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第1話 後編

遺跡から外に出たメグミは辺りを見回す。山奥なのか辺り一面森が広がっており、下に降りれそうな斜面すらも見当たらない、文字通りの断崖絶壁だった。


「なんだここ…!山の上!?」


「音が聞こえる…」


 フーラルは耳をすます。メグミを一緒に耳を澄ませるが何も聞こえない。


「こっちだ!」


 フーラルは出てきた方と反対方向に指を向け走り出す。メグミも慌ててついていくと、次第に水の音が聞こえてきた。


「滝…か!」


 音の場所に到着しメグミは合点がいった。音の正体は崖から流れる滝の音だった。しかし下までは目算で20m以上もあり、飛び降りるのは危険すぎた。だがフーラルはそんなことを気にせず飛び降りようとする。


「ちょ…ちょっと待った!」


 メグミに止められてフーラルはムッとしてメグミを見る。


「んだよいきなり!」


「いやいきなりって…お前死にたいのか!?」


 フーラルが合点がいかない表情を浮かべ


「下が水なんだから、落ちても大丈夫に決まってんだろ?」


「いやお前バカか!?こんな高いとこから落ちたら死ぬって!」


 フーラルはイラつきながらメグミに言う。


「いや水なんだから大丈夫だろ!それよりもう追いつかれんだぞ!」


「そんなわけあるか!ちゃんと道を見つけないと!」


「そんなことよりお前は誰だよ!」


「私の方こそお前が誰だかわからんわ!」


「見つけましたよ…たかだかネズミ一匹にここまで手間取ることになるなんてね」


 滝の向こう側から声が聞こえ、二人は声の方向に振り向く。黒いローブを着た男が笑みを浮かべて立っているのが見えた。


「やばい…魔術師まで来てたのか…!?」


 フーラルが焦りをにじませる。メグミは理解不能の単語が出て更に困惑を深めた。


「ま…まじゅつし?」

 するとローブの男は何やらブツブツと言い出すと、滝が凍り道ができた。フーラルは振り向いて逃げようとするが、それよりも早くローブの男は氷を渡り、フーラルに追いつく。


「いくらネズミでもわかるだろう?魔術師には敵わない、と」


 メグミは凍った川を見て、自分の頬を思いっきりつねる。―夢ではない。一体これは?唖然としていると衝撃音が聞こえ、その音の方向に振り向くと先ほどの少年が吹っ飛ばされていた。


「てめぇ!何してんだ!」


 メグミはローブの男に向けて叫ぶが、男からの反応はない。フーラルは立ちあがり、ローブの男に向かっていく。


「うあああああああ!!!」


 ローブの男はため息をついて、フーラルを見下すように見る。


「なんて汚くて…覚えのない…“ファイエル”!」


 ローブの男がフーラルに指を向け、何やら詠唱をすると指先から火の玉が出て、フーラルに直撃する。フーラルは防御するがその衝撃に耐えられず後ろに吹っ飛ばされる。


「この…!」


 メグミもローブの男に向かっていくが、ローブの男はメグミを見もしなかった。拳を握りしめローブの男を殴るが―なぜかそれは空を切った。


「え…!え!!!???」


 メグミは再度拳をふるうが全てそれは男に当たらない―いや男の体をすり抜けていった。


「さて…たかだかネズミ一匹殺す価値もない…が、お前は10年前のあのヴェルトロ村の生き残りと聞くからな。生かしては…おけない!」


 ローブの男は短剣を抜き、身動きが取れないフーラルにとどめを刺そうと振りかぶった。


「やめろおおおおお!!!」


 メグミは叫ぶがその声すら聞こえない。近くの木の棒を持とうとするがそれすら持てない。何も―何も手はないのか―。


× × ×


『そしてピンチになった勇者!だが勇者には心強い相棒がいました…。彼の背後にはとっても美人で強い精霊がついていたのです。彼女はあらゆる魔法を使うことができ、勇者を救うべく火の呪文を放ちました』


