事を並行して進めて居たのだから、疲れも溜まっているだろうし、ひょっとしたら蒼生の感冒(インフルエンザ)が移ったのかも知れなかった。


感冒(インフルエンザ)の潜伏期間は一般に3~5日間とされているので、今頃になって発症しても何ら不思議ではない。


その上、疲労で免疫力も低下して居ただろうから、かなりその危険性は高かった。


『遠慮しないで下さい…』『困った時はお互い様…』


彼女が言ったその言葉に奮い起つ様に、彼は合鍵を持つと、取り敢えず様子を見に行く事にした。


彼にしてはよくぞ決断したと言うくらいに、その動きは早かった。


彼は既に遥夏さんや私との約束など、とうに頭の隅から消えてしまっていた。


蒼生は3Fから1Fにエレベーターで降りると、取り敢えず厨房の裏手に廻ってみたが、案の定、扉は閉まったままだった。


そこでいよいよ力の限り、身体の奥底から勇気を振り絞るや、瞳さんの自室の扉に廻り、チャイムを鳴らしてみた。


そして「瞳さん!蒼生です!居ますか?」と何度か声を張り上げて声を掛けてみたが、反応はやはり無かった。


蒼生は喉の奥にゴクリと唾を飲み込むと、緊張しながらも、自分を奮い起たせる様に、合鍵で扉を開けると中に入った。


蒼生は一応ここのオーナーなので、もちろん各部屋の間取りは頭に入っているが、入った瞬間に、そこは彼の知っている空間では無かった。


扉を開けた途端にまず鼻腔(びこう)が刺激される…とても素敵な薔薇(バラ)(かお)りが(ただよ)って来た。


玄関にはフランス人形やらバレエを踊る陶器の置物などが並んでいて、女の子らしい住まいにそこは変貌していた。


「いかん!いかん!」


一瞬の驚きから、目を奪われて、立ち止まっている自分に気がつくと、『何しに来たんだもう…』と自分を戒めながら、玄関先から上がり込む。


但し一応、念のために、


「瞳さん、居ますか?蒼生です…」


と声を掛けるのは忘れない。


間取りから判断して寝室を推察すると、足を早めた。


するとそこには、『Hitomi♡』とローマ字で書かれた名札が掛けてあり、名前の横には可愛らしいキャラクターの顔がプリントされている。


蒼生は部屋の扉をノックしながら、再び声を掛けるが、やはり返事が無いため、扉を開けると中に入った。


電灯のスイッチを入れて、部屋を明るくすると、ベッドには瞳さんが横たわり、見た目にも(うな)されていた。


蒼生はもう躊躇(ちゅうちょ)する事なく傍に行くと、瞳の額に手を当ててみた。


やはり焼けるように熱い…。


蒼生は再び声を大きくして呼び掛けてみるが、返事が無いので、カーテンを引くと窓を開けて新鮮な空気を室内に取り込む。


そして慌ててそのまま厨房に駆け込むと、水枕に氷を入れて持って来て、瞳の頭の下に敷き、再び厨房を往復するや、今度はタライに氷水を張って持って来ると、タオルを浸して額の上に置いてやった。


その上で掛かり付けの医者に電話すると、先生は今まさに自宅を出る寸前であったが、何とか掴まえる事が出来たので事情を話した。


「そらぁ大変だ!」


そう言うと直ぐに来てくれると言う。


実はこのお医者さんは、このビルの隣に邸宅を構える某大学病院の医者で、日頃から何かと世話になっている。


蒼生も先日この先生に来てもらって、診察を受けたばかりだったので、事情が判っているためか処置も早かった。


(かばん)を片手に持ち、ものの1分も経たぬうちに到着し、直ぐに診察してくれた。


そしてやはり診断の結果は、流行性感冒(インフルエンザ)と判明した。


注射や点滴など、当面の措置を手際よく完了すると、「安静にしてしばらく休ませる様に!」と言うと、薬を置いていってくれる。


そして「夜また回診に寄りましょう!」と言うと、そそくさと帰っていった。


多少、御出勤が遅れるかも知れないが、此方(こちら)としては助かったと言うべき心境だった。


『そう言えば…』


不意に思い当たる事があって、蒼生は玄関を飛び出すと、『気分屋』の正面に廻った。


『やはり…』


瞳さんのファンの方々が列を為して並んでいる。


蒼生は申し訳無さそうに声を掛けると、臨時休業の旨、伝えた。


皆ガッカリしたように引き上げて行くが、事情が判っているので、口々に「また来ます!」と言ってくれた。


そして蒼生は『気分屋』の入口に『臨時休業のお知らせ』を貼ると、急いで瞳さんの部屋に戻って行った。


しばらくすると、私はビルの前に到着した。


そしていつもの様にビルの入口に入ろうとして、ふと『気分屋』の入口に貼り紙がしてあるのに気がついた。


『臨時休業のお知らせ』と書いてある。


(;^_^A『どうしたのかな…?』と想いつつも、蒼生と合流するため3Fへ行く事にした。


するとふと見ると、目の前の扉が開いている。


『あれ?確かあそこは瞳さんの自宅では?えらく物騒だな…。』


そう想って見ていると、そこから人の顔が突然ヒョコっと飛び出して来て、首を廻してこちらを見るや片方の手でコイコイと手招いているではないか?


