吾輩は犬である【後編】
音のする方を目指して木々を掻き分けながら進んで行くと、彼方には一本の川が流れている。
『へぇ~森の中にも川が流れとるのね…。』
私はそう想いながら、出発の地である橋の袂を頭に画いた…。
『成る程…あの川に注いでいる支流かも知れんな…』
流石に川を渡るためには小高い山嶺を降りなくてはならないため、一旦そこで様子をみる事にした。
すると川の向こうから二人連れの子供が必死の形相で逃げて来るのが見えた。
男の子が女の子をおぶりながら、何かから逃れるように走っている。
どうやらそれは兄妹に見えた。
ところが目の前にはやがて川が見えてきて、ふたりの逃走を阻むように、立ち塞がっている。
私は手に汗を握り…もとい前足に汗を握れるかはわからん(爆)…何しろ可愛い肉球では握れまい(汗)
ええい!そういう気持ちの比喩である…。
話を元に戻そう(;^_^A♪
兵十は手に汗を握り…それを見守るしか手が無い。
それは私も同様である…。意気込みだけは…。
(;^_^A♪兵十さんに巧くすり替えて表現してみました(笑)
話にまたまた戻りま~す♪
すると何を思ったのか、男の子は女の子をおぶったまま、ひょいっと川に向かって跳び跳ねた。
私も兵十も思わず、「危ない!!」と叫ぶ。
ところがである!
奇跡のような軌跡を描いたその跳躍は見事に成功して、二人はこちら側にうまく辿り着いた。
そしてその反動で二人は転がって行くが、身体を巧く捩りながら、女の子を庇うようにして、男の子は身を呈して守ったのだった。
そしてやおら立ち上がると、女の子を庇いながら、背後を気にしており、何かを視認したのか、また慌てて女の子をおぶると一目散に逃げ始めた。
私も兵十も目を凝らして見るが、何も見つけられない…。
すると先に兵十が急に顔を歪めると、指を指しながら、私に話し掛ける。
「神様!あそこです!あの黒いものは何でしょうか?」
(;^_^A! 流石は伊達に猟師をやってない!遠目が私より効くようだ。確かに良く見ると、黒い崩れかけた輪郭のモノが二人を追いかけて来ている。
私はその黒いモノが、今、正に川を渡らんとしている所を見て、危険を察し、慌てて兵十に命じた。
「あれを直ぐに撃ち落とせ!」
兵十は遠いところから二発の弾を正確無比に貫ける腕を持っている。
今はただ、彼のその腕に賭けるほか手が無かった。
兵十は直ぐ様、鉄砲を構えると、間髪容れずに発射した。
辺りには「ドゴ~ン!」という銃声が響き渡る。
すると流石は見事な腕前だ!兵十の弾は黒いモノのど真ん中に風穴を開けた!
するとそこに一陣の風が吹き、バランスを崩した黒いモノは弾に身体をバラバラにされたまま、川に堕ち、そのまま濁流に呑まれて行ったのである。
「見事♪♪」私は兵十を称えた。
兵十は少々照れながら「有難う御座います!」と応えた。
我々はこちらに向かって丘を登って来る二人に声をかけた。
するとそれに気がついた男の子がにこやかに微笑んで我々のところに辿り着くと、頭を下げた。
「助けていただき有難う御座います♪」
どうやら兵十の銃撃に気がついていたようだ。
兵十は「いや何!無事で良かったね♪」と応えた。
二人はかなり無理をして逃げて来たのか、酷く疲れているように見えた。
そこで兵十は私をチラッと見ると、相槌を打ち、私もそれに頷いて応える。
すると兵十は、やおら二人に向き直り、提案を始めた。
「疲れてる様だから、少し暖を取ると良い!この先に直ぐ焚き火をしながら寛げる所がある。食べ物もあるぞ!少し腹に入れてから、今後の身の振り方を考えては?」
そう言うと、「ささ!どうぞ!こちらだ!」と先頭に立って案内した。
男の子は感謝の意を表して、我々に同行する。
女の子も男の子の背におぶられながら頭を下げた。
二人はやはり大変、お腹が空いていたらしく、焚き火の周りで暖を取りながら、差し出された骨付き肉をガムシャラに啄んでいる。
我々はそんな二人をしばらく温かく見守っていた。
彼らの遭遇した危険は、実際に体験した者でないと解らない。
よく逃げ延びて来られたもんだ…妹を想う兄の心意気や優しさは山よりも高く、海よりも広いと言ったところで在ろう。
そして兄を慕い、信じている妹…肉親の情とは何物にも替え難い大事なものなのだ。
