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前島―全伍話シロ編  作者: 永峪侑
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第肆(だいよん)話(わ) 郵便配達員の僕物語

今回 第四話

第肆(だいよん)() 郵便配達員の僕物語


本日二〇一八年四月七日は僕の勤務先である白蛇郵便局の開局記念日である。そもそもこの白蛇郵便局が建立されたのはちょうど百年前で、それ故に施設内の設備は古めかしく思われる。郵便物を保管する専用ポスト、蛇の形が描かれている白い壁、木製朱肉判子、自動仕分け機など、局内の至る所や物は年季が入って物ばかりである。また、お客様相談窓口の大きな白い柱をも亀裂が走っている。それでも尚、町の人々や郵便局内で毎日一所懸命に働いている職員は、それを決して臆することもなくこの場を利用している次第である。長期間大切にして扱う物や場所には『物の怪』という怪異が宿る、何て話を何処かで聞いたことがあるのだが、本当にそれが存在するのであれば、もう既に現れているはずだ。

僕はたとえ記念日であってでさえ、田舎唯一の郵便局で労働している。早朝から自宅を発ち、『祝百年』という大きな文字が盛大に飾られている郵便局に入り、それから作業服に衣装替えし、今日運ぶ予定の宅配物を丁寧に並べた。そして僕は、大きな茶封筒や白い便箋、A4サイズの分厚い冊子……。これらを一つずつ確認した。ここで働き始めてまだ三週間弱ではあるものの、しかし記憶力は比較的凡人よりは優れている僕なので、宛先や住所さえ一度目を通せば、すぐに位置情報が分かってしまうくらいだ。当然ながらそれを決して悪用したり個人情報を流出したりはしていない。

手紙を一式確認しているとその中に一つだけ、とても馴染み深い人物の氏名と住所が記載されている封筒があった。『弁財天村白蛇二丁目一番十九号』『畑田蜜様』と、昔ながらの古風の行書体で記載されていた。「これはラッキーだ。いや、ラッキーでもないか……。だってあの日以来ほぼ毎日会ってるんだしな。僕の本日の仕事が完了したら、そのついでに配送しよう、帰りがけに……」と僕は小さくぼそぼそと、現代風のぼっちのように呟いた。

八時十五分に白蛇郵便局を出発し、今朝仕分けした郵便物を宛先まで郵送し始める。勿論郵便局員らしいバイクに乗車して、町を颯爽と駆け抜けた。この『弁財天村白蛇町』自体は範囲的に窮屈であって、そこまで広くもないが、散村地帯である為に無駄に往復しなければならないのである。


先ず僕は最も遠い住所地から訪れることにした。山々に包囲されているこの田舎町は坂道も多く、町一の大坂『白蛇天上坂』を最大馬力で気持ち良く疾走した。国道の舗装道路も郵便局と同様にかなり傷んでいる為に、時々振動が体中を若干刺激する――。ちなみに今現在走っている国道――実は両親が事故に遭った道路である。

三十分近く走行していると、第一の目的地に到着した。僕は住所をしかと確認してから、その古民家の門前にある木製のポストにA4サイズの封筒を入れた。そして急ぎめでバイクを運転した。所々蛇行の激しい国道を注意深く、しかし徐行とまで言わず、来た道を戻るようにして、白蛇地区に突入した。途中で白い糸のようなのをタイヤで潰してしまったが、しかしその時、僕は何も臆することはなかった。

続いて二軒目の町外れの住宅に到着。家主に軽く挨拶してA4サイズの封筒を手渡す。続いて三軒目の真新しい住宅に到着。古風な感じの赤い郵便受けに白い便箋を挿入する。続いて四軒目の平屋建て家屋に到着。ガラス張りのフードドアを開けて葉書を床に置く。続いて五軒目の二階アパートに到着。二〇五号と記された白銀のポストに手紙を入れる。続いて六軒目の小会社の一角に到着。鐘を『ピンポン』と鳴らし書留署名をしてもらう。続いて七軒目の大企業の本元に到着。可憐な庭を眺めながら、手紙をポストに挿入する。続いて八軒目の小高い丘上家に到着。白蛇町の景色を見た後、銀ポストに封書を入れる。

