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異世界に飛ばされた俺は、ゴリゴリの復讐者となって世界を敵に回す  作者: 振木岳人
◆死剣フラーブロスチと聖剣ヴェール・ヘルック
42/61

「凛として清楚」


 藤森修哉は認識した。エマニュエル・ハンナエルケ・リンドグレインは、本人が望むと望まないと高みに登らざるを得ない人物なのだと。


 藤森修哉は再確認した。エマニュエルが進む道には彼女を阻む障害しか無く、決してそれは平坦な道では無い事を。


 そして藤森修哉はあらためて覚悟した。レオニード・プロニチェフと約束した以上、血ヘドを吐こうがボロ切れになろうが、彼女に降りかかる一切の不幸を排除して、彼女に幸福な日々が訪れるまで闘い続けようと。



 海運都市サレハルート郊外での激闘を終え、満身創痍のまま、ここアンカルロッテの森の南西端にある難民キャンプにたどり着いた修哉は、エルフのシルフィア・マリニンが駆使する精霊回復魔法により、何とか傷口を塞いだものの

、当たり前の話大量に流れた血が元に戻る訳は無く、しばしの療養を兼ねてこの地に留まっていた。そしてその際に、修哉が不在の間に起きた出来事をエマニュエルの口から聞いたのである。


「シューヤごめんなさい、王国に仕えていた人に気付かれてしまったの。私も嘘つきたくなかったから、本当の事を話してしまったの」


涙ぐみながらそう話してくれたエマニュエルを、修哉は怒らずに髪を撫でてやる。


「気に病むなエマニュエル、別に怒ってないから。その嘘をつきたくなかったと言う気持ち、いつまでも大事にするんだ」


 難民キャンプに初めて足を踏み入れる際、名前や母の面影を見て、ピンと来る者がいるかも知れないから、なるべくバレない様に大人しくしているんだと、修哉に言われていたエマニュエル。

烈火の如く怒られると思っていたのに、逆に褒められてしまい、二へへと笑顔を作るも居心地は悪そうだ。

 だが、丸太に座った修哉の隣に座り、今日は良い天気になったねと、ぴったりと寄り添うエマニュエルのその横顔が、やけに大人びて見えた事で修哉は決めた。


 穏やかな環境の中で、年頃の少女らしい生活を送らせると言う自分の想いが、もはや押し付けに変わって来ている事に気付き、そしてエマニュエルの進む道には「最後のリンドグレイン」と言う言葉がどうしてもつきまとうと悟ったのだ。

だから修哉は決めた。彼女は皇女エマニュエルとして民衆の頂きに立ち、慈悲の手を差し伸べるべくして生まれて来た存在ならば、彼女が彼女として立つ場所を作ろうと……。



 独裁者ユゼフ・ヴィシンスキイと闇の魔導師イエミエソネヴァこと「魔人安倍晴明」を倒し、クラースモルデン連邦共和国を歴史上過去に存在した国として葬り去るとして、では次に来る新しい国家とは何か……。

それを意図的にイメージしては来なかったが、これではっきりしたのである。「リンドグレイン王朝の復活を目指す」と。


 道筋は決まった。戦略と戦術の言葉の意味合いの違いの様に、到達点は決まった。後はそのゴールに向かってどう言う手段で道を進むかだ。

 労働者の楽園、平和国家、千年国家とうそぶきながら労働貴族が搾取を繰り返し、人を人とも思わずに粛清や強制収容所で虐待を繰り返す暗黒国家に対してアンチテーゼをぶつけるのであれば、それはさほど難しい話ではない。

