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第36話 新人間

 宇都宮秀男は目覚めると、厚生労働省感染症研究所にある簡易宿泊部屋のベッドの上だった。

簡易宿泊部屋は緊急時などに泊まり込みに使われる部屋で、3畳ほどの狭い部屋にシングルベッドがある部屋。

カプセルホテルよりは広く、ビジネスホテルよりは狭い部屋だった。


目を覚まし起き上がる宇都宮秀男


「俺は人間をやめたのか?俺は人間ではなくなったのか?」


壁に付いている姿見の大きな鏡の前に立ち、裸になり全身をくまなく確認した。


しかし、外見上はなんら変わりはなく、実感が出来ない状態だった。


そこで思いついてしまったのが、那珂湊教授にした拷問だった。


手をジッと目詰める宇都宮秀男は左手小指の爪を噛み、勢いよく左手を下に払った。


剥がれる爪、普通なら耐えられない痛みの苦痛を伴う行為のはずだったが、少し太い縫い針で指先を刺したくらいの痛みだった。


流れ出る血はすぐに止まる。


「・・・・・・これが超越してしまったという事なのか」


不思議と涙がボロボロとこぼれ落ちていた。


一時間ひたすら泣き続けたが、


「俺は己を捨てて全人類を助けなければならないんだ。今は俺自身の事なんて良いんだ。全てを捨てる覚悟はあの時したはずなのだから」


スーツに着替えて廊下を出ると、防護服に身を包みマスクとゴーグルをしている同僚に止められた。


「おい、マスクは?防護服は?」


「俺にはもう必要ない」


「馬鹿か、自棄になるなよ。ちゃんと予防対策しろよ」


同僚は新型強毒性インフルエンザへの対応で鬱状態になったのではないかと心配した。

どう戦って良いかわからない病原菌に対して、厚生労働省感染症研究所は今までにない忙しい日々となっていた。

毎日次々入る感染者数、死亡者数。

それを聞いているだけで鬱になる。

厚生労働省感染症研究所なら上から対策を求められ、マスコミの報道も過熱する。

そんな環境下で働いていれば、必ず精神に異常を来す。

実際、昨夜一人、研究員が屋上から飛び降り自殺をしていた。


「俺は、人間をやめた。悪魔に魂を売ったんだよ」


同僚の手を払いのけると那珂湊教授と小山所長がいるはずの所長室へと向かっていた。


「悪魔に魂を売った?・・・・・・あっ、あいつの担当は・・・・・・まさか自らが・・・・・・」


同僚は察した。


宇都宮秀男が遺伝子改造治療薬の投与をしたことを。

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