第9話 温泉?の奥にいたもの
僕は、インベントリに空きをつくり、そこにあった大きな鉄鉱石を回収した。
<鉄鉱石×50を獲得しました>
大きさの通り、量もすごかった。
そしてそれだけではない。
岩の下には、なにかの巻物があった。
なんだろう?
回収。
<インベントリ増加5枠の巻物27>
あららま。インベントリ増加の巻物だった。
前に町で買ったことがある。
これを使うと、インベントリの最大容量が増えるのだ。
回収したと同時に即座に使用。
[Before]
インベントリ(25/25):(略)、インベントリ増加5枠の巻物27
<インベントリ増加5枠の巻物27を使用しました>
<同アイテムは2回以上使えないので注意してください>
[After]
インベントリ(24/30):(略)
うむ。インベントリ内容の増加に成功した。
やったね。
あと、落ちていたものとしては亀の甲羅とか。
なぜか大量に落ちていた。
<亀の甲羅×38を獲得しました>
これを使ってできるものでは、たしかこれがあったはずだ。
・スライムジェル+キノコ+亀の甲羅→防御上昇ポーション
後でぜひ作ろう。
金色のびろびろとしたジェルも拾った。
<ゴールデンスライムジェルを獲得しました>
スライムジェルの一種のようだ。
めちゃくちゃに輝いている。
もしかすると、かなり高ランクのスライムの素材かもしれない。
これを使ってできる物。錬金判明をためしてみたがうまく見つけられなかった。
しかし、これがすごいものと結びつきそうな気がする。
大切に保管しておこう。
ちなみに、ここを進む間にも魚はいっぱい出てきた。
どこから湧いて出てきたのかいっぱいいるし。
でも僕の炎化で普通に倒せているけど。みんな弱い。
そうして僕は、このホット温泉の奥深くへ進んでいった。
この間にも、水順応ポーションを結構飲んでいる。
結構な消費量だ。いずれは無くなってしまうだろう。
まあ無くなっても作れるし問題ないけど。
そんな感じで、温泉の下の方に来ている。
しかし、案外水圧の影響が無視できないようで。
さっきから、魚からダメージを受けるようになってきた。
ほんのわずかに痛い。
一応炎化はしているから、魚はすぐ消滅してくれるけど。
こっちのHPもちょっとずつ減っているのだ。
まあ、即席でHPポーションLv3(全回復相当)を作って飲めば余裕で大丈夫なんだけどね。
HPポーションとかの即効性ポーションは、飲んで効果を発揮させちゃうと1分間飲めないけど。
ま、余裕ですわあ。
そうこうしている間にも、最下層へたどり着いたようだ。
そこには巨大な水竜がいた。
蛇に近く、巨大で恐ろしい体つき。
高等生物である証明の、濃い藍色の体。
近づくものを恐怖に陥れそうな、その見た目。
畏怖の念さえを感じさせる。
『ちわっす』
そして、この挨拶。
どことなく庶民派をアピールする、この声。
って、雰囲気ぶち壊しなんですが……
いいのか、これ。
––水順応Lv3の効果が切れました––
ログ君も空気を読んでほしいなあー。
ここは神聖な場所なんだろうし。
僕は水順応ポーションLv3を追加で飲みながら、挨拶に応えた。
「やあ」
『なにか用かい』
10年間寄り添った兄弟みたいなその口調。
えーと、どうしようか?
とりあえず名前を聞こうか。
「あなたは誰でしょうか」
『えー? 僕の名前を忘れちゃったのかい? 僕はリヴァイアサンね。一応伝説の水竜ってことになっているよ』
「おー」
竜かあ。
リヴァイアサンね。
ああ、あの伝説の。
なんか疲れてツッコミが思いつかない。
水圧のせいかな?
僕はすべてを水圧のせいにする。
あと思ったこと。
リヴァイアサンさんって言うのは面倒だし、もうリヴァイアさんって呼んでいいよね。
「僕はスカイです。よろしくお願いします、リヴァイアさん」
『うむ、よろしくね。スカイ君』
リヴァイアさんって呼んでもとくに突っ込まれないし、これでいいか。
そういえば、エリクサーの原料にはドラゴンの血がいるんだっけ。
過去に見たビジョン。そこで登場したポーション。
擬人化ポーションとか。
エリクサーは、そのポーションに必要なものだ。
というわけで僕はドラゴンの血を頼む。ダメ元で。
リヴァイアさんに。
「ドラゴンさんの血をください」
『君はドラゴンの血でなにをしたいの?』
断られるか。まあ仕方ないか……って、断られていない。
これはどうなるのだろうか? とりあえず応答に答える。
「エリクサーが欲しいです」
『それで?』
「擬人化ポーションとかを作りたいです」
『ふむふむ』
「どうでしょうか……」
これはどうだろうか?
