第四幕 もとの湖のほとり
「おらっ!エメラルド!起きなさい!」
・・・・・・・・。
「僕が・・・・なぜ起きなくてはならない・・・。」
・・・・ごめんなさーい・・・・。
「餓鬼みたいなこと言ってんじゃないわよ!この年寄りが!」
「何億年かぶりの睡眠だぞ・・・・!もう少し寝たっていいだろう・・・・!」
「今は緊急事態なの!さっさと腹くくって起きなさい!!」
「なぜ、僕が人間なんぞのために・・・!」
「困っている人がいたら助けるのは当然でしょ!」
「でも、人間は僕達を裏切って・・・・・・・。」
「ああああー!!!!その話はしないで!トラウマ!!」
「・・・・申し訳ない・・・・。」
「というか、もう起きてんでしょ!」
やっとエメラルドさんが風の中からでてきた。
「やっとでてきたわね・・・・。」
はは・・・・。というか、あれ・・・?二人とも、さっきより少し髪が伸びたような・・・・?
『みぃーつけた♪』
!?
「黒鳥!!」
「逃げるわよ!!!」
エメラルドさんとダイヤモンドさんに両手をつかまれて走り出した。
『逃がさないよ。』
な、なんか、急に向かい風が・・・・!!!
「どきなさい!!」
エメラルドさんが怒鳴った瞬間、向かい風がおさまった。
『あれ?翠玉に金剛石、なんでここにいるの?』
「あなたに答える義理はないわよ!」
その言葉と同時に私の後ろの土が盛り上がり、高い壁をつくった。
「あなたたちは逃げろ!ここは僕が相手をしよう!」
「え、でも、黒鳥は僕の敵よ?」
「そうは言っても能力的に不利だろう。」
「でも、
ダイヤモンドさんの言葉を無視して、エメラルドさんは壁の向こうへと飛んで行ってしまった。
『君が僕への最初の敵手?』
「ごきげんよう、黒鳥殿。相変わらず口だけはご達者なようで。」
『酷いなぁ。君には言われたくないよ。』
空気が凍りついた。
「・・・・今のうちに行くわよ。」
ダイヤモンドさんに手をひかれ、再び走り出す。
「どこへ行くんですか?」
「・・・・・部屋、かしらね。」
「ここから近いけど・・・・すぐに追いつかれちゃったりしないんですか?」
「だから、敬語はいらないって・・・・じゃなくて、追いつかれやすいけど、今が術やらなんやらをかけるのに最適なのよ。黒鳥のことはエメラルドがひきつけてくれているし、僕の力はさっきので結構溜まったわ。それに相手の裏をかけるでしょ?」
「でも、術なんかかけるより、逃げた方が・・・・・。」
「ただ闇雲に逃げても捕まるだけよ。僕達だけだったらともかく、あなた体力ないでしょ?」
さーせん・・・・。
「まぁ、逃げるよりは術を使って引きこもる方が勝算があるってことよ。」
「はぁ・・・・。」
「上手くいけば、あなたが許可しないかぎり絶対に開かない部屋もつくれるわよ♪まぁ、おねえさまに任せなさいって!!」
ウィンクをかます、お姉さまだかオネエさまだかに私は曖昧に頷いた。
* * * *
「うーん、どうしようかしらねー・・・・。」
ダイヤモンドさんはさっきから部屋で色々やっている。
「消えるがいい!!」
『その言葉、君にそのままお返しするよ。』
オディールとエメラルドさんの方からは、言い争いの声とともに強すぎる風の音が聞こえてくる。恐らく、二人とも能力・・・・風で闘っているのだろう。
「あなたに言いたいことがある!!風を穢すな!!」
『嫌だよ。そうしないと風は僕に従ってくれないんだもの。』
「それは貴様が風と平等な立場で在ろうとしないからだ!!!」
『強いものが弱いものを支配して何が悪い?僕は神なんだよ?この世界の支配者だ。』
「あなたは神などではない!!!あくまで神族!!!思いあがるのではない!!」
『うるさいよ。精霊族ごときが。』
「うっ・・・・!!!」
エメラルドさんが吹っ飛ばされた!!!