『蒼生だ!!』


私は傍まで近づいて行くと、蒼生は扉を閉めて外に出て来ると、「相談がある…」と言った。


私はどうしたのかと想いながら、ふと貼り紙の件に気がついて、「貼り紙と関係があるのかい?」と尋ねた。


蒼生は軽く相槌を打つと、経緯を説明してくれた。


「そらぁ、大変じゃないか?大丈夫なのかい…。」


私は蒼生の気持ちを想う余り、大袈裟に過ぎる言い方になった。


無論、当然の事ながら、瞳さんの事も心配だが、一応、聞くところでは、医者の措置は既に済んでいるので、多少は安心していた。


だが正直にそう言うと、蒼生の気持ちを傷つけるかも知れぬと(おもんばか)った次第である。


蒼生は自分の看病から移したと言って悔やんでいるので、私は人が生きて行く上で、やむを得ない事だと彼を(さと)した。


彼らは日頃、ほぼほぼ滅菌状態の中で生活しているから、知らぬだろうが、私のように出掛けなければ生活出来ぬ者にとっては、いつ・どこで拾って来ても不思議はないのだから、そう想うほかに道は無い。


要は運・不運の問題なのだ。


無論、限り無く防ぐためにマスクをしたり、手洗い・うがいを励行する事に違いはないんだけどね…。


彼は多少は罪悪感が和らいだ様だった。


そして、「どうしよう…?」と彼は言った。


その唐突な物言いに、私は「何が?」と言った。


そして反射的に応えた事に少し後悔した。


彼はギヌロっと私を根目付(ねめつ)けると、


「ケイちゃん他人事だと思ってるでしょ?」


とプリプリしている。


「何でそんな事言うんだ…思ってる訳ないよ!」


(;^_^A 私は少し感情的になって彼の言葉を否定した。


すると、「本当に?」とまだ疑ってる様なので、


「当たり前だ…きみは私を疑うのかい?」


と言ってやった。


言いながらも『痛いところを突かれた…』と多少感じている。


蒼生は「判った、信じるよ!」と言って私に相談を始めた。


『頼みがある…実は……』



********************

2匹で旅を続けていると、まもなく猫に出会いました。猫ちゃんはこれまで雇い主に可愛がられていましたが、後から飼われた若くて可愛らしい猫に取って替わられてから、見向きもされなくなりました。やがて(うと)ましく感じてきた雇い主から毒入りの餌を与えられたため、命の危険を感じて、そこを逃げ出しました。気持ちを切り替えて新天地でやり直そうと考えましたが、なかなか思うような場所が見つからず困ってしまい、悩んでいると打ち明けてくれたのです。「それは大変だね!どうだい、僕たちと一緒に旅をしないか?僕も新天地を見つける旅をしているのさ!そこでやり直せばいいじゃないか?」とロバは提案しました。猫はそれがいいと感じて二匹と一緒に旅をする事にしました。

********************



お昼前頃、遥夏さんはやって来た…。


蒼生は瞳さんに付きっきりで看病しているため、3Fの蒼生の自宅には私が待機する。


問題は瞳さんが倒れてるので、『気分屋』はお昼も臨時休業にするほか無く、せっかく遥夏さんが来ても何も食べる物が無いと、困るだろうから、私は蒼生に頼まれて、近くのお寿司屋さんに上寿司3人前を頼むと、冷たい麦茶と温かい緑茶を用意しておいた。


やがてチャイムが鳴り、「は~い♪」と行って扉を開けると、そこには確かに在りし日の遥夏さんが立っていた。


相変わらずアクティブに走り廻っているのか、肌は小麦色に程好く焼けて健康的に見えた。


髪は少し伸ばしたのか、今は後ろで束ねてポニーテールにしている。


服装は明るい色彩のニットにパンツは水色のジーンズと言う出立(いでた)ちである。


遥夏さんはてっきり蒼生が出ると期待していたのか、一瞬『おや?』という顔をしたものの、相手が私だと分かると、途端に「あら?ユー君げんき?」と言って笑った(*^.^*)♪


彼女はとにかく昔から『(くん)』付けで呼ぶ。


蒼生は「緑君」だし、私は「ユー君」だった…。


私は取り敢えず彼女を居間に通すと、声をかける。


「冷たい麦茶と熱い緑茶があるけどどっちにします?」


遥夏は窓の傍により風を受けながら、


「冷た~い麦茶がいいな!」と言った。


私は麦茶を入れてやると手渡ししながら、


「ご無沙汰でしたね♪相変わらず元気そうで安心したよ!」


と言って微笑んだ。


遥夏さんはにっこり笑って麦茶にひとくち口をつけて喉を潤す。


そして私の方を振り返りながら、


「ま!それだけが取り柄よ(笑)」


と言った。


私はお腹が空いてないか尋ねると、まだ空いていないと言う。


そこで「それなら…」と事情を説明する事にした。


「気分屋」を営む夏蓮奈瞳というシェフが流行性感冒(インフルエンザ)で倒れている事。


蒼生が始めに(かか)り看病して貰った末に移してしまった事。


そのため必死に付きっきりで看病している事。


そのため私が遥夏さんをお迎えした事。


それらを簡潔に説明した。


遥夏さんは真剣に聞いてくれていて、


「まぁ大変!」とか「やらかしちゃったのね…」とか「緑君らしい…」とかいちいちリアクション交じりに聞き終えると、「ご苦労様!」と私の姿勢に労いの言葉を掛けてくれた。


