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異世界に飛ばされた俺は、ゴリゴリの復讐者となって世界を敵に回す  作者: 振木岳人
◆死剣フラーブロスチと聖剣ヴェール・ヘルック
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ブリキの兵隊


「……シューヤ、シューヤ、シューヤ!」


 肩を激しく揺らしながら、エルフのシルフィアが全力で駆けて来る。


 リジャの難民たちに対して、私も耐えるから皆も耐えよと、エマニュエルが精一杯の演説をしている際に起きた爆発。

駆逐艦エルドリッジを挟んで位置していたエマニュエルたちには、それほど大きな音ではなかったのだが、シルフィアの長い耳だけは反応した。

 サラサラの濃い金髪の脇からツンと飛び出た長い耳が、漆原の悶絶する声と爆発、さらには爆風で吹っ飛ばされたのか修哉の「ぎゅう!」と言う曇った悲鳴をすくい上げたのだ。


 エマニュエルに耳打ちして異変を知らせながらも、「あなたは毅然としたまま、人々の心に訴えなさい」と釘を刺し、急ぎ修哉の元へと駆け付けたのだが、そこにはシルフィアの理解を超える光景が広がっていた。



「シュ、シューヤ!?それにウルシバラ……?き、貴様はまさか!」


 全身血だらけのまましゃがみ込み、岩にもたれてぐったりとする修哉。その先には大の字になって沈む漆原がいるのだが、シルフィアが見慣れていない人物が、更に二名そこにいたのである。


 漆原の隣には腕を血だらけにした女性が横になり目を瞑っている。失血で気絶しているのか、腕にある無数の傷は見ている側が総毛立つほどに痛々しい。

そして、横たわる漆原と女性の間に入り、双方に手をかざしている女性、この女性の姿にシルフィアは一番驚いたのである。


「黒い制服……!?貴様、貴様もしかしてシーニィ・メーチか!」


話に聞いていたクラースモルデン共和国の思想警察、その凶悪なエリート集団のエージェントが一人、今シルフィアの目の前にいるのだ。


「シーニィ・メーチ!貴様ら、貴様らのせいでっ!」


 シルフィアが腰のナイフに手を伸ばし、黒服に向かってむせ返る様な殺意を飛ばす。


 アンカルロッテの森、自分の故郷であるウルリーカ族のテリトリーに忍び込んだ袴田哲臣たちに、何人もの仲間が無惨にも焼かれ殺されている。シルフィアがその制服の深く黒い色に、極めて激しい憎悪を抱いても、誰がそれを咎めようか。


 だが意外にも、別の意味を持ってシルフィアの怒りを鎮めようとした者がいる。


「ま、まてシルフィア……今はよせ」


岩にもたれたまま、気を失っていると思われた修哉だ。


「シューヤ、待てとはどう言う事なんだ?君だって、君だってそんな姿で……」


「……アレスターの隣で横になっている女性はジャンパー、アレスターのパートナーで、あの黒服は二人の協力者なんだ」



 --今は敵じゃない--


 顔はパンパンに腫れ上がり、全身至るところから血を流し、自分で起き上がる事も出来ない修哉からそう言われても、さすがのシルフィアも混乱しきり。


 しかし彼女の混乱に気付いた修哉は、あの二人は大丈夫だから俺に回復魔法をかけてくれないかと、口元に精一杯の笑みを作りつつ、精霊回復魔法をシルフィアにねだった。


「こんな姿……、エマニュエルが見たら、また怒るじゃないの」


 とりあえずは修哉の言う通りにと、母なる大地の精霊ノーミードに祈りを捧げ始めるシルフィア。その時に修哉が事の詳細を教えてくれたのだ。



 --アレスターこと漆原は、イエミエソネヴァとの間で一つの契約を結んでいた。精神を病んだジャンパーの治療と引き換えに自爆の呪符を体内に植え付けられ、修哉を倒す事を強いられていたのである。

