領地へ
それから私は働きながら子供を育てている。前世でいう共働き夫婦のような生活だがレオナードさんのおかげで両立できている。
保育所は順調で最初の頃はルークともう一人くらいしか子供がいなかったが、徐々に浸透して預かりが少ない日でも世話人が足りないほどになっていた。
ミシェルさんが新たな世話人を雇いもう一部屋を解放してくれたので年齢層で部屋を分けることにした。
保育所は好評で、商会にとっても優秀な人材を集められるようになり会社の規模を大きくしていった。
私はレオナードさんの絶倫体力お化けのおかげ? でルークが3歳になる頃二人目を妊娠し出産した。
2人目も男の子でシーク。シークはどちらかというと私に似ている。ルークより活発な感じはしなくてとても静かな子である。
どうしても女の子が欲しいレオナードさんは三人目を作りたいと言ってきたが、三人目が男の子でも四人目は当分の間作らないと約束をした。
レオナードさんの思いが伝わったようで無事に女の子が産まれる。シークと2歳違いの女の子でルナ。
ルナはレオナードさんに似ていて美人になりそうだ。女の子だから私に似ないで良かったしルナのおかげでレオナードさんの気も済んだから安堵した。
子供が3人もいると慌ただしくなると思っていたがルナのお世話はレオナードさんとルークが争奪戦を繰り広げていたので私は体を休めることができた。
ライモンドも結婚して二児の父親になっており、レーナは良縁に恵まれて今は新婚さんだ。
ミシェルさんは未だに独身だがどうやら秘書のギルスさん、歳下男性と交際しているらしい。長く一緒にいたから情が湧いただけと言っていたけど幸せそうに見える。子供も年齢的に産まないそうで私の子供たちを甥っ子、姪っ子のように可愛いがってくれる。それぞれが皆幸せそうだ…。
そんな平凡な生活を送っていたがレオナードさんのお父さんが病で倒れたらしくご両親が領地で静養していると聞いた。
テオドールさんは奥さんと子供一人と領地でなるべく暮らしお父さんの世話をしている。テオドールさんの子供は男の子でルークの1つ歳下。
奥さんは物腰が柔らかい感じの女性でテオドールさんは溺愛している。
ある日ルークが10歳になる頃、レオナードさんから提案があった。
「リオナ、テオの領地に家族で引っ越さないか? 兄の俺としてはテオをできるだけ支えたいんだ。本人は助けは要らないと言っているが力になりたい。
それに子供達にとっても領地はとても良い環境だ。リオナの仕事もあるから無理に押し付けるつもりはないが、考えてみてくれないか?」
「騎士団は? 団長を辞めれるの?」
「ジルがいるから大丈夫だ。むしろあいつの方が貴族だし良いだろう。ジルも子爵家の女性と結婚したことだしな」
そう、副団長さんは子爵家の婿養子になったのだ。女性は一回り以上も離れた18歳の可愛らしい人である。
「いいわよ。行きましょう、領地。仕事もあるからミシェルさんと相談になるけど」
「本当にいいのか? リオナが無理していないか? 俺はどうしても行きたいわけではないから断ってくれてもいいんだ」
「うん、分かっているよ? 領地は行ったことがないけど子供達の環境にも良いわけだし王都から出たことがないから違う環境で住むのも楽しいかなと思って。
無理なんてしていないし嫌ならはっきり断るから心配しないで」
「ありがとう、リオナ。本当にありがとう」
こうして数ヶ月後に私達家族は領地へと引越しをした。私は商会を辞めたが、ミシェルさんにはリイベル会長のお話し相手やマララ商会の相談役を続けることを依頼され、その都度報酬も貰えることになった。
たぶんミシェルさんなりの私への配慮があるのだろう。それでも前世の知識が役に立つのだから良かったと思う。
レーナとライモンドも別れのときには泣いていたがお互いに行き来すると約束をしてきた。
レオナードさんは騎士団を辞めてジルベルトさんに団長を引き継いだ。ジルベルトさんはレオがいないとつまらないから領地に遊びに行くと言っていた。
レオナードさんはジルベルトさんの前では面白い人なのかしら?
領地は王都に隣接しているから新居までは馬車で丸一日くらいで済む。自動車だと高速道路を使えば半日かからないくらいだと思うけど。
領地に入ると長閑な雰囲気で農村地帯が多いが、町の中心部は賑わっている感じがした。街道が整備されているので王都との行き来が盛んである。
テオドールさんの屋敷はとても立派であったが、私達は外から見ただけで中には入っていない。レオナードさんが用意した家は屋敷から歩いて行ける距離にある一軒家。周りには畑が広がり、家族5人で暮らせるように庭付きの大きな家だ。
一階は広い居間と他に二部屋、台所と水まわり。二階は三部屋あり他に屋根裏部屋がある。
庭も広く小さな畑と家畜小屋があり子供達も喜んだ。こんな物件は王都では住めない広さだ。
レオナードさんはテオドールさんの仕事を週に2、3回ほど手伝いに行き、その他の日は畑仕事をしたり、たまに害獣の駆除をしに行ったりしていた。
私は子供達の勉強を見て家畜の鶏を育てたり、家庭菜園をしたりして田舎暮らしを楽しんでいた。
ミシェルさんとリイベル会長とは1年に数回会ったり、手紙のやり取りをしたりして稼ぎを家計の足しになるようにしている。
子供達も伸び伸び育ちルークは活発でとにかく走り回っている。シークは控え目な子で読書や勉強が好き。ルナは気が強い女の子ではなくおっとりした子で優しい。
子供達はテオドールさんの屋敷へよく遊びに行く。レオナードさんは仕事をしに行くだけでお父さんを訪ねないみたいだし私は認めてもらえていないから屋敷にも行かない。
お父さんは子供達には会ったりしているとレオナードさんから聞いた。子供達が会いたいならそれでいいと思ったから好きにさせている。
「お母さん、この前ねぇおじいちゃんが言ってたけどね。お母さんにごめんねだって」
「おじいちゃんが?」
「うん、お父さんにもごめんねだってぇ」
「僕も聞いた。テオ叔父さんに何のこと? って聞いたらね、自分で伝えればいいのにって言ってたよ」
「そう…、今度おじいちゃんに会ったらありがとうと伝えてね」
子供達の話が本当かは分からないけどレオナードさんには伝えておこうと思った。
「ねぇレオ。子供達から聞いたけどお父さんがレオと私にごめんねと言ってたって。知ってた?」
「知らない。俺も会ってないしなぁ。歳をとって弱くなったんだろうけど。リオナを認めないことには会いたくないからそのままでいい」
「私は認めてもらえなくても大丈夫よ。だって結婚もしてないからお父さんにとっては嫁ではないし。でもレオにとってはお父さんなんだから機会があったら話してみて」
「分かった、機会があればな…」
あれだけの貴族気質のお父さんが謝っていたなんてね…。過去を思い出すと信じられない気持ちだった。