「悪しき思想国家に虐げられた人民を救う」と宣言すれば良いのだ。そうして掲げた旗の元に、力を結集させれば良いのである。


 だが、ここで修哉は躊躇する。「年端もいかない八歳の幼女を、旗頭に据えて良いのか」と。そして「幼い子供が理想を述べて、どれだけの人間が付き従うのか」と。

つまり時期的なタイミングで悩み始めていたのである。いずれにしても、大陸一の軍事国家と雌雄を決するには、呆れて笑い出してしまう程に戦力が足りない。



 ある日の深夜、エマニュエルが安らかな眠りの世界に誘われて、天使の寝顔で寝息を立てている頃。

難民キャンプとは距離をとり、アンカルロッテの森の中に建てた小屋。エマニュエルの為に建てた力技のログハウスの居間に、何かを申し合わせていたのか、シルフィア・マリニンと莉琉昇太郎が訪れる。

 もちろんシルフィアも莉琉昇太郎も昼の間に修哉に声を掛けられ、ひっそりとこの時間に現れたのだが、理由はまるで分かっていない。


「……夜遅くに悪いな……」


 隣室のエマニュエルに配慮し、小声で二人を招き入れる修哉。

シルフィアは自分だけではなく莉琉昇太郎も呼ばれている事がちょっと不満なのか、ごく個人的な理由で不機嫌そう。莉琉昇太郎は「良いよ……修哉きゅん。莉琉を抱き枕にしたかったんでしょ?」と迫り、さっそくメガトンげんこつを頭に受けている。


「夜分に呼び出して悪かった。これから今後について話すから聞いてくれ」


 暖炉の前に置かれた、手作りのテーブルを三人で囲み、修哉は真剣な表情で語り出した。



 ……背負った運命を捨てて、何処にでもいる一人の女性として生きていくか。それとも背負った運命を受け入れて、王国の旗を掲げて親の仇を討つか。明日の朝エマニュエルに最終確認を取る。もちろん、どちらを選んだとしても俺は彼女を命ある限り守り抜く……



「シューヤ、エマニュエルはまだ八歳だぞ?その選択をさせるには早くないのか?」


修哉が切り出した内容に驚きながらも、確認の意味合いで質問したシルフィア。それはつまりシルフィアも答えにはたどり着いてはいないものの、エマニュエルの今後について考えていたのである。


「八歳なら選択させるべきだ。女王の道を歩むなら、君臨者としての救育を受けねばならないし既に遅い。一般人として生きるなら、今のこの環境は彼女に酷過ぎる」


莉琉昇太郎はなるほどなるほどとうなづきながら、ハッ!と何かに気付いて修哉を艶っぽく見詰める。


「修哉きゅん流石ね。その話がしたくて呼んだ訳じゃ無くて、エマちゃんとの今後について話したかったんでしょ?」


それが正解とも不正解とも答えずに、ニヤリと口角を上げながら、修哉は再び語り出した。



 ……エマニュエルが決断したそのどちらにも、俺は先を見越したプランを立てておくべきだと思うし、シルフィアにも昇太郎にも協力して貰いたい。まず、エマニュエルが一般人としての生活を選んだ場合……



 修哉が考えたプランとはこうだ。

エマニュエルが一般人として生きて行くと決めたなら、クラースモルデン共和国にとどまるどころか、このエルゲンプレクト大陸から脱出して新天地を目指す。

 アンカルロッテの森を北上して、人間のいない亜人種の世界に行く選択肢や、この大陸の南端から東方にある他諸国に行く案もあるが、亜人種の中に彼女が一人入れば孤独でまいってしまうであろうし、大陸内の他国に腰を据えても、クラースモルデンからの暗殺者がやって来る恐れがある。

 だから綺麗サッパリと未練を捨てて、新たな世界を目指すと言うもの。この場合はシルフィア・マリニンとは別れる事になり、莉琉昇太郎はリジャの街の市民を、責任持って生活を支えるべきであり、二人とはここで別れる事になると告げる。


 そして、エマニュエルが女王としてリンドグレイン王国の復興を目指すと決めるなら、先ずは彼女がリンドグレイン王族の正統なる血統である事を内外に証明する為に、リィリィルゥルゥにいるハイエルフ、ララ・レリアの元に赴いて、二本の聖剣を手に入れる。

 もちろんそれは彼女の出自の為に用意するだけで、それを持って闘えと言う訳ではない。クラースモルデン連邦共和国と事を構えるにはあまりにも時期尚早である事から、十年二十年の歳月を準備に充てて反乱軍を組織する。