血はもらえるかな?
『じゃあ、血をあげよう。
その代わり、擬人化ポーションなるものをくれ。
もし作れなくてもかまないから』
え? いいの?
「めっちゃ僕に甘くないですか!?」
『擬人化ポーションというものに興味がある。
僕はただ、それが欲しいだけだ。誤解するなよ』
「では血をください」
『待て、そう急ぐな。今取ってくるぞ』
そう言うと、リヴァイアさんは一気にこの温泉を駆け上がっていった。
僕が通った道を逆に進んで、だ。
『では1日くらいで戻ってくる。留守番を頼むぞ』
「リヴァイアさんから採血するわけじゃないの!?」
『なに禍々(まがまが)しいことを言っているんだい? 僕は天空の竜とかをひっとらえてくるだけだよ?』
まじすか。
「そんなことできるの!?」
『じゃあ留守番頼むぞ』
僕が驚いている間にも、リヴァイアさんは行ってしまった。
そして留守番を頼まれちゃった。
……
僕は留守番と称し、この最下層をいろいろと探索しようとした。
リヴァイアさんの住処はたぶんこの最下層全体だと思ったからだ。
しかし、生活用品と思われるものは全く見られなかった。謎。
つまり、この最下層でやることはあまりなかったわけだ。
そこで、有り余った時間にて。
僕は錬金をとにかく行っていた。
レベル上げのためである。
周りの魚からダメージを受けなくするために、レベルを上げて防御力を増やしたいのだ。
そのために、まずレッドスライムジェルを回収しまくる。
<レッドスライムジェル×99を獲得しました>
<レッドスライムジェル×99を獲得しました>
<レッドスライムジェル×99を獲得しました>
<レッドスライムジェル×99を獲得しました>
<レッドスライムジェル×99を獲得しました>
<レッドスライムジェル×99を獲得しました>
……
<インベントリがいっぱいです>
そして、インベントリからあふれ出させる。
この温泉に落とす。
<インベントリがいっぱいです>
<インベントリがいっぱいです>
……
水中のレッドスライムジェルは、水圧によってコンパクトになっていった。
よって、思ったよりたくさんのレッドスライムジェルを放流できた。
相変わらず、周りには例の魚がいっぱいいる。
しかし、水中にあるレッドスライムジェルには興味を示さなかったようだ。
素材のレッドスライムジェルを食べられる、という心配はないようだ。安心。
そんな感じで、僕はそんな感じにしてレッドスライムジェルを放流している。
僕がやりたいことはレベル上げだ。もちろん、ポーションを使ったもの。
高レベルポーションをつくり、飲む。飲んでレベルを上げる。
いつぞやの常時錬金を使ってである。
つまり、
体のレッドスライムジェルから、HPポーションLv3を錬金。
そこからHPポーションLv4を錬金……
そんな感じでHPポーションLv10を作ると、1秒に1.5個くらいのペースでつくれるはず。
それを実行した。
<常時錬金を開始します>
<錬金成功。HPポーションLv10(-2)を獲得しました>
HPポーションLv10(-2):HPを600回復する。
HPポーションLv10:HPを1,000回復する。(HPポーションLv10(-2)からの推測)
よし。ポーションができた。
飲もう。
<レベルが3から4に上がりました>
HP:73/77→77/77(ポーションの効果)
HP:78/78→78/78(レベルアップの成長)
<即効性ポーションを1分間使えなくなりました>
おっと。レベルがけっこう上がったのはいいが。
今飲んだポーションの本来の用途である、「HPを回復する」を満たしちゃった。
よって、即効性ポーション全体を1分間飲めなくなった。
つまり、HPポーションが飲めない。
しかし、HPポーションLv10は1秒1個以上のペースで手に入る。
<錬金成功。HPポーションLv10を獲得しました>
<錬金成功。HPポーションLv10(-2)を獲得しました>
<錬金成功。HPポーションLv10を獲得しました>
……
じゃあどうするか。
HPポーションのレベルを上げて、生産頻度を減らそう。
レベルが1つ高いHPポーションを作ると、作れる頻度は4分の1になる。
ポーションを錬金すると1つレベルの高いポーションができる。
ここでの錬金では、2つのポーションを同時に錬金する。
さらに、成功確率は半分くらい。
ポーションの作れる頻度は4分の1となる。
これまでも幾度か考えてきた定理だ。
ポーションを飲めるのは1分に1回となった。
また、HPポーションLv10は毎秒1.5個のペースで作れる。
ポーションのレベルを3つ上げると、ペースは64分の1になる。
よって、HPポーションLv13は毎分1.4個くらいのペースで作れる計算になる。
これはポーションが飲める頻度と照らし合わせても丁度よい。
じゃあこれを作っていこう。
常時錬金の内容変更。
錬金のゴールをHPポーションLv13に変更。
<変更は受理されました>
うむ。
そうして、僕が待つことちょうど1分くらい。
……冗談。40秒くらい。
<錬金成功。HPポーションLv13を獲得しました>
<ジョブレベルが40から43に上がりました>
おお。ジョブレベルが結構上がった。
昔はスライムジェルのランクが低く、今ほど高レベルのポーションが作れなかった。
しかし、今は作れる。それがジョブレベルを上げやすくした要因だと思う。
手に入ったポーションの効果はこれだ。
HPポーションLv13:HPを4,000回復する。
Lv10の場合は『HPを1,000回復する』だった。
でも、Lv13は『HPを4,000回復する』となっている。
増加関数がすごい気がする。
インフレ感やばい。
まあ、それは置いておいて。
HPポーションLv13、いただきます。
どれくらいレベルが上がるかな?