彼女は男勝りだし、口も悪いが、感受性は凄く強くて、しっかりとした判断力を持ち、相手を(おもんばか)る優しい気持ちを持っていた。


そしてやおら心配そうに、呟きながら、


「ちょっと見に行きましょう♪」と言った。


私は「へっ?」と一瞬たじろいだものの、


「それは…ちょっと…」と週淳(しゅうじゅん)する。


すると、「大丈夫!迷惑はかけないわ!ちょっとだけよ!男ばかりだと何かとね…」と言いながら、麦茶をグイッ飲み干すと、とっとと玄関の方へ歩き出した。


私は慌てて後を追った…。


二人はエレベーターに乗り込むと1Fに向かう。


遥夏さんは肩からかけているポーチからマスクを取り出すと、「はい!」と言ってひとつを私に渡した。


そして自分もマスクをする。


「念のための用心よ!よそ様の家で倒れたら洒落にならないでしょ?」


そう言うとエレベーターを降りてそのまま真っ直ぐに瞳さんの家の前に立ちチャイムを鳴らした。


よくよく考えてみるに、元々は遥夏さんが住んでた家だから自分の庭の様なものである。


しかしマイペースとはいえ、その行動は、気を使う事も忘れない遥夏さんらしくなく、余りに遠慮が無いように感じた。


中からバタバタと足音が聞こえてきて、扉がガチャっと開くと、蒼生が驚いた様な顔で見ている。


遥夏さんは「ヨッ!」と右手を挙げながら声を掛けるとニコニコしながら蒼生を見つめた。


蒼生は「遥夏さん!」と言うと、慌てて扉を閉めると外に出て来て「ご無沙汰!」と言いながら頭を下げた。


遥夏さんはマスクを取ると、蒼生の手を取り、


「緑君ご無沙汰!寝込んでたんだって…もう大丈夫なの?」


と優しく微笑んだ。


蒼生は私の方を見ながら、話したの?という感じで見ている。


私はコクりと相槌を打つ。


蒼生は『余計な事を…』という様な顔をしながら、視線を遥夏さんの方に戻すと、「有難う♪でももう大丈夫だから安心して!」と言うと、「遥夏さんも元気そうだね♪安心したよ…。」と言った。


すると、遥夏さんは慌ててポーチからマスクを取り出すと蒼生に手渡した。そして、


「話は聞いたわ!気持ちは分かるけど、ちゃんとマスクくらいしなきゃ駄目じゃない?緑君だってまだしゃんとしてないんだから…換気はちゃんとしてるんでしょうね?」


と少しきつめの言葉で尋ねた。


蒼生はポカンとした顔をしながら、「ゴメン…」と反射的に謝った。


そう言えば、遥夏さんによく怒られていたっけな?


昔を思い出す。


蒼生は「換気はしてるよ♪大丈夫。」


そう言うと、困った様に週淳(しゅうじゅん)している。


それは…遥夏さんに逢えて嬉しさ半分、瞳さんの容態が気になって辛さ半分…そういった感じがした。


それを鋭く感じ取ったのか、遥夏さんは蒼生に遠慮する事なく、こう宣言した。


「緑君!悪いけど少しだけここに居てもらうから…ボクがその()の様子を少し見てくるからね…大丈夫!迷惑は掛けないわ…。ただあんたじゃ着替えさせたり出来ないでしょう?流感は汗を掻くから着替えをまめにさせなきゃ…。ちょっと言って来る!」


そう言うと有無を言わせず扉を開けさせると、そのまま中に消えて行った…。


蒼生は反論を、挟む余地も無く、言うがままに扉を開けて遥夏さんを見送った…。


そして私の顔を見ながら苦笑した。


「変わって無いだろ?」と私も苦笑した。


「変わって無いね…。」


蒼生もフッと息を吐くとそう応えた。


彼は只少し緊張が緩んだのか安堵している風だった。



********************

三匹の旅の一行は、道すがら、豪勢な邸宅の中庭で淋しそうに鳴いている雌鶏(めんどり)を見かけました。その鳴き声は染み入る様に哀しさが伝わって来ます。「君の鳴き声はどこまでもどこまでも染み通るね。どうしたの?」とロバは尋ねました。「ご主人様が私を毎日の様に触っては、間もなく食べ頃だ…そう言って気味悪く笑うんです。私はそれが耐えられなくて鳴いているのです…。」と雌鶏は言いました。「間もなく私はスープに入れて食べられてしまいます…。いったいどうしたらいいのでしょう?」「それは気の毒な身の上だね…。」とロバは言いました。「それならいっその事、僕たちと一緒に旅をしないか?僕たちは新天地に向かうところさ。どこへ行ったって生きていれば必ず幸せを見つけられる。君は優しい。僕たちが一緒に協力すれば、きっと素晴らしい未来が見つかるよ。」雌鶏はこの計画に賛成しました。

こうして4匹は、一緒に旅を続けました。

********************



しばらくすると、「お待たせ♪」と言って遥夏さんが出て来た。


そして着替えさせたお陰でしばらくはぐっすりと眠れるだろうから、ひとりにさせても大丈夫だと言って、1時間おきに見に来ましょう…と提案すると、半ば強引に私たちを納得させると、皆で3Fに戻りひと息つく事になった。


蒼生は心配そうだったが、遥夏さんは、


「看病倒れはよくある事だから、本人も心配だけど、看る方も気をつけなきゃ駄目…共倒れになったら誰が看病するのよ?」


と言って蒼生の気持ちは尊重しつつも、しっかりこちらも対策をとらなきゃね!と戒めた。


私は遥夏さんが「男ばかりだと何かとね…」と言っていた意味を痛感した。


蒼生も同様の様で、私の顔を困った様に横目で見た。


遥夏さんは蒼生の部屋に戻るなり、皆に手洗いうがいをさせると、自分もしっかりと行った。


その上で蒼生に労いの言葉をかけると、皆で食事をする事にした。


遥夏さんはチャチャっとお茶を再び温めると、皆に次いで、三人で頭を付き合わせると、久し振りに卓を囲んで、上寿司を摘まんだ。


私も久し振りにお寿司を食べたが、美味しかった。


遥夏さんがいるから余計美味しく感じたのかも知れなかった。


「ところでユー君、作家さんになったんだってね?おめでとう♪念願叶ったのね…立派だわ!」


遥夏さんは優しい笑顔でそう褒めてくれた。


私は何か照れてしまって頭を掻いた。


「まだまだ駆け出しですし、これからが大変ですよ…まぁ自分の長年の夢ですから、地道に頑張りますよ♪」


そう言うと、蒼生もウンウンと頷いている。


「それでいいのよ…ボクだって未だにそう。料理人にも終わりは無い。始めた時から辞めるまでは試行錯誤の連続よ…妥協は無いのよ。それやり始めたら最早(もはや)料理人とは言えないわ…何でもそうよ♪書き物や料理の道だけじゃないわ!」