 そうなった際に、シルフィアと昇太郎にやって貰いたい事があると、修哉は身を乗り出しながら説明を始める。


「シルフィアは直ぐに自分の村に帰り、君の祖母である族長、ユリアナ・マリニンを通じて、エルフの種族全てがエマニュエルの後見人になって貰えるかどうか、働きかけをして貰いたい」


「なるほど、我らウルリーカ族だけでなく、全てのエルフが新生リンドグレイン王国誕生を後押しする。……悪い話じゃないな」


「そしてシルフィア、話が終わってここに帰って来る際は、一番上等な服を着て御付きの者を従えて来るんだ。新生リンドグレインにとっては、君がエルフ代表なんだ」


 その言葉を聞いた途端シルフィアの頬が自然と紅潮し、瞳が自然に潤む。嬉しいのだ、修哉に自分が認められた事、それを実感出来る事が嬉しくて打ち震えているのだ。


「ま、任せてくれシューヤ……期待に応えよう。き……吉報を待っていてくれ」


 涙が溢れるのを我慢するシルフィアを横目に、莉琉昇太郎は目を輝かせながら修哉の計画に想いを馳せている。


 多分修哉は、エマニュエルが一般人を選ぶ事はあり得ないと判断しているはず。何故ならば彼女の資質と気質が、王家を継ぐ者として申し分の無いものを持っているからだ。そしてそれは、修哉だけでは無く自分自身もこの目で確認した。

 難民の為にと、それこそ昼夜を問わずに炊き出しの炊事やゴミ片付け、衣類の洗濯や水汲みなどの雑務を、エマニュエルは誰に言われたでも無く、率先して行動し大人のお手伝いをして来た。彼女の荒れた手に出来た、無数のあか切れを見れば一目瞭然である。

 それはつまり高貴な者ほど持たねばならぬ「慈悲の心」を、誰に教わった訳でなく持ち合わせている証拠であり、尚且つ彼女の立ち振る舞いが、人に媚びる訳でも無く、さりとて鼻高々で嫌味に感じる事も無い、「凛として清楚」……良君として世界に君臨する為に産まれて来た者そのものなのである。


「昇太郎、おい昇太郎……聞いてるのか?」


「あ、ごめんごめん。あまりにも修哉きゅんの顔が凛々しいからつい見とれてた、てへ」


「まったく……。それで昇太郎、お前にやって貰いたい事がある。ララ・レリアを説得してお前がリィリィルゥルゥに入れる様にしておくから、運んで来て欲しいんだ」


「うん?運んで来る、何をかな?」


「あそこは次元の狭間でな、この世界の見えない力に引き寄せられた、第二次大戦当時の兵器がゴロゴロ眠っている。苔むしているが状態は良好だ」


「ええっ、第二次大戦ってあの?」


「そうだ、ゼロ戦やUボートや駆逐艦がわんさか横たわってるから、お前の能力で弾薬から何から運んで来てくれ。そしてここを要塞にするんだ」


 何故そんな事をするのだろう……。元々、修哉の依頼ならば何でもこなす積もりでいる莉琉昇太郎なのだが、何故そんな物が必要なのかがピンと来ていない。

要領の得ていないそんな彼に対して、修哉はそれを呆けているなとは怒らず、真剣な表情で丁寧に説明を始める。


「未だに混乱しているリジャの街を、間違い無くクラースモルデンの正規軍がやって来て制圧する。もちろんそれは、街の平和を取り戻すのが目的では無く、完全鎮圧を目指して来るはずだ。住民の命などに一切配慮しない虐殺を手段とした鎮圧部隊、俺がそれを許す訳がないだろ?」