続いて九軒目……といきたいところだが、最後に手に取った白い封筒には『畑田蜜様』と書かれてあった為、僕は一旦郵便局に戻ってから昼食をとることにした。

僕は今現在まで走行してきた国道を途中で右折し、片側一車線で舗装の傷んだ県道に入る。それから数十分後『白蛇元町一丁目』という看板標識を掲げたT字交差点を左折する。ちなみに先程走行していた道路は二百年前から残存しており、道路脇に建立された老舗大福店とその『白大福』の立て看は、人々を感慨深く思わせる。かつて僕が高校生だった頃にも、幾度かこの通りの周辺部を訪れた機会もあり、それ故に歴史や風情をより一層感じてしまうばかりである。

続いて『白蛇新町九丁目』を右折する。ここも県道と同様に古くから存在する道である為に、たくさんの老舗和菓子店や旧村役場、宿場、記念碑などがある。ここ周辺ときたら、やはり名物品の『紅白饅頭』が有名で、面白い形をしていながらも、味の方も絶品である。昔に幼馴染の畑田蜜とここら辺に遊びに誘ったことがあり、その時に僕と彼女はそれを召し上がったが、しかし残念なが畑田蜜はその饅頭を好まなかった。

色々と思い出深い道々を走り抜け、そしていよいよ数キロ先が白蛇郵便局である。

しかし僕はここで、ある違和感を同時に覚えたのである。先程から、特に国道を曲折したあたりから、自身の操縦している郵便専用バイクの加速が悪く感じるのだ。つまり例の国道を外れて以来、何かがおかしくなっていた。また、親父(おやじ)のクソ屁こきのように排気マフラーが音を上げているし、その上ガスが(アンモニア程ではないが)非常に臭く感じる。

確かあの国道は、僕の愛しかった両親が不慮の事故によって命を落とした道である。しかもそれだけではなく、約二百年前に白蛇が祀られている社へと繋がる道だと、町では伝承されているのである。もしやすると、何か霊に取り憑かれてしまったのだろうかと、僕はそう考えた。正直恐怖である。

郵便配達の命でさえあるバイクがこうなってしまった以上、当然ながら故障二輪車として近接都会の修理業者に出さなければならないのは明らかだ。だからとりあえず、()く疾くと僕は法定速度を厳守しつつ、それを可能な限り早めに走らせた。そして白蛇郵便局への逸早い帰還を試みた。


それから白蛇郵便局に到着した僕は、乗っていたバイクを予め指定された場所に停めて平生通りに「お疲れ様です」と挨拶をしてから局内に入った。そこにいた職員たちは明るめな挨拶を僕に返す。本日は前述した通り『白蛇郵便局百周年記念日』である。その為か、全員がお祝いムードと化しており、何処か浮ついた雰囲気を醸し出している。

するとここで、前島局長から職務命令が下る。前島局長とは、この白蛇郵便局における最高司令官兼取締役であり、また、僕の親戚に当たる方である。僕との昔ながらの知り合いということもあって、今は亡き僕の父親と前島局長、それに僕は年に数回程、自宅で顔を合わせている次第である。

「えーっと、本日は皆さん知っての通り、百周年記念日です。本当であれば休業としたかったのですが、しかし残念ながらこの田舎町には郵便局はここしかないので、急遽本日も勤務していただいた次第です。ですが、流石に午後は遊休時間にしたいと思いますので、正午からは帰宅して下さい。異常――以上」

局長はそう指示すると、古びた机上に異常に数枚の書類を置いた。続け様に彼は、人より少し長めの白髪をたくし上げ、何かを検討するかのような真剣な目付きをし始め、眉間にしわをよせながら、何かを思慮していた。

僕はこの時、一瞬ばかり今朝のあの白い麻糸を不意に思い出したのである。

何だったんだろうか? あの白い物体は? 何か嫌な予感がする……。


次回 衝撃第五話最終回

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