『本当にむかつくよ。あれもお前たちもいい子ぶっちゃって。僕、そういう奴が一番嫌いなんだよね。』
「知るか・・・・!!」
『そろそろ、終わりにしようか。君とのおしゃべりはもう飽きたよ。』
あ、オディールが両手に高速で回る風の刃をつくってる・・・・・!!!エメラルドさんは・・・・まだ起き上がれてない・・・・・。
「ね、ねぇ。ダイヤモンドさん・・・・・!エメラルドさんが、
「貴様などに終わりにされる僕ではないのだ!!!」
オディールのからだが、吹っ飛んだ。
「あちゃー、派手にやってるわね。エメラルド、一気に力を使いすぎよ・・・。」
「助けに行かなくていいんですか?」
「いいわよ。しばらくは持つでしょ。・・・・・ねぇ、あなた、いつまで敬語使ってるわけ?いらないって何回も言ってるわよね!!このっ!このっ!」
白くて綺麗な手が頬に添えられたと思ったら、頬っぺたを思いっきりつままれた。
「あひゃすみまひぇん!!」
「すみませんじゃなくて、ご・め・ん、よ!」
「ひょめん!!」
「よろしい。」
放してもらえた。
「まぁ、あなたはしばらく寝てなさい。起きてもらっててもしてもらうことないから。」
・・・・なんか、役立たずって言われたみたいで複雑だけど・・・・事実だし、ありがたいということにしておこう。
* * * *
「起きなさ~い!!術をかけ終わったわよ!!」
美人さん。
「・・・・おはようございます。ダイヤモンドさん。」
「・・・・・・・・。」
無言で睨みつけられる・・・・なぜだ・・・?・・・・あ、
「おはよう。ダイヤモンドさん。」
「・・・・・・・・。」
え、まだ駄目・・・・?
「おはよう。ダイヤモンド。」
「はーい!合格よー!!」
思いっきり抱き着かれた。いい匂いする・・・・。
「僕のことを呼び捨てするのは許さんぞ。無論、ため口もだ。」
あ、エメラルドさん。
「生きてたんですね。」
「なっ・・・!!?僕を誰だと思っている!!?」
ごめんなさい。ついうっかり。
というか・・・・オディールはどうしたんすか?
「・・・・黒鳥は巻いて来た。まぁ、居所などすぐに気づかれるだろうが。」
疑問が顔に出ていたのか、エメラルドさんが答えてくれた。・・・・・・え、私って人の感情に疎そうなエメラルドさんに感情を読まれるほど、顔に色々出てるの?・・・・気をつけよ。
「気づかれてもOK牧場!って部屋がこの部屋よ。」
「ふっる。」
めっちゃふっる。というか、この世界にもその言葉あったんだね。
「え?あなた、過去のセカイで言ってたわよ。いや、今のあなたじゃなくて昔のあなただけど。」
「恥ずか死ぬ。」
昔の私を殺したい。
「・・・・と、まぁ、それはいいんだけどね。この部屋には僕かエメラルド、もしくはあなたが許可を出さなきゃ入れないの。だから、明日までこの部屋に閉じこもってたらバッチグーよ!!」
・・・・もうツッコミなど入れまい。自分の傷を抉るだけだ。
「あ、黒鳥に話しかけられても答えないでね。それがうっかり術に許可だって取られちゃうこともあるから。」
「あと・・・・・何時間かしら・・・?すっかり時間の感覚がわからないわ・・・。」
「あと、十一時間ほどだろう。」
十一時間・・・・か・・・・・。
「長いわね・・・・。もう、皆で寝ちゃいましょ!この部屋の防御は完璧だし!!」
はぁ・・・・。私、寝てばっかだな・・・。
「じゃあ、
「「「おやすみなさーい!!!」」」
ああ、デジャヴ・・・。
* * * *
『ねぇ、起きて。』
誰かに呼ばれたような気がして目が覚めた。
暗い部屋に月明かりが差し込んでいる。そして、障子には人の影。
『僕だよ。オディール。』
オディール・・・・・・。
『僕は、君を心配してるんだ。』
・・・・・・・・・・・。
『君の隣で寝ているものの正体は知ってるんでしょ?』
精霊。四大精霊。でも、
『悪いものだよ。君は僕がはなしてあげたお話を忘れちゃったの?』
忘れて、ない・・・。でも、私はお話よりも自分で見たものを信じたい。ダイヤモンドさんもエメラルドさんも悪い人じゃない。優しい人。たまたま自分を助けた人間を命をかけてまで守ろうとしてくれる人。
『ふーん。そう。僕よりもそいつらを信じるの?』
・・・・・・・・。
『へぇー。いいよ、別に。現実を見せてあげるよ。』
障子が、開いた。
『許可を出さなければ開けないって言われてたんでしょ?・・・騙されてたんだよ。君。』
に、逃げなきゃ。
『でも、これだけじゃない。』
* * * *
「はぁっはぁっ・・・・はぁっ・・・・・!!」
嫌な夢見た・・・・・。
「・・・・・・・あれ?」
いない。
「エメラルドさん?ダイヤモンド?」
二人とも、いない。
「遊んでるの?ねぇ?」
私をからかってるの?