「なるほど、莉琉は修哉きゅんのお手伝いで、リジャの街で軍隊と戦うのね。これは血がたぎるわぁ」


「違う違う、リジャに入るのはあくまでも俺の役目だ。考えてもみろ、あの街から逃げて来る難民を誰が救うんだ?お前にはここを要塞化して欲しいんだよ」


「ほえ?要塞化?」


「俺はリジャの街で正規軍と闘う、もちろん負ける気はさらさら無いし、片っ端から殺す勢いでやる。だが、第二、第三の正規軍が現れたら、必ず難民を追って奴らはこっちに来るだろ?」


「なるほど、だからここの守りを固める必要性があったのね」


「そうだ、巨石や材木を積んでくれ、敵が来たら爆弾を落としてくれ。お前の思う様にやってくれて構わないから、ここの守護神になって欲しいんだ」


「わかったよ修哉きゅん、莉琉がんばる」


 嘘偽り無い笑顔で、本心からそう言ったはずの莉琉昇太郎ではあるが、何を思ったのか途端に怪訝な表情になる。それは隣にいたシルフィアも同様だ。


「シューヤ、君は一人でリジャに行くと言ったな?あれだけ傷を負ったのに……」


「莉琉も気付いたよ。修哉きゅん、自ら進んで危険に飛び込む事ないのに」


「リルの言う通りだ。この場所にとどまり、防衛戦を主体とするプランでも悪くないはずだぞ」


「そうだよ修哉きゅん。エマちゃんだって悲しむよ」


 多分その事については言われるだろうなあとは思っていた修哉だが、既に覚悟は決めており、二人がかりの説得には一切耳を貸す積りは無い程に表情は険しい。

それどころか、彼のもっと奥底に大事にしまってあった本心を打ち明け始めたのだ。



 ーー常に近くで寄り添っているのが、親や恋人や家族の愛情ではないと思う。エマニュエルの為に必要とあらば、俺はいくらでも敵を殺す、単独で闇に潜んで独裁者の首でも取りに行く。

彼女の将来を想って死地に赴く、それでエマニュエルに安寧が訪れるなら、それで良いじゃないか。常にべったりなんてのは、自分の寂しさと虚しさを他人の優しさで埋めるだけの代替行為でしかない。


 それに、俺にはこれくらいしか取り柄が無いんだ。人を静かに葬り去る暗殺者としての生き方しか持ち合わせていない。

 ……考えてもみろ、国民を平気で虐げる様な暗黒国家に対して、立ち上がろうとする英雄が現れたとする。その横にゴリゴリの暗殺者が並んで立っていたら、民衆はどう思う?英雄は英雄として輝くべきで、敵の返り血で真っ赤に染まった暗殺者は表になんぞ出ちゃいけないんだ。

 エマニュエルが女王として立つなら、いつまでも輝いていて欲しい。だからその為にも俺はもっともっと闇で蠢くべきだ。そして彼女の両翼を担って歴史の表舞台に出て欲しいのは、シルフィア・マリニン将軍、莉琉将軍……いつかそう呼ばれる君たちなんだよーー



 修哉の打ち明け話に聞き入っていたシルフィアと莉琉昇太郎は、自然と頬に熱いものを流していた。エマニュエルに対する強い想いと、修哉自身の暗殺者としての哀しい生き方に感じてしまったからだ。


 二人を泣かせてしまった事に気付き、何かマズイ事を言ってしまったのかと、オロオロし始める修哉なのだが、彼にトドメを刺す様な瞬間が訪れた。


 バタンと音を立てて隣室の扉が開いたかと思ったら、そこに枕を抱えたまま立ち尽くすエマニュエルがいたのだ。


「エ、エマニュエル……起きてたのか!?」


「……聞いぢゃったよ、全部聞いぢゃっだよ。でもね、でもね、でもでも……シューヤにはいでほじいの。ぞばにいでほじいの……」


 顔をくしゃくしゃにしながら、それでも涙が溢れるのを我慢するエマニュエル。修哉は「あああ……」と髪の毛をかきむしりながら、とうとう途方に暮れてしまった。


 俗に「女泣かせ」と言う言葉があるが、何故泣かしてしまったのか全く理解出来ていない天然満載の修哉は、ジゴロへの道は果てしなく険しそうだ。





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