吾輩は犬である【中編】
蟀谷と顎を撃ち砕かれたオオカミはお気の毒にも絶命していた。
幸いにも私は難を逃れ、オオカミのお腹にも当たらなかったので、消化が進んでいなければバ~バも助かるだろう…。
巡り合わせとは本当に恐ろしいもので、我々にとっては正に不幸中の幸いだった。
お気の毒にも至福のひとときを迎える筈だったオオカミは、天国から地獄へと突き墜とされたのである。
それにしても、こんなナイスなタイミングで、何処の何方が助けて下さったのだろうと、疑問を挟む余地はあるな(笑)
何にしろこちらとしては大いに助かったのだから、御礼のひとつも言わねばなるまい(^○^)♪
手応えはあった筈だから間もなくやって来るだろうと、しばらく待ってみる事にした。
何しろ私だけでは、バ~バを助けてやりたくても、それは永遠に叶わない…何でかって?そりゃあ私は『犬』だからね(笑)
可愛い肉球は持ち合わせているものの、流石に外科手術には向かないのだよ♪(笑)
しかし先程まであれほど積極果敢に絡んでいた相手ではあるが、いざ死んでしまうと憐れではあるな…まぁ自業自得だけどね…。
そんな事を考えながら、ボォ~と佇んで居ると、ふいにガサガサと木々の間を掻き分けながら、ひとりの若者が首を出した。
用心しながら、獲物の様子を窺っている様だった。
見た目にも完全に死んでいるのが確認されると、男はさらにガサガサと音をたてながら、身体を片側ずつ抜きながら隙間を通過して、完全に姿を現した。
そして、獲物に近づこうとした刹那の事である…。
ようやく一匹の小さな犬が尻尾を振りながら佇んで居るのに気がついたらしく、大袈裟にも一歩後ろへ跳び跳ねた…(^-^;いやいやまじっすか…そら大袈裟過ぎやろ♪
私は小さな可愛い子犬であるメリットを最大限に生かして、尻尾フリフリぃ~の、「クゥ~ン」と滅茶カワな声を出して、お誘いしてみたが、若者には全く効き目が無かった。
(;^_^A!『あれだけの腕を持ちながら…何をそんなにビビってくれてんのか訳判らんな…。まぁそうは言ってもこのままじゃあ埒がアカン…。』
可及的速やかに対処しないと…バ~バがヤバイしね(´Д`;)…。
『こりゃ非常手段に訴えるしか無さそうだなぁ…。』
そこで私は敢えて猫なで声を出すよりも、究極的にビビらす手段に切り換える事にした。
私は突然後ろ足で立ち上がると、二足歩行でスタスタと歩いて行って、ビビって尻餅を着いている若者の目の前で前屈みになると、「ウオッホン!」と深く咳き込んでやった♪
すると若者は、「犬が歩いた~(;>_<;)!」と滅茶苦茶逃げ腰なのだが、背後は先ほど窮屈に抜けて来た木々の隙間で埋め尽くされていて、それ以上後ずさりは出来ない…。
若者は正に恐慌状態に陥って、
「ひぇ~お助けを!!」
そう叫ぶと前屈みに土下座しながら、両手を合わせてお祈りしている…。
私は片眼を明けながら、それを確認するや、
「ワタシは~お犬様の神であるぞよ~♪若者よ~♪私の言う事を良く聞くのだぁ~!でないと天罰が下るぞよ~♪」
と言って「喝!」と叫んだ。
「恐れ入りましたぁ~何でもしますからお助けを~(;>_<;)!!」
そう言いながら若者は完全に信じ込んでいる。
(;^_^Aそれを眺めていた私は少々お気の毒な気もしたが、この方が効果があるのだから仕方ない。
謂わば命の恩人である彼を恫喝する破目になるとは思わなんだな…。
若者は相手が神様であると完全に信じ込んだ為か、その後は私の指示する通りにテキパキと働いてくれた…。
詳しい描写は割愛するが…(^-^;余りにもグロい説明になるから良い子の皆様には刺激が強過ぎるので、やめておく事にしたのだよ(笑)
簡単に言うと、腹を割いてバ~バは無事に救出された。
何とかギリセーフヽ(^o^;)ノといったところである。