遥夏さんはそう言うと、最後に「頑張って先生♪」と笑顔で私を励ましてくれた。


「緑君は相変わらず妄想頑張ってるの?」


私が終わると標的は蒼生に替わった…。


蒼生は照れながら、「ああ…。」と言うと、気も(そぞ)ろだ。


すると遥夏さんは敏感にそれを感じ取ったらしく、


「まぁ♪こんな可愛い遥夏ちゃんが久し振りに訪ねて来たのに心外ね(笑)ま!気持ちは分かるけどね…」


そう蒼生を励ましている。


蒼生の方は自覚したのか…「ゴメンね遥夏さん…」


そう言いながら溜め息交じりに窓の傍に行くと肘をついて外を眺めた。


私は遥夏さんと顔を見合わせながら、苦笑した。


二人とも『駄目だ…こりゃあ…。』という顔だ。


すると、遥夏さんがやおら立ち上がると、蒼生にこう宣言した。


「緑君…悪いけどボクはしばらく厄介(やっかい)になるから、地下の部屋を一室貸してよね♪」


爆弾宣言だ…。


蒼生は、「緑君…」では反応しなかったが、「厄介になる」、「貸して」ではビクンと反応して、驚いた様にこちらを振り返った。


「いったいどうして…」


蒼生は遥夏さんを見るとその真意を尋ねた。


すると遥夏さんは真顔で「ん?」と反応するや、


「まぁ4~5日の間よ…大丈夫、迷惑は掛けないわ!それにホテル住まいは高くつくからね…元々計算づくなのよ♪元間借人を無下(むげ)には扱わないでしょう?」


そう言うと可笑しそうに笑った。


余りにも蒼生がポカン(゜o゜)とした顔をしているからだった…。


そして付け加える様にこう継いだ。


「それにボク…あの()に感情移入したみたいなの…何か分かるんだよね…今あの娘、悔しいと想うわ…。」


そう言うと、遥夏さんは店を開けられない料理人の忸怩(じくじ)たる想いを力説した。


「だからボク決めたんだ!店を開けるから…協力してよね?」


またまた爆弾宣言だ!


これには流石の私も驚いた(; ゜ ロ゜)…。


蒼生も目をまん丸くして驚いている。

( ゜A゜ )…


二人で顔を引き釣らせながら、顔を合わせた。


そして、蒼生もこれには想わず口を出す。


「それって不味いんじゃ(-。-;)…。」


私もウンウンと相槌を打つ((・ω・`;))…。


すると遥夏さんは、フゥ~とひとつ大きな溜め息を()くと、こう言った。


「大丈夫よ!今言った様に料理人にとっては店を開けてなんぼなの…。私も観てから入って来たんだけど、-臨時休業のお知らせ-ってあれは不味いわね…どうせ今朝もお客さん並んでたんでしょう?」