だが、連邦共和国側もどうやら一枚岩と言う訳でも無さそうで、イエミエソネヴァに面従腹背する一部の勢力があり、目の前にいるシーニィ・メーチのエージェントも、捨て石と人質にされてしまったアレスターとジャンパーの事を、大事に想う集団のメンバーなのだそうだ--




「……終わったな……」


「そうだな。……あの大歓声、エマニュエル大成功じゃないか」


 修哉の説明を聞いたシルフィアは、釈然とはしないものの一旦鉾を収めて修哉の治療に専念する。

その時、駆逐艦エルドリッジの船体を軽く飛び越えて人々の歓声が聞こえて来たのだ。


 つまりそれは、エマニュエルは人々に受け入れられたと言う事。

彼女が自分の身分を明かし、より良い未来の為に頑張るから、今をしっかり耐え忍んで欲しいと言う声が、人々の心を打ち、そして受け入れられた証拠である。



 ……女王エマニュエル万歳!……


 ……新たなリンドグレインに栄光あれ!……


 ……エマニュエル様、エマニュエル様!……



 血の繋がりは無いが、養父であったレオニード・プロニチェフ亡き後、エマニュエルに一番近かった修哉。そして王のメダルを通じて、修哉に次いで近かったシルフィア。

もちろん一人の人格であり所有物でないのは当たり前なのだが、何かエマニュエルが自分たちの庇護の範囲から卒業し、もっと多くの人々の「エマニュエル」になった事に、複雑な感情を覚える。

彼女の成長を喜びながらも、つい寂しさを感じてしまう、【晴れ晴れとした寂しさ】と言うやつだ。


 いずれにしても、もう人々の視線がある場所では、家族の様な仲睦まじい姿を見せる事は出来ない。

エマニュエルを旧リンドグレイン王国の皇女として、そして新生リンドグレイン王国が成った際の女王として、礼節をもって接さなければならない。


 大歓声は今も聞こえて来る。嬉しい、正直嬉しいのだが、人々が彼女の名前を讃えれば讃える程に、修哉の顔から表情は消えて、瞳の奥が寂寥感で水色に染まる。


「大丈夫、エマニュエルはいつまでもシューヤの事を想っているよ。だって誰にも代わる事の出来ない育ての親なんだから」


修哉の頬に軽くキスをしたシルフィア。驚く修哉に対して(挨拶みたいなものよ、他意は無いわ)と、口にはしないものの極めて普通を装いながら肩を貸して抱き起こした。



 太陽が落ちたスヴェート海は、真っ赤な空を徐々に青が混ざったオレンジ色にへと落ち着き始め、いよいよ星空の似合う夜の始めを告げている。


アレスターとジャンパーの治療を行っていたチェバロワ特務少尉もどうやら終わったのか、おもむろに立ち上がり、修哉に向き直った。


「傷は塞がった、アレスターもジャンパーも大丈夫だ。そして彼女たちはここに置いて行く、後は頼む」


「……シーニィ・メーチ、小夜の処刑を指示したお前らが……」


 今はとりあえず休戦状態であり、極めて穏やかにしてはいるものの、それでも修哉の腹の底では憎悪が渦巻いている。

アレスターとジャンパーには最大の敬意を示し、命の危険すら助けようとするのに、何故シーニィ・メーチは小夜だけは処刑したのだと、それを問わずにはいられないのだ。


「私はそれを話す立場にいない、いずれ然るべき方が話してくれるだろう。アレスターとジャンパーは救った、後は頼む」


「……それが免罪符になると思うな、次は殺す」


 馬にまたがり、立ち去ろうとするチェバロワ特務少尉背中に、修哉の言葉が突き刺さる。脅しでも駆け引きでも無い、恐ろしい予告だ。

だがチェバロワ特務少尉は修哉に振り返って一瞥するも、何も言わずにそれを受け流し、馬の腹を軽く蹴って返って行った。



 横たわる一組の男女。

愛の為に死のうとしたアレスターそして、愛の為に自分の身を捧げたジャンパー。


決してそれを理解したいとは思わないが、微かに浮かぶ二人の笑顔を見ていると、--たったこれだけの笑顔を浮かべる為に、何を大騒ぎしているんだ--と、修哉は軽く苦笑を浮かべた。



