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ある王国の物語~伝承【後編】

いよいよ運命の狼煙(のろし)が上がる時がやって来た。


ユウ王はポニャ妃を連れて、城の見晒(みはら)しの良い場所に陣取る。


間も無く、カクセキが命じた狼煙が上がると、城内では訳が判らず、臣下が右往左往し始めた。


誰もが狼煙の上がる意味は知っている。


『危険』を知らせる合図であった。


しかしながら、その危険が何なのか、そして誰が命じたものなのかが判らないので、それを(おそ)れ捜しているのだが、状況を知らない者にとっては、それがとても困ってさ迷っている様に見えるだろうし、その有り様が滑稽に写るかも知れない。


それこそが(とど)のつまりは、カクセキの狙いなのだが、実際にポニャ妃が笑うかどうかは、カクセキ本人にも判っていた訳では無かった。


どちらかと言うと本音はどちらでも良かったのだ。


笑えば、けしかけてまた笑わせるようにするだけだし、笑わなければ、何度か試みさせようとの腹なのであるから、どっちに転んでも良かったのである。


要は回数を重ねさせる事!そのものが目的なのだ。


繰り返せば繰り返す程にこの王の信頼は失墜して行くのだから…。


後は頃合いをみて、王を追放してしまえば良い。


その後は…自分に都合の良い王族を傀儡(かいらい)()えても良いのだし、ゆくゆくは息子カクユウに命じて、この国を攻め獲らせても良いのだ。


カクセキはこの王が元々は利発な男だと知っているだけに、油断は無かった。


せっかく長い年月をかけて自分の【駒】であるポニャに夢中にさせる事で、この聡明で在ろう王の五感を全てこの娘に集中させる事に成功したのだから、今さら計画が頓挫(とんざ)するような下手(へた)が打てる訳がない。


この男は何と恐ろしい((((;゜Д゜)))お方なのでしょうか?


各地から一目散に、帝都を目指して遣って来た騎馬兵達が集まり、何やら騒いでいる。


大勢の男達が何事も起きていない事を(いぶか)り、虚偽の召集である事が明るみに出ると、辺り一面が罵詈雑言(ばりぞうごん)の嵐となった。


そしてそれが王の命令である事が判明し、その理由が笑わない妃を笑わせるためだと判るのは時間の問題であった。


こういう事はいつの時代もどこかしらから情報が漏れる事になっている。


そしてそれは、必ずといって良い程、計画的に悪意を以て流されたものだと言って良い。


情報操作に依る【流言】である。


そして情報封鎖に依る【秘匿】であろう。


この場合、王に不利益な事実は【流言】によって臣下に流され…これで王の権威は損なわれる。


逆に王周辺にはカクセキに依る【秘匿】が徹底されており、ユウ王は(だま)されている事に全く気がつかないといった筋書きである。


此の時、いみじくも先代の王様が怖れていた事は、正に事実と成って表面化した。


真面目なユウ王は、カクセキに翻弄(ほんろう)されて、自分を見失ってしまって居たのである。


そしてさらに王が自分を取り戻す機会を失う事になる切っ掛けが、ここに起きた。


此れは、仕掛けた側のカクセキにさえ、予想だに出来ぬ小さな事件であった。


ポニャ妃が初めて笑ったのである。


その笑顔は美しく、(つつ)ましやかなものであったが、ユウ王の前で確かにポニャ妃はクスッと微笑んだ。


明らかに日頃のはにかむ娘の笑みとは違っていた。


その可愛らしさを間近に見てしまったユウ王は、もう後戻りは出来なくなり、もはやカクセキが水面下で暗躍せずとも、王の自らの意思により、その後も狼煙は上がり続けたのである。


ポニャ妃の笑顔を見たいという、ユウ王の(ささ)やかな望みでそれは繰り返され、ポニャの笑顔は毎回、ユウを喜びと幸せに満たす事になった。


ユウ王は完全に壊れてしまっていたのだ。


ところが、空振りを続けられた側の臣下や属領たちにとってみれば、たまったもんでは無い。


信用は完全に失墜して、誰も王の戯れに付き合う者は居なくなってしまったのだった。


これ以上振り回されるのは皆御免だったのである。


そして此の物語は、ここから一気に終焉(しゅうえん)を迎える事に為る。


在る時、本当に北方の蛮族が、大挙して此の国を襲って来た。


その数は凄まじく、20万とも30万とも言われた。


帝都の守備隊だけではとても守りきれるものでは無かった。


そのため当然の事ながら、烽火台から狼煙が上げられて、救援信号を発した。


ところが、貴族達も、属国の王達も、またどうせ王様の戯れだろうと、たかを(くく)って信用しなかった。仕方が無かろう…それだけ貴族達や属領たちの失望は大きかったのである。