そう言うと蒼生の顔を見つめた。


『講釈師、観て来た様に物を言い…』


という川柳(*1)があった様な気がするが、この場合は彼女はプロの料理人なので、いい加減な言葉では無く、正しい推測だろう。


蒼生もそれは否定しなかった。


彼は実際、直接見ていたのだし、言葉に出して丁寧に謝ったのだから…。


でも恐らくは、私も蒼生も素人考えながら、勝手に料理人の聖域を別の料理人が(おか)して良いものか…そう思ったのだった。


しかしながら、遥夏さんは最早(もはや)やる気満々で、引く気は無い様だった。


ただ我々を納得させる為に最終手段に打って出た。


「緑君!彼女が治るまでお食事どうするの?私が居れば三食安泰だし、そのためにはお店開かないと材料揃わないよ!それでもいいの?」


最早(もはや)、守勢に陥っていた我々、瞳連合は、遥夏さんの放った留目(とどめ)のミサイルで完全崩壊を迎えた。


特にこの一言で蒼生は衝撃を受けた様だった。


我々は全面降伏して、白旗を掲げた。


遥夏さんはその勢いで、我々の協力を約束させたのだった。


ふと掛時計を見ると早や小一時間が経過している。


遥夏さんはそろそろ洗濯物が終わる頃だと言って、蒼生に合鍵を求めた。


元々、間借人だけあって、彼女は色々と知っている様だ。


蒼生も『敵わない』と言った呈で、遥夏さんの求めに応じ、瞳さんの部屋の合鍵と厨房の合鍵、そして地下の2号室の鍵を渡した。


遥夏さんは「有難う♪」と言って、そそくさと出て行った…。


私は仕方無く蒼生に向かって手を差し出した。


あれだけ乞われて逃げる訳にも行かない…。


蒼生は「君も観念した様だね、先生(せんせ)!」と言って、地下の1号室の鍵を差し出した。


「ああ…」と私は言いながら、


「しばらく私も厄介になるよ!一度帰って身支度して来る…。」


そう言って一度帰途に着いた。


『……』


私の自宅はここでは明かせないが、蒼生の自宅からは片道小一時間と言ったところだろうか…。


しかしながら帰って宿泊準備をしていると、こういう時に限って邪魔が入るもので、担当編集者から電話があったりして、対応に追われてしまっていた。


そんな事で、私が蒼生たちに再合流する頃には、夕方が押し迫っていた。


何とか夕刻のラッシュの時間をすり抜けて、私が戻って来ると、1Fの厨房の裏口の前には蒼生がひとり(たたず)んでいる。


「どうだい?」


私は彼に声を掛けると、蒼生はニコッと笑って口を開いた。


「さっき瞳さんの顔を看たけど、だいぶん熱は退いて来てる様だ。まだ意識は戻らないけど、スヤスヤと寝ている様で少し安心したよ…。」


蒼生の安堵した顔を見て、私もホッとした。


「で!何してる?」


私は手持ち無沙汰の蒼生を見つめながら、そう尋ねた。


「遥夏さんが大活躍中!…と言ったところかな?流石に餅は餅屋と言うけれど、それは真実だ!」


そう言って蒼生は感心仕切りの様だ。


私もチラッと見ると、早速なにやら料理に取り掛かっている遥夏さんがそこには居た。


蒼生と私は邪魔になってはいけないと、一旦遥夏さんを残して3Fに戻る事にした。


蒼生は早速、私にお茶を()れてくれて、男二人は顔を見合わせて苦笑した。


「やっぱり男だけでは何かとね?…案外役に立たないものだね…。」


蒼生は珍しく本音を吐露した。


余り二人きりの時に弱音を吐かない奴だが、今回ばかりは(こた)えた様だった。


いみじくも遥夏さんが言っていた言葉と同じ台詞(セリフ)が彼の口から出て来ようとは…。


私は想わず笑って仕舞いそうになったが、彼の手前我慢する事にした。


すると彼は、私が居なかった数時間の事を説明してくれた。


これから協力する以上、出来得る限りの情報共有をしようとの、彼なりの配慮の様だった。


遥夏さんは瞳さんの様子を見に行くと、容態が少し落ち着いていたので、蒼生を呼びに来たそうだ。


彼の気持ちを(おもんばか)っての事だろう。


そういう気遣いは出来る()なのだ。


遥夏さんはお布団を直してやると、水枕を替えてやり、氷水を再びタライに張って来ると、タオルも替えてくれた。


その足で今度は洗濯物を干しに庭に出ると、テキパキと干していく。


それから「しばらく付いていてやったら?」と言い残して、厨房に向かったそうだ。


少し瞳さんの顔を見ていて安心した蒼生が部屋から出て厨房に行くと、遥夏さんは翌日の件で仕入れ先と交渉の最中で、何とかそれを済ませると、料理の支度に取り掛かったと言う訳だった。


蒼生が遥夏さんから聞いたところに依ると、


「あの娘しっかりとしたシェフだわ…材料の保存もしっかりしてるし、仕入れ先とも太いパイプを持っているようね…大した者よ!」


そう言っていたらしい。


蒼生はその言葉が嬉しかったのか、我が事の様に、得意気に話すのだった…。


微笑ましい話だとは思うが、私なんかは当たり前の様に聞こえたりしなくも無い。


しかしながら、あの遥夏さんが言うんだから間違いないのだろう。


それはそうだ!


じゃなきゃ私が瞳さんの料理に、こんなにも魅了されている事と理屈が合わない…。


それにしてもこれからしばらくの間、遥夏さんの料理が堪能出来るとは…『転んでもただでは起きない』とはこの事だが、これは念のためであるが、浮気では無い(;^_^A…。