それが誰よりも判っているから、兵十は自然と彼らを慮る言葉が口から出たのだろう…。
人間は欲望で動く者が多い昨今、このような場面に遭遇すると、まだ人も捨てたもんでは無いと気づかされる。
兄は妹に「寒くないか?」と優しく声をかけている。
妹も兄を心配させまいと笑顔を見せながら、
「私は平気よ♪お兄ちゃんは大丈夫?」
と応えている。
だが、見た目にも疲労困憊なのは端から見ているとよく解った。
兵十はそんな二人を眺めながら、気を効かせて、
「川の水を汲んできてやろう…喉もたっぷり潤すと良い!」
そう言いながら、「ちょっと行ってきます♪」と私を見ながら目配せした。
私はさりげなく頷く。
兵十は元気に立ち上がると、念のために鉄砲を持って山肌を降りて行った。
兵十も今日はいろいろあったのだから、疲れていない筈は無く、それでも彼が元々備えている性根の良さと、何より優しさが、彼を突き動かしているのだろう。
兄は妹を抱き抱えながら、優しく頭を撫でてやっている。
本当に仲の良い兄妹だな…そう私は想った。
しばらくすると、「エイホーエイホー」と声をかけながら山肌を上がって来る物音が聴こえて来た。
すると木々のガサガサと揺れる音がして、
「戻りました!」
と兵十が戻って来た。
彼は前屈みになって二人を見下ろすと優しく微笑んだ。少し息が荒い。
急な勾配をものともせずに上がって来たのだろう。
少し疲労感が見てとれる。
でもその顔からは満足気な気持ちから滲み出る達成感が見て取れた。
「さあ飲みなさい!」
兵十は腰に下げている竹の筒を二人に差し出した。
兄は頭を下げて礼を述べながら、先に妹に渡して、「お前が先にお飲み♪」と優しく言った。
妹もコクリと頷きながら、頭を下げて飲み出した。
兄は妹が飲んだのを見守りながら、じぶんも水を口に含む。
兵十はその様子を温かい眼差しで見守っていた。
ようやくひと息着いたのか、二人は交互に感謝の意を表している。
兄妹は互いに自己紹介を始めた。
「私はこの娘の兄で蒼生と申します。この娘は、妹の瞳です…。」
彼は続いて助けて貰った礼を述べている。
『!!(゜ロ゜)…にゃんだとう!!』
私はその名前を聴いた瞬間、頭の中はその事に支配されて、彼の言葉は遮断された様にその先が聴き取れなかった…。
『蒼生と瞳さん…なのか??』
私は驚きの余り、目を白黒させながら、彼ら二人をガン見していた。
確かによく見ると、蒼生と瞳さんの様だった…。
まだあどけない子供の顔だから、私が直ぐに気がつかなかったのも無理はなかった…。
『しかし…こんなところで偶然出会うとはな…。』
私は運命の悪戯から彼らが子供の頃に出会ったのだった…。
て言うか…何かがおかしい気もするけどね(汗)
この際、細かい事には目を瞑ろうと、私はこの運命の悪戯を受け入れる事にした。
(;^_^A じゃね~と話が先に進まない(笑)
結論から言うとこの時の私は、瞳さんの夢の中にどうもリンクしていたらしい…。
それはかなり後で解った事なのであるが、この時の私には、まだ理解の及ぶところでは無かった。
話を元に戻そう(;^_^A…度々すみませんな…。
兵十は、彼らが兄妹である事は既におよそ察していたらしく、自分の自己紹介もしている。
そして不意に私を振り返ると『どうしますか?』と合図を送って来た。
私は少し悩んだが…かぶりを振って『黙ってろ!』と合図を返した。
(;^_^A よ~く考えてみるに、彼らに自己紹介をしたとしても、物珍しい言葉を喋る犬…くらいにしか見られない。
おそらくはまだ出会っていない者同士だ…。
蒼生や瞳さんが私を認知出来る筈も無かった。
ゆえに正体を明かすのは辞めた。
しかしながら、この事は私自身にはメリットがあった…。そうなのだ…私は小説家のユリウス・ケイだったのだ!そうようやく理解出来た。
(;^_^A となると、またぞろ訳の解らん童話の世界を書いておる先生のひたむきな姿が目に浮かんだ。
(゜ロ゜)かも知れんな…。夢見か小説の中の出来事ならば、この可笑しな状況も成る程、理解出来よう。
(;^_^A『しかし何でよりによって犬なんだ?』
私は自分の設定の摩可不可思議な感覚を呪った。
三人はいつの間にか考え込んでいる私の顔を心配そうに眺めている。
