リオナの返事
私は何かを察知して立ち上がって後退りしたが、レオナードさんは私の腕を掴み抱き寄せた。
「リオナ、怪我を見たい。動くなよ、包帯を外すぞ」
「いや、やめてください! 本当に大丈夫なんです」
レオナードさんに腰を抱かれているため離れられない間にシュルシュルと包帯を外される。
見た瞬間、レオナードさんの息がヒュッと止まり私は首を見せたくなかったので項垂れた。
「リオナ、リオナ」
まるで何かを失くしてしまうのを恐れるように何度も名前を呼びながら抱きしめられた。
「俺はリオナに何かあったら生きていけない。お願いだからいなくならないでくれ。頼むから共に生きてくれ」
懇願するような抱擁に温かさを感じる。レオナードさんの匂いもして安堵したときに自分の気持ちに気がついた。私はこの人のことが好きなのだと…。
本当は告白されたときに分かっていたのかもしれない。今世では誰にも抱いたことのない感情で心が揺れ動いていたから。
「レオナードさん? 落ち着きましたか?」
背中を摩りながら顔を上げてレオナードさんを見ると目に涙が溜まっていて驚いた。今まで一度も男性にこんな顔をさせたことがなかった私はどうしていいのかわからなかった。
「リオナ、本当のことを話してくれ。どうしても知っておきたい」
これ以上、見られたからには誤魔化しは通用しないと思い経緯を話すことにした。
淡々と説明をする私とは反対にレオナードさんの表情はまるで憎悪が満ち溢れたように変化していく。
全て話終わると痣のある首筋に唇を寄せて何度も口付けをしてきた。私は突然の行動に驚いたが首筋への口付けを素直に受け入れていた。
「リオナ、改めて言いたい。リオナが好きだ、愛してる。どうか俺を受け入れてくれ。頭がおかしくなりそうなくらい毎日リオナのことで溢れている」
こんなに人から求められることが初めてだった。私も返事をしていないから余計に不安にさせたのだろう。
「2度も気持ちを伝えてくれてありがとうございます。嬉しい気持ちでいっぱいです! 私もレオナードさんが好きです。私を受け入れてくれますか?」
やっとレオナードさんが笑顔になった。両手で私の顔を両手で包み込むと顔が近づいてくる。そのままお互いの唇が触れて存在を確かめ合いレオナードさんは角度を何度も変えながら口付けをし私はとても幸せな気持ちだ。
しばらくするとお互い離れられない雰囲気を我慢するようにしてレオナードさんは帰った。ベッドに潜り込んで寝ようとするがなかなか眠れない。前世の記憶があるくせに顔が熱くなり、まるで初めてのことを経験した年頃の女の子みたいになった。
レオナードは騎士団棟の自室へ帰ることにした。やっとリオナが受け入れてくれて幸せな気分に溢れていたが着いた途端にジルベルトが訪れる。
「レオ、おかえり。リオナちゃん元気だった?」
「あぁ、会ってきた。リオナは元気そうにしていたが…」
「何? 問題でもあった?」
「首はやはり怪我ではなかった。リオナを追求して怪我を見たが絞められた跡が痣になってる」
「やはり掃除中の怪我ではなかったのか…。これは事件性があるな。なぜ誤魔化すようなことになっているんだ?」
「リオナに振られた奴で振られた腹いせだか知らないが俺は許せん! リオナは自分の冷たい態度と相手の話をちゃんと聞かなかったから自業自得だと言い事件にはしたくないらしい」
「以前にリオナちゃんが話ていた奴か。でもまた危ない目に遭うことになるかもしれないな」
「二度とそんなことが起きないようにする。リオナに手は出させない」
「その様子だとリオナちゃんから返事はもらった感じだな」
「あぁ、今日改めてまた告白して思いを伝えた。やっと受け入れてもらえたからとても嬉しい」
「お、良かったな! でも首絞め野郎はどうするんだい?」
「俺が明日話をつけてくる。二度とリオナには会わせない」
「今すごく恐ろしい顔をしてるぞ。話し合いはいいが決して手は出すなよ。それだけは約束しろ」
「分かった、ジルとの約束は守る」
翌日、レオナードは騎士団服のままハラルを訪ねに行き呼び出して外に連れ出す。
「俺はリオナの恋人でレオナード。お前がハラルで間違えないな?」
「何だよ恋人って。あの女、結婚したくないから恋人は作らないとか言ってたくせに軽い女だな。どうせ恋人っていうのも頼まれたんだろ?」
「頼まれた? 勘違いするな。リオナは俺がずっと口説いて手に入れたんだ。お前がしたことも全部聞いた。本来であればこのまま捕まえてやるのだがリオナからの希望でな、事件にはしないだけだ。
だからといって俺がお前を許したわけではない。愛する女に手を出したら今度こそ容赦しないからな。リオナは自分の態度も話をじっくり聞かなかったことも悪かったと反省してたくらいだ。
お前は殺人紛いなことをしでかしてもまだ反省していないようだな。リオナに選ばれないのも当然だ」
「…あの女は言葉と行動が全く違うくせに何が反省だよ。少し脅かしてやっただけだ」
「お前なぁ、俺は結婚を求めてないぞ。リオナが傍にいればそれでいい。それに結婚しなくても共に生きることができる。お前は結婚ができればそれで満足か? 相手が自分の思い通りにならなかったから八つ当たりして情けないとは思わないのか?」
「……」
「とにかくリオナは俺の女だ。傷つけたら許さないから良く覚えておくんだな」
まるで子供のまま大人になったようなハラルの態度に呆れた。何でも思い通りにいかないと癇癪をおこすあの男は危険だから決してリオナには近づけてはいけない。本当はリオナを自分の中に囲ってしまいたい。外には出さずに自分の手元にいつも置いておきたい。
そんな束縛心が自分の中に沸々と湧き上がり、無性に会いたくなったのでリオナの家へと足を向けた。




