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コンコン
「すみませーん」
ノックをしても返事がない。
扉は押しても引いても開かない。
今は昼前。営業中のはずなんだけども。
意を決してもう一度ノックをしてみる。
が、中に人の気配はあるのに返事はない。反応もない。
どうしよう、困ったなあ。
冒険者ギルドの前でうーんうーんと唸っていると、急に日陰になった。
「ん?」
雨かな、そう思って上を見ると。
「…………」
「…………」
頭のずっと上から、ガチガチの鎧を着た冒険者のおじちゃ……お兄さんが私を見下ろしていた。
その威圧感にびしっと背筋が伸びて固まる。
「どうした? 依頼か? 中に入らないのか?」
「あ、ええええ、えっと、扉が閉まってて…」
「…そんなはず無いんだがな…」
そう言って鎧冒険者の人がそっと扉を押すと、先程までビクともしなかった扉はあっさりと開いた。
「え、うそ!」
どうぞ、とあごで鎧冒険者の人が入室を促すが、
私もその人と一緒に既に開いている扉を押してみた。
が、ビクともしない。
「わわわ!」
それどころか鎧冒険者の人が手を離すと閉まろうと戻ってくる扉に押されてしまった。
「………」
「………」
閉まった扉を2人で見つめる。
つまりあれか。開ける力が無かったということか…。
愕然としていると頭上からブフォという吹き出す音が聞こえたが、そちらを見上げると鎧冒険者のお兄さんは真っ直ぐ前を見て扉をもう一度開けてくれた。
「どうぞ」
「………どうも」
中はすごく賑やかだった。
鎧を着た人、ローブを着た人。
黒板より大きな掲示板には沢山の手配書、依頼書。
みんな凄く強そうで大きくて、正直ちょっと怖くってここに来たことを後悔したけれど。
「受付は、こっち」
「あ、はい」
鎧冒険者のお兄さんに促されてそちらに行った。
だが、受付でも問題が発生した。
「あの、すみません!」
冒険者達が立って交渉をするであろうカウンターは私の鼻くらいの高さだった。
そこに立って一生懸命手を振って受付のお姉さんを呼ぶと、後ろからひょいっと抱き上げられた。言わずもがな鎧冒険者のお兄さんだ。
「あら、トールさんおかえりなさい。報告ですか?」
「ああ。だがその前にこの子が用事があるそうだ」
「あら。なんの御用でしょうか?」
受付のお姉さんは綺麗で良い匂いがした。
とりあえずお兄さんに抱っこされたままだが、下ろしてもらうと話しにくいからこのままで言うしかない。
すうっと息を吸って、ふんすっと気合いを入れる。
余談だが、受付のお姉さんは綺麗で冒険者の人達の人気者で。
抱っこしてくれているお兄さんは上から数えた方が早い冒険者で。
つまり人目を集める二人+場にそぐわない幼女(と思われていると後で聞いた)はとても目立ち、いつの間にか賑やかだった人達が静かに息を飲んで注目していた。
そんなことも知らず、私は気合を入れて大きな声で言った。
「私を雇ってください!!」
シーンと静まりかえるギルド。
しばらくして、ぷっと吹き出した人を筆頭に沢山の人が大笑いを始めた。
真剣に言ったのに。
笑われる理由がわからずに涙目になると、お兄さんが抱き上げ直して私を向き合うように片手抱っこをした。