あくまでいち御相伴好きな者としての喜びであった。


蒼生は私の顔を見つめながら疑いの眼差しで、


「ケイちゃんまたゾロ善からぬ事を考えているでしょう…?」と皮肉を言って来る。

(;¬_¬)…。


こんな時、タイミングを外さない男…それが緑蒼生なのだ…。


私は想わず…本音を見透かされたかと、ドキリとさせられた。


しかしながら、流石に間が悪いし、蒼生を傷つけると思い、はぐらかす。


「すまんすまん…実はさっき家に戻るなり編集者から連絡が来てね…少しその事を考えていた…。」


苦肉の策だが仕方無い。


嘘は言っていないのだから…とは言え少々心は痛んだ。


こんな時に食べ物の話でひとり悦に入っていた自分を戒める切っ掛けになって良かった…とひとり御馳(ごち)た次第である。


蒼生は「本当に?」という顔をしたが、それ以上深くは追及して来なかった。


やはり瞳さんの事が心配なのだろう…。


私は『悪かった…』と深く反省するのだった。


蒼生はやおら窓の傍に歩を進めると、窓辺でひとり(たたず)み出した。


()んやりとした外気が流れ込んで来て、気持ちが良いのだそうだ。


『窓辺に佇む男』私なんかはこれが絵画なら、そう名付けたいくらいに、この男はその姿がよく似合う。


そんな事をまた考え始めた矢先の事だった。


窓の外をのんびりと眺めていた蒼生は、急に私の方を振り向くと、コイコイと手を振っている。


私は考え事から危うく再び見逃すところだったが、尾首(おくび)にも出さずに、窓辺に寄った。


「下を見てご覧!」


そう言われて私は窓辺から外に視線を向けると、白衣の上から無造作にコートを羽織(はお)った人物がこちらにセカセカとやって来る。


かなり急いでいると見えて、只ひたすらに前方を見つめたまま、真っ直ぐに歩いていた。


「あ!」と私は声を上げかかって、慌てて口を(つぐ)んだ。


下手をすれば相手に聞こえてしまう…。


「そう!隣のお医者様さ!少し早く診療が終わったらしい…。(やっこ)さんにしては、早いお着きのようだ!!」


蒼生はそう言うと、私の肩をポンポンと軽く叩く。


そして「行くぞ!お出迎えだ♪」と笑いながら、玄関に向かった。


私はまたまた遅れてその背中を追った…。


エレベーターに乗りながら彼は、


「念のためマスクをしよう!」


そう言いながら、ポケットからマスクを取り出すと、急いで身につけた。


私も同様にマスクをつける。


そして「あれれ…」と妙に気になったが、直ぐに、


『遥夏さんの時と同じ…あの繰り返しなのだ…』


と気がついた。


デジャビュ~にしては、すごく臨場感が有り過ぎる…私はひとり苦笑した。


先生は自宅にも寄る事なく、真っ直ぐに入口の扉を開けて入って来た。


そして蒼生を見つけると、


「今朝はどうも!少し早く終わったので、駆けつけましたよ…その後、如何(いかが)です?」


と瞳さんの容態を気にしてくれているようだ。


蒼生は先程までは『(やっこ)さん』などと悪態をついていたのに、そんな事は知らぬとばかりに、


「こちらこそ無理を言ってすみません…先生いつも有難う御座います!」


と立派な挨拶を述べると、


「今はお陰様で落ち着いて来て、熱も下降傾向ですが、如何(いかん)せんまだ目が覚めなくて心配しております…」そう伝えた。


先生は、ウンウンと頷き聞いていたが、


「成る程…それは心配ですね…直ぐ看てみましょう!」


と言うと、蒼生に先導されて瞳さんの部屋に消えていった。


私も一緒に着いて行こうかとも思ったが、遥夏さんが顔を出すかも知れぬと思い、自発的に残り、中継役を担う事にした。


表面上ではこれといったミスは無い?ものの、今日は朝から色々とやらかしてしまったと自覚のある私は、ここらで黒子に徹して、役に立たねばと思った次第である。


すると不思議なもので、こういう時に限って遥夏さんが厨房から出て来た。


『ナイス私!!』私は思わず心の中で狂喜乱舞したものの、遥夏さんの反応は誠に残念なものだった…。


「ユー君そんなところでひとりでど~したの…緑君は?」


彼女は私を見掛けると心なしか自嘲気味にこう言った。それは私がそう思っただけかも知れない。


彼女はけしてそんなつもりで言ったのでは無い事は痛いほど分かってはいるのだが、ひとりやる気になっていた私の心は急激に下降した…。


(;^_^A…『まぁ私は所詮、脇役よ…。』そう思いながらも、気を取り直して、自分に課した役目を全うする事にした。


「お医者様が夜の回診に来てる…今、蒼生が付いてるんで、(じき)に様子が判ると思うよ…。」


すると遥夏さんも、


「そうね…でもそろそろお姫様には目を覚まして頂かないとね…。」


そう応えながら、


「仕込みは終わったわ…夕食はいつでも出せるから言ってね…♪」


そう言うと、


「ボクは少し疲れたから、30分ほど仮眠取るから!もし何かあったら、遠慮なく地下に呼びに来てね!!」


遥夏さんには珍しく、そのままとっとと階段を降りて行き、やがて扉がガタンと閉まる音がした。


「疲れたみたいだな…」


流石の元気印も大活躍だったから、然も有らん…と言うところだろう。


よくよく考えてみるに、


『私は果たして役に立っているのかしらん…?』


と思わないでもなかった(;^_^A…。


『……』


けっきょく先生の診察の時間の方が長くなったため、遥夏さんはファ~と欠伸(あくび)をしながら階段を上がって来た…。


するとちょうどタイミング良く、瞳さんの部屋の扉が開いて、先生が先に出て来る。


その後、直ぐに蒼生も出てきて、扉を閉めるや先生に、


「有難う御座いました!」


そう言いながら、照れた様にペコリと頭を下げた。


「峠はこれで越しただろうから、もう大丈夫でしょう…目が覚めて良かったね…でも何か合ったらいつでも構わないから、遠慮なく言いなさい…ではお大事に!」


そう言うと、我々に軽く頭を下げて引き上げて行った。


先生もこれから本格的に帰るなら大変だろうが、隣の家だから、こちらの気持ちも多少は楽というものである…。


こんな言い方をすると、また不味い事なるのでこれで控える事にする。


「あの娘目が覚めたんだ…」


(みみ)(ざと)く聞いていたのか、遥夏さんは蒼生に「緑君!良かったね♪」と声を掛けた。


私も遅ればせながら、「蒼生~良かったなぁ♪」と続く。


蒼生は「二人とも有難う、皆のお陰だよ♪」と言って、ニコッと微笑む。


そして「瞳さんがお礼を言いたいと言ってるから、入って()れ!…但し、マスク着用ね♪」と言った。


私は直ぐにポケットからマスクを取り出すと身につける…。


実は私はまだ瞳さんのお部屋には上がった事が無いので、内心ウキウキしていた…。


すると遥夏さんは、「あ!」と言うと、


「ちょっと待ってて…取って来る…」


そう言って、部屋に戻ろうと焦って居た。


そこで私は然り気無くポケットから新しいマスクを取り出すと、「はい!遥夏さん♪」と渡してやった。


遥夏さんは驚いた様に私を見ると、


「ユー君…優しいじゃん、有難う♪」


そう言って快く受け取ってくれた。


蒼生は、「じゃあ入ってよ!」と言うと、我々を通してくれた。


私は内心「ナイス!!私♪」と心の中で叫んでいた…。


実はこんな事も在ろうかと、自宅から戻って来る時に、マスクをたくさん持って来ており、そのうちの1枚を然り気無くポケットに忍ばせておいたのだった…。


まぁ、種を明かせば、物をあちこちに置いて来るのが得意な、蒼生の分だったんだけどね♪


私の中ではこれで今日の失策を相殺するだけの値千金のサヨナラヒットになったのではないか?と自負している。


(;^_^A まぁ…自己満足ですがね(笑)



********************

4匹は夜になり森の中で野宿をしていると、木の上に居た雌鶏と猫が遠くに明かりを見つけました。もしかすると、食事にありつけるかも知れません。そこで4匹は、明かりがある場所を目指して進み、まもなくその明かりがだんだん明るく大きくなって、目の前には立派な家が見えて来ました。屋根の煙突からは、モクモクと煙が夜空に流れていきます。そして風の悪戯なのか、とても美味しそうなご馳走の匂いが漂って来ました。中からは下品な男たちの罵声が響いて来ます。ロクな連中では無さそうでした。そこで、一番大きいロバが窓に寄って中を覗き込みました。するといかにも悪い顔の連中です…恐らく山賊に違いありません。4匹は知恵を絞って協力して、山賊を退治する事にしました。まずロバが前足を家の窓枠に掛けて、犬がロバの背に飛び乗ります。そして猫は犬の上によじ登り、最後に雌鶏が飛び上がって猫の頭に留まりました。その上で『せ~の♪』と合図に従って、4匹が同時に溢れんばかりの声で(いなな)きました。それから窓を破ると、4匹が次々と部屋の中にどっとなだれ込みます。この恐ろしい騒ぎに、山賊たちはてっきり化け物が入って来たと思い込み、跳び上がる程びっくり仰天して、森の中へ慌てて逃げて行きました。こうして4匹は憩いの場とも言うべき『新天地』を見つけたのでした。