<即効性ポーションはあと8秒間使えません>
あっ。
まだポーションの使用制限が切れていなかった。
僕は8秒間、きっちりと待った。
そして、時は訪れた。
<即効性ポーションの使用制限が切れました>
では、今度こそ。
HPポーションLv13をいただきます。
<レベルが4から7に上がりました>
おー!
レベルが3つも上がった。
いい上がりっぷりだ。
HP:75/78→78/78(ポーションの効果)
HP:78/78→82/82(レベルアップの成長)
<即効性ポーションを1分間使えなくなりました>
またもやHPは回復していたため、ポーション封印。残念。
でもこんな感じでやっていけば、レベルは上がっていくだろう。
<錬金成功。HPポーションLv13(+1)を獲得しました>
<ジョブレベルが43から45に上がりました>
そして、またしばらく待っているとポーションができた。
即効性ポーションの使用制限が切れたことを確認し、ポーションを飲む。
<レベルが7から10に上がりました>
よし。またもや結構上がった。
その後。
<錬金成功。HPポーションLv13(-1)を獲得しました>
<ジョブレベルが45から47に上がりました>
飲む。
<レベルが10から12に上がりました>
<即効性ポーションを1分間使えなくなりました>
<錬金成功。HPポーションLv13(-1)を獲得しました>
<ジョブレベルが47から49に上がりました>
飲んだ。
<レベルが12から14に上がりました>
<即効性ポーションを1分間使えなくなりました>
<錬金成功。HPポーションLv13(-1)を獲得しました>
<ジョブレベルが49から51に上がりました>
ごくり。
<レベルが14から16に上がりました>
<即効性ポーションを1分間使えなくなりました>
……
……
僕はこのレベル上げを何時間も続けた。
10時間くらいは行ったと思う。
時間の都合上ログアウトとログインは挟んだが。
それでもずいぶんとレベル上げをしたなあと思う。
僕の目の前に見えるのは、大量にまき散らかされた赤い粘液。レッドスライムジェルだ。
供給過剰となってまき散らかされたHPポーションLv13も見える。
ポーションの使用制限は1分だが、HPポーションは2分に3個くらいのペースで生産されているのだ。
徐々に供給と消費のバランスが崩れてきて、もはやHPポーションLv13すらも溢れてきた。
色々と溢れてきたので、スライムジェルの生産を停止。
HPポーションもLv13でなくLv16を作るようにした。
これでHPポーションLv13の体積は64分の1くらいになり、HPポーションLv16となるはずだ。
<錬金成功×80。HPポーションLv16(-2)×12,…を獲得しました>
<ジョブレベルが341から342に上がりました>
前にあったHPポーションLv13はすべてHPポーションLv16になった。
溢れていたHPポーションLv13はなくなり、スッキリ。
しかしレッドスライムジェルは相変わらずごちゃごちゃ。
レッドスライムジェルには常時錬金をしておく。
俊速で作られていくポーション。
しかし全く減らないレッドスライムジェル。
まあ、じっくり減らしていこう。
とりあえず出来たHPポーションLv16を全部飲む。ごくり。
諸都合によりダメージを受けないので、HPポーションを飲んでもHPは回復しない。
よって、ポーションの使用制限はかからない。
<レベルが250から262に上がりました>
ここまで触れていなかったけど。
長いレベル上げのおかげで。
ジョブレベルと身体のレベルが物凄いことになっちゃった。
10時間、ずっとポーションを飲むお仕事をしたからだ。
1分あたり1本ポーションを飲んでレベルが上がったりする、そんな仕事。
そんなポーションを600分ずっと飲んだ。つまり600本も飲んじゃった。
ジョブレベルは342。
レベルアップにより、同時に錬金できる素材の数が19個になった。
残念ながら需要はないが。
あとでジョブスキルも確認しておきたい。
身体のレベルは262。
この温泉の洞窟に来たころはレベル4くらいだった気がする。上がり方が異常。
こんな高レベルだから、当然のように魚からのダメージはもう受けない。
というか、僕が強くなったことを悟ったのか、魚たちはもう近づいてこない。寂しい。
さっきポーションを飲む際に「諸都合によりダメージを受けない」といったのはこのことだ。
あと、水順応ポーションがなくても体が耐えられるようになった。
レベル上昇のちからってすげー。