私は三人の視線を自覚するや、『クゥ~ン』と可愛らしく哭いて誤魔化した(;^_^A♪
すると瞳さんは「可愛い(*≧з≦)♪」と言って頭を撫でてくれる。
この年頃の女の子は皆、可愛い子犬が好きらしい…。
私は赤ずきんの女の子の事を思い出していた。
瞳さんは一旦、構いだすと止まらないらしく、私の頭を撫でたり、顎の下をソワソワなぜたりして子供心に愉しそうだ。
(;^_^A私は意地悪にも蒼生の方を見ながら、
『羨ましいやろぅ~どうだぁ♪』
そう思わせ振りな顔をしてみた(笑)
蒼生は無論そんな事とは露知らず、妹が子犬を愛でているのを優しい顔で見守っていた。
時として人は解らないところで無知である。
兵十は優しい気配りを発揮して、
「少し仮眠したらどうです?朝になったら安全でしょうから、身動きも取れるでしょう!」
そう提案するのだった。
蒼生はそれを受け入れて、妹にもそう話しながら二人はやがてスヤスヤと寝入ってしまった。
兵十はまるで子供を癒す親の様に優しい笑顔で微笑んでいる。
そして徐に私を見ると、
「神様も少しお休みになって下さい…。」
と気を使ってくれた。
「お前も今日は大活躍だったな…お陰様で、四人の命が助かったのだ。誇りに想って良い事なのだぞ…天国の母親も立派に成長したお前を見て、安心している事だろう♪」
そう言うと「お前も疲れたろ?少し寝なさい…。」
と兵十にも休息を取るように気を配ってやった。
兵十は素直にそれを受け入れてやがてスヤスヤと寝始めた。
私もいつの間にかぐっすりと寝込んでしまっていた。
『……』
ふと目覚めると森の木々の隙間から陽射しがさし込んでいる。
もう皆、起きていて兵十や蒼生は出発の準備に余念がない。
瞳さんは私に覆い被さって優しく抱きしめていた。
(;^_^A 寝覚めとしては最高のシチュエーションだな…蒼生には悪いが(笑)
蒼生はそんな妹の仕草を優しく微笑んで眺めていた。
(;^_^A 流石の私ももう嫌がらせはすまい…。
やがて、兄妹は帰途につく事になった。
兵十は二人で大丈夫かと少し心配な顔をしている。
蒼生は改めて、礼を述べて、別れの言葉を伝えると、妹と手を繋ぎながら去って行く。
途中、瞳におねだりされるや、彼女をまたおぶりながら、だんだんと遠ざかっていった。
朝日が彼らの行く手を明るく照らしている。
私と兵十は彼らが見えなくなるまで、手を振りながら、優しい笑顔で見送った。
ひとりと一匹の顔には達成感が滲み出ていた。
そして…遂に兵十とも別れの時を迎えた。
兵十は私に熱い眼差しを向けて、感謝の言葉を表した。
「神様のお陰で私も善行を施す事が出来ました。」
そう言いながらしっかりと自分の言葉で、
「有難う御座いました…。」
そう言って頭を下げると、途端に私に近づいて来て、私を抱き上げると、強く抱擁した…。
私もこの立派な青年に感謝の言葉を述べた。
「出会えて嬉しかった…有難う♪」と…。
兵十は少し照れながら、私に骨付き肉をひとつ差し出すと、道中の食にして欲しいと述べた。
そして…。
「神様が昨夜言って下さった事は一生忘れませぬ…母も喜んでくれていると私も想っています…。」
そう言って改めて頭を下げた。
いよいよお別れだ…。
兵十は努めて明るく笑顔で私を見ている。
辛気臭くなるのを避けるようにそれは見えた。
彼は最後まで態度を崩さず、気を配りながら、私に敬意を表してくれているのだ。
私も彼の万分の一で良いから見習おう…そう心に誓うのだった。
兵十はやがて私に伝える様にこう言った。
「私は約束通り、これから赤ずきんの女の子を迎えに行きます。私が責任を持って家まで送り届けますので、神様はご安心下さい…。」
兵十の顔は自信に満ち、正に男の顔をしていた。
血だらけの子犬にビビっていた昨日の振る舞いは、もうそこには微塵もなかった。
彼は改めて、別れを告げようと私に頭を下げる。
私は『そう言えば…。』とふと思い出した事があって彼を引き留めた。
(゜ロ゜)!!「兵十よ♪少し待て!」
兵十は「??」どうしたのかと不思議な顔だ。
但し、彼はしっかりと改めて私に向き直ると、指導を受けるかのように衣を正した。
「昨夜言い掛けた事を思い出したのでな…。」
私がそう言うと、彼は「ああ…。」と即座に反応した。
「私の悩みの事ですな…神様は御存知なのですか?」