「いない・・・・・・・・。」
障子を開けて、
「いたっ!!!」
手をエメラルド色に輝く鋭い風が切りつけた。
「エメラルドさん・・・・・・・。」
まさか、二人とも私を閉じ込めて・・・・オディールに差し出そうと・・・?
嫌な想像が頭のなかを駆け巡る。
「そんな・・・・・。」
夢の中のオディールがいっていた通り、私は・・・・騙されている・・・・?
「水よ、あの扉にかかった術を解いて」
一カ月に一回だけ使える私の能力。閉じられたものを開くことができる。普段は全く役に立たないが・・・・
ひゅるひゅる・・・・
「開いた・・・・・・。」
エメラルド色の羽根を持つ蝶がはらりと床に落ちて消えた。
* * * *
『君たちには無理だよ。神殺しだなんて。』
エメラルドさんとダイヤモンドさ・・・・ダイヤモンドは庭にいた。ただし、二人だけではなくオディールもいた。エメラルドさんとオディールは空中に浮き、ダイヤモンドは険しい目つきでオディールを見つめている。
「やってみなきゃわかんないでしょ?」
ダイヤモンドさんのその言葉と同時に、ダイヤモンドさんは銀色の眩い光につつまれた。
【ダイヤモンドの力、魅せてやろうじゃない】
あ、犬耳と尻尾が生えた。髪と同じ色してる。なんか洋服も豪華になってる。
「四大精霊の力、舐めてもらっては困るぞ。」
エメラルドさんを緑色の光が包むと、エメラルドさんに髪と同じ色をした蝶の羽のようなものが生えた。そしてやっぱり服が豪華になった。
【このエメラルド、あなたに負けるつもりはない】
二人ともなんか強そうだが・・・・一体何を・・・・?
『本気って感じ?でも、髪を切られてほとんど力を失った君たちの本気なんて・・・・ねぇ?』
空気が凍り付いた。
【言ってくれるわねぇ】
ダイヤモンドが指揮者のように手をピッとあげると、地面が銀色に輝き、手のような形になった。そして、オディールを捕らえようと手を伸ばす。
『ざーんねん。君に僕は捕まえられないよ。』
空高く舞ったオディールがダイヤモンドを挑発するような、
ドカーン!!!!
・・・・・・オディールが地面に叩きつけられた・・・・?
【馬鹿、それが狙いよ】
ダイヤモンドさんとエメラルドさんが鼻で笑った。
【僕がいるのだから、風でも攻撃するに決まっているだろう】
『やられたなぁ・・・・。どうやら僕は、君たちの力を侮りすぎてたみたいだ。腐っても四大精霊だものね。』
オディールがよろよろと起き上がると、再び舞い上がろうと・・・・
【できないわよ、お馬鹿さん】
『くっ・・・・・・
土の手が足をがっちりと固定していてどうにも動けないようだ。
『くくくくっ・・・・あははははははは!!!』
・・・・・・・・・?
