それはもう英雄譚
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「リィリィルゥルゥに行きなさい」と、ユリアナ・マリニンはにっこり微笑みながら、修哉の行くべき道を示す。
ここはウルリーカ族の族長、ユリアナ・マリニンの寝所。
シルフィアの家でゆっくりと休んだ修哉とエマニュエルは、夕方シルフィアに案内されながら、ユリアナの寝所を訪れ、そしてその助言を得たのである。
ーーウルリーカ族や様々なエルフ種を束ねる自治国家アンカルロッテ。そして、ホビット族やドアーフ族の国それらの全ての頂点に位置するのが、リィリィルゥルゥと呼ばれる地。
至高の民ハイエルフが原初の導士と会い、雪深きこの地を常春の世界にした、我ら亜人種と呼ばれる種族の始まりの地。
そこに行けば、八百年前のリンドグレインよりも遥かに古い話が聞ける。二本の聖剣伝説など霞んでしまう、原初の神話がなーー
原初の導士についての概要をシルフィアから聞いた修哉は、魔法体系が既に完成されているこの時代に、何故自分が現れたのか疑問を持った。その疑問を族長のユリアナに問うと、その様な答えが返って来たのである。「リィリィルゥルゥに行って、始まりの女王、ララ・レリアに会いなさい」と。
「リィリィルゥルゥは、この巨大な森の西南に位置する遺跡群のどこかにある。シルフィアを案内役に進めば良い」
「うん?どこかにって……?」
「人には見えないのだよ。もともと彼の地は人の地に近い場所でな、人の争いに巻き込まれる事を嫌ったハイエルフは、見えない迷宮を作ったのだ。迷いの森と言った方が良いかな?」
ユリアナは優しい笑みを浮かべながら、エマニュエルに向かって例のメダルを差し出す。
「そこでこのメダルをかざしなさい、ララ・レリアはあなた達を快く迎えてくれる」
「あ、あなた達って、もしかしてユリアナ、あなたは……」
「リンドグレイン最後の女王が、王の証であるメダルを持って現れれば、ララ・レリアは門戸の扉を開けてくれる。そういうものだろ?」
ユリアナは修哉に説明しつつ、エマニュエルに顔を向けてウィンクする。単独行動を取るのではと、ハラハラしながら両者の会話を聞いていたエマニュエルに、安心しなさいと言うメッセージだ。
つまり、リィリィルゥルゥの地で、女王ララ・レリアの謁見を得るには、エマニュエル・ハンナエルケ・リンドグレインを同行させなければ叶わないと言う事。さすがにユリアナの意図が読めたのか、そこまでしてエマニュエルと自分を「ニコイチ」にしたいのかと、呆れ顔で苦笑する。
「シューヤ、良くお聞き。あなたは血で手が汚れていると言った、彼女を担ぐ事が出来ないと言った。でもね、こんな世の中聖者でも無ければみんな汚れてるのさ。殺したくて闘うのと、闘って殺すのでは訳が違う。幸い、あなたの瞳はまだ澄んでいると私は思うけどね。復讐ならいつでも出来る、他人とは違う彼女の特別な人生に、今は寄り添ってやりな」
クラースモルデン連邦共和国が、ボルイェ村の人々に行なった事、その報復については後回しにしろ。そして、自分探しの旅にエマニュエルを同行させ、エマニュエルの復権の為にも尽力しろ。つまりユリアナ・マリニンは、修哉とエマニュエルが互いに成長すれば、おのずと社会主義独裁国家と全面衝突するであろう事をも、予測していたのである。
人の命を命とも思わず、思想・主義・偶像の為に、軽々しく傷つける外道の輩が統べる国クラースモルデン。その国で苦しんでいる民衆の前に、若き女王と原初の導士が燦然と現れ、自由を勝ち取る為に暗黒国家と闘うならば、それはもう英雄譚であり、新たな伝説となる。
ユリアナの描く「調子の良い」未来を、彼女の言葉の裏に垣間見た修哉ではあったが、それに乗ろうとはせずに、先ずは一つ一つ、自分の謎を解明して行こうと決意する。エマニュエルが乞う様に見詰める中、彼女を拒否せずに、厳しい旅になるぞと釘を刺した。
「シューヤがいてくれるなら、私我慢出来る!私迷惑かけないように頑張るから!」
幼い決意を聞きながら、こうしてユリアナとの会談は終わった。
夜も更けて来たので、今晩はシルフィアの家で世話になり、翌朝出発する事に決めた修哉。
エマニュエルとシルフィアを連れ、ユリアナの寝所から退出する。その際、ユリアナがシルフィアに近付いて耳打ちしていた事に、修哉は全く気付いていなかった。
……原初の導士、その血が一族の未来に力を与える。せめて一人ぐらいは身籠もれよ……
それを聞いたシルフィアは、ひいいと小さな悲鳴を上げながら、透き通る真っ白な肌を、灼熱色に染めていた。