獲物のオオカミは生活の糧に若者に与える事にした。
そう書くと私の獲物を彼に与えた印象があるが、実のところは彼が仕留めた獲物である(笑)
オオカミの骸は後ほど取りに来るとして、木陰に隠しておき、若者にはバ~バをおぶらせて、ひとまず彼女を家まで送る事にした。
若者はだいぶん慣れたらしく、私の言う事をよく聞いてくれるので、事はかなりスムーズに運んで万々歳というところだろう。
それに彼はもともと性根が良いらしく、私の頼みが『悪さ』では無く、善行に基づいているのが判ると、かなり積極的に協力してくれている。
しかも彼は現在、天涯孤独の身の上で、親を早くに亡くしたためか、お婆さんをおぶりながら、とても温もりを感じている様だった。
(;^_^A『こいつは瓢箪から駒だな…。偶然とはいえ、彼にも善行を施してやるとは、さすが私は神だけある(笑)一日一善…結構毛だらけ、猫灰だらけ…とはこの事よ♪』
直ぐに有頂天に成るのが私の悪い癖…であるが、若干、比喩の使い方は間違っている(爆)
森を抜けて道に出るとすぐ赤い屋根の家に辿り着いた。
外でガヤガヤと音がしたせいか窓から赤ずきんの女の子の顔が、おそるおそるという感じで見えている。
そして若者におぶられたバ~バを見つけると、嬉しそうに家から飛び出して来た。
2人は無事に生きて再会を果たし、私の苦労も無駄では無かったというべきだろう…。
正に自画自賛というところだ♪
お婆さんはショックも大きかっただろうから、ベッドに寝かせてやり、若者は目的を果たしたためか感無量と行ったところだ。
本当にこいつはいい奴だな…さんざんこき使ったのに文句のひとつも言わず、むしろ善行を施した事に遣り甲斐すら感じている様に見受けられる…。
そう考えると、彼こそ天の思し召し♪良いところに降臨してくれたと感謝すべきだな…。
かなり脅したり透かしたりして、悪い事をしてしまった…と私は今さらながらに胸が痛んだ。
赤ずきんはお婆さんのお世話に夢中の様だ。
あんな事があって、子供心にショックは受けただろうに、もう立ち直って、バ~バの介抱に懸命である。
生きて再会出来た喜びの方が勝ったのかも知れなかった。
私は首を斜めに振るような仕草で、若者に合図して、2人はソッと家から出た。
我々が居ればお婆さんもゆっくり寝つけまい…そう配慮しての事だった。
そろそろ夕刻が近いらしく森の木々が夕陽に映えている。
すると、直ぐに戸がソッと開いて赤ずきんが外に出て来た。
「バ~バを助けてくれてありがと♪」
赤ずきんは若者にそういうと可愛らしくペコリと頭を下げた。
若者は若干、照れながらも、慌てて両手を振りながら、否定するようにこう応えた。
「いえいえ…私は神様の言う通りにしただけです。でもお婆さんを助ける事が出来て良かった。本当に良かった…。」
それを聞いて赤ずきんは少し驚きながら、
「神様?神様が助けてくれたの?どこどこ?」
そう若者に問い掛けている。
若者は私の顔をチラッと見たが、私は首を軽く振ると『黙ってろ!』と命じた。
既に私を信用している若者は軽く相槌を打つと、赤ずきんに優しく話し掛けた。
「神様はもう帰られた。でも君たちの事をいつも優しく見守ってくれるそうだ。だから安心しなさい。」
赤ずきんは少し残念そうだが、納得した様だった。
そして日暮れが近い事に気がついて、こう話した。
「今日はもう遅い。今夜はお婆さんの傍に居てあげなさい。明日の朝には私が迎えに来て、家に送ってあげます。」
そして懐から竹の皮に包んだ干し肉を取り出すと、赤ずきんに渡してあげた。
何という優しい若者だろう…私は改めて感心してしまった。
赤ずきんは干し肉を受け取りながら、ふと私に気がついたのか、傍まで来ると屈み込み、私の頭をなぜた。
そして「ワンちゃんもありがと♪」と言った。
私は敬愛の意味を込めて「クゥ~ン」と可愛く哭いた。
