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第32話 二人の研究者

 那珂湊教授を秘密裏に運ばれたのは厚生労働省感染症研究所の所長室だった。


所長・小山英俊もまた、ガスマスク、ゴーグル、防護服に身を包んでいた。


「久しぶりだな那珂湊・・・・・・今は教授を付けるべきだな。お茶を出したいところだが、これで我慢してくれ」


ペットボトルのお茶を渡す小山所長、感染リスクを最小限にするためだった。


「好きに呼んでくれ。まさか、こんな形で再会することになろうとはな」


「小山所長と那珂湊教授はお知り合いでしたか?」


宇都宮秀男が聞くと


「はははっ、腐れ縁だな。幼なじみだよ」


小山所長が言うと那珂湊教授は


「高校までよく遊んだものだな。大学に進んで考え方の違いから絶交となったがね」


「まぁ、立ち話もなんだから座ってくれ」


小山所長は対面に置かれたソファーに座ると、那珂湊教授も座った。

宇都宮秀男は小山所長の後ろに立っていた。


「率直に聞く、薬、ワクチンはほぼ絶望的なんだな」


と、那珂湊教授が聞くと、小山所長は小さく首を振った。


「ワクチンは変異スピードから考えると絶望的だな。ただ、特効薬なら出来なくはないだろう。だが、時間がかかりすぎてしまう。約2年は必要だ。そして、そこから全人類分を用意するとなると、また2年はかかる。その間に次々に死んでいき人口の7割は消えると試算している」


「妥当なところだろうな」


「私からも率直に聞く、那珂湊教授、お前の遺伝子改造治療を行ったら何年だ?」


「・・・・・・3ヶ月だな」


「3ヶ月?早い早すぎる、それだけの物を作れる設備など日本にはない。ふざけている場合ではないんだぞ」


「なにもふざけていないさ。私の子供達を避難させた所に全ては準備してある」


「それはどこなんだ、そして、なぜにそんなことを考えていた?」


と、小山所長はソファーの前のテーブルに両手を着き頭を下げていた。


「場所はまだ伏せておこう。理由は単純だよ。生物の進化が急加速しているのに気が付いたんだよ。様々な生物の遺伝子を見ていたからね。病原菌だって進化するのではないか?と、思っていた。そうなっては人類滅亡も・・・・・・そう考えたから準備はしていた。まさかこんなに早く必要になるとは思っていなかったけどな。それと私が発表したときの記者会見を覚えているか?」


「たしか、お前の子供の他に数名治療したと」


「あぁ、その一人はとある国の国家元首、その者との取り引きは遺伝子改造治療に使う全面的支援をして貰うこと。そして、もう一人、とある国の石油王も同じく遺伝子改造治療に金銭的に全面支援を頼んだ。だから、久慈川君以外の助手はみんなそこに行っているんだよ」


「・・・・・・不老不死を売ったのか?」


「そう言うことだ。不老不死技術は頂点を極めた者なら誰でも欲しがる技術、夢、それを取り引き材料とした」


「・・・・・・お前があの時、『俺は不老不死を考える』と、言い出したときこんな日が来るんじゃないかと思っていた。だから、私はあの時、猛反発したんだ」


「だったな。何の因果かその後、俺は先天的遺伝子異常を持つ美咲と結ばれた。その治療を必死に考え研究していた。そして、生まれた子が同じ病気だった。俺は必死に必死に治す方法を研究したさ。そして、美咲の死と引換に遺伝子改造治療の全てを手に入れた。既存の医術では治せなかった全ての病を治すことが出来る。さらには人間が次のステップを踏み出すことまで出来るようになった」


「人間の進化か・・・・・・那珂湊教授、お前は進化したのか?」


「あぁ、人間と言う同じカテゴリーには入らないほどな」


「そこまでしていたとは」


宇都宮秀男と小山所長は絶句していた。


『倫理』『神の領域』『道徳』『神への冒涜』さまざまな理由で禁止されてきた遺伝子改造。


それを那珂湊教授は完成させていた。


那珂湊教授は那珂湊教授自身の『倫理』『道徳』で動いた。


それが正解か間違いなのか、今の状況から見て言えなくなってしまっていた。



アルファポリス第3回ライト文芸大賞コンテスト参加中の為そちらで先行公開中です。

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