妊婦生活
仕事に戻りしばらくするとお昼休みになった。いつもの三人で昼食を取る。
「ねぇねぇ、リオナご懐妊だって本当?」
「お、そうなのか? 本当に子供ができたのか、お前」
「うん、そうなんだ。3ヶ月に入るところかな」
「良かったね、おめでとう!」
「それなら結婚するのか? 子供もできたことだし」
「え? 結婚しないよ? そんな話にもなってない」
「「えっっ!」」
「子供は二人でちゃんと育てる予定です。もしもレオナードさんが離れていっても私がちゃんと育てるわ」
「リオナ、お前結婚にこだわっていないのは本当だったんだな…。団長さんと交際してから結婚を考えてると思っていたけど」
「結婚は考えてないよ? どうしてもこの先問題があったら考えるけどね」
「団長さんもそうなのか?」
「レオナードさんは何も言わないけど言えないのかなぁ? 聞いてないからわからないけど喜んでくれたし父親になるのも楽しみにしているよ。まぁ、まだ安定期じゃないしね。無事に産まれてきてくれることで頭がいっぱいだわ」
「そうね、妊娠中も色々あるって聞くから注意しないと。ところで仕事はいつまでするの?」
「仕事は出産間際まで続けるわよ。さっきミシェルさんに許可をもらってあるから大丈夫。さすがにお腹が大きくなったら日数を減らしなさいと言われたけどね。出産後も産後の経過が良ければミシェルさんにお願いして働くわ。周りに迷惑はかけてしまうかもしれないけどよろしくね」
「凄すぎ。普通は子育てに専念するんだろ? 働いて大丈夫なのか?」
「両立するのは大変だと思うわよ。でも考えてみて。もし自分が農民だとするでしょ? そうしたら食べるためにはそんなにゆっくり休んでられないじゃない。子供を背負いながら働いたり家事をしたりするでしょう? それでも愛情かけて育てれば子供もちゃんと育つわ」
「リオナさぁ、前から言ってたけど結婚はしてなくても、もしかして出産はしたことがあるのか?」
「ライモンド、よく聞いて。私は結婚も出産もしたことはないからね、分かった?」
「あ、はい。分かりました。そんな無謀な話を団長さんは何て言ってるんだ?」
「レオナードさん? 昨日妊娠を伝えたら過保護になって説得するのに大変だった。今日は商会についてきてミシェルさんと話をしていたわ」
「そうでしょうね。団長さんの気持ちも理解できるわ。私もリオナが心配よ」
「ありがとう、レーナ。無理はしない約束だからちゃんと守るわ」
「まぁ、良かったな。子供が産まれるのは楽しみだ。男の子か女の子か賭けしようぜ」
周りの皆も心配しているな。あまり無理をしないようにして迷惑をかけないように気をつけようと思った。良い人達、心配してくれてありがとう…。
私は何事もなく安定期を迎えて出産まで半分を過ぎた。最近では胎動を感じられるようになり暇さえあればレオナードさんがお腹を摩っている。
ある日、レオナードさんが不在中扉がノックされた。
「姉上、テオドールです」
あ、姉上? 驚いて扉を開けた。
「いらっしゃいテオドールさん。ところで姉上とは?」
「え? 兄上の奥さんだから姉上ですけど」
「その…結婚もしてないし私の方が歳下なので姉上には慣れないですけど」
「では、姉さんで。そうか、これからは兄上も兄さんで良さそうだな」
「中にお入りください。お茶を入れますね」
テオドールさんを招き入れお茶の準備をして席に着く。
「姉さん、ご懐妊おめでとうございます!」
「すでにご存知なんですね。ありがとうございます」
「もう、兄が喜んだ手紙を何度も送ってくるから驚きました。私が知っている兄はあまり感情を出さない人だと思っていましたので」
「感情が表に出ないので分かりづらい人ではありますよね。でも最近は暇さえあればお腹を摩ったり、物凄く過保護なんですよ」
「そうなんですね。兄はリオナさんに出会えて幸せそうです。ありがとうございます」
「そんな、私の方がレオナードさんと出会えて感謝しているんですよ」
「兄が籍を抜けたのはご存知ですか? 責めているわけではありませんので誤解しないでください」
「あ、本当に抜けたんですね。話は聞いておりましたが私が口を出す問題ではないですしレオナードさんが貴族だろうが平民だろうが何も変わらないので。でもご家族の方々は納得できないでしょうね」
「父は何も言いませんし母は父のいいなりなので口を出しません。三男は学園で寮生活をしているので手紙で報告をしてあります。私はもうすぐ父から爵位を譲り受けることになり次の春には婚約者と結婚をします。幸せそうな兄を見ていると結婚を早くしたくなりました。
リオナさん、これからも兄のことをよろしくお願いします」
「ご結婚おめでとうございます! 幸せになってくださいね」
「はい、ありがとうございます。ところで姉さん、出産はいつくらいですか?」
「寒くなる前、あと半年もかからないくらいでしょうねぇ。無事に産まれたらテオドールさんも是非見に来てくださいね」
「はい。楽しみだなぁ。甥っ子か姪っ子か」
「くすっ、周りの人達も同じようなことを言っています」
レオナードさんには会わずにテオドールさんは帰って行った。あれから嫌われていると思っていたので和やかな雰囲気で安堵した。