呼吸はほぼしなくても生きられるようだ。なぜしなくていいのかはよく分からないが、たぶんレベル上昇の影響だろう。
あと、イエロースライムへの進化がLv30からだったから、もう進化できるだろう。
まあその機会はまだ取っておこう。
イエロースライムということは、この赤色の体が黄色になるということだ。
それがきっかけで、リヴァイアさんが僕を僕と見分けられなくなっても困るし。
ステータスも見てみよう。
―――ステータスウィンドウ―――
スカイ:Lv3→Lv262 ジョブ:錬金Lv40→Lv342 年齢:0 所持金:394C
種族:レッドスライム(イエロースライムに進化可能)
ステータス:
HP:77/77→403/403
MP:16/25→81/90
攻撃:59→319
防御:56→310
俊敏:58→315
器用:353→2,189
(一部略)
レッドスライム:モンスターランクD
(一部略)
戦闘などで経験値が入り、Lv30でイエロースライムに進化できる。
―――――――――――――
今どきのレッドスライムって怖いなあ。(ひとごと)
たしか、β版のトッププレイヤーの人でもこんなステータスを持っている人はいなかったはず。
ステータスの値一つが200を超えることはあったけど、300を超えることはなかっただろう。
あと、生産職だから器用値もうなぎのぼりに増えている。
ただ、今考えてみるとこの値が錬金に影響したことはなかったような……
まあここまでの上昇量だし、少なからず錬金にも影響をしていると信じたい。
そんな感じに錬金をしていた、その時。
温泉の上流あたりから大きな渦ができてきた。
なんだこれ?
あっ。この水の流れの強さ。
もしかすると。
リヴァイアさんが帰ってきたんだ。
ついにドラゴンの血が届いたのだろう!
ドラゴンの血からエリクサー作って、そこから擬人化ポーションとか作って……
ってちょっと待って。
レッドスライムジェルの錬金が終わっていない!
めっちゃまき散らされているし、片付けの必要があるだろう。
でもインベントリはいっぱいだし。錬金は終了しないし。
どうしよ、どうしよう、どうしようか?
そんなことを考えている間にも、リヴァイアさんは戻ってきちゃった。
『ただいま……それって何かい?』
「おかえりリヴァイアさん……これはポーションの素材なんだけど、自分の体から採りすぎちゃって、そんでもって……」
『赤いゼリーが多すぎて掃除が大変そうだよ……』
ごめんなさーい。
でもドラゴンの血は手に入ったかな?
◇主人公のステータス(現在)
―――ステータスウィンドウ―――
スカイ:Lv3→Lv262 ジョブ:錬金Lv40→Lv342 年齢:0 所持金:394C
種族:レッドスライム(イエロースライムに進化可能)
ステータス:
HP:77/77→403/403
MP:16/25→81/90
攻撃:59→319
防御:56→310
俊敏:58→315
器用:353→2,189
魔法:
酸弾(MP1):酸性のスライムジェルを飛ばす。種族固有スキル。
炎化(MP0):体に炎をまとう。相手が触れるとダメージを与えられる。
スキル:水魔法Lv1・風魔法Lv1・火魔法Lv1
ジョブスキル:成功上昇(3P)・補正上昇(2P)・錬金瞑想(10P)・錬金予想(10P)・錬金判明(20P)・常時錬金(40P)
インベントリ(28/30):
・初心者用錬金台 耐久∞
・地図
・鉄の延べ棒×2
・キノコ×99
・キノコ×76
・光るキノコ×74
・火属性ポーション[1分]Lv3×3
・攻撃上昇ポーション[1分]Lv3
・跳躍ポーション[1分]Lv3
・最大HP上昇ポーション[1分]Lv3×2
・最大MP上昇ポーション[1分]Lv3(補正略)×4 3枠
・水順応ポーション[1分]Lv3(補正略)×6 5枠
・湖の水×98
・塩×98
・魚の骨×99
・魚の骨×86
・魚の白身×44
・鉄鉱石×50
・亀の甲羅×38
・ゴールデンスライムジェル
レッドスライム:モンスターランクD
ドロップアイテム……「レッドスライムジェル」「魔石・赤」
草原(やや強い)にいるモンスター。赤色。
火魔法を覚え、少し強くなったスライム。体に火をまとわせられる。
火にはちょっと強くなったが、代わりに水にちょっと弱くなった。
相変わらず核への攻撃には弱い。
戦闘などで経験値が入り、Lv30でイエロースライムに進化できる。
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