すると赤ずきんは、ハンカチーフを取り出すと、私の口許を拭った…。
「!!…」一瞬その仕草が不思議に思えたが、赤ずきんのハンカチーフを見ると、血がベットリとついている。
『あ!』私は心の中で叫ぶと色々な事が理解出来た。
どうやらオオカミに食いついた時に、その血がついたらしい。しかも口許周り血だらけだった様だ。
『それで若者がビビっていた訳か…成る程!』
そらぁ、血だらけの犬が尻尾振って、可愛く哭いたら…却って怖いわな(^_^;)なるほど…。
そう言えば…赤ずきんの後頭部は大丈夫かしら…かなり激しく跳び跳ねたからな(;^_^A…今さら蒸し返しても仕方ないからやめておくが…。
そしてついに別れの時が来た。
若者は赤ずきんに戸締まりをしっかりして、不用意に戸を開けないように、固く約束させる。
赤ずきんは可愛らしく指切りをして約束した。
赤ずきんはその足で家に入ると、早速、戸締まりをしている様だ、これで安心だね♪
そして窓から顔を出すと、可愛らしく手を振っている。
我々もそれに応えながら、手を振り、赤い屋根のお家を後にした。
私と若者は、昼間オオカミが逃げたルートを再び辿って、一緒に並んで歩いて行く。
「もうすぐ日が沈みます。深い森の中ですから、急ぎましょう!」
若者はそう話しながら、少し小走りになる。
私も『そらぁそうだ!』とピョンピョンついて行く。
オオカミの骸を回収する頃には、遂に日が暮れてしまった。
若者は薪を集めて来て、火打石で火をつけると、さながらキャンプファイアの様な趣である。
「少し待ってて下さい!」
若者はそう言うと、オオカミの骸から綺麗に皮だけ剥がしていく。
オオカミの毛皮は高値で売れるらしい…。
その間…私も(゜ρ゜)ボケェ~と傍観してた訳じゃあ無い…。何か手伝う事があるかと聞くと、若者は手もとを一旦止めると、私を見て、申し訳無さそうに、
「それでは穴を掘っていただけますか?」
そう言うと再び皮を剥いでいく。
私は快く引き受け、穴を掘っていく。
私の可愛い肉球はかなり強力だ♪あっという間にかなり、深い穴を掘りあげた。
若者は皮を剥ぎ終わると、器用に刃を入れて、内蔵を取り出していく。
そして取り出した内蔵は掘った穴に埋めて、肉は器用に分けて行く。さながら解体ショウの始まりである。
私はそれを横目に見ながら、穴を掘った時に出来た山を今度は後ろ足で蹴りながら、穴を埋めていった。最後は四股で踏み固める。
こうしておく事で獣が臭いに引き寄せられてやって来ないらしい。
どうだい?私もなかなか役に立って要るでしょう?
伊達に神様を気取っているだけではないのである( ̄^ ̄)♪
分け終わると、今度は腰に提げていた皮の袋から、色とりどりの香辛料を取り出して、肉に擦り込んでいく。
手つきも器用だが、段取りも良く、作業はサクサクと進んでいった。
彼は狩人らしいが、手に職も持つ立派な職人の様だった。
仕込みの済んだ骨付き肉を焚き火の周りに順繰りにくべて行く。
しばらくすると、香ばしい匂いが漂って来た。
とても食欲をそそる美味しそうな匂いに、私は思わず涎が垂れて来る。
若者はクスッと笑うと、私を見ながら、
「神様!もう少しですから待って下さいね♪」
と言って優しく微笑んでいる。
何から何までさせてしまい、申し訳ないの一言だが、そんな事は露ほども感じさせない、気持ちの善さが、そこにはあった。
私は肉が焼ける間を縫って彼と少し話をする事にした。
「きみの名前を聞いても良いかい?」
私は彼の此れ迄の直向きな姿勢を労いながら、語り掛ける。
若者は胡座をかきながら、ひとときの休息を愉しみながら、ゆっくりと口を開いた。
「私は兵十と申します。」
若者はそう言って軽く頭を振ると挨拶してくれた。
((゜□゜;))『にゃんだとぅ…!!』
私は驚いた!!
