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2度目の結婚は貴方と  作者: 朧霧
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遠乗りのお誘いとリオナの前世

 結局、団長さんに送ってもらうことになり2人で私の自宅方向へ向かう。


「本当にすみません。送っていただくなんてご迷惑をおかけします」


とても気まずいじゃない…、適当なところで別れよう。


「いや、心配で着いていくだけだから気にしなくてもいい」


真面目で優しい人なのかなぁ。そう思うと更に申し訳ない気持ちになってきた。


「リオナさん、その…、近々休日はあるか?」


「休日ですか? 確か明後日は仕事が休みだと思います」


「そうか、俺も明後日なら大丈夫だな。予定がなかったら遠乗りに行かないか?」


「はい? とおのり? とは何でしょう」


「馬に乗って遠くまで行くことだ。景色も綺麗だし日頃の疲れも癒せる」


「馬…。すみませんが乗ったことがありませんので無理そうです」


「大丈夫だ。馬の乗り方は教えるからどうだろうか?」


? もしかして今回の取引にでも役に立つことなのだろうか?


「お役に立ちます?」


「役に立つ? 俺はとても嬉しいが嫌か?」


「嫌ではありませんが足手まといでは?」


「そんなことはないぞ! では決まりだな」


「はぁ、よろしくお願いします?」


「噴水広場の隣にある公園の入口で午後に待ち合わせだ」


「分かりました。明後日の午後にお待ちしてます」


歩きながらそんな話しをしていたら自宅前に着いていた。別れの挨拶をして団長さんは帰っていった。馬なんて乗ったことがないし本当に大丈夫なのだろうか?

不安に思いながら就寝の準備をするとラモン亭での会話をふと思い出す。別に結婚したくない理由はあれだけではないんだけどな…。誰にも言えないし言いたくないから誤魔化したけど。


前世の記憶がなければ結婚も考えるのだろうか? 同じ年頃の女の子達のように。常に頭の中にあるのは前世の世界に帰りたい…。

この世界で生まれ変わってしまったからには別人だから魂だけにならないと帰れないのか? そもそもどうして死んでしまったのかすら分からないのよ。今でもあの子の無事を確認したい。幸せに暮らしているんだろうか…。


私は普通の会社員の家庭に生まれ、両親、兄の4人家族だった。短大卒業後は保険会社へ就職し19歳のときに知り合った3歳上の夫と23歳で結婚した。結婚する前から夫にはある話をしていた。私は中学生で初潮を迎えたがそれ以降は月のものが全くこなかったので、母に勧められて就職してから大学病院の婦人科に通院していた。注射や薬に頼れば月のものは訪れたが自力となると音沙汰が無かった。結婚できても子供は産めないかもと自覚があったので夫には付き合っているうちに全てを打ち明けていた。それでも夫から二人で治療しながら頑張ろう、授かり物だからできなかったら夫婦二人で仲良く暮らそうと言われ信じて結婚してしまった…。


結婚してからはすぐに不妊治療の病院を探して通院したのが良かったのか通院してから4年後、苦難を乗り越えてやっと子供を授かった。とても嬉しかった記憶がある。自分では無理だと諦めていた部分も多かったしあまり不妊治療に没頭するのも精神的に良くないと思い他の道を探しているときだった。


順調に5ヶ月を過ぎて安定期に入るとお腹の子はよく動きとても元気だった。そんな幸せを感じて過ごしていたある日妊娠7ヶ月に入った頃、会社から帰宅した夫に突然言われた…。


「好きな人ができたからお腹の子供は要らない。家を出て行くことを考えているから」


妊娠7ヶ月の妻に向かって冷たく淡々と浴びせられた言葉はその後一生忘れられない言葉になった。一体、自分の子に向かって要らないと平気で言えることが全く理解できなくて苦しんだ。


離婚、出産、子育て、片親などとても妊婦が考えるような内容ではないことが頭の中を占めた。

あの発言以降、夫は宣言したので堂々と帰って来ない日々を過ごしていた。たまに帰ってきては必要な物を取りまたすぐに出ていく。結局、私の方が先に壊れてしまい妊娠8ヶ月が終わる頃、体調不良となり入院することになった。


私の両親も激怒し夫から事情を聞きだす。すると

子供ができずに辛かった

出来ないことを彼女に相談していた

彼女とは一緒に暮らすから別れるつもりはない

子供は育てられない

と幼稚で最低な言葉が返ってきた。夫というよりも人として嫌いになった瞬間になる。


その後、夫も踏み込んだ行動は起こさずにいたが相変わらず女のところに入り浸っていた。いよいよ出産間際になっても帰ってくるわけでもなく、夫の休日である日に産気付いたが一人アパートで陣痛を迎え耐えていた。共働きの両親には連絡を入れたが一人でタクシーに乗り込み病院へ行った。

陣痛を自宅で我慢し過ぎたせいか病院に着くと立っていられないほどで車椅子で分娩室に運ばれてあっという間に私服で出産した。我が子を見て泣き強くなる決意をした瞬間であった。もちろん夫はいないから初めての抱っこは祖母になった。出産したと母が夫に連絡を入れたが、一度も病院にすら来ることはなかった。出産するまでの気持ちは何年経っても消えず思い出すだけでも泣いてしまうほど悲しい記憶である。


離婚を切り出さず相変わらずではあったが給与だけは入れていたので子供をなんとか育てたいから放置した。自分の子供は一切目に入れず何もしない。本当に人として最低で終わっていると思った。


それから何年か経つと女とは別れたようだったし自宅にも毎日帰宅するようになったものの、共に生活は送らず子育ても家庭に関することは一切しなかった。

まるで他人の下宿人のようであったし子供には本当に申し訳ないと毎日思っていた。

暴力を振るったりしないので離婚した方が良いのか答えは見つからず子供には金銭的に苦労はかけさせたくないと居座った。


相変わらずな夫は出会い系サイトなどを利用したり何回も帰ってこない生活を何十年もお気楽に繰り返していた。

やっと子供が大学生になったときに自分のこれからの人生を考え子供が就職したら離婚しようと決意できてた。


子供が産まれたときから密かに離婚準備をしていたので解放される日がくるのを楽しみにしていた。

でも私の記憶は子供が大学3年になった頃までしかない。やっとの思いでここまで辿り着いたのに生まれ変わってしまった…。


結婚するのは簡単だったのに後悔しかなかったけれども自分で選択した結婚であり、自分が選んでしまった男であったので責任は結局自分にあると思った。


今の私の願いは子供の無事が知りたい。もう母としては会うことができないが、どうか幸せに暮らしていますように…。


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