【・・・・突然笑い出して・・・気持ち悪いわよ。】
『ごめんね。だって、面白くって。』
【なにがよ?】
『この程度で喜んでる君たちが。』
そういうとオディールは腰についた巾着袋に手を伸ばした。
『もしもの時のために持ってきといてよかったぁ。』
そして、巾着袋からとりだしたものを眼窩に入れた。
『じゃ、ごめんね。』
ダイヤモンドもエメラルドさんも一瞬にして吹っ飛んだ。
『だから君たちには無理だって言ったのに。』
しばらく地に伏した二人を面白そうに見つめていたが、やがてこちらを振り向いた。しまった、気づかれていたのか。
『ねぇ、見てたでしょ。こいつらね、君の帰り道を奪おうとしたんだよ。』
オディールの左右の眼窩には金色と銀色の瞳孔のない眼球が埋まっていた。
『僕がいなかったら君は帰れないのに・・・・・ねぇ?』
オディールはくるりと私に背をむけた。
『・・・・・・残り時間はあと十分。十分たったら、鳥居のところにおいで。君との約束を果たそう。』
それだけ言うと、オディールは私がいる正反対へと歩きはじめた。・・・・恐らく、私を元の世界に帰してくれるということだろう・・・・が、
「なっ、なぜ・・・・?」
私を捕まえる大チャンスなのに、なぜ今捕まえない・・・?
『・・・・さぁ?なんでだろう?・・・・・もしかしたら、騙されている君を見て可哀想になったのかも。』
オディールはそのままどこかへと消えて行った。
「・・・・・運ぶか。」
騙されてたのかどうかは・・・・・わからない。とりあえず、この二人をこのまま放っておくのは申し訳ない。なんとか部屋まで運ぼう。そこまで距離はないし。
「よっこらせ。少し我慢してね。」
ダイヤモンドを背負う。軽い・・・・・。私よりそれなりに背、高いのに。
「よっせっと。」
部屋にダイヤモンドを寝転がせて、エメラルドさんも同じことを繰りかえす。二人ともめっちゃ軽い。ヤバい。
「・・・・行くか。」
丁度十分ぐらいたった気がするし。
「よっこらせ。」
ばあちゃんかよ、と心の中で突っ込みつつ立ち上がり、外に・・・・・
「駄メダ・・・・行っテハいケナい・・・・。あナタノ・・・運命ガ・・・・・・。】
【ダ目ヨ・・・本当に・・・本当ニ・・・。あレは・・・アナたヲ逃すつモリハ・・・ナい・・・」
・・・・・二人が私の足を必死で掴んでいた。
「大丈夫ですよ。もうゲームは終わったし、勝ちました。」
力尽きたのか安心したのか二人の私の足にかける力は抜けた。
・・・・今度こそ本当に行くか。
* * * *
『来たね。』
私がここに到着したときオディールは私に背を向けていたが、どうやら気配で気づいたらしい。
『さぁ、行こうか。』
から から から から
いくつものかざぐるまが回るこの場所には大きな鳥居がある。いつもは向こう側の景色を映しているだけだが・・・・・
「・・・・うん。」
今日は真っ暗な・・・・・ぼんやりと光るかざぐるまが飾られた道が見える。
オディールと手を繋ぎ、鳥居の向こうに踏み込む。暗闇なんだから怖いはずなのに、なぜかあまり怖い気がしなかった。
『向こうに戻ったらどうするの?』
「あの子の・・・・お見舞いに行こうかな。あっちの世界での私って今どうなってるの?」
『原因不明の病で眠ってる。』
「うわ、あの子と同じだ。」
双子ってこんなところまで似るのか?
『そうかもね。』
マジか。
「ねぇ、オディール。なんでこんな勝負を私に仕掛けたの?」
『・・・・・なんでだろう?君が好きだからかな?』
・・・・・・・・。
『僕・・・・君のこと本当に好きなんだよ?忘れないでね。』
暗闇の中でオディールのオッドアイが輝いた。
「それって、義眼?」
『ううん、違う。僕の本当の眼。』
「持ってたんだ。」
『普段からつけてると力が出すぎちゃうし・・・・・これ、僕の感情によって色が変わるんだよ。不便だし、恥ずかしいから外してる。』
オディールに恥ずかしいという感情が・・・・!!?
『あるよ。勿論。』
あったんだ。
『・・・・そろそろかな。』
え?
『じゃあ、しばらくの間・・・ばいばい。エーデル・ウスユキソウ・キク・・・・・ううん、菊花きそう。』
チュッと軽いリップ音とともに柔らかい感触を鼻筋に感じると、オディールの気配が・・・・いや、私の手を握りしめていたはずのオディールの手も消えた。
最終話っぽいけど違います。