彼は私が人外の者である所以に謎が解けると信じているらしい。期待を旨にこちらを見ている。
私は言葉を選ぶ様に話を続ける。
「栗や松茸を持って来る者の正体を知りたいのだったな…。お前はそれが誰であれ、感謝の心を忘れないと誓えるか?どうじゃ…。」
私はかなり慎重に入った。それは直ぐに解る。
兵十は「無論です!」と力強い決意を述べた。
「それに相違ないな?」「相違ありません。」
そういった確認の後で私は真実を伝える事にした。
「お前のところに松茸や栗を運んでいたのは、かの者…そうお前の鰻に悪戯をした子狐じゃ♪」
私はそう言うと「まだ恨んでおるか?」と問う。
すると兵十は少し驚いた顔を見せたが、フッと息を吐くと「それなら納得がいきます。」と応えた。
「悪気は無かったのだ。只の悪戯だったのだ。だが、それでお前の母親が亡くなった事を知って、子狐なりに反省し、お前に謝りたかったのだろう…。松茸や栗はその罪滅ぼしだと謂えよう。」
兵十は言葉を選ぶ様にこう応えてくれた。
「今なら私も理解出来ます。おそらくはあの当時なら理解出来なかったでしょう…。でも昨日色々な経験を神様と共にしてから、私も少しは成長出来たと思います。今ならば子狐の行動も許す事が出来ましょう。何より子狐もまだ幼い子供なのですからね…。あの子も、もしかしたら私と同様に天涯孤独の身の上かも知れませぬ。今度会う機会を作って必ず礼を述べて許してやると、ここにお誓い致します。」
兵十はそう決意を語ると前を向いた。
私は安心したが、彼が腕の良い猟師である事が気になり、敢えてくどくなるのを承知で伝えた。
「家に不穏な空気が流れても、むやみやたらに鉄砲を撃ってはいけない…。子狐をよもや誤って撃たぬ様に!」
そう忠告したのだった。
そして「かの者は名前をゴンという。優しくゴンと呼び掛けてやりなさい♪」そう忠告した。
兵十は私の忠告にとても感謝して、再び頭を下げて礼を述べた。
そして「お約束、致します!」そう言うと改めて手を振りながら、去って行った。
「清々しい気持ちの男だったな…まるで春の日の風の様だった…。」
私はそう想いながら、彼の背中を見送っていた。
ゴンと彼が幸せに暮らせる様に願って止まなかった。
『……』
そして私の周りには誰もいなくなった…。
私は彼の清々しい気持ちに触れて、またあの桜の木々の美しさを愛でてみたくなっていた。
そこで彼のくれた餞別の骨付き肉を咥えながら、森を抜ける小道に出ると、まっしぐらに橋を目指した。
橋の袂から広がる見事な桜の木々は、私を優しく迎えてくれた。
私は橋の上をそのまま歩いて対岸の街に向かう事にした。
橋の中腹に来た時に、川の流れに耳を澄ましながら、ふと川面を眺めてみた…。
すると私にそっくりな犬が、私よりも大きい骨付き肉を自慢そうに咥えている…。
私はそれを見ながら、ニマッと笑うと、クルリと橋の真ん中まで戻って来て、こう呟いた。
『知識を得る者は無知に非ず…。』
まるで蒼生のような言い種だが、今日ばかりは許してくれよう…。
私はそれだけの事を、昨日成し遂げたのだから…。
私は兵十に貰った骨付き肉を咥えたまま、街を目指してテクテクと歩き出した。
おしまい…。
【第13話後書き】
皆様お疲れ様でした…最後まで読んで下さり、感謝に堪えません。
約1万9千文字という途方もない前中後編に成りましたが、如何でしたか?
今回のプロットはいろんな童話を混ぜ込んで、楽しい道行きを表現する事でした。
私も楽しく完走する事が出来ました。
流れは『吾輩』から始まり、
『舌切り雀』…だから喋らない。
『赤ずきん』…物語で書きたかった。
『ゴン狐』…日本昔話の試み。
『ヘンゼルとグレーテル』…但し瞳さんの夢見へのリンク。
『欲張り犬』…但し肉を取り落とさない。
いろんな葉茶滅茶な言葉使いも織り交ぜながら、作者の小説を書く上での悩み事なども少し吐露するなど、わりと自由に、そして問答無用に縦横無尽に走り廻る『吾輩犬』を通して作者その者が物語を先導していく作風にしてみた次第です。
もし気に入って下さったならば、また後日、第二弾を検討したいと想っています。
いつも『言葉遊び』を読んで下さり、有り難う御座います♪
これからもどうか御贔屓に宜しくお願い申し上げます♪
【蒼生・瞳・ケイ】