× × ×


 突如メグミの脳裏に誰かの声が鳴り響く。どこかで聞いたことがあるような、そんな声。


『その火の呪文は…』


 メグミは右手をローブの男に向ける。


『ファイエル!』

「ファイエル!」


 メグミの手の先から火の玉が飛び出し、ローブの男に直撃する。ローブの男は突然の衝撃に後ろを振り向くが誰もいない。


「い…いったい何が…!?まさか…!まさか…!!」


 ローブの男は衝撃で吹っ飛ばされ滝に落ちていくが、フーラルの体もつかんでいた。


「やばっ!?」


 メグミはフーラルを掴もうとするが、あと少しで届かず二人は滝の下へ落ちて行ってしまう。下を覗いていたメグミだが、突如強い力で首元を引っ張られる。


「ぐえっ!!??」


 そのまま強い力で引っ張られ、メグミも滝を落ちて行ってしまう。

川に落ちたメグミは最初は息ができないと思い慌てるが、10秒もするうちに水の中にいながらも全く抵抗を感じず、息も特に必要ないことがわかった。


「なんだ…なんなんだこれ…!?」


 今はすべての疑問を棚上げし、同じく流されているであろうフーラルを追った。川の激しい流れで前が見えないにも関わらず、不思議と位置がわかった。なぜなら近づくたびに首元の謎の引っ張られる間隔が薄くなっていっていたからだった。


 川の中腹でフーラルと、フーラルを掴んで離さない男を見つけたメグミはフーラルを掴む。どうやらフーラルだけは触る事ができるようであり、そのまま川から引きずり出した。


 二人を引っ張り上げたメグミはまずフーラルの呼吸を確認する。弱弱しくあるが呼吸していることは確認できたが、身体が非常に冷たくなっていた。火を起こしたいが今の自分では火種を作れても薪を集めることができない―それに追手に見つかる危険性もあった。


 メグミはフーラルに自身のオデコを当て、温度を確認する。―今の自分でもこの少年に体温を移すことは可能か?だがもう他に方法はなかった。


× × ×


 フーラルは夢を見ていた。鉱山で信頼していた兄貴が死んだこと、父親代わりだと思っていた爺さんが過労死したこと、母と引き離されたこと、ある日突然町に軍隊がやってきて、父が目の前で殺されたこと、そして昔は母にくっついてよく寝ていたこと―。


× × ×


 フーラルが目を覚ますと、目の前で川が流れており、すぐそばでローブの男が倒れていた。慌ててフーラルが起き上がろうとするが体を何かが覆っておりうまく動けない。耳元でなんらかの吐息が聞こえ、先ほどの女が自分を抱きしめる形で寝ていた。


「うわっ!?ううあああああ!!??」


 フーラルは慌てて離れ、そして赤面する。フーラルの声でメグミも目を覚ます。


「よかった…なんとか無事のようだな」


「な…何してたんだよお前!?」


 メグミは目をこすり、滝の上を指さして言う。


「何って…あそこから落っこちて溺れて、体温がすごい下がってたからイチかバチかでお前のこと暖めてたんじゃないか」


 フーラルはメグミの身体の柔らかさを思い出し、恥ずかしさで体温が上がるのを感じた。


「し…しるか!」


 フーラルは立ち上がり、川の水を飲もうと歩きだす。


「あ、待っ…!」


 メグミは止めようとするが間に合わず、フーラルは首元を引っ張られるように感覚を感じ後ろにつんのめる。メグミも前につんのめり首を抑える。


「な…なんなんだ一体!?」


 フーラルは息を詰まらせながらメグミに質問する。


「どうやら…私たちは10m以上離れることができないみたいでね…」


「え!?何!?」


 メグミは立ち上がり、首をさすりながらフーラルに手を伸ばす。


「望むと望まないと関わらずどうやら私たちは一蓮托生になったみたいでね。この訳のわからん世界から戻るためにもあんたの助けが必要ってわけだ。…あんた名前は?」


 フーラルは手を取るかどうか迷い、ムスッとしながら手を取った。


「俺は…フーラル。あんたは?」


 メグミはフーラルを引っ張り上げ言う。


「私はメグミ。よろしくねフーラル」


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