********************



『……』


私はほぼお初と言って良いくらい、女性のお部屋には入った事が無いので、可愛らしいお部屋にとても驚いていた(+_+)…。


しかも…薔薇の素敵な香りが、辺り一面にそこはかとなく漂っている。


反射的に想わずクンクンしてしまう…。


『しまったぁ…(T_T)』


気づいた時には手遅れである…。


するとそれを()(とが)めた遥夏さんは、


「芳香剤よ…芳香剤…こんなん欲しけりゃ薬局に行ったらいっぱい売ってるわ…。」

(*`Д´*)☆


と夢の無い事を言う。


蒼生もそれを見て含み笑いしている…。


『(>д<*)くっそ~!あいつだって今朝そう想ったに違いない…いっちょ前に経験者の余裕、()ましてやんの…腹立たしい…どうしてくれようか?』


などと、少々下品な物言いに想わず為ってしまった私である…。


無論、実際は頭の中で考えただけで、口には出さないが、そんな想いが顔には出たかも知れなかった。


遥夏さんはケラケラ笑うし、蒼生は、私が気を悪くしたのを察したのか、スタスタと逃げる様に()を進めた。


私はもしかすると先程のタイムリーが帳消しになったかも…と想わずにはいられないのだった…。

(;´д`)…


『……』


瞳さんは枕を背もたれにして少し起き上がっていた。


心なしか少し顔には(あか)()が射している様に見える。


まず蒼生が入り、私が続き、最後に遥夏さんが入った…。


蒼生は瞳さんに遥夏さんを紹介しようと遥夏さんの方に向き直る。


その時、不思議と瞳さんの目に輝きが宿った…。


(゜-゜)『??…』私はよく判らなかった。


事情を知らないのだから仕方無い。


蒼生は遥夏さんの方を振り向いているので、瞳さんの顔は見えておらず気がつかない…。


すると瞳さんは嬉々として…


遥夏(はるか)(ねえ)さん♪」


そう叫んだのである…。


これには蒼生も想わず瞳さんを振り返ってビックリしている Σ(。_。;)…。


顔がとてもひきつっている様だった…。


私もそれに輪を掛けたくらい驚いた…。


そして男たちは顔を見合わせて驚きを共有し、いったい何が起きているのかと、頭が真っ白になってしまった…。

(゜-゜)(。_。)…


「ヨッ♪瞳お久しぶり…。」


遥夏さんは少し照れ隠しに笑うとそう応えた…。


そして瞳さんに近づいて行くと、頭を優しく撫でてやっている…。


(゜-゜)(。_。)…我々男性陣はまだ真っ白になったままの頭脳で、操作不能のロボット宜しく…固まっていた。


特に蒼生のショックはかなり酷いもので、まるで魂の脱け殻の如く見えた…かなり気の毒である。


二人の内ではまず始めに私が正気を取り戻した。


変に感情が絡んで無い分、早かったのだろう…。


すると遥夏さんは蒼生の傍にやって来るや、


「しっかりしなさいよ、緑君♪」


そう言って少し強めに肩を叩いた。


蒼生はやっと正気を取り戻すと「どうして?」とだけようやく口に出した…。


遥夏さんはケラケラ笑いながらそれを観ていたけれど、流石に少し気の毒になったらしく、


「種明かしをしてあげる…」と言った。


遥夏さんは流石にケラケラと笑うと蒼生がよりショックが大きくなると気を使ったらしく、クスクスっと女性らしく微笑んでいる。


そしてこう口火を切った…。


「まず始めにね…いくら遥夏ちゃんが可愛いからって2人ともコロッと騙され過ぎよね…。」


遥夏さんはまずそこを指摘した…。


2人ともグーの根も出ない…。


ただ遥夏さんの色香に負けたとかという訳じゃなく、男勝りに切符の良い遥夏さんが我々をペテンにかけるとは想わなかっただけである事を強く主張して置きたい…今となってはその信憑性も甚だ苦しいが…。


「そしてね…ボクが何年か振りに偶然会いに来るというのも、まともに考えれば、必然性は薄いでしょう?如何かしら(笑)」


(;^_^A これは私じゃなく、明らかに察しられなかった蒼生が悪い…。普段の彼なら考えられない失策だが、恐らく瞳さんの事が心配過ぎたのが敗因であるため、強く責められないのが辛いとこだな…。


「普通は誰かに頼まれた…これが必然よね♪理解出来たかしら?」


遥夏さんはそう言うと瞳さんを見つめた。


「私だって暇じゃないのよ…一応これでも従業員の生活がかかってる訳だし…でも可愛い後輩の瞳から頼まれちゃあ、遥夏さんも嫌とは言えない訳よね♪」


すると瞳さんがここで申し訳無さそうに、頭を下げた。


「蒼生さんもケイさんもご免なさい…そして有難う御座います…私のために色々とご苦労をお掛けして…(T_T)…遥夏さんは私の新米シェフ時代の先輩で…今回も私が頼んだの…でも少し頑張り過ぎちゃって…却って大変な事になって、とても反省しています…遥夏さんも私のわがまま聞いてくれて有難う…。」


すると遥夏さんは、


「困った時はお互い様♪…瞳!あんたそう言ったんだろ?だったら気にしなくていいよ…ボクはまたあんたが倒れても、同じ事をするまでさっ♪」


そう言って、彼女の頭をポンポンと優しく叩いた。


「いや…今回の事はみんな僕が悪いんですよ…瞳さんは悪く無い…献身的に介護していただき本当に感謝しています。却って迷惑を掛けてすみません…瞳さん有難う…そして遥夏さんも迷惑掛けてすみませんでした…。」


蒼生は2人に交互に頭を下げた。


私に言わせれば、先に述べた様に感染リスクの軽減は自己防衛によってのみ叶うものだが、それでもリスクを極限まで抑えられるというだけに過ぎない…。


マスクや手洗いうがいはもちろん励行すれば感染リスクは下がるだろうが、それでもひょんな事から貰って来る事もある。


運・不運は往々にして付きまとうと言える。


まぁ但しこの場合は蒼生が恐らくはマスクをしていれば…また状況は変わったかも知れないが…。


「蒼生さん、そんな…謝らないで下さい…」


瞳さんは再び恐縮してしまった。


すると遥夏さんが()かさず助け船を出す。


「緑君、きみ素直で宜しい…ちゃんと素直に筋を通せる男って格好いいよ♪ま…これを反面教師にして、次から用心すればいいって事♪ボクもいい気分転換になったし、結構愉しんでやってるからね(笑)」