そして帝都は一気に蛮族の渦に飲まれて、あちらこちらに火を放たれた結果、(みやび)(みやこ)は火の海と化した。


女子供は真っ先に襲われて、蛮族の戦利品として、(さら)われてしまったのであった。


流石(さすが)のカクセキも此の想定外の襲撃には、咄嗟(とっさ)に対応する事が出来なかった。


慌てて隣国の王である息子に救援を求めたが、狼煙以外の連絡手段では、時間がかかる。


隣国の軍勢が連絡を受けて、王のカクユウに率いられて到着した時には、後の祭りであった。


カクセキは蛮族にいの一番に殺されてしまい、その野望は(つい)える事になった。


せっかく長い年月をかけて企んできた計画は、一瞬のうちに水泡に期したのであった。


悪銭身に付かず…て奴だな(^_^;)))…。


そして若くして聡明であり、将来を嘱望されたユウ王には、(おろ)かな行為を繰り返した天罰が下ろうとしていた。


王の目の前で大切なポニャ妃を蛮族の王に(さら)われた挙げ句に、本人も一瞬の間に切り殺されてしまったのであった。


こうして此の国は1日も掛からずに滅んでしまったのである。


拐われたポニャ妃がその後にどうなってしまったかは、その後全く消息もなく、未だに判らぬままであるー。 【了】




「どうかな、なかなか良く出来ているだろう?」


私は蒼生にそう言いながら、一息ついた。


久し振りに彼の『窓際研究室』を訪ねたのは、依然彼が語ってくれた歴史上の伝承を自分なりに童話風にアレンジしてみたので、その意見を聞きたいと思ったためであった。


彼は童話同様に歴史もこよなく愛する男なのだ。


蒼生は右手を少し口許に添えるとしばらく考えていたが、「褒姒(ほうじ)だね…。」と言った。


「そうだ!褒姒だ。でもそのままじゃつまらないから、洋風に直して童話にしてみたんだよ♪」


私はそう応えながら、蒼生を見つめた。


蒼生は苦笑しながら私を見るとクスッと微笑んだ。


「きみもなかなか妄想力があるじゃないか?」


そう言いながら、言葉を続ける。


「なかなかうまくまとまっていると想うよ…但し僕なら褒姒は助けてあげたけどね(*^^*)…きみの妄想力もまだまだ限界はあるようだな♪」


蒼生はなかなか辛口の評で締めたが、顔は満足そうに私を見つめていた。


蒼生なりの心配(こころくば)りなのだろう。


しかしながら、一定の評価は得られたようだった。


『きみは、ー狼と羊飼いの少年ー の話を知っているだろう?』


突然、蒼生はそう言うと、ニヤニヤ笑っている。


「!!…そうか?きみの言いたい事が判ったぞ!」


私も彼に同調しながら、ニヤリと笑った。


「西洋にも中国の伝承と似たような故事があるってことさ♪此れは単に褒姒の話だけでは無いのだけれどね…。」


蒼生はそう言うと、私の答えを待っている。


「成る程…信頼は一日にして成らず♪…て事かな?」


私はそう言うと、蒼生の反応を待った。


「まあ…そう言うところかな…日本でもオオカミ少年などという俗語が生まれているからね…。」


蒼生はそう言うと私の顔をまじまじと見つめて、


「今日は愉しませて貰ったな…また今度、面白い話を期待してるよ♪」


そう言いながら満足そうに頷いた。


『・・・・』


此れは余談なのだが、この日も夏蓮奈シェフのお昼御飯のお相伴に預かるという光栄に浴する機会を得たのだが…。(o゜Д゜ノ)ノ…☆


何とその献立は『マトンカレー』なのであった。


全てを判った上での、瞳さんの深謀遠慮ではあるまいが、女の勘は鋭いと言うのはいつの時代も変わらぬ真理であるようだ。


『蒼生は瞳さんを悲しませる様な事はしないだろう…。』


私は褒姒のその後の運命が幸せであって欲しいと願わないではいられなかった。


【第8話・第9話 後書き】


この話は、始めに『狼と羊飼いの少年』として、本筋を書く予定でしたが、中国の周の時代に伝承として伝わる褒姒(ほうじ)の数奇な運命を本筋として描く事にした次第です。


どういう結論にするかは、作者も判らぬままの取組みとなりました(笑)


書き終わってみると、なかなかうまく書けた方ではないかと思ってホッとしています。

(*´-`)♪


一度なら嘘を言っても構わない…それは誰もが一度は考える事でしょう。


年齢が幼ければ幼いほどそう想うものかもしれません。


しかしながら、嘘の後には嘘の上塗りという負の連鎖が待ち受けています。


勇気を以て本当の事をいう事がけっきょくは自分のためにも、周りの人のためにも幸せな事ではないでしょうか?


そんな事を考えさせられる機会になりました。


褒姒の数奇な運命が最後は良い方向に向かった事を願わないではいられませんね。


これからも頑張って書いて行くので宜しくお願い致します♪


byユリウス・ケイ

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