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第2話 後編

 翌日、冒険者組合が休みとのことで、自由な時間ができた。昨日リリアに渡した分の金からお釣りとしていくらかのお金は返されており、買い物をするだけの余裕はあった。


 街に出た二人は改めて人通りの多さに驚く。リリアから街の人口が15万人ほどだと聞いていた。この規模の街は、この大陸では他にそうそう無いとも。


「で、どこに行くんだよ?」


 フーラルは露天で買った飴を上機嫌に舐めながらメグミに聞く。


「とりあえず図書館だな。調べたいことは沢山ありすぎるくらいだ」


「で、その図書館ってやつはどこ?」


 メグミは頭をかいてあたりを見回す。王城付近に様々な公共施設があるとも聞いており、その辺りに行けば見つかると予測は立てていたが、予想以上に街が大きかった。だが―。


「多分…あっちだ」


 メグミは前方の道を指さす。


「ん?場所わかんの?」


 フーラルの質問に対し、メグミは自分でもわからないとばかりに回答する。


「いや…なんかそんな気がするんだ…。なぜか知ってる気がする」


 フーラルはふーんと鼻を鳴らし、指さした方向に歩いていく。メグミは自分の中の奇妙な感覚に違和感を覚えていた。間違いなくこの街には来たことがない。だがなぜこの街並みに覚えがあるんだろうかと。


 15分ほど歩くと、確かに図書館あった。3階建てくらいはあるだろうか。石造りのその建物はメグミに荘厳な印象を与えた。―メグミには。



結論から言えばそのあとに繰り広げられた惨状は、メグミにとって地獄そのものだった言っていいかもしれない。そして一蓮托生となった相棒、フーラルに対する認識を大いに変更する必要に迫られ、後の生死を分ける事態の直接的な原因にもなるものだった。



図書館に入った二人はまず魔法の使い方の本を探すことにした。メグミが突然使えるようになった魔法の仕組みを学びたいと思ったからだ。メグミとしては、この後にこの世界の成り立ち、そして自身の現状について調べたい―と思っていた。


 図書館の中は思ったよりカテゴリ分けがされており、3階に魔導書の棚があるとすぐに確認することができた。メグミは自分では本を持ってめくれないので、フーラルに本を取ってもらい、めくってもらう必要があった。


 魔導書の棚の前についたメグミはまず初心者向けの本があるかどうか確認する必要が―いやその前に自分が文字が読めるかどうか、これを確認する必要があった。


「文字が…読めるな…」


 メグミは棚に並んだ本の背表紙を見てぼやいた。日本語じゃないのは間違いないのだが、なぜか文字が読めるのだった。そもそもよく考えればこの世界の人たちと、なんら違和感なく話せている事も異常事態ではあったと思い返した。私は―どうなっているんだ?


 そして『魔法基礎学』と書かれた本を見つけ、多分初心者用だろうとあたりをつけフーラルに本を取らせた。―この時点でフーラルが若干飽き始めていた事に気づくべきだったかもしれない。だがメグミにはその余裕が無かった。


 フーラルに本を取らせた後、近くの机に持って行かせページをめくらせた。中の文字もやはり読むことができた。


 エルミナ・ルナでは自然に存在するマナを利用し、それを魔術師の魔力と組み合わせることで様々な力を『魔法』として扱うことができる。炎を発現させ、氷を出現させ、電撃を起こす。『ファイエル』の文字もすぐに見つけることができた。炎魔法における初級魔法であらゆる魔法の基礎となり、使い勝手もいい魔法との記載があった。なお中級、上級、最上級といった形で魔法の体系が分かれており、最上級はプロミネ―


「…おいページめくって」


 メグミがフーラルにページをめくることを催促するが、中々反応がない。それに何か周りからザワザワと声が聞こえた。本から目を離しフーラルの方を見ると、フーラルがいびきをかいて爆睡していた。


「って寝るの早すぎだろ!?ちょっと起きろって!?」


 メグミはフーラルの頭をひっぱたき、フーラルは不機嫌そうに目を覚ます。


「ってーな!なんだよ!」


「なんだよじゃないだろ!何寝てんだよ!」


 フーラルはもう無くなった飴の棒をチロチロと舐めながら言う。


「暇なんだよ!俺文字読めねえし、なんでこんなのに付き合わなくちゃならないんだよ!」


「私がちゃんと魔法を覚えないで、明日からどうするつもりなんだよ!」


「じゃあお前だけで読んでろよ!なんでいちいち俺が手伝わなきゃいけねーんだよ!」


 メグミはハッとして周りを見た。メグミを見ることができない人たちから見ればフーラルの悲しい一人相撲であり―案の定周りがヒソヒソと話しながらこちらを注目していた。


「あーもう!わかったよ!とりあえずここから出るぞ!」


 メグミは急いでこの場から離れようとするが、フーラルと逆方向に進んでしまい、互いに首を引っ張られるようにつんのめって倒れる。二人は首をさすりながら立ち上がった。


「おま…出口はあっちだろ!?」


 フーラルが咳き込みながら文句を言う。メグミは目に涙を浮かべながら文句を返した。


「ま…まず本を片付けろって!」



 図書館から出た後は、フーラルが露骨に飽き始めていたので、仕方なく食事を取ることにした。その際もメグミは覚えの無い道を歩き、なぜか場所を知っているレストランにたどり着いた。だが―そこでも悲劇は繰り返された。


「とりあえずあれ全部!」


 壁に掛けられたメニューを見てフーラルは店員に言い、メグミと店員は吹き出した。


「ぜ…全部?」


 店員は驚きながら復唱する。


「ストーップ!ストーップ!!」


 メグミは必死に店員を止めようとするが、むなしくもメグミの声は店員に届かない。店員は困惑しながら店の奥へと行ってしまった。


「お前!全部って食えんのかよ!?」


 メグミはフーラルに問いただすがフーラルは何の気もなしに言う。


「だって俺あれ読めねえし、だったら全部頼んじゃえばよくね?」


 メグミは眩暈を感じよろめいた。そして料理が次々に届くが―先日のキャンプの時は簡単なシチューだったから気にならなかったが、フーラルの食い方が汚すぎることをメグミは思い知らされた。食器の持ち方だけは問題ないのだが、かっこみながら食べ、平気であたりを散らかし食器を割り、野菜は一口食って吐き出して自分の食べられるものだけ食べていた。あまりの食い方の汚さに周りの客は少しずつ距離を置いていた。


 1時間後、かなりの量の注文が来ていたが、フーラルは満足そうに完食していた―だいたいのものを汚く残しながら。


 会計は何とかギリギリで足りたが、店から出るころには一文無しになり、店員が厳しい視線を向けていたことから、多分次からは出禁だろうなとメグミは思った。だがフーラルは特に気にせず満足な顔を浮かべて呑気に歩いていた。が、急遽うずくまる。


「うっ…!?」


「どうした…大丈夫か!?」


 メグミは心配して一緒にしゃがむが、出てきた言葉は案の定のものであった。


「お…お腹痛い…」


 メグミはため息をついてフーラルの背中をさすってやる。今日一日でメグミが分かったのはフーラルが予想以上に子供―というか教養が無いということだけだった。魔法の使い方も、この世界の詳細も、明日の仕事の準備も何もできないまま。


しかしフーラルはうずくまりながら、確かに笑顔を浮かべていた。今までの人生でこんなに自由を満喫できることはなかったのだから―。

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