「……フラット・ライナー……いや、藤森修哉」


気を失っていたかと思った漆原の口が、修哉の名を呼んだ。


「……一つだけ聞かせてくれ。お前さんは望んでこの世界に来たのか?」


「いや、何一つ望んでいない。俺が原因らしいのだが覚えていない。腹を刺されて気がついたらここにいた」


「……そうか、なるほどな……」


 漆原には漆原なりに、この世界に飛ばされたきっかけである修哉にわだかまりを持ち、意図的なものなのか偶発的なものなのか、その真意を確かめようとしていたのだ。



 ……それにしても、この藤森修哉と言う少年……。

 周囲の人間を巻き込みながら、望んで別の世界に赴いた訳で無いのなら、何故この……見た事も聞いた事も無いこの世界で、人の為に闘い続けていられるんだ?

朱鷺子は心を病み、この俺でさえ諦めて死を受け入れようとしていたのに、コイツは何で平気な顔で闘い続けられる?



 ふと、漆原の脳裏に遥か昔に上映された映画音楽のフレーズが流れる。

B級映画マニアで、テレビが徹底的に番宣する映画以外を見続けて来た漆原。

それも男の生き様を描いた映画を好んで見て来た漆原が、作品だけでなく監督の人柄にも心酔して好んで見ていた映画のエンドロールだ。



 ゾンビで有名な故ジョージ・A・ロメロが初期に手掛けた作品で、『ザ・クレイジーズ』と言う映画がある。


 開発中の新型生物兵器「トリクシー」を空輸中に米軍が誤ってアメリカの片田舎に投下してしまい、田舎街が狂気と殺戮の地獄絵図と化す映画で、

トリクシーに罹患した住人が好戦衝動を抑えられず殺し合いを始める中、主人公は妊娠した婚約者と一部の仲間や住人を連れ、隔離された街から脱出を図るのだが……。


 この映画のラスト、トリクシーのワクチンすら開発出来ない状況の中、核爆弾を投下してクリーンアップしろとの大統領令がとうとう下り、現地で住民隔離作戦を実行していた防疫部隊の将官が召還命令を受けて、ヘリコプターに回収されるところでエンドロールが流れるのだが、

その曲と歌詞が酷く印象的であり、修哉を見上げる漆原の脳裏に浮かんだのである。



 ……「ヘブン、ヘルプ、アス」天国よ助けてくれと始まるこの曲は、映画本編を意識した残酷な歌であるのだが、

死者が溢れて人々の悲鳴すら聞こえないこの世界で、(ティンプレート・ソルジャー)ブリキの兵隊が一人、失われた目的の為に闘い続けると歌う。

そして歌い手はそのブリキの兵隊に対して、より良い世界はあなたのもの……もしあなたが朝を見付けられるならと締めくくるのだ。



 ……なるほど。藤森修哉、お前さんがブリキの兵隊か……



 漆原の曇っていた表情が晴れて行く。それは修哉を認めた証でもあるのだが、そこはそれ。へそ曲がりの自称ハードボイルドが握手など求める訳が無い。


「感謝すると言いたいところだが、いかんせん俺はお前さんの事が嫌いなんだよ、修哉」


「心配するな、俺もあんたのその中途半端なアフロヘアーは嫌いだ」


「ぷっ、あはは!くはぁ!痛ててて……」


 修哉の一言に釣られて笑い出すも、塞がれたばかりの腹の傷が神経に障るのか、笑いながら痛みで悲鳴を上げる漆原。

修哉の名前を盛大に連呼しながら遠くから駆けて来るエマニュエルの姿を見て、暗くなって来たから足元に気を付けろと、修哉は身を翻して逆にエマニュエルを迎えに行く。


 その際、漆原と一瞬目を合わせたのだが、修哉の表情はまんざらでも無い、清々しい表情だったと言う。



 ◆死剣フラーブロスチと聖剣ヴェール・ヘルック

 

 終わり



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