何という巡り合わせだろう…。
読者諸君の中にはこの名前を聞いて、思い当たる方も居られるだろう…。
解らない方には、後ほど種明かしをさせて頂くとして、解る方はそのまま続きをお楽しみ下さい(笑)
「きみは兵十と言うのか…??」
だからそう言っとるじゃんか(;^_^A…。
私は自分で自分に突っ込みを入れたりする(爆)
(;^_^A!すみませんねぇ…事をややこしくして…。
此れ以上やると話が混乱するので、話の筋を戻す事にする。
兵十はコクリと頷くと、少し照れた。
「私は猟師を営みながら、ひとり暮らしております…。」
兵十はそう言いながら、自分の身の上を打ち明け出した。
彼は今でこそ天涯孤独の身の上だが、少し前までは母親と2人仲良くくらしていたそうだ…。
その母親が危篤になり、兵十は母親に精をつけるため、鰻を捕りに川へ行った。
でもその日はなかなか鰻が見つからず、ほとほと困ってしまった。
このままでは、母親に精をつけてあげる事が出来ない…。
兵十は親不孝な自分に忸怩たる思いを感じて、自分の無力さを呪った。
するとその想いに神様が応えてくれたのか、一匹の見事な鰻が仕掛けに掛かったではないか!
兵十は神に感謝して、鰻を持ってきた皮袋に入れるため、ひとまず川の水を注ごうと、前屈みになって水をすくった。
その刹那の事である。
一匹の子狐が鰻を仕掛けから逃がそうとしているではないか?
兵十は慌ててそれを止めようとしたが、間一髪間に合わず、子狐は鰻を掴むとじゃれていたが、鰻も必死に抵抗して、身体を捩ると、そのままドボンという音がして、川の中に逃げてしまった。
兵十は「コラァ!!」と怒鳴りながら、子狐を捕らえようとしたが、子狐はサッと身を交わすと、ピョンピョン跳び跳ねながら逃げてしまった。
子狐にとってはたわいもない悪戯であったのだろう…。
しかしながら、兵十にとっては母親が生きるか死ぬかの瀬戸際である。
兵十は川の土手に踞りながら、地面を拳で叩いて泣きじゃくった。
そうして母親は亡くなり、彼は天涯孤独の身の上となったのである。
彼の話はそこで終わった…。
彼は気持ちを切り換えると笑顔を見せながら、
「神様!そろそろ肉も頃合いかと!どうぞ召し上がれ♪」
そう言って骨付き肉をひとつ、いや…ふたつ取ると私の前に置いてくれた。
心根の良い兵十は、私に気を使わせまいと、気丈に振る舞っているが、苦い思い出を振り返って辛くない者などいない…。
私は感謝を込めて頷きながら礼を言った。
少しはオオカミ君の追悼をする気持ちもなかった訳ではない。
私は骨付き肉にかぶりつきながら、然り気無くジーッと兵十を見た。
兵十は私が食べ始めるのを確認すると、自分も骨付き肉を手にとって口に頬張り始めた。
互いに腹が満たされると、そろそろ寝ようかという談になった。
私は彼にどうしても聞きたい事があり、口に出そうか迷っていた。
彼はその辺りの雰囲気を繊細に感じとる事が出来るのか、私の方を見ると「何か?」と尋ねた。
私は思い切って聞いてみる事にした。
「つかぬ事を窺うが…最近変わった事は無かったかね?」
すると、彼は驚いた様にこう応えたのだった。
「流石は神様!恐れいりました。確かにおかしな事があるのです。」
彼はそう言うと、私に相談するように、その顛末を話し出した。
要約すると次の通りである。
最近彼が留守の間に栗や松茸などが少しずつ囲炉裏の傍に置かれているらしいのだ。
彼はそれが誰のおかげなのか解らず、悩んでいるらしい…。
お礼も言いたいが、まだ姿を見せないという事だった。
私は彼の名前を聴いた時から、答えを知っているので、事の次第を打ち明けようか迷っていた。
そして、意を決して教えようと、口を開き掛けた。
正にその時である!!
周りの木々が急にガサガサと音を立てて騒ぎ始め、誰かがこちらに近づいて来る。
それもかなり慌てて、何かから逃れる様な息づかいを感じた。
兵十も木々のざわめきには気がついているが、息づかいまでは聞こえない…。
まぁ犬の聴覚と嗅覚の為せる技だな…。
私は直ぐに兵十を見て緊急事態を知らせると、念のために武器を持ってついて来る様に伝えた。
ひとりと一匹は音のする方角へ木々を掻き分けながら、取り急ぎ駆け抜けて行く。
(後半に続く)
【第12話後書き】
いよいよクライマックスに近づきつつあります。
兵十の謎は解明されるのか?
また意外な展開とは?
まだまだ息も尽かせぬ今後の展開をお楽しみに♪
byユリウス・ケイ




