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第28話 蔓延

 那珂湊教授が留置されている警察署。


地下には特別な取調室とは言えないような施設がある警察署だったが、一般人が目にする部分はごくごく普通の警察署だった。

 

そこも治安を守るため、署員はパトロールをし、時には客が殺到するスーパーやドラッグストアに駆けつけ、公園で集まり運動をしている人達に帰宅を促し、時には深夜の街で出歩く人達に早く帰るように促していた。


ただ真面目に使命を持って働くそんな警察官に対してもウイルスは平等に魔の手を伸ばした。

人間生活において『善行』と言えるであろう人達にさえ牙を向けた。


神様がいるなら必ず見逃してくれよう人達にさえ。


一人一人、また一人と感染者は拡がり、そして留置されている者にまで感染していた。


『頼むよ、もう悪いことはしないから出してくれよ』


《こんな所にいたら感染しちまうよ》


【死にたくないよ】


鉄格子の中から悲痛の叫びが聞こえてきていた。


何かしらの犯罪を犯した者でさえウイルスは平等だった。


次々に肺炎を起こしては、運ばれていき帰ってくる姿は見せなかった。


だが、那珂湊教授は静かにそれを見送っていた。


怒りという感情を必死に抑えながら。


まるで迷走する僧侶の如くただ静かに、鉄格子の外の音を聞いていた。


そして、その警察署の留置場には那珂湊教授一人が残っていた。


無音の世界。


ただただ静かな世界。


隔離された牢屋からしてみれば、自分だけが取り残されたのではないか?と、錯覚を起こしそうなくらいに静か。


ただ、朝昼晩の食事が運ばれてくる。


那珂湊教授はそれだけが『人類がまだ滅亡していない』と確信を持つ希望でしかなかった。



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