第16話 取り調べ5
「先に言っておきますよ。例の病原菌には関与はしていない」
と、その日の開口一番、那珂湊教授は宇都宮秀男に向かって言った。
宇都宮秀男はその時、何のことを指しているのかわからず、目を丸くしてしまった。
「陽華人民共和国での病原菌の事だよ。新聞で読ませて貰った」
留置所でも検閲された新聞くらいは、差し入れとして届いていた。
「あぁ、あれの事か?大方大昔のスペイン風邪のような物だろう?」
「だと良いのだが。いや、あのくらいでも今は世界が狭い。飛行機や船、電車、車が発展して人の移動は容易い。すぐに世界規模になるぞ」
「映画の見過ぎですよ、那珂湊教授」
「そう言う多くの映画は出ていたな。ほぼ必ず、特効薬や予防薬が出来て、めでたしめでたしで終わる。しかし、病原菌の変異スピードが今までと一緒という保証はない」
「そんな急速に変わる病原菌なんて、そうそうないですよ」
「たまたまだよ。すべての遺伝子研究をしてきた私から言わせれば、今までが運が良かっただけと思っているが」
「・・・・・・那珂湊教授?人工的に遺伝子を書き換えていたなら・・・・・・」
「ほらな、私に行き着いてしまうだろ?だが、私は仮にも医者だ。病気を誘発することなど私は絶対にしない、絶対だ。それだけは覚えておいてくれ。そして、もし手が着けられないときにはすぐに手を貸す。言ってくれ」
「・・・・・・それは『神の領域』を使うと言う事ですか?」
「その『神の領域』と言う言葉は止めてくれないか?」
と、那珂湊教授はジッと宇都宮秀男を目を見て言うが、宇都宮秀男は大きくため息を吐いて、首を横に振るだけだった。
しばらく続く、沈黙を遮るように宇都宮秀男は厚生労働省からの職員一斉メールでスマートフォンが震えた。
それの画面を目にした宇都宮秀男はスマートフォンを持つ手が震えていた。
『陽華人民共和国で確認された病気は新型強毒性インフルエンザウイルスにより世界的大流行の可能性あり。職員は緊急招集の仕度をせよ』
と、書かれていた。
「はぁ?なんだこれ?初めてだぞ」
「生物改変、起こりだしたのかもしれないよ」
と、那珂湊教授はぼそりと言った。
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