蒼生は珍しく遥夏さんが褒めるものだから、妙に照れている。


そんな彼をなかなか観れないので何か微笑ましい。


遥夏さんは続けて瞳さんにも声を掛ける。


もはやこの場は遥夏さんの独壇場になった。


「瞳!あんたもいい骨休めだと思ってしばらく安静にしな♪何しろついさっきまで意識無かったんだし…。お医者様もそう言ってたから…まぁボクもせっかく予定組んでわざわざ来てんだから…しばらくはこの遥夏さんに任せなって事かな♪」


こうして瞳さんはしばらくの間、半ば強制的に養生する事になった…。


瞳さんはお客さんの事も有り、早く復帰したがったが、遥夏さんに却下された…。


元々は瞳さんの依頼で来ている遥夏さんに分があるので、瞳さんもこれに従うほか無かったが、『最終日だけは一緒にやったげる♪』と言われて大人しく静養する事にしたらしい…。


その期間は5日間…つまり後、残り4日間という事になる。


これは蒼生が回復にかかった日数を元にしている。


遥夏さんも実際、1週間の休暇で来ているため、移動日と休養込みでの5日間が都合が良いらしかった。


その夜は瞳さんも遥夏さんが(こしら)えた特性のお粥を少し食べる事が出来た。


但し、また熱は出たり引っ込んだりするだろうから、蒼生と私で交代で見て廻る事になった。


遥夏さんは朝と昼、店を開けなければならないし、仕込みもあるから、昼間の空いた時間に顔を出して貰う事にしたのである。


「これから働いて貰わなきゃ行けないから…♪」


遥夏さんはそう言うとその晩は特製の中華丼に醤油ラーメン、中華サラダを作ってくれた。


蒼生の好きなもやしの胡麻脂和えも付いている。


今は使用されていないが、使わなくても瞳さんはきちんと清掃をかけてあり、私たちは昔を懐かしんで店内の食堂に集まって食事する事が出来た。


その晩は瞳さんが目を覚ました安心からか、箸も進んで、私たちは遥夏さんの作ってくれた料理の数々を、心行くまで堪能する事が出来たのである。


とても愉しいひとときだった。



********************

4人の仲間はテーブルに座り、山賊が食べていたご馳走をたらふく食べる事が出来ました。皆お腹が空いていたのでしばらくは夢中になって一心不乱に口を動かしたのです。お腹が膨らむと、今夜はのんびりと眠る事にしました。皆、暖かい場所を選んで死んだようにぐっすりと眠りについています。余程旅の疲れが溜まっていたのでしょう。めいめいが自分の習慣にあった場所を選ぶ事も忘れていませんでした。ロバは庭の(わら)の上に、犬はドアの裏に、猫は暖炉の傍に、雌鶏は煙突のレンガにもたれ掛かって寝ています。ところが真夜中を過ぎた頃に山賊たちは恐る恐る戻って来ました。家の明かりはすっかり消えています。暗闇の中、皆で家の中に侵入しましたが、灯りがないと何も見えません。そこで暖炉の傍に歩み寄ると、たまたま寝ていた猫の尻尾を踏みつけてしまいました。驚いた猫は引っ掻きます。山賊はギャ~と叫び声を挙げて逃げ出そうとしましたが、その叫びに目を覚ました犬に噛みつかれました…。またまた大騒ぎです。皆必死で家から飛び出すところを騒ぎに気がつき、待ち構えていたロバに次々と後ろ足で蹴られて、最後は雌鶏の恐ろしい嘶き声が空から降って来ました。山賊たちはこうして散々な目に合うと、死に物狂いで逃げて行きました。もう二度と戻っては来ないでしょう。こうして4匹はそこで仲良く末長く暮らしたのでした。☆おしまい☆

********************



翌日から早速そのプランが動き始めた。


我々は予め取り決めた分担に従って行動を開始した。


男ふたりは自分の仕事をしながら、瞳さんの面倒を看て行く。


そして遥夏さんはお店の臨時開店である。


遥夏さんの開店した『気分屋』は概ね好評で、みんなとても喜んでくれている様だった。


特に遥夏さんが昔ここで開店していた当時の事を覚えているお客さんも居たりして、妙な盛り上がりすらみせた4日間となった。


遥夏さん自身も久々にこの場所で料理を作る喜びに時間を忘れて愉しみながら取り組んでいたようだ。


そして最終日…起き上がる事が出来る様になった瞳さんは、約束通り、遥夏さんとコラボレーションで店を盛り上げる事が叶い、涙目で喜んでいる。


遥夏さんも想わず貰い泣きしていた。


瞳さんは『災い転じて福』となったこの喜びに、皆にとても感謝している様だった。


こうしてお務めを無事に終えた遥夏さんは、笑顔で手を振りながら帰宅の途に着いたのである。


4匹…もとい4人の仲間たちは、それぞれに憩いのひとときをこの地で過ごす事が出来たのか、皆とても爽やかな満足そうな顔をしていた。

(*1)『講釈師、観て来た様に物を言い…』

・・・「講釈師、観て来た様に嘘をつき」が正しいのですが、今回は落語で観劇した際にさる師匠が使っていた言葉を採用しています。悪しからず(笑)


【第15話後書き】


(*^^*)長編読破有難う御座いました♪

如何でしたか?

遥夏さんは瞳さんの知り合いだったんですね?

このお話の肝は実は全てそこに集約される気がします…。それをバレない様に書き進めるのが大変な作業でした。

想わぬ長編になり、自分でも驚いています。

六日間悩みながらの取り組みでしたが、楽しんでいただけると嬉しく思います。

今後とも宜しくお願いします。


【蒼生・瞳・遥夏・ケイ】

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