純魔石
ーーー王国歴494年。
クレアはこの二年間、メイとともに魔法の訓練を行ってきた。それゆえ既に魔法構築が難しいとされる複合魔法もできるようになっている。複合魔法は王国の宮廷魔導士でも数十人しか使えない代物だ。それが扱えるクレアは本物の天才であった。
今も己の魔力を高めるために瞑想をしているクレアの姿があった。
すでにメイの魔力量も超えられてしまっている。
(………もう教えられることはありませんね。)
クレアが冒険者をしているときに覚えたことも教えた。まさかこんなにも早く自分よりも上の領域に行くとは思ってもいなかった。既にメイが教えられることはもうない。
「あ、そうだったわ。」
「どうしたのですか?」
瞑想をしていたクレアが唐突にメイに話しかけてきた。驚きはしたもののすぐに何かあったのだろうかと思い聞き返した。
「今日はね、カレンの誕生日なの!」
「あぁ、そうでしたね。それにもうすぐお披露目会の時期でもありますね。」
「そうなの!だからね、何かプレゼントを贈りたいなって思って。」
「それはいいアイデアですね。でもどうするのですか?今日が誕生日なのでしょう?」
「うん、だからね、メイが前に言っていたのを教えてほしいの。」
「私が言っていたことですか?」
「そう、純魔石の作り方。」
純魔石とは、高密度の魔力を結晶化させたものだ。魔石は主にスクロール魔法を作るときに使うものだが、通常魔石は魔物からしかとることができない。しかしこの純魔石は別だ。純魔石は人が作ることが可能なのだ。それに魔石には不純物も混ざっているため魔力の通りも遅いが、純魔石はその不純物がない。それゆえ市場に出回れば屋敷が一つ建つほどの値段で取引される。
「純魔石ですか………。」
このクレアのお願いにメイは悩んだ。純魔石は己の魔力を結晶化させることで作ることができる。だが魔力を使いすぎて魔力欠乏症を引き起こしたり、最悪死に至る危険性も持っていた。もしメイが普通の貴族の家庭教師となっていたら真っ先に断っていただろう。だがクレアは既にメイよりもはるかに多くの魔力を持っているし、魔力操作も上達している。
「わかりました。では、この純魔石製作を最後のテストにいたしましょう。」
「最後のテスト?」
「そうです。すでに私が教えられることはすべて教えました。これはいわば卒業試験ですよ。」
「卒業試験…。わかりました、全力で頑張ります!」
「では、早速作り方をお教えします。といっても特にすることもないのですが。」
「え?どういうことなの?」
「純魔石は己の魔力が結晶化したもの。ですので自分の持っている魔力を一点に集中させるのです。水をすくうときのポーズをとってください。」
「こう?」
「はい、その手の上に魔力を集めてください。霧散しないよう、爆発しないよう、しっかりと魔力を操作するのです。」
純魔石作りは、この魔力を集めることという作業がとても難しいのだ。魔力の密度を薄くしすぎると魔力が霧散してしまい、逆に魔力を込めすぎると爆発してしまう。
「しっかりと魔力を操作してください。」
「これ意外と難しいね……。」
難しいといいつつもクレアの手の中にはしっかりと魔力が溜まりつつある。
「その調子です。徐々に魔力を込めていってください。」
それからはクレアは一言もしゃべらずにひたすら魔力を込めていった。
そしてクレアが魔力を込め始めてからおおよそ3時間後ついに完成した。
「これが…純魔石。」
「はい、無事に作れましたね。」
クレアの手の中には深い青色をした宝石が乗っていた。
「これは絶対カレンも喜んでくれるわ!」
「えぇ、カレン様もきっと喜んでもらえますよ。」
「……でもこれでメイとはお別れなのね。」
「クレア様、もう会えないということはありません。そう悲観せずとも良いのですよいのですよ。いつかまた会える日が来るでしょうから。」
「そうよね…またいつか会えるものね。」
「クレア様はこの2年間真面目に魔法に取り組んでまいりました。そして作ることが難しい純魔石をこんな短時間で作ることができた。先生としては誇らしい限りです。」
「ありがとう、メイ。」
ほほ笑んだクレアは手元にある純魔石を大事そうに手で包んだ。
「ではクレア様、最後のお仕事です。その純魔石を何かに包みましょう。そのまま手渡すより断然いいですよ。」
「それもそうね。何か探してくるわ!」
そういって小走りで屋敷のほうへと向かっていった。そんな彼女をメイは難しそうな表情で見ていた。
「私が家庭教師を終えることを伝えるのはいいとして、純魔石のことはどう伝えようかしら……。」